198話 第4科目 算術
授業も始まり、生徒達が真面目に先生の話を聞いて算術の勉強をしている。
これ、暇だね。
自分が親ならまだしも、授業参加用でもないただの算術の授業って見学してても特に面白みがない。
何か特別に気になることがあるとすれば、ミケルが10歳ってことは小4が小5にあたる子供達なんだろうけど、すでに変数を用いた計算をしてるぐらいかな?
変数は現実世界みたいにxやyみたいなアルファベットじゃなくて、異世界に来てから初めて見るような記号が使われてる。
「では、この問題が分かる人?」
先生の言葉とともに子供達が手を上げる。
小学生って元気でいいよね。
高校生にもなって手を上げる人なかなかいないし、何より先生もそれが分かってるからあんなこと聞かずに勝手に当ててくるからね。
1人の女の子が指名され、その子が前に出て黒板に答えを書いていく。
レイの方をチラッと見ると、前に書かれている子供の答えを見ながら分かってる風に頷いている。
確かに答えはあってるけど、本当に分かってるのかな?
「はい、正解ですね」
先生の言葉を聞いて女の子が満足そうに席に戻っていく。
アリスの方を見るとアイテムボックスから何かを取り出したかと思えば、グランダムで買える算術の教科書を読み始める。
いくらなんでも偉すぎない?
マリンは眠そうにあくびをしている。
あくびをする時は口を手で隠そう?
何かマリンって変な所でズボラだよね。
メディア様はミケルの事をずっと見ている。
まぁ母親だからね。
ただ私がミケルだったらジッとお母さんに見られるのは嫌だけどね。
アルルは目を瞑っている。
精神統一だよね?
立って寝てるわけじゃないよね?
なんか授業の見学をするより私はレイとか見てた方が楽しい。
前を見ると先生が色々と黒板に書きながら連立方程式の説明をしている。
私はレイの方を見る。
レイが私の視線に気づくと笑いかけてくる。
黒板を指差して「解ける?」って口パクをする。
レイはそれを理解して「任せてっ!」っていう風に胸を軽く叩いてみせる。
へぇー、後でご飯の時に連立方程式のこと聞いてみよ。
というか連立方程式って数学の範囲じゃない?
どうだったっけ?
変数の概念さえ理解出来て、何で波括弧で括られてるのかが分かれば解けるから、小6でも出来ないことではないのかな?
この世界の連立方程式は波括弧じゃなくて、縦の線に途中で円を1周書いて下ろした感じの記号だけど。
もし偽神言語がなかったら黒板に書いてあることは何にも分かんない。
偽神言語って文字を見て、それがどんな意味か当たり前に理解出来てるスキルだから本当に便利だね。
これなかったらアリスが何喋ってるかも分からないし、というか何で私が話すことが出来るんだろう?
文字見て意味は分かるし、この世界の言葉で話そうと思えば話せるけど、そもそも話そうと思わなくても勝手に口から出る言葉はこの世界の言葉になってる。
仮に私達が今使ってる言葉をノーデン語ってした時、この世界のノーデン語以外の言語を見たり聞いた時でも理解出来るのかな?
算術の時間のはずなのに、偽神言語の考察をしてたね。
でもやっぱり仕組みが気になる。
頭に全ての言語が叩き込まれてるのか、完璧な翻訳機でも頭についてるのか、それとも偽神が私の五感と共有してて、見た文字とか聞いたり話そうとしたらしてる言葉をその場で翻訳してくれてるのかな?
「冒険者の方々は出来ますか?」
何故か先生が私達の方を向きながら言ってくる。
いやいや先生、これは私達のための授業じゃなくて生徒達のための授業だよ?
私達が出来たって関係ないでしょ。
問題は連立方程式、日本人が分かるように表現するならx+y=3とx-y=1の連立方程式だね。
完全に初歩中の初歩の計算だね。
「呼ばれてるわよ?」
メディア様が面白がるように笑いながら言う。
本当に解くんだね。
「あれ中学の範囲だし、簡単すぎるから他の3人がやっていいよ」
「わ、私も、錬金魔法のためにずっと前に覚えたので、お二人のどちらかが、いいと思います」
確かに量を測ったりする必要とかありそうだし、マリンは覚えててもおかしくなさそうだよね。
「私はまだやったことない範囲で合ってるのか分からないので、レイお姉ちゃんがやってきていいですよ」
「あっ、いや〜、アリスちゃんやってきていいよ〜?
別に遠慮しなくても、レイがやってくればいいんだよ?
「? 分かりました、行ってきますね」
アリスは誤魔化したレイを疑うことなく、でも自分に振られたことに不思議に思いながら少し緊張した様子で黒板の前に向かっていく。
そうしてアリスは、ちゃんと同じ変数を左辺に寄せて代入して、しっかりと答えを出していく。
「正解です。冒険をしながら勉強も怠らない、とても素晴らしいと思います」
「ありがとうございます」
先生がアリスを褒めると、アリスの口元が嬉しそうに緩む。
子供達からもすごいと声が上がる。
アリスがニコニコしながら戻ってくる。
「出来ました!」
アリスが小声だけど跳ねるような声で言う。
「流石だねアリス、偉いね」
私はアリスの頭を撫でる。
それはそれとして、今日の昼ご飯は楽しみだね。
面白そうなネタを見つけて心を躍らせながら、算術の授業の見学を続ける。




