380話 湖での夕食前
「ずっと回してないと均等に火が通らないっすから、ずっとお願いするっす」
「おっけ〜!」
「でもこれ、重たくて疲れますよっ…!」
「それはちゃんと代わりばんこでね〜」
アクアの説明を受けて、アリスとレイがシソチョウを丸焼きにし始める。
「そろそろ夕日も落ちて夜になりそうだけど、オーロラ出る気配ないね」
空を見上げても、オーロラが空を彩る時に溢れる緑色が、オレンジから紫にかけての空に点すら存在していない。
むしろ一等星が点々と見え始めている。
「きょ、今日は、ハズレ、ですかね…」
「ルシフェルが『オーロラは出る』と言っていたが、虚言癖を拗らせていたか」
「う〜ん、ちょっとがっかり〜」
こればっかりは仕方ないことだからね。
「す、すみません…」
「マリンお姉ちゃんが、謝ることではないですよっ…!」
「アリスの言う通り、マリンは何も悪いことしてないでしょ。むしろご飯とかも用意してくれて、ありがとうね」
「い、いえ、こ、これしか、出来ることは、ないので…」
「まっ、それも僕がいれば全て解決するんだけどね?」
この場には不適な、やけに軽快な口振りの男の声が聞こえて来る。
誰かと思えば紫色のローブを着た、親しみやすそうな顔で中身がなかなかに危なそうなルシフェルがそこにいた。
「何の用だ虚言癖、ここは男子禁制、乙女限定の宴だが?」
カミラが「帰ってくれオーラ」を座り方と話し方で出来る限り出し尽くして、ルシフェルを厄介払いをしてくれる。
ルシフェルには申し訳ないけどね、今日の思い出はこの6人の物だと私は思ってるから、出来たらお帰り願いたい。
「久しぶりの外だからとウキウキさんだったのだが、僕さ空気は読むお兄さんだからね、必要なことだけ。まずはミオ君、体調の方はどうかな?」
「全然平気だよ、ついさっきもちゃんと戦闘出来たから」
魔法も今まで通り使えるし、感覚が鈍っているとかはないね。
耳以外は至って健康体かな。
「それはよかった。それと星辰魔術の話なんだけど、さっき君の権限を利用したら僕でも使えたから大丈夫なはず」
「権限?」
権限とかそういう偉い魔導士が使ってそうな用語を言われても、よく分かんないよ。
私って普通の冒険者の女の子だもん、いわゆる一般人だもん。
「説明が難しい、出来るだけ認識を君達に寄せた言葉を使うと『この世界におけるミオ君の立場を利用させてもらった』という感じ?こればっかりは世界のルールとかあれこれを説明しないといけないからさ、ご勘弁ってところで!」
「避れ虚言癖、お主の居場所はあの辛気臭い図書館であろう?」
「オーロラの件に関しては、虚言ではないよ。なんせやっぱり星辰魔術は素晴らしい、太陽を爆発し放題っ!」
なんかとんでもない言葉が聞こえたけど、太陽が爆発っていうのはフレア的な、小規模の話だよね?
「それ知ってる〜!プロミネンスって言うんでしょ〜?」
「うーーーん、惜しいね!」
「あれ〜、違った〜?」
レイが自信満々だったのに、ルシフェルの返事を聞いてすぐ恥ずかしそうにアリスの後ろへと移動していく。
分かりやすくてかわいい。
「太陽の爆発の話はそれこそイクス君にでも。彼が天体観測の全てを担っているから」
イクス、天体観測とかもしてるんだ。
いくら時間を止めれるからと言っても大変そうだね。
便利で快適な世界のために、頑張ってイクス。
「という訳でオーロラは41分と32秒後にこの空に現れるから、それに合わせてご馳走もしっかり準備して、楽しい女子キャンプ会を!じゃっ!」
辺りに光の粒子が現れ、ルシフェルの周辺の空間が縦に歪むと、次に空間が元通りになるとルシフェルの姿は消えていた。
「41分と32秒後って、すごく細かいっすね」
「で、でも、それだとちょうど、食べ始めたぐらい、ですね」
「いいですね!オーロラを見ながらの食事!」
「ね〜、人生初オーロラだよ〜!」
いつの間にかレイが丸焼きを回すがわりに代わっている。
アリスとは違って軽々と回している。
「ミオ、あの話は忘れていないな?」
「あれ?あぁ、あの約束?」
血を吸わせてあげる約束だよね?
「あれはひとまず保留にしておけ、今日である必要はない」
「そう?気が利くじゃん」
「妾とて良心を持ち合わせているのと、どこも視界が開けているからな」
あぁ、血を吸ってるところ見られたくないんだっけ?
それならまぁ、外でやらない方がいいね。
「えぇ〜?2人だけの秘密〜?ずるいな〜」
「お主も混ざるかレイ?その時はお主の首から血が流れることになるが」
「…あっ、やっぱり私はいいかな〜?」
レイがすぐに何の約束か理解して引いていく。
判断が早い!
「血… もしかして試合するんですかっ!?」
「違うよ、カミラに血をあげるの」
「あぁ、そういうことでしたか」
「アリスもどうだ」
「いえっ、私もっ、大丈夫ですっ!」
アリスが恐縮してる風に返す。
アリスも判断が早い!
「吸血鬼って、本当に血を吸うんすね」
「でなければ妾は何なのだ。血を吸い、闇に潜む種族だぞ?」
「それにしては全然闇に潜んでないっすよね」
あっ、言われちゃった。
誇り高き原初の吸血鬼さん、吸血鬼っぽくないって言われてますよ!
「それは、人による」
「カミラちゃんは夜行性の逆だもんね〜」
「それは昼行性って言うんですよ?」
「え〜、アリスちゃんそれほんと〜?」
「本当です、本に書いてありましたよ!」
「レイよりアリスの方が頭いいもんね」
「そんなことは… 流石にないと思いますよ?」
「え〜、何その間〜!」
レイが空いてる手でアリスの頭を抱き寄せてほっぺたを擦り付け合わせる。
いやでも実際、アリスの方が知識量は上そう…?
こうしてわいわいと過ごしながら、夕食の準備を続ける。




