23話 穏やかな朝の森
それはミオの夢の中
「あのさ、夜明け前に起こせる?」
「起こせるぞ」
偽神は自信ありげに答えた。
目が覚めたのでカーテンを開く。
まだ夜明け前、空がほんのり明るくなってる頃。
徹夜でゲームをした時によく見た光景だ。
私は出かける準備をする。
西門の場所が分からないから地図も持っていく。
1階に降りるが誰もいない。
マリアを探すけど見当たらない。
もしかして朝ご飯抜き?
私は絶対に朝ご飯は食べる人だから少し嫌だな。
外に出てみるがほとんど人がいない。
夜中から早朝にかけて活動すれば人に見られずに済むかな。
いや、流石にそれはしないけど。
私は地図を見ながら西門へ向かう。
人ともそんなにすれ違わずにここまで来たけど、西門に来ると人が集まっている。
レスターとリアとレイナさんだ。
「おはようみんな」
「おはようミオ、体調は大丈夫か?」
「おはよう」
「おはようミオちゃん」
リアが返事をすると、レスターとレイナさんも続けて挨拶をしてくる。
「しっかり寝てきたけど、朝ご飯を食べれてなくて」
「じゃあ私の食料あげるよ」
レイナさんがアイテムボックスから肉の干物を渡してくれる。
「ありがとう、お礼はどうすればいい?」
「そうだね〜、じゃあお耳触らせてくれる?」
「いいですよ」
私は頭を差し出すと、レイナさんに耳を触られる。
若干、容赦のない触り方だけど、少し癖になるね…
「すごい、ふわふわで気持ちいいわ」
「ありがとう」
なかなかレイナさんが手を止めてくれない。
口がへにゃってなりそうな所を我慢する。
レイナさん、もうそろそろ…
「ふ〜、満足した」
「それは良かったです…」
危なかった…
もうちょっとで恥ずかしい顔を晒すところだった。
「よし、それじゃあ出発するか」
レスターはレイナさんがケモ耳を触るのを辞めたのを確認するとそう言う。
「あれ、カインは?」
「カインならそこにいるよ」
そう言ってレイナさんが上の方を指差す。
その指差す方を目線で追うと、そこは壁の上、そこにカインがいた。
「カインはそこから狙撃する。あいつは鷹の目と呼ばれる魔眼の持ち主だから遠くを見通せる。森の中は視界が悪くアーチャーが不得意になる近接戦闘になりやすいから、弓の腕も完璧だから安全な場所からの後方支援になった」
なるほど、適材適所だね。
「レイナさんは魔法使いだよね?大丈夫なの?」
「私は目がいいわけではないし、近接戦闘でもある程度戦えるよ」
そう言ってレイナさんはアイテムボックスから先に綺麗な宝石が付いた金属製の杖を取り出す。
一気に魔法使いになった。
「これで殴ればいいから」
一気に魔法使いっぽくなくなった。
私達は関門を抜けてすぐ横の森の中に入っていく。
森の中は心地よい風が吹いている。
静かに木々が揺れ、森林浴で来てるなら最高のシチュエーションだろう。
私は肉の干物を食べる。
おいしい。
呑気に森の中を歩けるほど風の大狼の気配はない。
「風の大狼ってどこにいるか分かるの?」
「ひとまず早朝の間は森の奥にいるから、奥の方に向かう。そしてカインが風の大狼を見つければ閃光の矢で近くを射ることになっている。もし、急に森の中が光ったらそっちに向かうことになる」
なるほど。
「私達が見つけたら?」
「レイナが光魔法を真上に打ち上げる。カインはそれで気づく」
信号弾みたいなことかな。
そうして森の奥へとどんどん入っていく。
「ウルフが全然いないね」
「話通りだ、安全圏に行くためにもっと奥へ逃げたんだろう」
レイナさんとリアが話している。
「仮に生息域を荒らされていると判断してるなら、普通は他のウルフとかも来ない?」
「話では風の大狼が放つ疾風は木を簡単に切るらしい。その被害に遭わないように他のウルフは逃げてるんだろう。調査に行った冒険者によると、すでに木が倒されていた場所があるらしいぞ」
「そうなの、思ったより危険な敵なのね」
「そうだ、あまり気を抜かない方がいいぞ」
木を倒されてる場所ねぇ…
まぁそれはいいとして。
「レスターが問題なく倒せるって言ってたけど、戦ったことがあるわけじゃないの?」
「戦ったことはない。ただ風の大狼はCランク相当の依頼だ。普段の俺達はCランク依頼をこなしているからな、そういう意味で問題ないと言ったんだ」
「私は戦わなくていいんだよね?」
「あぁ、ミオには私が護衛につくから安心してくれ」
リアが答える。
「どう戦うの?」
「基本は俺が前に出て攻撃を受ける。レイナが援護しながら、隙をついてカインが狙撃する。リアはミオを護衛しながら戦う」
「それで大丈夫なの?」
「どうだろうな。ダメだったらミオには逃げてもらって、レイナに戦闘に加わってもらう」
「分かった。危なそうだったら逃げるね」
「そうしてくれるとありがたい」
指示には従うけど、ただ少しぐらいは戦ってみたいな。
「ちょっとぐらい魔法で支援してもいい?」
「してもらって構わない。自分の魔法がどれだけ魔物に通じる物なのか知るのも大切だからな」
そんなこんなで森を歩き、肉の干物を食べ切った頃、森の中に1つの閃光が走る。
レイナさんはテクニシャンなのでした。
ミオがレイナさんに敗北する日も近い…
かもしれない。