002. どうやら〈非日常〉が訪れました
新緑の木々が優しい風にさわさわと揺らいでいた。
いつもと変わらない穏やかな午後、ひと時の休憩時間。
日常と少し違うのは、もうすぐ卒業パーティーがあることだ。他の学院と違うところは、12歳で卒業しても貴族の令息・令嬢と僅かに平民の学院生がこの学院に残り”専門課程”に進むため、15歳でもう一度卒業するところだ。それでも半分以上の平民は12歳で卒業する。
夜会に縁遠い平民の子どもたちも出席できるゆえに、かなり盛大な卒業パーティーになる。生徒会以外にも在院生で構成される実行委員会が準備のため中庭からダンスホールへとつながる近道を利用している程大忙しだった。
優雅におしゃべりに興じているのは卒業生くらいだ。
中庭の喧騒を避けるかのように、木陰に置かれたベンチがひとつ。
そこに仲良くカップルが座っていた。新緑の濃さよりも薄い緑色の髪でスッキリとした顔立ちの琥珀色した瞳を彼女に向けた。
彼はレオンハルト・バートシェンナ。侯爵家令息であり、この王国の第2王子の友人として側近として育ってきた。その隣に座る幼さが少し残った薄紫色のふわりとしたウェーブかかったロングヘアを風に揺らしながら茶色の瞳を細め、頬を赤く染めていた。
レオンハルトは”一般科”から”魔法科”への進学が決まっていて、セレストとは、1年学年が違う。教室が違うから休憩時間は一緒にいられる貴重な時間だ。長期休暇後には、”一般科”と”専門課程”の違いで教室は端と端になる。距離ではさらに離ればなれになってしまうのだ。気持ちが浮つくのはどの学院生も同じだ。
彼らだけではなく、ほんの少しだけ『油断』があった・・・・・・のかもしれない。
突然、中庭で目を覆いたくなるような閃光が走った。誰もが目を閉じ、光に背を向けた瞬間ーパァーンーと大きな音が聞こえた。
「「「「「きゃあー!」」」」」
あちらこちらから令嬢たちの悲鳴が中庭に響き渡った。
何が起きているのかもわからず、レオンハルトはセレストを抱きベンチから10メートルほど離れた位置に倒れた。倒れる瞬間何かの影が横切ったように見えたが、彼が抱いているセレストの方が気になった。
「セレ!セレ!」
気を失っている彼女に声をかけながら、体を揺さぶった。
「う、うーん」
ゆっくり目を開けたセレストを見て、安心したレオンハルトはセレストを抱き起しながら、周囲に目を向けた。
琥珀色の目を細めながらさっきまで座っていたベンチを見つめた。ベンチの近くに立つ樹のそばに倒れている人がいるのを見つけた。
中庭にいた他の学院生は閃光と大きな音のせいでパニックになっており、自分以外の誰かを気にすることは全くなかった。
レオンハルトは、急いで倒れている人のところへと駆け寄った。
亜麻色のサラッとした髪は後ろできっちりと束ねられ額にはうっすらと血が滲んでいた。