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厭世家

作者: 涯 啓一

俺は厭世家だ。人生なんてろくな物じゃない。そう世界を悲観視し、醜く愚痴を零しては、ふしだらな生活を送ってきた。厭世家なんて自負しているが、そんな大それたかっこいいものじゃない。ただ現実逃避し、自分が幸福でない世界を受け入れることができないだけだ。「視点を変えれば世界は別物」なんていうが、欺瞞だ。視点を変えたって世界の不条理は解決しないし、何より、俺が置かれている状況や立場、事実、そして俺の過去は変えることができないのだ。

 そう、厭世家なんてのはそんなひねくれた思考の持ち主だ。


俺は戸守宰ともりさい28歳、一端のサラリーマンだ。学生時代に特に勉学に励んだわけでもなく、部活や色恋沙汰にも興味を示さず、趣味の読書とゲームに毎日没頭して生きてきた。当時も今も夢はなく、(厳密にはあるのだが、決して叶いはしない夢である)ただ上記に記した通りの思想を抱き、液晶画面を覗き込んでは数字やらアルファベットやらが書かれた板を、指で叩く音を鳴らしていた。

だがそんなある日俺は一つの思想に至った。俺は厭世と同時に、昔読んだ本や見たアニメの世界のように、いつかこの世界も変遷し、都市伝説のような興が乗る出来事が起こるのではないかと。

だが実際はどうだ、転生なんて起きやしない。思い浮かぶ思考が、理想が、俺の嫌いな現実とあまりにかけ離れすぎていて、すぐにお蔵入りのただの妄想になってしまう。そんな人生に嫌気がさして、俺はいつの間にか会社の自分のデスクにつくのではなく、気づけはビルの屋上に立ち、足を一歩、足場のない大気へと踏み出していた。するとどうだ、今まであんなに悪態づいていた世界に一気に愛着がわき、死にたくない、手放したくない、生きていたいだの、自分勝手な感想が脳内を駆け回り後悔とともに着地前に気絶していた。最も嫌った世界に対して、俺が最後に言い残した言葉はこうだ。「死ななきゃよかった。」

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