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38.枢機卿 その二

「あ、ちょっと他のところも見てくる!」


 俺はマリガから逃げるように部屋を飛び出した。

 外に出て、離れた場所の垣根を背に座り込む。はー、と息をついた。


 まったくマリガは、すぐ恋愛にしたがるんだから。

 ルバートは恩義を感じてるだけだっていうの。だから俺の事を好きとかじゃなく、


「愛している……」


 そう、愛してるのだ。……って、なんでやねん!って、え?

 突然聞こえた声に、驚いて見回す。

 背にしている垣根の向こう側に、人の気配がした。


「何故そんなにいているんだ、私達の時間は無限ではないか……」


 あれは、ヴラ枢機卿?話している相手は、誰だ?

 少し離れた場所の街灯から届く光に、今日見た枢機卿の顔がうっすらと照らされていた。

 正面には、彼より小柄な影が浮かんでいる。

 隙間から目を凝らすが、フードを被っている為わからない。体の曲線から、女性だろうけど。


 これって逢い引き、だよね。しかも枢機卿の……。


「……コーネル」


 相手の女性は何も喋らない。そのフードは、微動だにしない。

 枢機卿に顔すら向けていないのかもしれない。


 たまらず、ヴラ様は彼女の両肩を掴んだ。

 フードの女性は、ただ揺すられるままだ。


「また彼女が気になるのか……、どうしてそんなに……」


 ピクリと、女性が反応した様に見えた。

 こちらに、そのフードを向ける。


 ……バレた!

 俺は垣根から目を離し、すぐさま身を低くした。


「誰かいるのかね?」


 警戒を帯びた誰何する声に、俺は諦めて垣根から姿を見せた。

 どうせ逃げても、後姿を見られればすぐにばれる。


「すみません、盗み聞きする気はなかったんです……」

「君は……」


 頭を下げる俺に、ヴラ様は驚いた顔をした。

 いやまあ、逢い引きを学園の生徒に見られたら困るだろうけど。


「でもほとんど聞こえていなかったので、大丈夫です!ほんとに、ここに来てすぐ見つかったので!」


 必死に弁明する。証拠隠滅だとばかりに、僻地送りにされても困る。流石に退学なんて、させられないよね?


「ああ、いや。大丈夫だ、君は何も悪くは無い。ただ、こんな暗い中を一人で歩くのは感心しないな」

「は、はい!すみません」


 どうやら許されそうだったので、ほっとして頭を上げた。

 フードの女性は姿を消していた。……いつの間に。


「彼女はこの町に身を寄せる避難者だよ。相談があると言われてね」


 とてもそんな風には見えなかったが、話を合わせて頷いた。

 ともかく、俺は何も見ていないし聞いていない。

 愛しているなんて、全く聞き覚えありません。


「こんな状況ですし、不安を持つ方が多いですよね」


 俺はあははと笑った。冷や汗をたらしながら。


「君は、……ノイルイー嬢だったね。夜道に気をつけて、もう戻りなさい」

「は、はい。では失礼します」


 俺はお辞儀をし、そこを離れ教会へと戻った。

 背中には、まだ視線を感じていた。





「魔瘴獣が増えただと!?」


 国境に大型の魔瘴獣が出現して四日目、事態は動き出した。

 伝令からの報告によると、大型の魔瘴獣とは別に、小型中型の魔瘴獣が大量に発生したらしい。

 今現在、大型に注意しつつ、他の魔瘴獣の駆除を行っているという。

 数が多く、怪我人も出始めているとの事だった。


 ストル卿はその報告をすぐさま枢機卿へと伝えた。


「小型と中型の魔瘴獣なら、今居る騎士団でなんとかなるでしょう。怪我人を考慮して、医療班の応援を送りましょう」


 ヴラ様の指示の元、町で待機していた神父聖女の幾人かが国境砦へ向かう事になった。

 俺は何だか嫌な予感がした。

 前の時も、学生が送られるような難易度の低い浄化ツアーだったはずだ。

 だが突然大型の魔瘴獣が現れた。


 今回も突然国境砦に出現した。更に小型の魔瘴獣まで沸いて出てきている。

 まだ何か出てくるんじゃないのか。そうだとしたら、今居る騎士団の数で対応できるのか。

 騎士団には、昨夜マリガに言った様に知り合いがいる。


「私も行かせてください。治癒なら多少はできると思います。雑用でも何でもします」


 ストル卿に頼み込む。ここで報告を待っているより、行動に移そうと思った。

 だって俺は、考えることは苦手なのだから。


「私も行きます!……まだ未熟者ですが、聖女の卵として何かできる事もあるかもしれませんし」

「私も治癒は得意な方ですの」


 オーシャとマリガも俺に続いた。直接戦地へと向かうのだというのに、俺は正直驚いた。

 大型魔瘴獣に動きが無い事、小型中型は騎士団で処理できている事もあって、ストル卿はしぶしぶ承諾した。


「ううむ……、では激戦になって危険が及びそうになったら、君達は町へ戻る。いいね?」


 幌馬車は定員オーバーだったので、それぞれ騎士の馬に乗せてもらう事になった。

 三人とも乗馬経験など勿論ないので、座るだけでも落ちそうだ。

 騎士の前に乗せられ、落馬しないよう騎士の背中に手を回す。

 オーシャは真っ赤になりながらも、必死でしがみついた。

 マリガも赤くなりながら、騎士の胸に頬をすりつけていた。……流石だ。

 そんなマリガに優しく微笑みかける騎士も、流石だとしか言い様がなかった。

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