174話 キノコの群狩りだ〜!
「いたね」
「いましたね」
「いたね〜」
逃げたイビルマッシュを追いかけると、遠くの方にイビルマッシュとギガントマッシュの群れを見つける。
イビルマッシュが20体ぐらい、ギガントマッシュが10体くらいかな?
周りを見てみるとさっきまで太陽の光がよく差し込んでいた森も、植生が変わったのか生い茂った木々の葉が光をほとんど遮断している。
近くから小川が流れる音も聞こえていて、湿気もあってキノコが育ちやすい場所なんだろうね。
「殲滅する?」
「あの子は倒したらダメだよ〜?」
レイがさっきまで追いかけていたイビルマッシュを指差す。
「それ以外はいいの?」
「いいよ〜」
レイが屈託のない笑顔を見せる。
いや、自分の友達じゃなかったら倒していいんだ。
子供は時に残酷だね。
「そういえば、私も倒すんですか?」
「アリスちゃんもがんばろ〜」
「あくまで倒せそうだったらね。危険だと思ったらすぐ空に逃げるんだよ?」
「はい、分かりました」
もしFランクのギガントマッシュを倒せたらそれだけでGランクの依頼3回分になるからね、頑張ってね。
「せ〜のっで行くよ〜」
「せーのですね?」
「いつでもいいよ」
私はアイテムボックスからナイフを取り出す。
「せ〜のっ!」
レイの掛け声を合図に私とレイは駆け出す。
アリスも後を追いかけてくる。
ちょっと足が遅いけどね。
「真ん中はアリスね」
「おっけ〜」
それだけレイに伝え、レイの左側にたまたまいた私は群れの左側に向けて走る。
逆にレイは右側へ向かう。
敵との距離が10m近くになったところで足を止めて慣性のみで滑って移動する。
さっきまで雨も降ってたおかげでよく滑るね。
敵が私に気づいたあたりで地面に向けて水魔法を放ち氷の床を作って滑り続け、その延長に氷の登り坂を作り風魔法で強力の追い風を出して坂を登って行く。
私の風で揺れる葉の音を聞きながら、葉の天井に当たらないように適当な高さで氷の坂を延長せずに空中に飛び出す。
高さは5mくらい、地面に着く前に何体倒せるかな?
イビルマッシュはいいとして、ギガントマッシュの大きさは2.5mほどで的として扱うにはちょっとだけ簡単過ぎるけど、気にせずにやっちゃおう。
私は頭が下にくるように回転したあと、私ぐらいの大きさの土の棘を10本ほど作り、視界に入った敵に向けて放つ。
その棘の1本1本はギガントマッシュやイビルマッシュを貫き、勢いのまま地面に突き刺さって敵を固定する。
私は上体を起こしながら周囲に疾風を纏い、空間的に把握してる限りに魔物がいた場所へ何陣もの疾風を放つ。
私ながら上手く出来たんじゃないと思いながら着地をしようと地面に目をやると、ちょうど足元にイビルマッシュがいた。
着地してなかったらセーフだよね。
私は手に持ったナイフをそのイビルマッシュに向けて投げつける。
ナイフはイビルマッシュに突き刺さり、そのままイビルマッシュは倒れる。
そしてイビルマッシュの上に着地し、体を裂くようにナイフを横に抜く。
足元のイビルマッシュが動かなくなったのを確認してすぐに後ろを振り変えると、見るも無惨なイビルマッシュとギガントマッシュがいた。
体を土の棘に貫かれ、疾風のせいで傘や胴体が切断されている。
1体として生き残ってはない。
体がキノコの組織で出来てるからなのか、適当に放った疾風でも簡単に切れちゃってるね。
今から生き残りを倒そうと思ったのに、残念。
私は土の棘を崩し、氷を破壊しながらレイの方を見てみる。
レイはギガントマッシュに向けて拳を振り抜く。
するとギガントマッシュの背中側から白い何かがたくさん飛び散る。
私はそれがギガントマッシュの肉体と理解した時にはギガントマッシュは倒れ、体に空いた穴を私に見せていた。
強化魔法があるとはいえ、そうはならないと思うんだよね。
殴られた部分だけが後ろに飛んで他の体が置き去りになるほどの早く強力なパンチってどういうこと?
レイの馬鹿力振りに恐れながらアリスの方を見る。
アリスはようやくイビルマッシュやギガントマッシュとの距離が5mほどまで近く。
どっちも1体ずつだね。
アリスは短剣の間合いにイビルマッシュを入れると、一斉に蹂躙されていく仲間の姿を見て混乱しているイビルマッシュに向けてアリスは短剣で斬りつける。
すぐに短剣を逆に振り抜きイビルマッシュを切り捨てた後、アリスはギガントマッシュと距離を取るように後ろに下がる。
そして左手で短剣を持ち、右手の指の先に水の球を出す。
そして指先で円を描きながら水輪を作り、ゆっくりと向かってくるギガントマッシュに指先を向けて水輪を放つ。
アリスが放った水輪はギガントマッシュの左足を切り裂いた後、円を描く軌道で向きを変え、後ろからギガントマッシュの右足を切り裂いた。
いいじゃん!
両足を切り裂かれたギガントマッシュは地面に倒れ込み、体を小刻みに揺らし始める。
アリスはそれに気付いてすぐさま近づき、傘と胴体が離れるように短剣を入れる。
胞子を飛ばしてくると分かっていても近づく勇気、私にはないよ。
傘と胴体が離れたと同時にピタッとギガントマッシュは動きを止め、アリスは周りを確認する。
目があったアリスに親指を立てて、つられるように私も周りを見渡してみる。
周りに魔物の気配はなく、レイの方も戦闘が終わっているね。
「アリス本当に戦うの上手だね」
「本当ですか?」
嬉しそうに笑顔を見せたアリスの手は震えていた。
ただ技術も、判断も、勇気も全て完璧だった。
「本当に、アリスは天才だよ」
私はアリスを抱きしめ、安心させるように頭を撫でる。
「えへへ、それはよかったです」
「あ〜!ずるい〜!」
レイが私達に飛び込んでくる。
「どうしたの?嫉妬?」
「ううん、大好きなだけだよ〜」
「嫉妬ではないんですね?」
「じゃないって〜。そんなことよりアリスちゃん、ギガントマッシュ倒せたね〜!」
「はい、倒せました!」
「アリスちゃんすごいね〜、偉いね〜」
レイもアリスの頭を撫でる。
アリスは安心したようで、震えは止まっていた。
「も、もう、見えないですね、降りますか?」
「マリンの好きにしてくれ」
「な、なら降りましょう」
「ならそうするか」
「は、はい」
「それにしても、ミオとレイは随分と派手な戦い方をするのだな」
「え?あっ、み、見えてるんですか?」
「見えているぞ。それに比べて、アリスは実に冒険者らしい」
「えっ、ア、アリスさんも戦っているのですか?」
「あぁ、今ギガントマッシュとイビルマッシュを倒したぞ」
「す、すごい…」
「そうだな。何より年若なのにあれほど戦えるのに妾は驚いている」
「そ、そうなんですか?た、戦ってるアリスさん、見てみたかったです」
「仕方あるまい、次の機会だな」




