25話 ユスティアが誇るCランク冒険者
レスターは空中でバランスを取り戻すと綺麗に着地し、フェンリルの追撃を許さず距離を取った。
リアが私に声をかける。
「ミオ、今何をした?」
「障壁魔法って言うんだけど、知らない?」
「聞いたことはあるが、初めて見た」
便利な魔法だから色んな人が使っていてもおかしくないんと思うんだけどな。
「もしかしたら、リアも戦った方がいいんじゃない?」
「そうかもしれない。1人で大丈夫か?」
「障壁魔法があるから大丈夫」
「分かった」
リアがそう言うと走り出して剣を抜き、それは露草色に光りだす。
ひとまず安全を確保するために正面に強めの障壁を作る。
リアは剣を一振りすると、ウルフに向けて吹雪が一直線に地面を凍てつかせながら進んでいく。
ウルフは横に跳び躱すが、レスターが走り出し、レイナがそれに合わせて詠唱をする。
「俊敏なる腕よ!」
宝石が光った杖をフェンリルに振ると、土の腕が跳んでいるフェンリルの前足を即座に掴む。
フェンリルが腕に咆哮し、疾風で腕を破壊して拘束から逃れるが、腹の横でレスターが剣を振り下ろしていた。
レスターの剣からは猛炎が湧き上がり見事にフェンリルの腹を縦に斬り、フェンリルは火に覆われた。
さらに斬り上げ追撃を行うがフェンリルは急いで追撃を横に跳んで躱す。
もがき苦しむフェンリルが風を強く起こし火をかき消す。
あれ、フェンリルから血が出てない。
レスターの炎の剣が傷口を焼いて塞いだようで、斬り込み自体はある。
出血を狙えないけど、いいのかな?
そんなことを考えている間にリアが怯んだフェンリルに正面から距離を詰める。
フェンリルが咆哮をし、複数の円形の疾風がリアに向けて放たれるが、リアが手を伸ばすと吹雪が放たれ、リアの前方に氷の壁が現れる。
疾風が氷の壁と衝突する。
やがて氷の壁が粉砕されるが、リアが壁を越えてフェンリルの頭に飛びつく。
フェンリルはそのままリアを噛みつこうとするが、翡翠色の光の矢が口の中を貫き、フェンリルがよろめく。
そのままリアがフェンリルの頭に乗ると、剣で左目を貫く。
フェンリルは暴れだし、リアは振り落とされる。
貫かれた目は凍てついている。
振り落とされたリアに対してフェンリルが噛みつこうとする。
「聡慧なる腕よ!」
レイナさんが詠唱し光った杖を振ると、フェンリルの右側から複数の土の腕が現れる。
フェンリルが掴まれる寸前で気づき左側に跳びながら咆哮を放とうとする。
させないよ。
私は魔力をため、障壁魔法を放つ。
複数放たれる円形の疾風、それを確実に受けきるため、強固な壁をイメージする。
そうして魔力を放つとフェンリルの口の前の空間が一瞬歪み、放たれた疾風が見えない壁に連続して激突する。
大きなヒビが入るが割れはしない。
そのまま複数の腕も見えない壁に衝突するが、腕は壊れることなく壁を突き破り、フェンリルのマズルをどんどん掴んでいく。
「豪然たる腕よ!」
フェンリルよりも大きな腕が現れるとフェンリルに掴みかかり、完璧に胴体を掴む。
フェンリルが身動きを取れなくなると、レスターがフェンリルの首の右側に、リアが左側に回り、2人は剣を構える。
どんどんフェンリルから発せられる風は強くなるが、2人は微動だにしない。
それはさながら斬首刑を行う処刑人。
レスターの剣から猛炎が湧き上がり、リアの周辺の空気が凍て付き始める。
2人が剣を振るうと、レイナさんが土の腕を地面に戻す。
フェンリルの頭と胴体が離れる。
木々が大量に薙ぎ倒された森の中、すでに風は止んでいた。
「よし、倒せたね。ミオちゃん、私達の戦いどうだったかな?」
レイナさんが近づいて話しかけてくる。
「すごかったです」
「ふふ、すごかったか」
レイナさんが笑う。
フェンリルが生き返った時はどうなることかと思ったけど、フェンリルはほとんど成す術もなく、圧倒された。
これがCランク…
「ミオ、俺を守ってくれたこと、感謝する」
レスターとリアがやって来て、レスターが感謝を述べる。
「気にしないで」
「いや、あの疾風が当たっていればそのまま地面に落ち、フェンリルの追撃を受けていたかもしれない。後で礼を渡す」
「お礼とかいいよ」
「そうか、お前は欲がないやつだな」
「なんならお礼は十分貰ったよ。Cランクってすごいんだね」
本当にいい経験をした。
「倒せたのはミオのおかげもあるが、そう言ってくれると冒険者として誇れるってものだ」
「この後どうする?私達で解体するか?」
「こんな大きいのめんどくさいよ。解体屋に頼んでいいんじゃない?」
「そうだな、大まかに分けて、俺が大きいアイテムボックスを持って来てるからそれで運ぼう」
「それなら、私は空間魔法を使えるからこのまま運ぶよ」
「そういえばリアがミオは空間魔法を使えるとか言ってたな。頼んでいいか?」
レスターに頼まれたので、私はフェンリルに近づく。
フェンリルの大きさは中型トラックぐらいで、憎しみを持った鋭い目が私を睨んできてるように感じる。
私はアイテムボックスを使ってフェンリルを回収する。
「それじゃあ戻るぞ」
レスターがそう言うと、来た道を引き返す。
空はすっかり明るくなり、木漏れ日が森の中を少し照らしている。
フェンリル戦、終了しました。
作者としては戦わせてあげたかったけど、Cランクパーティが強すぎてミオの出る幕はありませんでした。
Cランクパーティ、恐るべし。