008. アルフェリスの心情
「そこにいるのはレオン・・・か?えっ?泣いているのか?」
目を覚ましたけれど、頭の中はまだ少し朦朧としていた。声だけを聴いて、判断はできた。目を開けていたけれど、やはり闇の中。姿を確認することはできなかった。
ーーやっぱり・・・。見えないか・・・。これが現実なのか、夢なのか?
起き上がろうとするアルフェリスの傍に寄ってきたレオンハルト。
「まだ起き上がるのは無理です。今日はこのままお休みになってください、アルフェリス様。」
レオンハルトに背中を抱かれ、静かに寝かされた。それがやっと本物のレオンハルトであることを確認できた。これが現実なんだと実感できた。
ふぅーっと一息つくと観念した顔をして
「わかったよ。わかったからいつも通りにアルと呼んでくれ、レオン。」
「・・・わかりました、アル。」
レオンハルトは、静かに微笑んでベッドの近くの椅子に腰かけた。
そのまま2人の間に沈黙が流れた。
ーーーコンコンコンーーー
部屋の扉をノックされた。その音にまたビクッとなり、驚いているアルフェリスを見てレオンハルトは驚いた。部屋にやってきたのは兄であるディーデリヒだった。
「ディーデリヒ様です。」
何かを察したレオンハルトは小さな声で、アルフェリスだけに聞こえるように答え椅子から立ち上がった。
ディーデリヒがベッドの傍へと近づいた。
カッカッという足音が聞こえるが、やはりアルフェリスには見えない。それでも、誰の声かさえわかれば怯えることはない。
ディーデリヒはベッドの横の椅子に腰かけた。
「アルフェリス、調子はどう?」
「ディーン兄様心配かけました。まだ少し頭が痛い時がありますが、平気です。」
レオンハルトにも気づかれていないから、ディーデリヒもこのままいけば目が見えていないことはバレないだろうとアルフェリスは考えていた。
アルフェリスは、横になったままの状態で少し笑って見せた。
「うん、顔色もよくなったし大丈夫だね。」
ディーデリヒはニッコリと笑いながら答えた。
「事故の時の話はある程度、レオンハルトに聞いて把握できた。いきなりであるが、何故あそこにアルフェリスはいたのか教えてくれ。」
「あれは偶然なんです。レオンに卒業パーティーで“一般科”代表挨拶の言葉を相談しようと思って中庭に探しに行ったんだ。その時、レオンとセレスト嬢の近くに何かが投げられたのが見えた・・・。その瞬間に体が動いてた。でも、レオンを突き飛ばすのが精一杯だった・・・。」
「誰が投げたか見たのか?!」
少し強い口調でディーデリヒがアルフェリスの腕を掴んだ。突然のことでアルフェリスは驚いた。少し尋常じゃない驚き方をしたアルフェリスにディーデリヒとレオンハルトが驚いていた。
「ひっ」
小さな声だった。ディーデリヒとレオンハルトが部屋の中にいるのはわかっていた。しかし、アルフェリスにとっては闇の中にいるため、誰かに突然身体を触られることは恐怖でしかなかった。ディーデリヒとレオンハルトは顔を見合わせていた。
本当はリアムと同じくらいの能力がありディーデリヒは生徒会長となる能力があったが、エバーグリーン王国の王子としての職務もあるため、生徒会副会長として生徒会長の右腕を任されているディーデリヒと、第2王子であるが側近として動き回るレオンハルトは、頭の回転が速い。決して〈愚〉ではない。一瞬の動作でアルフェリスが今ある状態を見抜いた。
「アルフェリス・・・、目が見えてないのか?」
ディーデリヒが静かに聞いた。その言葉にアルフェリスは顔色の悪くなった。これ以上は、隠せるわけがないと深い溜息を吐いた。
「ディーン兄様の言う通りです。目が覚めているのか、それともまだ眠っているのかそれさえ自分にもわからないんです。」
ディーデリヒはアルフェリスの告白に、今はこれ以上は無理だと感じた。
「いきなりたくさんのことを聞かれても、アルフェリスも疲れるだろう。父上にも僕から話をしておくから、しっかりと休むんだ。」
レオンハルトは、言葉をなくしていた。どうすればいいのかもわからなくなっていた。
「今日は失礼します。」
それだけを言うのが精一杯だった。ディーデリヒとレオンハルトは連れ立ってアルフェリスの部屋を出た。
「レオンハルト、このことは誰にも話すな。まずは陛下に相談してからだ。」
「はい」
レオンハルトは、王城を後にした。
改めて私室のベッドに横になっていると、今まで何とも思っていなかった暗闇が急に怖くなった。幼かった頃のことを考えても恐怖を感じることではなかった。それは目を閉じれば一時的なものでしかなかったし、周りにいる信頼できる者たちが傍にいてしっかりと手を握り、導いてくれることが解っていたからだ。しかし、今は幼い子どもではない。誰かに頼ることもできない。見ることで得られる情報はもうない。下心あるもの・蹴落としてやろうと考える者を自分で区別することができるのだろうか・・・。その中でも信じられる者を見つけることができるのだろうか・・・。
部屋の中でたった一人でいることが、今更ながらに不安になり自然と涙がこぼれた。
目を覚まし、目の前の状況に思考能力が追いつかなくなったのだ。何も考えられず嗚咽が止まらなかった。
翌日、レオンハルトがアルフェリスの部屋を訪れた。
アルフェリスはベッドの上で体を起こしていた。
「調子はどう?」
その声を聞くと、不安な顔を見せまいとにっこり笑って見せた。
「昨日よりだいぶいい。心配させたね。」
「いいえ。よかった・・・。」
けれど、アルフェリスとレオンハルトの会話はこれ以上続かない。しばらくの間沈黙が続いた。
ーー何を話せばいいのか・・・わからない・・・--
お見合いをする男と女のように俯いて黙ってしまった。
読んでくれてありがとうございます。
主人公の心情に入りすぎてしまってる感はありますが、絶対にBL的描写ではありません。
そういう方面に向けて小説は書いていません。楽しんで読んでいただけたら、幸いです。