20.大聖堂と騎士団宿舎 その一
大聖堂は、なんと言っていいか、壮観だった。
ゴシック建築だったか、それに似た壮大で華美ではないが美しい。
海外旅行とかした事ないけど、西洋の有名な教会もこんな感じなのかな。
俺はおのぼりさんの様に口をあんぐりとあけ、建物を見上げていた。
は!いけないいけない。ライアールを探さなくては。
正面の階段上って大扉から入っていいのだろうか。
それとも脇に事務用か何かの専用口でもあるのだろうか。
とりあえず外周を歩いてみる。
大聖堂のそこかしこには、警備をしているであろう騎士達がいた。
学園の敷地でみる騎士達と違って、精悍な顔つきをしている。
にこりともしない顔が怖いけど、あの騎士に聞いてみようか。
いや、あの傍ででかい荷物運んでる人にしよう。年も近そうだし。
「あの、すみません。聞きたいことがあるのですが」
「わ、わあ!」
急に後ろから声をかけたからか、少年は驚いて荷物を落とした。
ガチャガチャと金属質の何かがぶつかり合う音が鳴り響く。
「ああー、すみません!手伝います!」
慌てて少年が顔を青くしながら必死に拾うそれを、俺もかき集めて手に取った。
楕円の半分の形をした、何やら見た事のない物だった。
二人で拾い、ようやく全部箱に収まったのを確認して、少年が初めて俺の顔を見た。
途端に真っ赤になった。大丈夫かこの子。
「あ、あ、な、何でしょうか……」
斜め下に顔を背け、小さな声で言った。
「すみません、驚かすつもりはなかったんですけど。ここにライアールっていう騎士の方いるかわかりますか?」
そう言うと、少年は視線を俺に戻ししばらく見つめてきた。
しかし不躾だと思ったのか、また慌てて顔を背けた。
「失礼しました……!あの、ライアール様と、お知り合いですか?違うなら、会えないと思います」
「一応、知り合いと言っていいのかな……。名前は多分、向こうも知ってるとは思うのですけど。ノイルイーと言います」
前に名前聞かれたし。
覚えてなかったら、どうしてくれよう。
「あの、少しお待ちいただけますか。確認してきます」
そう言い残して少年は荷物をガッチャガッチャと運びながら走って行ってしまった。
一緒に連れて行ってくれればいいのに。
あれか、ライアールってモテるから、押しかけ女子の一人と思われたのかな。
少し待つと、また先程の少年が走って戻って来てくれた。
「何度も走らせてすみません」
「いえ、これぐらい平気です。鍛えてますから。案内しますので、こちらに」
そうして俺は少年に着いて、騎士団の宿舎へと向かった。
宿舎はとても広くでかく、一階は来客用のソファとテーブルが設置されていた。
奥に扉があり、そこは隊長の執務室や書類仕事の部屋があるらしい。
こんな仰々しいのでなく、もっと気軽な訪問がいいんだけど……。
高級そうなシックなソファに座らされ、萎縮してしまう。
少年は頭を下げると、出て行ってしまった。
しばらくソファで待っていたが、誰も姿を見せないので窓辺へと寄ってみた。
少し離れた場所で、先程の金属を箱から出して拭いている少年が目に入った。
もしかして、あれは俺のせいで再度磨くはめになったのでは。
俺は応接間を出ると、少年の元へと向かった。
後ろから手を伸ばし、積まれている布巾に手袋と金属を手に取る。
「わっ!……え、ええ!?どうしたんですか?」
少年は当たり前だが驚いて、慌てていた。
「いえ、誰も来ないし暇なので待ってる間だけでもお手伝いしようかと。これ、私のせいですよね」
「そんな事ありません!僕がもっと気を引き締めていたらよかっただけの話です」
俺の手から布と金属を取ろうとする。しかし、それをさっとかわした。
彼は困った顔で、途方にくれている。
「あ、もしかして女は触っちゃいけないとかあったりします?」
「いえ、そんな事はないですが……」
「じゃあいいですよね。私の暇つぶしに付き合うと言う事で」
困り顔はそのままに、少年は俺の手から道具を奪う事を諦めたようだ。
「それだけ、それだけですからね」
それに返事はせず、俺は少年の拭き方を参考にしながら同じ様に金属を拭いていった。
「これって何ですか?変な形の金属ですね」
「これは拍車です。馬に走れって合図送るときに蹴るんですけど、踵の部分につけてそれを補助する……」
「なるほど、でも痛そう」
「そうですね、大きい馬だったり中々動いてくれない重い馬には便利なのですが。でも今はほぼ使われていません」
「じゃあこれ、古いやつなんですか」
「はい、こうしてたまに拭かないと埃とか汚れがたまって、それにカビがついたりしちゃうので」
「処分しちゃ駄目なんですか?」
「昔は、騎士の叙任と一緒に授けられた物だったので……」
捨てるに捨てられないのか。
俺は少年が止めるのをかわし、拭けるだけ拍車を拭いて行った。
そろそろ拍車磨きも終わりそうな頃、頭上から不機嫌な声が降ってきた。
「いないから探しに来てやったら、お前何してるんだ」
今日も絶好調に態度の悪いライアールだった。
横にいた少年は飛び上がらんばかりに驚いて、起立した。
「お、お疲れ様です副団長!副団長のお客人に失礼な事を、申し訳ありません!」
「いやいや、私が断られても無理やり勝手にした事だから」
少年は胸に手を当て深々と頭を下げる。
ライアールは手の甲で少年の肩を横から叩くと、
「わかっているから気にするな。こいつは少々頭がおかしいんだ」
な、なんだと!
少年はそれにどう答えていいのか困った様な顔をし、再度頭を下げた。
「あ、何かご入用はありますか?」
「いや、いい。その作業を続けていろ」
「はい」
「行くぞ」
俺は少年にお礼を言って、さっさと歩き出したライアールを追いかけた。
事が事だけに、人がいない場所がいいんだけど。
「今日伺ったのは、内密にお話したい事があってですね」
「また何かやらかしたのか」
「……ぐ」
「まあ、報告に来るだけでも進歩したか」
俺がやらかしたわけじゃないのに。
ライアールは先程の宿舎に入ると、奥の扉に向かい事務仕事をしているであろう人達の横を通り抜け、更に奥の部屋へと入った。
事務仕事をしている人達は少し興味深そうにこちらをちらりと見たが、すぐに己の職務に戻った。
入った部屋は大きなデスクが鎮座していた。後ろの壁には高そうな武器やら盾やらが飾られていた。
横の壁にはまた扉があった。
「ここって……」
「団長の執務室だ。ああ、今はいないから気にするな」
「勝手にいいんですか……」
「ここは魔道具で防音が聞いてるんだ。盗聴も妨害される。だがここででかい声で騒げば普通に、扉の向こうの事務連中には聞こえるがな」
「……そうですか」
促され、俺がでかいデスクの前にあるソファに座るとライアールは団長のデスクに背をもたれ腕を組んだ。
視線を向けられ、さあ話せと促される。
だが俺はしばらく何も言えずにいた。
「……おい、いつまでそうしてるつもりだ。話があるんじゃなかったのか」
「切羽詰って来たのはいいのですが、よくよく考えたらライアール様の事信じていいのかなって、素に戻りまして」
「本人目の前にして堂々と言う事か」
「そうなんですけど~……」
「俺が信じろって言ったら、お前は信じるのか?」
それはないだろう。逆に怪しんでしまいそうだ。
でも言いあぐねる俺に、「心配ない、秘密は守る。俺を信じろ!」なんて陳腐に言ってこないだけ信じていいかもしれないな。
俺は両手をぎゅっと握ると、ライアールへと顔を上げた。
「もし私が、魔瘴をペットにしてるって言ったら、どうします?秘密にして下さいってお願いしたいのですが」
「……は?」
ライアールは俺がとうとう狂ったかとでもいう様な顔をしていた。
俺はそれに若干腹が立ちながらも、できるだけ取り澄ました様に続けた。
「魔瘴はもう森へ返します。なので、許して頂けませんか」
「いや、返すなよ。浄化しないと駄目だろう……」
「で、どうなんです?」
ツッコミは無視して、ライアールをじっと見つめその返事を待った。
ライアールは俺の意図を考えているのか、しかし結局ため息を吐くと肩を竦めた。
「くだらないな、返すと言うならそれでいい、いや、返すと言うなら俺も同伴させて貰うぞ。さすがに対処をしなきゃならんからな」
「じゃあ、教会のえらい人達に報告とかはしないでいてくれるんですか」
「いちいちそんなくだらない事を言ってられるか。それに、教会たって全部が正しいわけじゃない。お前も聖女になるなら、ちゃんとそのぼけた頭で考えろ」
頭おかしいとかぼけとか、未来の聖女に言いたい放題のその口もちゃんとしてほしいものである。
だが何となく、やっぱりこの男は大丈夫そうな気がした。
長い付き合いでもないと実際はわからないんだろうけど、そこはもう覚悟して打って出るしかない。
神殿騎士に身を置きながら、教会を正しいと思い込むなと忠告してくれるなんてばれたらやばそうな事だし。
「決めました、ちゃんと言います。さっきのは作り話ですからご心配なく」
無言で頭を拳で挟まれてぐりぐりされた。痛い!痛い!
あれ、扱いがちょっとどんどんぞんざいになってきてません?




