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30.楽しい楽しいピクニック その二

 夕刻になろうとしていた。

 ぽつぽつと星が見え始め、家族連れが帰り支度をしている。


 俺達はどうせなら、噂の池に映る星の光景を見ようという事になった。

 門限はあるので、ぎりぎりになってしまうが。


 リリシュとプラゥ、ローシオンンは夕食を買いに行っている。

 俺が行くと言ったのだが、リリシュとプラゥ二人して反対された。


「こればっかりはまかせられないわ、ねえプラゥ」

「ダメ、ノイルイーは、肉ばっかり」


 どれだけ信用がないのだろう。当ってるけど。


「悪いなローシオン、お二人をしっかり守るんだぞ」

「外の方が危険度は高いし、エヴィこそ任せたよ」


 つまりエヴィの方が強いって事か。まあ、エヴィは年上だし経験も長いのだろう。


 三人を待つ間、俺は池をぼけっと見ていた。

 夜になると星が映り、鉱石が輝くんだっけ。

 まだ陽は落ちはじめで、空は赤く染まっている。


 池の中では沈んだ鉱石が揺らめいている。

 手を入れて浅瀬の石をつついてみる。特に何も起こらない。

 時間によって変化するんだろうか。それとも光がなくなった際に反応するんだろうか。


 パシャパシャと水で手遊びをしていると、エヴィがこちらをじっと見つめている事に気付いた。

 ただその視線は俺を見ているというより、別の何かを見ている様だった。


「何か思い出しでもしているんですか?」


 気になって聞いてみる。

 声をかけると、一瞬珍しく動揺した顔を見せた。


「ああ、失礼。いえ、少し知り合いの事を思い出していただけです」

「私に似てるんですか?」

「いえ、顔とか見た目ではなく、ただ、あの人もよく水に触れるのを好んでいたので……」


 ふ、っと笑う。いつもの作った甘い笑顔でなく、素の微笑みだろう。


「大切な人なんですね、そんな顔してます。故郷に残してきた恋人とかですか?」

「はは、幼くても女性ですねノイルイー嬢。ですが、そんな甘い関係ではないのですよ」


 女性じゃないし!あ、いや体は女の子だけど、心は男だし!


「そ、そうですね。すぐ恋愛に結びつけるのはよくないですね」

「それに私の故郷は、魔瘴と疫病で滅びてしまいもうありませんしね」


 いきなり重い話だった。つついてはいけない重箱の隅に、全力パンチをぶち込んでしまった。

 何でそんな事さらりと言うの……。


「すみません、辛いことを思い出させてしまって……」


 心から謝罪する。

 しかしエヴィは怒る事も悲しむ事もなく、事も無げに言った。


「ああ、気にしないで下さい。自業自得で滅びたんです。それに、そのおかげで私は恩人へと出会えたのですから」


 恍惚とした表情。

 一体どんな凄い人に会ったのだろう。

 エヴィはまた、遠い思い出を見つめていた。



「あ、あれ三人じゃないですか」


 陽もすっかり落ち、辺りを夕闇が包む。そんな中、遠くにランタンの光が三つ、こちらへ向かってくるのが見えた。

 俺の呼びかけに、エヴィが俺の傍らに来た。

 ふわりと、いい香りがたつ。香水だろうか。


「一体何をしていたのやら、随分時間がかかりましたね。ノイルイー嬢を残して、これはお説教ですね」


 エヴィが冗談を口にする。そうやってローシオンをからかうのが楽しそうだ。

 年は確かに違うようだが、そんな事は気にならないほど仲がいいのだろう。


「お二人は付き合い長いのですか?」

「そうですね、騎士団で知り合って三年程ですね。互いにまだ従騎士で、よく共に修練しましたよ」

「じゃあ、第三騎士団に一緒に配属されて良かったですね。また一緒にいれますし」


 エヴィはふふっと笑う。


「流石に男同士で、四六時中一緒なのは困りますね。やはり、貴女のように潤いがないと」


 暗くてわからないが、多分あの甘い笑顔を浮かべているのだろう。


「ははは、相変わらずですね……」


 ランタンの光が近付いてくる。暗いから、足元が心配だ。

 リリシュかプラゥが転びそうになっても、多分ローシオンが助けてくれるとは思うけど。

 ハラハラして見ていると、エヴィに名前を呼ばれ、香水の香りが離れた。

 顔を窺うが、暗くて表情はよくわからない。


「あいつは真面目で真っ直ぐな男です。……ローシオンを頼みます」


 どういう意味なのか。聞き返そうと口を開きかけ、別の声に遮られた。


「ごめんね~遅くなって。二人とも大丈夫だった?」


 リリシュがぎゅっと俺に抱きついた。

 足元に、ガサガサと紙袋の音がする。


「ちょっと遠出して、いいの買ってきた。高級、食べよう」


 プラゥが戻って早々、食事の準備をしていく。

 エヴィもそれの手伝いを始めた。


「あ、うん。おかえり……」


 聞きそびれてしまった。一体エヴィは何を言いたかったんだろう。

 エヴィの横顔は、先程の事はなかったかの様に普段通りだ。


「これ全てローシオン様が買ってくださったのよ。ほら!ノイルイーも食べましょう」


 リリシュに腕を引っ張られ、座らされる。

 聞ける雰囲気ではないし、こちらを向かないエヴィも多分聞かれたくないのだろう。

 俺はローシオンにお礼を言い、肉詰めのパンを頬張った。


「見て、光……!」


 珍しくプラゥが興奮気味に声を出した。

 口に物を詰めながら、俺は池へと目をやる。


 そこには何と幻想的で、美しい水のきらめきがあった。

 空の星が水面に映り、水底の鉱石が淡い光沢を出す。天然のイルミネーションだった。


 リリシュが紅茶を手にうっとりしている。プラゥも食事の手を止めている。

 ちらとエヴィを見ると、ただその光景に見とれる様に目を細めていた。

 ……また今度、機会があったら聞いてみようか。


 俺は今のうちにと、よりたくさんの料理を口へと運んだ。

 さすがお高いお食事。何だかより美味しく感じる。

 そんな俺の卑しい行為は、ローシオンにばっちり見られていた。



「じゃ、急いで帰りましょ」


 後片付けを終え、ランタンで辺りを確認するとリリシュはうん、と頷いた。

 帰りも、騎士二人が荷物を持ってくれた。


 道中、エヴィの言葉を考える。

 頼むとは一体どういう事だろう。

 よくある父親が娘を嫁にやる時のような言葉なのだろうか。

 いやいやいや、それだっておかしいだろう。何で俺に託すんだ。


「ノイルイー、今日、楽しめた?」


 気付くとプラゥが隣に来ていた。

 カンテラに照らされた大きい瞳が、ゆらゆらと揺れている。


「もう、すっごく楽しかったよ。お腹も大満足」


 にっと笑う。

 プラゥは良かった、と満足そうに笑い、リリシュの元へと走っていった。


「いいご友人ですね」


 ローシオンがプラゥの後姿を見つめながら言った。

 本当に、俺にはもったいないくらいにいい友人達だ。


「ローシオン様達もありがとうございました。今日はとても助かりました」


 改めてお礼を言う。荷物持ちに使いっぱしり、結構こき使ってしまった。

 あげくに夕食まで奢らせてしまった。高い飯を。


「いえ、私達もとても楽しめましたし、昼食もご馳走になり、お礼を言うのはこちらの方です」

「そう言ってもらえると助かります。また、良かったらお願いします」

「……ぜひ!」


 嬉しそうに笑うローシオンに、つられて笑う。


「女性にばかり誘わせるのも、どうかと思うぞローシオン」


 そこにエヴィが横槍を入れた。焦るローシオンに、エヴィは意地悪く笑う。


「いいご友人ですね」


 今度は俺がローシオンに言う。


「まったく、酷い友人です」


 ローシオンが苦笑しながら、前を歩くエヴィの背中を見つめた。



 『花冠の館』前で荷物を受け取り、ローシオンとエヴィに再度お礼を言い別れた。

 今日は楽しかったな。それに凄くのんびりできた。外でお昼寝って最高だ。

 色々とあった事が、どうでもよくなった。

 シュルス様の言う、いつかの北の地は気になるけれど。あとエヴィの事も。


 階段を上がりながら、俺は前を行く二人に声をかけた。


「二人とも、今日はありがとう。私のために色々してくれたんだよね」


 騎士団への護衛の依頼も、場所調べも、昼食の用意と夕食の買出しも。

 俺は食べてごろ寝して、また食べていただけだ。


「何言ってるの、私だって楽しかったんだから。騎士様を伴っての外出、素敵だったわ」

「私も、二人とお出かけ、楽しかった。本も、いつもより、読むの楽しかった」


 思わず俺は後ろから二人に抱きつく。


「じゃあ、またどこか行こうね」


 リリシュとプラゥは、笑顔で頷いてくれた。

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