3話 魔法の試し撃ちの時間だ!
森の中に悲鳴が響いた。
その声は女の子の声のようで、私は急いでその声の元へ走って行く。
別に悲鳴の先に魔物がいて、魔法を撃つことが出来るとか、そんなこと思ってないよ。
…本当だよ!
声の主を見つけると、そこには10歳ぐらいの可愛らしい少女がいた。
その少女は背中には大きな木があり、正面には2体のウルフがいた。
2体のウルフは私の存在には気付いていない。
私は魔法を使うため、もとい少女を助けるために風魔法を放つ。
少女を巻き込まないようにと細心の注意を払われながら放たれた2つの疾風は、ウルフが気付いていないこともあり見事に命中し、2体のウルフの胴体を右半身と左半身に分け、そして空中へと霧散した。
「やばっ」
思わず声が出た。
半分になったウルフの死体が転がる。
少女に嫌なものを見せてしまった。
私はスキルでナイフをアイテムボックスにしまい、私は少女に駆け寄り大丈夫かと声をかける。
「はい、大丈夫です。助けてくださりありがとうございます。…でも今、お金がなくて… お礼が出来ないのですけど… どうすればいいですか?」
ゲームの街にどこにでもいるような装いをしたロングヘアの女の子は、どこにでもいる街娘とは形容し難い、とても可愛らしい顔の金髪碧眼美少女。
しかも目がうるうるしてる。
面食いの私、心の中で乱舞。
それはそれとして、どうしてもらえばいいんだろう。
体で払ってもらえばいいのかな?
そういう趣味はないんだけどな。
「じゃあ、そうだね…」
その言葉に少女は固唾を飲む。
命を助けてもらったから、とんでもない要求されると思ってるのかな?
夢って自分の理想を映し出すっていうし、私って本当にそういう趣味…?
「じゃあさ、私、道に迷ってたんだけど、近くの街に案内してくれる?」
「はい、分かりました!」
少女が勢いよく返事する。
「え、それでいいんですか?」
え、なんで聞き返してきたの?
あの勢いのいい返事はどうしたの。
「うん、それじゃあよろしくね」
私は少女に微笑みかけると、少女はどこかホッとしたかのように見えた。
「お姉さんのお名前は何て言うんですか?」
「お姉さん…」
私は末妹だから生まれてこのかた、お姉さん何て呼ばれたことない。
いや、もしかしたら、小学校の登校班で呼ばれてたかもしれない。
でも、そんなのはノーカウントだ。
子供の知り合いなんていないJKの今、末妹の私にとってお姉さんとは神聖なる言葉なのだ。
「あの…お姉さん?」
やばい、成仏する。
いや、死んでないけど。
いやでも今死ぬ。
今死んで今成仏する。
夢のような経験をしてしまった今なら死ぬ。
いや夢なんだけど。
それでも私にもう後悔はない。
さようなら…
「あ、あの…!」
目を閉じ、迎えがくるのを待とうとする私に声がかかる。
「お名前は何て言うのでしょうか?」
名前って私の名前?
なんで私の名前を聞くんだろう。
お迎えにも本人確認が必要なのかな?
「私はミオって言います」
「ミオお姉さんって言うんですね?私は━━━」
心臓が大きく脈打つ。
ミオお姉さん…
心が満たされ、ときめくのを感じる。
私は幸せに包まれながら、意識が遠のいて行くのを感じた…
気がつくと私は地面に横になってた。
周りには草が生茂っていたため、体に異常もなく、固い地面で寝た感覚はなかった。
意識がはっきりしてきた私は、起き上がると声をかけられた。
「起きましたか?」
そこには血で濡れたナイフを持った少女がいた。
「大丈夫ですか?急に倒れてビックリしたんですよ?」
ナイフは赤黒く輝き、少女が私との距離を詰めてくる。
「ひっ」
思わず声が出る。
「苦しんだ様子もなければ脈も息もあったので、大丈夫な━━━」
やばい。
目で得られる情報がナイフだけになり、少女が何を言ってるのかも分からなくなってくる。
物凄い速さで頭が回転してるのを感じる。
比喩表現のはずなのに、何故か本当に脳が動き回ってるような。
私が生きてきたなかで、最も頭が働いてるだろう。
私はどうすればいいかと立ち上がりながら思考する。
しかし考えが上手く纏まらない。
どうする。
どうする。
どうする。
逃げるしかない…!
私は体を半回転させ、思いっきり走り出そうとする。
しかし寸前で手を掴まれる。
「どこに行くんですか?」
「あっ」
思わず声が出る。
少女が真っ直ぐな目で私を見てくる。
振り払おうとすれば出来るであろう少女の細い腕は、とてつもない力で私の腕を掴んでいる。
いや、違う。
私の力が入らないんだ。
目の前の恐怖に怖気付いて、体は絶望を受け入れたんだ。
少女の口が開かれる。
「これウルフの魔石なんですけど、要りますよね?」
そう言うと、少女は白く濁った宝石を2つ見せてくる。
横でケモ耳が気絶してるのにウルフの死体を解体するメンタル。
この金髪、強い…!