偶然にも呪われし童貞を殺す服を着た女騎士はスキル【童貞キラー】で魔王を倒せるのか!?
「それはお客様にピッタリでございます」
インチキ臭そうな髭面の店員がやたら薦めてきた背中の開いたセーター。鎧の上から合わせてみると何だか本当に似合っている気がして、気が付けば買っていた。
(コレの下にシャツや可愛らしい肌着と合わせれば、素肌出さなくていいしオシャレ感も出せそうね♪)
私は家へと帰りシャワーを浴びた。裸のまま髪の毛を渇かし、ふと目に入った先程のセーターを興味本位で素肌の上から合わせてみる。
(ちょっとエッチっぽいけど、一回だけ着てみようかしら……?)
好意の目で見られたいと言う意識が無かった訳では無いが、私はその時自分の中に潜む内なる私の衝動を抑えることが出来なかった。
―――スッ……
鏡の前でポーズを取り背中や横から露わになった胸に多少の恥ずかしさを覚えながらも、私は一人ファッションショーを楽しんだ。
「―――フェッッックション!!」
鏡の前で長く素肌を見せていたせいか寒気に襲われる。これで風邪を引いてしまっては女騎士隊第五部隊隊長の名折れだ。私はセーターの裾に手をかけた…………
(…………あれ?)
裾にかけた手を上に上げるだけでセーターは脱げる筈なのだが、何故か手が上に上げられない。私は焦りながら何回も服を脱ごうとするが、まるで脱げる気配が……無い!!
(ちょっ……! ヤバいわ!! ヤバすぎるわよコレ!!)
私は慌てて上からいつもの鎧を装備し、近くにある解呪屋へ出向いた。
「…………これは……」
「金なら幾らでも出す! だから解呪を頼む!!」
幾多の戦火をくぐり抜けた眼力で解呪屋の主人に凄むが、主人は眉間にシワを寄せたまま腕組みをして首を捻った。
「今から200年前の魔王、つまり先々代の魔王が所持していたとされる服だねコレは。魔王の魔力を僅かながらに感じるよ」
「―――はぁ!?」
私は解呪屋に轟く程大きな声で反応した。魔王を討伐するのが仕事の私がよりによって魔王の私物を身に付けてしまったと言うのだ!!
「恐らくは……魔王の趣味だね♪ 魔王の呪いだから私には解けましぇん☆」
―――ボゴッ!
「あいだっ!!」
私は主人の頭を思い切り叩いた。
「待った待った! 何もデメリットばかりではなさそうだぞ!?」
「内容次第ではこの店が無くなるぞ? よく考えて話すんだ……!!」
主人は頭を摩りながら少しずつ口を開いた。
「魔王の魔力の中に、装備者を守る仕組みが見て取れるんだ。恐らくは何か有ったときの為の防具としても使えるように作ったんじゃないのかな?」
「どう言う事だ!? 詳しく話せ!!」
私は主人の襟を掴み前後に大きく揺さぶった!!
「待て待て! 頼むから止めてくれ!!」
「お、おう…………」
「まずは全属性耐性が付加されている。各種状態異常にも耐性があるぞ?」
「な!なんとっ!!」
私はこのスケベ心丸出しのセーターにそんな効果が在るようには見えなかったが、解呪屋が言うのだから間違いないのだろう。
「そ、そう言う事なら……まぁ、着てやるか。勿論上に鎧を―――」
「―――あ、この上に素肌を隠すような物を着ると効果が無くなるぞ? パンツやアクセサリー位ならいけそうだがな」
―――ボゴッ!
「何故だ!!!!」
「魔王の趣味までは知らん!! でもそうなんだから仕方ないだろう!!」
―――ドガァァァァン!!!!
「おわっ!?」
「な、何だ!?」
轟音と共に地面が大きく揺れ、外から悲鳴や激しい物音が聞こえ始めた!
慌てて外に出てみると、そこには朽ち果てドロドロに溶けた肉が纏わり付いた骨だけの巨大なドラゴンが街を破壊していた!!
「ちっ!! 術式埋葬したドラゴンが不完全に復活しやがったか!!」
「おい! アレはアシッドドラゴンだろう!? 急いで魔術隊を呼べ!!」
アシッドドラゴンは強烈な酸を吐き出す危険なドラゴンだ。とてもじゃないが女騎士隊で太刀打ち出来る相手では無い!
(しかし……このままでは街の人達が!!)
「急いで魔術隊を頼む!!」
「お前はどうするんだ!?」
私は鎧を脱ぎ捨て道路の片隅に置いた。素肌に例のセーター、そしてパンツ一枚。それで完全装備なのだから魔王にも困ったものだ……
「あるんだろ?」
「……え!?」
「酸耐性だよ!!」
「あ、ああ……」
「私が足止めする!!」
―――ダッ!!
私は例のセーターの羞恥心を気にせずドラゴンへと走り出した! 己の恥より人の命が最優先だ!!
「ゴアァァァァ―――!!」
体の至る所から酸を撒き散らかすアシッドドラゴン!
当然私の方にも酸が飛んでくるが……
(本当に触れても平気とはな―――!!)
私は魔王の私物にやや恐れを覚えながらも、アシッドドラゴンの骨を駆け上がり、喉元目掛けて拳を突き出した!!
―――ズ、ボッッッッ!!
骨の隙間から引き抜いた、ヒビだらけのコア。アシッドドラゴンはたちまち煙を出しながら崩れバラバラになった…………。
「よし! 皆さん怪我はありませんか―――!?」
華麗なる着地を決め、辺りの住人の安否を見渡した…………が、辺りの女子どもは逃げた後。残るは若い男性しかおらず、そして何より視線が私の方へ釘付けになっている…………
「…………あ」
―――バッ!!!!
慌てて両腕で胸を隠す!!
「あ!」
―――バッ!!!!
今度は露わになったままの背中を慌てて片手で隠した!!
「ああ!!」
―――バッ!!!!
更に慌てて胸を隠した手でセーターの裾を下げパンツを隠した!!
「あれ……女騎士様じゃね?」
「もしかして第五部隊の……」
「何であんな格好で……?」
「痴女?」
「結構可愛いじゃん」
「痴女だ……」
「背中見えてんじゃん……」
私に向けられる奇異の目に、私の体や顔が赤くなるのにそう時間は掛からなかった。
「み、見ないで~~~~!!!!」
―――バタッ
―――バタバタッ!
―――バタバタバタッ!
そして何故か私の叫びと共に倒れた男性達。私はその隙に装備を拾い上げ解呪屋に逃げ込んだ!
「……おい、どう言う事だ。キチンと説明しろ!」
ギラリと光る短剣を戻ってきた主人の喉元に突き付け、私は涙目で迫った。
「分かった分かった……! 頼むから暴れないでくれ!!」
主人は諦めたかのようにため息を着き椅子に座り私の方を見た。
「その服にはもう一つ効果があってだな……童貞に対して絶大なダメージを与える事が出来る【童貞キラー】が付与されている!!」
「よし、お前を殺す……!!」
「待てー!!!!」
「何故先に言わなかった!!」
「だって言っても信じてくれないでしょ!?」
「…………まぁな」
私は短剣を置き頭を掻いた。これで先程の事は合点がいく。どうやらさっきの男性達は全員童貞だった様だ。
「…………お前は何故無事なんだ?」
「……へ? そりゃあ……ねぇ?」
ニヤニヤと汚い笑いを浮かべる主人。つまりコイツは童貞じゃないんだな……。
「じゃ、魔王討伐頼んだよ♪」
「―――は?」
「『は?』じゃないよ。魔王は婚姻の儀を済ませるまでは女に手を出してはいけないしきたりだろう? 学校で習わなかったのか?」
「おい! そんな理由で私が行くのか!?」
「あらゆる耐性持ちで【魔王キラー】とも言える絶大な武器を持ちながら、君は他の女騎士隊に魔王討伐をさせるのかい?」
「…………ぐっ!」
「それでも女騎士隊第五部隊隊長なのかい?」
「くっ!……殺せ!!」
「残念! その耐性をぶち抜いて君を殺せる人物はこの国にはおりませーん♪」
「今すぐ殺せぇぇぇぇ!!!!」
女騎士の痛烈な悲鳴は残念ながら魔道隊の事故処理の雑踏に掻き消され、誰の耳にも届くことは無かった…………
読んで頂きましてありがとうございました!!