225話 ミオの本気の火魔法
いい具合まで涼しくなった土小屋の壁を崩して、四方の柱と屋根だけは残してそのままにする。
外はやっぱり炎天が照りつける砂漠のど真ん中。
今いる位置は丘になっていて、干上がった広大な砂の大地を一望することが出来る。
地面がひび割れてることから、雨季はありそうだね。
それでも酷い環境なのか、生物がいそうには見えない。
「木も何も生えてませんね。何ですかここ?」
「砂漠だね」
「砂漠のイメージとちょっと違う〜」
確かに砂漠ってサラサラな砂だけのイメージだけど、雨季がある場所では砂が固まるからね。
「こういう砂漠もあるんだよ」
「へ〜」
「これが砂漠なんですね、初めて見ました」
「本とかで砂漠って出てきたりしない?」
「しますね。でもこんなに広いとは思ってませんでした」
言われてみれば地平線まで砂漠は続いている。
「こ、ここ、ユスティアから、かなり南下してませんか?」
「距離までは分からないが、マリンの言う通り南にある砂漠だ」
「そ、それだと、確か砂漠の街のがあると聞いたのですが、近くにはないのでしょうか?」
「分からん。妾とて全能ではない、ここから見えなければ近くにはないのだろう」
「そ、それならいいですが、もし近くに街があったら危ないなと、思ったので…」
周りに街があって被害が出たらダメだもんね。
ただそんなに大きな規模で魔法を打つつもりはないよ。
「それでミオ、お主の魔法を見せてくれないか?」
「うーん、いいけど、変な期待しないでよ?」
「するわけなかろう。お主の腕がどれほどか確認するためだからな」
魔法の出力が大きいだけで実力者って判断はどうなの?
それ以上に戦い方とか応用の効かせ方とかあるはずだよ。
「よし、久しぶりに本気でやってみよっかな」
私は腰を上げ、避暑地から出て丘の端まで移動する。
太陽の光でカラダがヒリヒリしていて、裸足のせいもあって足元が焼けるように熱い。
流石に危ないから足元に水魔法で水たまりを作り、ミストも出して体を冷やす。
左手を前に突き出し、魔力を集中させ始める。
「ミオちゃんがんばれ〜」
レイの応援が聞こえる。
魔法を全力で放つのって、いつぶりだろう。
ゲームの時でも長らくそんなことはしていない。
だって全力ってことは次の瞬間には魔力切れ、再起不能になるってことだから全力なんてハッキリ言って効率が悪い。
だから強めの魔法を小出しにする方が戦闘においては丁度いいって相場は決まっている。
左手に体中の魔力が収束していく。
よし、魔力は十分だね。
後はどんなイメージを描くか。
派手にかっこよく?
それとも美しく?
醜くても躱しにくい魔法が正解だけど、別に戦闘してる訳じゃないし綺麗な魔法にしたいよね。
やっぱり火の鳥は数匹出したいよね。
3匹がいい感じかな?
私は左手の魔力を全て空中に放ち切る。
一瞬、体が脱力してフラッと体勢を崩しそうになるけど何とか足に力を入れる。
視界も暗くなり、それはまさしく貧血の時の立ちくらみみたいに。
私が魔力切れの時は立ちくらみみたいになるってことだね。
それが知れたのはよかったけど、放った魔力をちゃんと使わないとね。
私の体からは切り離された魔力を火の鳥の形になるようにイメージする。
体長10mほど、優雅で美しい翼を携え、尻尾はクジャクの羽のような尾羽をなびかせている。
イメージの通りに魔力の形を変え、私は魔力を燃え盛る火に変化させる。
すると空中に爆炎が巻き上がり、すると強力な熱波が私達に襲いかかる。
「あつっ」
私は反射的に水魔法であたり一面に冷気を放つ。
多分、熱波はアリス達にかかってないはず。
熱波を放つ爆炎はやがて私がイメージした通りの形になり、3羽のフェニックスが自由がままに空を飛び回っている。
「どうかな?」
私はアリス達の方を向く。
「かっこいい〜!」
アリスがスライムの手で水音を立てながら拍手をしている。
「なっ、どういうことだ?なぜフェニックスが3羽もいる?」
「あれは本物のフェニックスではないよ。ただフェニックスの形をしてるだけの炎」
「そんな芸当、出来て1羽、しかもお主の意思で動いてるようにも見えない。こんなのを見たのは初めてだ」
カミラが目を大きくして驚いてる。
そこまで言われると嬉しいね。
実戦で使えるような魔法じゃない、遊び用の魔法だけど。
私は3羽のフェニックスを自由にさせたまま、アリス達が座っている避暑地に戻る。
「すごいですミオお姉ちゃん!あんなことが出来るんですね!」
アリスが興奮しながら言う。
「そんないい物じゃないよ」
「そんなことないですよ、あんなに綺麗な魔法はこの世界にありません!」
もう全肯定で褒めてくれるじゃん。
好き。
でもアリスに褒められるってだけ、この魔法にも意味はあるかな?
「やっぱりミオちゃんはすごいな〜」
「レイだって最初からちゃんとやってたらこのぐらいは出来てたよ」
「え〜、そうかな〜?」
「出来るよ」
ゲーム内であれば、魔法を主軸に戦うトッププレイヤーならこれは出来るはず。
大した難しいことはしてないし。
「ミ、ミオさん、質問なのですが…」
「どうしたの?」
「え、えっと、ゴーレム魔術とか、あのフェニックスのような魔法の時、何を意識しているのでしょうか?」
意識ってどれのことだろう、魔法に意思を持たせることの話かな?
「うーん… 特別意識してることはないかな。生物を魔法で再現してるんだから、動いて当たり前って思うみたいな?」
「う、動いて、当たり前… な、なるほど、分かりました」
「ゴーレム魔術でも使うの?確か土魔法使えないんじゃなかったっけ?」
「い、いえ、生体の模造って、どの属性でも出来たら便利なので、お、覚えておきたいなと…」
「いいね、もし他に分かんないことがあったら聞いて」
「は、はい、もし出来なかったら、また聞きますね」
マリンも勉強熱心でいいね。
「ミオ、妾も聞いて良いか?」
「いいよ」
「あれを使って、街を襲うことは可能か?」
「え、何急に。そんなことしないよ?」
「違う、しろという話ではない。それほどの力を有していて、お主は今の生活で満足しているのか?」
「? もう少しお金儲けしたらってこと?」
別にお金に困ってないから、そんなことする必要はないよね。
「違うのだが、まあ良い。普通は何らかの野心を抱く物だと思うのだがな、お主は楽しめられさえすれば良いのだな」
「世界征服みたいな話?」
「その通りだ」
「いや、そんなのしても別に意味ないじゃん。国としてのあり方の理想があるわけでもないし、ただの16歳には荷が重い話だよ」
「なるほどな、ミオらしい」
あれ、自分から言ったことだけど、未熟だってカミラに言われた?
私から言ったことだからいいんだけどね?
「ミオお姉ちゃんはただの16歳ではないですよ。天才の16歳です」
「それを言ったらアリスも天才だからね」
「そんなことないですよ」
「いや、妾から見てもアリスは天才だ。自信を持て」
「本当ですか?」
「私は私は〜?」
「もちろんレイもだぞ」
「やった〜」
レイが嬉しそうに私の方を見る。
「レイは本当に勿体ないよ」
「も〜、頑張るから〜」
レイが近づいてきて体をくっつけてくる。
スライム!
「もちろんマリンもだよ」
「あっ、いえ、別に」
「若くして錬金魔法を使える者もそういないだろう?自信を持てマリン」
「あ、ありがとう、ございます…」
カミラが言うと言葉の重みが違うね。
3羽のフェニックスを見ながら、私達は砂漠の午前を過ごす。




