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ケモ耳少女はファンタジーの夢を見る(仮)  作者: 空駆けるケモ耳
第5章 アンクイン
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457話 マリンが見ている物


「うわぁ〜!海だぁ〜!」

「天気は良いが、少し荒れているな」

「アンクインの海とはちょっと違いますね!」


 レイは1番子供のようにはしゃぎ、手すりから1番身を乗り出して海を眺める。

 カミラは1歩引いた所で。

 アリスは慣れたもので、騒ぐというほどでもなかったけど、それでも心なしか浮き足立っていた。


 灯台が立つ崖、そこから見下ろせる海は透き通るとか、エメラルドグリーンとか、そういう綺麗な言葉で形容するには普通過ぎる海だった。

 北極海を見た後だとそれほどのインパクトはないけど、水平線まで続く広大な海というのは、息を呑む迫力がある。

 そして崖下へ波打ち、豪快な水飛沫を立てている。


「……」


 よそ見の多かったマリンもここまで来てしまえば、流石に海の方に視線を奪われていた。

 その瞳孔は見開かれ、巨大なそれを眺めるように、視線は虚ろに上へ、上へと…


 いや待って、あくまで私から見たマリンの様子なのであって、本当に巨大なそれがいる訳でもないし、何かが上がって来ている訳でもない。

 それなのにマリンの目を見れば、何故かそれが私にも見えるような気がした。




 大災害の話に出てくる、海から現れた怪物の影が。





「何をお主ら間抜けな顔をして、余裕がないな」


 カミラの一声で正気に戻される。

 マリンも同じように、目に光が戻っていた。


「余裕がないのはお互い様でしょ?」

「妾は2000年を生き延びた者としてただ、あらゆ生命に訪れるはずの明日の行方を憂いていた、それだけの事だ。お主らのような、虚像に心を呑まれてしまう軟弱ものとは違うが故な」

「まぁ、そうだね」


 カミラの言う通りではある、私は何も見ていないから。

 強いて言えば水平線の辺りをジッと眺めていただけ。


「……」


 ただマリンは俯き、さっきから口を開こうとしない。

 カミラは強いからほっといていいとしても、マリンが何を考えて感じているのかは知りたい。

 ルールエに入ってから、マリンがマリンじゃないみたいな雰囲気を感じる。


「ねぇマリン、ちょっと話さない?」

「は、話、ですか…?」

「ちょっとだけね」

「なになに〜?内緒話〜?」

「内緒っていう訳じゃないけど、もうちょっと落ち着ける所にね」

「海は見なくていいんですか?」


 アリスが純真無垢な目を向けてくる。

 いくら普通の海でも、海であることに変わりない。

 珍しいのは事実だから、アリスの気持ちは分かるよ。


「私はいいよ。マリンがいいなら話がしたいってだけだから」

「そ、そう、ですね。少し、話した方がいいかも、しれません…」

「ほぇ〜」

「さっきからマリンお姉ちゃん、ぼーっとしてますもんね。何か悩み事があるのかもしれません」

「なるほどねぇ〜」


 こういう相談事って誰でも食いついて聞きたがるのが常な中、2人は特に深追いすることなく私達から海の方に視線を戻す。

 察してくれたのか、興味がなかったのか、私にこないでって言われると思ったのか。

 何にせよ2人で話せるのはありがたい。


「それじゃあちょっと、あっち行こっか」

「は、はい…」


 私とマリンは少し離れたベンチ、アリス達からは見えない所に腰を下ろす。

 マリンの様子はやっぱりおかしくて、また何かに視線を奪われれば、正気に戻ったみたいで私の目を1回チラッと見てくる。


「え、えっと、その、ずっと、変なものが見えて…」

「それはね、マリンを見てて何となく分かったよ。何か見えてるんだろうねって」


 私が知りたいのは、その何かが何なのか。


「その何かって、分かる?」

「た、多分、何ですけど…」


 マリンの手は震えて、それを抑え込むように震えた手を重ねる。


「か、過去が、見えてるのかも、しれません…」

「過去?」


 すごく信じにくいトンデモ発言が、それもマリンから飛び出してくる。

 もし現実世界だったら「冗談でも中二病を拗らせてる?」ってなる所、この世界だと「もしかしてあり得る?」って思っちゃうよね。


「例えば、どういうのが見えたの?」

「え、えっと、お、男の人達が狂ったみたいに、喧嘩してたり… お、大きな(もり)を持った魚人族が人を襲ってたり… あ、雨が、すごく降ってて、色んなローブの人がいて…」


 なるほどね。

 アリスとレイと散策してた時に立ち止まって見ていたのは、大災害の騒乱とした風景だったんだ。

 確かに目が奪われる理由も納得出来る。


 そして大災害の時に海から現れた怪物の姿をマリンが見ていたと…


「よく受け止められたね」

「じ、自分でも、そう、思います… ふ、不思議と、怖くはなくて…」


 急に過去視が出来るようになって、しかも見えるのが神話級の絶望、ラグナロクとかアポカリプスとか、そういう世界観の風景だったら誰でも怖いと思うもの。

 それでもマリンが大丈夫なのは、ブラックビーストの言い分では加護がついてるからその恩恵か、そもそも過去視は加護の産物か。


 ブラックビーストがマリンに過去を見せているなら、マリンは過去の事象を知ったうえで最善を尽くすように要求されている。

 じゃあ大災害の知識を知ってどうして欲しいのか、そこがイマイチ見えてこない。


 そもそもの大災害のスタートは、1人の子供の妄想を星辰魔術で現実にしてしまった所から。

 子供のあくなき探究心と、多くの未知への恐怖が入り混じったごく普通の妄想が、具現化してしまったのが始まり。

 その星辰魔術が起こった時、どういう段階を踏んで怪物が現れたとか、そういうのをよく把握してないんだけど…


 あー、なんだろうね、足りないピースを1つ見つけたというか。

 その子供って、面識あるよね?

 北極の大図書館にいる封印の冠士ルシフェル、自分でその子供だって名乗ってたよね?


「これ、北極に行く必要あるかもね」

「えっ、ほ、本当ですか…?」

「うん、ルシフェルに話を聞かないと」


 ルシフェルの話を聞けば、大災害の事が分かる。

 大災害の事が分かれば、これから起こる事件の止める算段が生まれる可能性がある。

 少なくともブラックビーストは、大災害の風景を見たマリンが重要になると踏んでいる。


「マリンはとりあえず、過去は好きなだけ見ていいよ。見ないってして見えなくなるものではないんだろうけど。とにかく、観光中も大事と思ったら好きなだけよそ見していいから」

「そ、その、私の為に…」

「為って言っても実際に足止まっちゃってるからね。それだったら、ちゃんと理由も伝えて、これが見えてるから待って欲しいみたいに言ってくれると助かるかな」

「な、なる、ほど… わ、分かりました…」

「ただその代わり、行動には移さないこと。何かこうした方がいいって過去が見えたとしても、何もしないこと」


 情報が整ってない今、行動を移すのは悪手。


「わ、分かりました…」

「よし。私が聞きたかったのはこれで十分だけど、マリンは言いたいことある?」

「あっ、いえ、こ、これで大丈夫です」

「それじゃあ戻ろっか」


 そうして私がベンチを立った瞬間、逃げていく2人の子供の影がチラッと見えた。

 私はマリンが立ち上がるのを待ち、何故か海を見てるはずなのにチラチラ見てくるアリスとレイの元に向かう。

 カミラは薄ら笑いを浮かべていた。


「そういうことだから、マリンに合わせてあげてね?」

「なっ、なんのことかにゃ〜?」

「わわわっ、私も分かりませんね」


 しらを切るかわいい2人の頭を撫でる。


「そも、隠れずに聞けば良かっただけの話であろう?」

「カミラちゃん!し〜っ!し〜!」


 もう全てが遅いよ。


「盗み聞きはよくないけど、今回は3人にも伝えるつもりだったから許してあげるよ」

「「ほっ」」


 アリスとレイから安堵の声が聞こえる。


「カミラにはちゃんと言わなきゃ分かんないよね?」

「否、妾もここから聞き耳を立てていた。無論問題はない」


 問題ありありなんだけど、アリス達よりタチ悪いじゃん。


「んも〜!カミラちゃんずるい〜!」

「お主も魔法で音の知覚をすれば良いだけの話よ」

「ミオお姉ちゃんにもかけてるんですよね?私達にもかけてください」

「強欲だなアリス。ミオは今ろう者が故かけてやっているのだ、お主も耳を聞こえなくさせるか?」

「それはイヤです!」


 度は過ぎてるけども子供っぽい言い争いを背景に、私はルールエの普通の海に目を向けた。

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