表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀色ふうろ  作者: みみつきうさぎ
3/14

第一楽章(二)

◆ 登 場 人 物 ◆


フウロ・サク・アサマ     

 エルネストの孫 明るく優しい少女であるが、『南の帝国』による細菌兵器の後遺症により、短命を医者から宣告されている 姉のライクと希望がかなうという伝説の『黄金の泉』をさがす旅に出る


ライク・R・アサマ      

 エルネストの養女、ふうろを実の妹のように愛している 『南の帝国』による侵攻時にエルネストの開発した次世代オートメタビースト『シルバー』をヴォーカンソン重工業社より強奪する


エルネスト・サク・アサマ   

 元ヴォーカンソン重工業社技術開発部門総責任者 息子夫婦を『南の帝国』との戦争で失った怒りと悲しみを人型兵器『オートメタビースト』シリーズの開発に注ぐ


レイブン・ベルフラワー    

 『北の楽園』軍第三特務部隊所属 エルネストの監視役であったが,養女のライクに次第に恋心をつのらせる


ペイバック・K・オーガスト  

 元ヴォーカンソン重工業社技術開発部門職員


ロジオン・ヴァーベナ     

『北の楽園』軍第一特務部隊所属 レイブンの古くからの友人


リリー・ヴァレー       

 アサマ家の隣に越してきた少女 『北の楽園』高官の娘でフウロの友達


ウォリー・ヴァレー

 政府高官であったが、病気の娘を救うために情報を『南の帝国』へ流す


オルミガ・ダンデリオン

 オートメタビーストのパイロット 後にベルフラワー隊に所属する


エリック・ダチュラ

 オートメタビーストのパイロット 後にベルフラワー隊に所属する



 マスコミは、南方より『南の帝国』軍が突然に大規模な第五次侵攻をはじめたことがトップニュースで報じている。

帝国軍の戦闘車両部隊が既に国境を越えたという情報を含め、楽園内は蜂の巣をつついたような騒ぎとなっていた。

しかし、ウォリー補佐官の家族がこの世界から消えたことが報道されることはない。周囲の者も犯行が軍か警察の関係者によるものだとわかってはいたが、それを追求する聖者は、この楽園内にいるはずもなかった。

 毎日のように一人で訪れていたレイブンも、あの忌まわしい事件があってからエルネスト家に姿を見せていない。

三日朝、彼の代わりの来訪者は家族の逮捕状をもった三名の警察官であった。

 この捜査はウォリー補佐官による情報流出事件にエルネストがかかわっているかもしれないという、委員会の方針によるものであった。仮に証拠がなくともこの戦時下、委員会にとっては監禁という直接支配下の状態に『オートメタビースト』開発の中心人物のエルネストをおくことができる思惑もある。



「誰かいないのか」

 呼び鈴を押したが、誰も出てくる気配はない。

 いらいらした口調で扉に一番近い警察官が怒鳴った。

誰も屋敷を出入りした様子がないという軍監視員からの報告を彼らは既に受けている。この屋敷にエルネストら三人がいることはまず疑いようがなかった。

 扉に鍵がかかってないことを確かめた警察官の男は、勢いをつけて部屋の中に踏み込んだ。

 応接室にはいつものように普段着姿のエルネストが座って外を眺めていた。

「エルネスト・サク・アサマだな、ウォリー・ヴァレー元補佐官機密情報流出の件でご同行願いたい」

「お前たちに何も話すことはない」

「その話は時間をかけてゆっくり聞かせてもらう」

「うむ、こちらもゆっくり時間をかけて接待させてもらう」

「!」

 家具の陰に潜んでいたダークブラウンのレザースーツを着たライクが、一瞬の間に三人の首筋にスタンガンをあててその場に昏倒させた。

「本当にこれで良いのですか」

「ああ、少なくとも兵器情報の流出はこれで止められる、自白剤などはこの年になるとごめんだ」

「では、お爺様……お別れです」

 口元を引き締めていても涙が止まらないライク・ロイドであった。

「うむ、涙か……お前にそのようなことを教えることができた私も嬉しい、フウロを頼むぞ」

「はい……シルバーも破壊、強奪される前に必ず救い出します」

「絶望の中であるからこそ希望はより輝きを増す……あれは、人類の明日のために必要な存在なのだ……お前の兄弟によろしくな」

 椅子から立ち上がったエルネストは力強くライクの両の手を包み込むように握ったあと、優しく彼女の背中を押した。


一面工作機械がうず高く積まれた暗いガレージの奥には、卵形の側車を付けた大型バイクが主の訪れるのを待ちながら駐まっている。小さな小窓から差し込む太陽の光がガレージ内に漂う埃を粉雪のように照らし出すのを、側車の席に座るフウロは黙って見ていた。

「ライク、遅いなぁ」

ヘルメットをかぶった自分の頭を、胸の前に抱えた桃色のリュックに押し付けながらフウロはぼんやりとつぶやいた。

昨日はとても退屈な日であった。午後ライクから教わる勉強を終えた後も、大好きなリリーは遊びに来ない。朝に聞こえたサイレンは近くの家で泥棒が入ったせいだとエルネストから直接聞いたものの、そのことについてライクは一度も口にしないし、気にする素振りも見せていない。

ただ、今日は朝から明らかに違っていた。ライクと二人で旅行に行くことになったと急に聞かされ、すぐに旅支度をするよう命じられた。

 あまり外の世界に出たことがないフウロにとって旅行はとても嬉しいことだが、エルネストが仕事の関係で行けなくなったと聞いて、その飛ぶような気持ちも風船がしぼむように収縮した。

「あっ、やっと来たぁ、わっ、ライクかっこいい!」

 日頃目にしているセーターやブラウス姿ではなく、栗色の髪を巻き上げ、ヘルメットを抱えるライクはしなやかな豹のように見えた。

「さぁ、シートベルトは大丈夫?これからちょっとジェットコースターみたいになりますよ、あら、ヘルメットの紐、自分でゆるめちゃったのね?」

 あご紐をライクに直されながら、フウロは太陽のように瞳を輝かせて喜んだ。

「ジェットコースター!あの、バーチャル遊園地の?私、だぁい好き!」

「バーチャルじゃなくて、本物です、もし、気持ち悪くなったら、ここのパネルを押すか、私に教えてね、すぐにお休みモードにして正面の防護シャッターを下ろします、それでも、ちょっと揺れてしまうかもしれません」

「お休みモード?眠っちゃうってことでしょ?景色見えないと面白くないよぉ、大丈夫、楽しみ!」

「フウロは強い子ですね」

「えへへ、あっ、お爺ちゃんは?」

「まだ、お客様の対応をしています」

「見送ってくれないのかなぁ」

「これからはいつも一緒です」

「いつも一緒?どういうこと?」

「準備はいいですか?」

 ライクはリモコンを操作し、側車の左右と上部に金属製のシャッターを下ろした。ただ、正面だけはフウロの為に強化ガラスでできた風防を下ろすだけにとどめた。

 バイクにまたがりセルスイッチを押すと、旧世代のエンジンシステムとは違い、金属製の始動音がガレージ全体に反響した。

 ガレージのシャッターが自動で上の格納部に引き込まれていくと、外の光がフウロの新たな目覚めを促すように全てかたまりになって飛び込んできた。

「わぁ!」

「行きます」

「うん!」

 ライクはアクセルスロットルを徐々に開き、左足のつま先でギアをローに落とした。


 門前でエルネスト家族の連行を待つ警察車両内の警官は、上空を飛ぶトンボのような形状と透明な羽を持った巨大生物が空を自在に高速で舞っているのを怯えた様子で見ていた。

「ハンターがこんなに集まってきてやがる……また、南のミサイルでも飛んでくんのかな、しかし、じじぃとガキとっ捕まえるのにいったい何分かかっていやがるんだ」


 不思議なこの浮遊生物は、この地に太古から大量にいることは知られているが、詳しい生態は一切わかってはいない。普段はおとなしく地上にいる人や動物を襲うことはないが、空中を飛行するものに対しては非常に敏感で、航空機などが近付くと取り付き、自分の体内で化学反応を生じさせ、自身ごと爆発させてしまう習性をもっている。

 それがどのような速さをもつ弾道ミサイルでも全て高々度で破壊させられてしまうことから、低空域とは別に同様の習性をもった生物がいると考えられている。

 その生物が『北の楽園』首都郊外の空を埋め尽くさんばかりに、今、この世界の空に君臨している。

 エンジン音のたつ屋敷の方向を何気に見た警官は、呆けたような表情を浮かべた。

「!」

 鉄柵を越え飛び出して来た側車付きのバイクが、後輪をドリフトさせながら車両の前を猛スピードで駆け抜けていった。

「緊急だ!今、エルネストの屋敷から一台の大型バイクに乗った人物が逃走!至急応援を要請する!」

 すぐに赤灯を回し、警察車両はバイクの後を追っていくが、車間距離はみるみると離されていく。

「ライク!ジェットコースターよりすごいね!」

「そんなものじゃありません、揺れますか?」

「ううん、ほとんど揺れないよ」

「その側車は、お爺様の特製品、もっとスピードを上げます」

「ふわぁー」

 クラクションの波と逃げ惑う人々の怒号が交錯している。

 首都から避難しようとしている車で渋滞した車線を横目に、ライクと興奮するフウロが乗るバイクは、ガソリン車とは異なるエキゾーストノートをさらに高らかにビル街の中をこだまさせていった。

 雑然とする中、キュルキュルと空気を引き裂く危険な音が近付く。

(砲撃、まさか、こんな近くまで来ているのか)

身体を伏せながら運転するライク・ロイドの通り過ぎていった近くのビルの五階部分が吹き飛び、ガラスやコンクリートの破片が動けない車の上に落ちていく。

弾頭を追った数匹のハンターが巨大な身体ごとビルにぶつかり、残った高層階を吹き飛ばした。

フロントガラスが割れ、ボンネットがひしゃげた車、そして、運転席に伏す血だらけの男とぴくりとも動かない家族の姿。ガラスの散乱する道路を腰が抜け這って逃げる女性。

今回の戦争があまりにも電撃的な侵攻であることを、人々は恐怖と共に知らしむこととなった。

(八)


 『北の楽園』軍統合本部は、未曾有の混乱状態に陥っていた。

 内部システムのウィルスによる破壊、間隙を縫った敵国の最新兵器、浮遊生物を利用したダミーミサイルによる都市攻撃などまさに四面楚歌であった。

「東部方面、全方位レーダーの復旧完了」

「帝国軍突撃隊、首都防衛線を突破、第二十五歩兵部隊を増援に」

「帝国軍の目標は東部工業地帯と予想されます!」

 軍の上層部は内通者がこれ程まで、自軍の中に深く潜んでいようとは考えてもいなかった。

 パンドラの箱を開いたと同時に飛び出した災厄が、まさに全てこの街に襲いかかってきているような状況であった。


 作戦司令室モニターには、戦車の側面に六本の脚が付いた南の帝国軍突撃型戦闘車両が短い砲塔から炎を上げている様子が映し出されていた。

 その兵器は砲塔を全方位に回転させながら、北の楽園軍の戦闘車両を難無く潰していった。

赤い帯を連ねながら楽園軍の機関砲は弾道を空中に描く。しかし、厚い装甲と高い機動力をもつ突撃型戦闘車両は楽園軍の兵士もろとも軽々と粉砕した。

 レーダーシステムが復旧しつくしていない状態がこんなにもろいものであったのかと、北の楽園軍の兵たちは歯噛みした。


 レイブン曹長は自らの特務隊を率い、砲音が遠くから聞こえてくる中、南と関係した疑いのある職員及び兵士、将校の身分問わず家族の身柄について首都警察との共同のもと拘束任務を遂行している。

 中には軽い抵抗を見せる者もいたが、ほとんどの者は自分がなぜ拘束されるか、わからないまま連行されていった。

 彼は立ちのぼる砲煙を眺めながら、自分がこの侵攻の迎撃任務につけず、大国の誇りと面子の為、罪があるのかどうかわからないまま、任務を行っていることを後悔している。

(彼らが本当にテロリストだったのかどうかは、君にもわからないはずだ)

 エルネスト博士が以前発したその一言が、胸のうちのどこかでずっと引っかかっていた。

 一昨日の報告の後、エルネスト家の監視任務は急遽中止の命を受けている。

 レイブンは、ライク・ロイドやあのいたいけなフウロも目の前で手錠を付けられ連行されていく彼らのようになっているのではないかと心配した。

「レイブン曹長、このエリアの内通者、拘束及び護送終了しました」

「内通の疑惑のある者だ、特務本部からの指令を待つ、各員、自車両で待機」

 若い兵士は、レイブンの返事に戸惑いを軽く見せたが、敬礼をし、すぐに自分の車両に走っていった。

「この音……?」

 懐かしくも心のどこかで否定していた金属音が、急に彼の背後に迫ってきた。

 黒く巨大な人型の機械が北部都市から首都に向かう幹線道路を滑りながら、レイブンらの軍用車両の横を次々とかすめていった。

「オートメタビースト……いよいよ実戦投入か……」

 それぞれライフルを手にする奇抜な兵器群は、立ち往生した車両を吹き飛ばしながら、首都中心部へと高速移動を続けている。

「くそっ……」

 軍帽を通過風に飛ばされた彼は、強さと美しさを兼ね備えた兵器を地べたから見送るしかできない自分を干上がる池に取り残された無様な蛙のように感じていた。



(九)


(お爺様の言った通り……南は既に兵器工場の存在を掴んでいる)

 ライク・ロイドの運転する側車付きのバイクは、車両の波をすり抜け、時には歩道に乗り上げながら、砲火の集中する地点へ進んでいく。

 ビルの谷間の交差点にさしかかろうとした時、数台の人の乗った車が炎を上げ、空中に空高く飛ばされていくのが見えた。

「!」

 後輪のタイヤからブレーキ摩擦による煙をもうもうと放出させつつ、ライクはハンドルを左に大きく切り、すぐに建物と建物の間の細い路地へと自分のバイクを飛び込ませた。

 横滑りしながら道路上のあらゆる物を巻き上げる帝国軍の突撃型戦闘車両が、交差点内に現れた。わずか数秒の間に生命体として感知した物体に対し、次々と機銃と砲撃による殺戮をはじめた。首都環状線を支えるコンクリート製の柱が軒並み崩れ、辺りのビルの窓ガラスは風圧によって、全て粉々になって割れ、負傷した人々の身体に突き刺さっていった。

 ライクの走り去っていこうとするバイクの音に、戦闘型車両に積まれたAI(人工知能)が気付いた。

 ライクはバイクのダミータンクから小型のハンドランチャーを取り出し、左手に構え、追ってくる突撃型戦闘車両の脚間接部にその照準を合わせた。本体からロックオンのビープ音が鳴ると同時に、彼女は引き金をおもむろに引いた。

 白い航跡を引き突撃型車両の右脚部に直撃した弾丸は、車体のコントロールを失わせ、商業施設の入った建物に半身をめりこませた。

 ランチャーを投げ捨てたライクは、クラッチを切ってギアを落とし、さらに自分の乗るバイクを加速させた。

 手当たり次第に放たれた戦闘車両の砲弾が辺りの建物を崩していく中、がれきで狭くなった道を左、右と避けながら、ライクはナビの示す目的地へとひたすら進んでいく。

 巣からいぶりだされた虫けらのようにふらふらと建物から出てきた人間へ、戦闘車両の無慈悲な攻撃が止むことがなかった。

 工場地帯のコンビナートや発電所は、もうその機能を全て止め、蹂躙された証の黒い煙を吐き出すのみであった。

「ハンター!」

 鏑矢のような音を立てるミサイルにしがみついたまま、巨大な昆虫は右前方の地表で自爆した。強烈な爆風にライクのバイクは側車側を大きく煽られた。

「フウロ、大丈夫ですか!」

「人が、人がいっぱい道路の上で死んでるよ……どうして、どうしてなの?何で助けてあげないの?」

「今、行ったらフウロもやられます……」

「助けてあげようよ、だって!」

「わかっています……」

 フウロの震えた声が、ライクのヘルメットのスピーカーを通して聞こえてきた。

「フウロ、今、あなたを死なせる訳にはいかないの」

 煙でかすむ前方に炎に包まれたヴォーカンソン重工業社の工場群が見えてきた。

 普段は厳重な警備が行われている正門であったが、ハンターの自爆攻撃で、その残骸すら確認することは難しい状況に陥っていた。壊れた車両や焦げたマネキン人形のように倒れている死者は目にしたが、生きている人間を誰一人まだ見かけていない。社員は頑丈な地下シェルターに避難しているに違いないとロイドは判断した。

 ライクの頭上を直線上に飛ぶ砲弾が工場の外壁に着弾した。

(くっ!)

 ライクは煙で視界が失われているのもいとわず、ナビで赤く示された建物めがけ右手のアクセルを回しバイクのスピードを一段と上げた。

 正面に周囲の建造物と比較すると一際小さい二階建ての建物が見えた。増加してくる南の砲撃は大きな工場に集中している。

「フウロ、乗り換えです、自分のリュックを忘れないで」

 バイクのタイヤは甲高いブレーキ音を従え、アスファルトに黒い線を引き、停止線をオーバーした地表に張られた芝を深く削り取った。

 建物の陰にバイクを付けるとライクは自分のヘルメットを投げ捨て、側車横に付いたパネルを作動させ側車の窓を開けた。

側車の中にきつい煙の臭いが広がり、フウロはむせて息をすることが困難になった。ライクは側車内の足下から小さなボンベを取り出し、フウロの口に押し当てた。

「息はできる?」

「う……うん、死んじゃうの……私も……?」

「絶対に死なせない、これからの旅はフウロの生きる旅だから、さっ、私の背に乗って」

 フウロのシートベルトをはずしたライクは、飛ばされてくる破片に気を付けながらフウロを座席から持ち上げて背負った。そして座席の背もたれの後ろから旧世代のリボルバー型に似た拳銃と弾薬の入ったケース付きベルトを取り出し、自分の腰に自動装着させた。

「ここはどこ?」

「お爺様の働いていた所……もう一人の家族を迎えにきたの」

「家族?」

「もうすぐ会えます……」

一般住宅の玄関ほどしかない小さい扉の横に立ち、高度認証型のセキュリティ装置の前で、ライクは一度自分の右目に当てた手を認証カメラの前に突き出した。

 ロックの外れる大きな音がし、玄関の扉が二人を招き入れるように横に開いた。フウロを背負ったライクが入るとすぐに扉が閉じ、外の音が遮断された。

 目の前には地下へと続く急な階段が赤い非常灯の明かりに照らされている。

「階段があるね……」

「そこを今おりてはだめ、閉じ込められてしまうかもしれないから」

フウロを背から下ろしたライクはその階段を下りず、ルームライトを見て電気が通じているのを確かめると、何もないただの白い壁に近付き、自分の顔の高さほどの場所に人差し指で文字を書いた。

 白い壁が緑色に発光し、壁全体が二階の方向にスライドを始めた。現れたのは一基のエレベーターであった。反対に階段があった所は金属製の床へと変わっていた。

 二人はエレベーターの中に足を踏み入れた。操作パネルには上昇と下降を表す二つの三角マークが点滅している。ライクが下降を示す箇所を触ると静かに扉が閉まり、地下に降下を始めた。

「フウロ、大きい音がするかもしれないから、自分の手で耳をおさえていてね、この陰でしゃがんでいて、ゆっくり百数えたら目を開けてもいいから……私を信じて」

「うん……ライクの言うことなら全部信じるよ」

 ライクは、言われたとおり素直にヘルメットの耳部にある集音マイクを押さえたフウロを、扉横のパネルの陰に移動させその場でしゃがませた。横に寄り添うように立つライクは、ベルトのホルダーから拳銃を抜き、安全装置を解除させ、再びホルダーに戻した。

 五階分ほど下ると、チャイムが鳴り、扉が静かに開いた。

 金属音が薄暗い地下空間に響く。

目の前に警備員が五人、ライクを睨み自動小銃を構えて立っていた。

「貴様の所属は?ここの職員か?」

 ライクは扉を閉めるパネルを触り、エレベーター内からゆっくり歩み出た。エレベーターの扉は後ろでするすると閉じていく。

 部屋のいたる所に、射殺された職員の遺体が無造作に置き捨てられているのが見えた。

「あなたたちこそ、この非常時になぜこんな場所にいるの……職員は全員、避難用シェルターに入っていると思ったのに……それともご同胞のお迎えを待っていたのかしら?」

「何!」

 真をついたライクの言葉に男たちは自動小銃の引き金に指をかけた。閃光の中を跳弾が飛び交う。

 音が止んだ時、四人の男たちの頭はライクの銃弾によって砕かれ、一人は右肩を撃ち抜かれていた。痛みに耐えかね床で転げ回る男の左腕をライクは踏み、自分の拳銃を男の顔の真ん中に突きつけた。

「あなたたちは罪のないここの職員を全員殺したの?……なぜ、そのようなことを……」

「ふふふ……何も言わんぞ……殺すなら殺せ……」

「仕方ない、あなたがそう言うのならば、そうさせてもらいます」

 躊躇ないライクの放った一発の弾丸は男の動きを止めた。

ライクはエレベーターの操作パネルに触れ、閉じられていた扉を開けた。そしてしゃがむフウロを優しく立ち上がらせ、耳を押さえていた両手を静かに下げた。

「まだ、九十二しか数えてないよ」

「ちょっとおしいですね、まだ、目はつぶっていて、さ、またおぶさりなさい」

 職員は抵抗する暇もなく、殺されたのだろう、どの顔も皆恐怖にゆがんでいた。壁には血しぶきの痕跡、床にはかたまりかけた血だまりができている中を、目をつぶるフウロを背にライクは進んでいった。

(何か変な臭い……)

 たまらず薄目を開けたフウロは、赤黒い肉塊が壁に付いているのを見た。ただ、それが今のフウロには何であるかはわからない。非常灯の明かりに映る走るライクと背負われた自分の影だけを黙って見つめていた。



(十)


 レイブン・ベルフラワーの乗る軍用車両に統合本部からの情報が途切れることなく続く。

「イーストサイド三十一番街に、突撃型戦闘車両二機確認、同じくイーストサイド百十七番街に同型三機確認、同じくイースト……」

(レーダー網がこのように早く復旧しなかったら、首都はもう陥落していたかもしれない、軍にどれだけの鼠が入り込んでいたのか……)

内部からの反乱はこれまで全く予期していないことであり、当然、このままでは、その失態の責任を諜報部や特務部に押し付けられることは目に見えていた。

(ゆがみが広がっている……)

レイブンは『北の楽園』委員会による専制政治の行く末に一抹の不安を感じた。

「レイブン曹長、首都警察特別情報部より入電です」

「回せ」

 助手席の兵士が、後部座席に座るレイブンの前に据えられた液晶モニターに回線をつなげた。インカムを付けた制服姿の男の声は上ずっている。

「四十三分前、情報流出事件にかかわるエルネストの養女が孫を連れ逃走しました」

「何!」

「エルネストの屋敷は化学物質により爆発炎上している状態が続いています、逮捕に向かった本署員三名とエルネストの安否は不明」

「ライク……いや、養女の追跡はしているのか?」

「東部工業地帯方面に向かっているとのことですが、帝国の攻撃によって……我々の今の組織と装備では刃が立ちません」

「わかった、我々、軍特務部も捜索に協力するよう、すぐ上に連絡をつける」

 通信を終えたレイブンは、すぐにライク・ロイドの身柄の追跡を統合本部に報告し終えた後、自分の隊へ早急に命令を下した。

(なぜ、逃げたんだ……君とフウロだけなら、うまくとり計らうことができたかもしれないのに)

 揺れる車両の中、彼はわざわざ攻撃の激しい東部方面へライクが向かおうとする理由について思案した。

(ヴォーカンソン重工業社……博士がいるのなら兵器強奪も考えられるが、まさか、彼女にそのようなことができるはずもない、混乱に乗じてどこかの隠れ家にでも潜むつもりか……)

 しかし、楽園の民衆への監視体制は鉄壁を誇っていると常に喧伝されている。

(これだけ内通者が多い今では、それも下卑た冗談のようなものだ)

「曹長、このまま行くとイーストサイドに入ることになりますが……情報ではまだ南の戦闘車両が多数、攻撃を続けています」

 助手席に座る兵士が不安そうに後ろを振り向いた。

「だから?」

「あっ、いえ……」

 兵士はつい出てしまった自分の言葉を恥じ、再び前を向いた。

「言葉がきつかったか、正直、私にだって不安な要素もある、しかし、見ろ、この民衆の逃げ惑う姿を……軍籍の端を汚している私たちが放っておく訳にはいかないだろう?」

 荷物を背に郊外へと逃げる親子の姿が窓の外を行き過ぎる。

「曹長、失礼しました!エルネスト関係者の追跡を行います」

レイブンの優しく正直な言葉は、車両にいる全ての若い兵士の心に勇気を奮い立たせた。


運命の皮肉と言って良いだろう。

東部工業地帯周辺では、エルネストが開発した新型兵器オートメタビーストと帝国軍の突撃型戦闘車両が初めて砲火を交えようとしていた。

既に、首都から一番南に位置する都市『ビアンカ』が陥落したと伝えられている。

 機動力に劣る旧式の楽園の戦闘車両は、ただ一方的に破壊され、残骸に隠れながら戦う兵士達は絶望の淵に立たされていた。

 人工知能に制御された機銃が火を止めることはなく、与えられた楽園の民が発する生体反応に対する殺戮のプログラムを粛々とこなしていた。

 誰もが反撃を断念しようとした時、突撃型先頭車両の厚い装甲にいくつもの大きな穴が衝撃音と共に開いた。

 機銃の音が止み、砲口が小刻みに震えた瞬間、車両内部から装甲を膨張させながら突撃型戦闘車両は大音響を上げ爆発した。

「ターゲットアルファ撃破、ビースト二番機、三番機、四番機はそれぞれ、セントラルキボウからイーストサイドに展開するベータ、ガンマ、イプシロンを撃破されたし」

「了解した」

「右、低空にミサイル接近、ハンター付きだ」

「俺が獲らせてもらう」

「任せた」

 ライフルの筒先が光った時、ミサイル全弾は浮遊生物ごと空中で破壊されていた。

 大型ライフルを構えたまま四機の黒いオートメタビーストが、硝煙を後方に長く引きずりながら、次の目標へと向かっていく。

 それはほんの数秒間の出来事であった。すぐ目の前まで言い寄ってきた「死」を覚悟していた兵士や民衆にとって、突然姿を現した黒い巨人はまさに天から舞い降りた救世主であった。誰彼ともなくあげる喜びの声が廃墟となったビル群にこだました。

 異質な敵の襲来を捕捉した帝国軍の車両は、分散していた攻撃地点から最終目標となるヴォーカンソン重工業社へ集結するため、移動速度を上げた。


 レイブンの車両は前方の火柱の数が急激に増えはじめる中、『希望』という名称をもつ首都中央を迂回し、直接イーストサイドへとライク・ロイド捜索の命を受けて走り続けた。

「監視カメラに残された画像が中央より送られてきました」

 ミラーシールドを装着したヘルメットをかぶっていたが、まさしくその背格好はライクであった。正面から撮影された側車の中には子供らしき人影があった。

「撮影場所は?」

「ルートエススリー、ヴォーカンソン重工業社エリアに向かう道です、ここからすぐです!」

「このまま直接ヴォーカンソン重工業社へ」

「了解」

(一体彼女は何をしようとしているんだ……)

「右、二十五度の方向より車両接近、南の突撃型です、現在、守備隊と交戦中」

 新しくもたらされた情報に他の乗員は、やや落ち着きなく示された方向を見つめていたが、レイブンは頷くだけで、流れていくビル群の中ライク・ロイドの姿だけを追い求め続けた。


 兵器から吐き出される砲弾は、ありとあらゆる建造物を破壊の海に沈め、昼の太陽を黄土色に変色させた。

「工業社エリア内に入ります!」

工業社の建物は、他の街の建物同様、ほとんどが砲撃によって破壊され、既に大半が巻き上がる炎と黒い煙に包まれていた。

「探せ!ライク・ロイドを!」

 レイブンは一刻も早く、このような危険な所から二人を救い出したい気持ちに支配されている。

軍用車両とはいっても、砲撃で出来た穴や散乱した瓦礫の中を進むことは容易ではない。

「敵、急激接近!」

ウサギ狩りを楽しむかのように、南の突撃型戦闘車両のレーダーは轟音の中のわずかなエンジン音をとらえ、砲塔の照準を合わせた。





(十一)


 エレベーターホールから暗がりに延びる廊下には技術室や実験場と記された案内図の矢印が点滅を繰り返していた。

 廊下の血だまりが消えたので、ライクは背からフウロを下ろした。

「あら、フウロ、ヘルメットは?」

「ライクがエレベーターで耳を押さえててっていったから外しちゃったの、ライクもヘルメットは?」

「……捨てた」

「あいこだね」

「そう……」

「ライクの言葉、何かきつくなったね」

「そうです……ね」

「レディは丁寧な言葉を使わなくっちゃだめだよって……お爺ちゃんが……お爺ちゃんが……」

 明るく話していたフウロの語尾がだんだんと小さくなっていった。そして、何かを思い出したようにすすり泣きをはじめた。

「朝早くに、お爺ちゃんが私の部屋に来たの……私は起きてたけど……寝たふりをしていたんだ……そうしたらね、そうしたらね……お爺ちゃん、頭を撫でてくれて、すまないな……って……そうして、いつまでもフウロはフウロでいなさいって……明るい元気なフウロでいなさいって……だから……私は泣かないって……」

 ライクは何も返事をしない。

大きな声で泣き続けるフウロの手を引きながらただ黙って廊下を進んでいった。頭上から砲撃による低い振動音が静かな廊下に連続して響いている。

廊下の突き当たった先に、頑丈そうな金属製の扉が立ちはだかっていた。

「もう泣くのをやめなさい、お爺様からフウロへの最後の贈り物です……私たちの最後の家族……」

 ライクが扉横の認証装置をタップすると、徐々に左右へとひろがる扉の隙間からまばゆい光が差し込んできた。

 天井に備え付けられた非常用予備電源のライトは、贈り物の全容を照らし出した。

 広い実験用格納庫の中、目映いくらいに輝く銀色の巨人は拘束具に固定された状態で二人を見下ろしていた。

(迎えに来ました、シルバー……)

フウロは目と口を開けたまま、後ろに倒れるくらいに見上げ続けた。

「すごく大きい……氷のお城みたい……」

「こっちです、フウロ」

 ライクは巨人に寄りそうように造られた機材運搬用エレベーターへとフウロを誘った。

「!」

 急に人の気配を感じたライクは、フウロの小さな身体をすくい上げるようにして抱いた。

「ほほぅ、感だけはいいようだな、仲間だと思ったら女とガキか、ここまでお前らが来たってことは……奴ら、皆死んだな、それとも……殺しちゃったのかな」

 シルバーの脚の陰から鷹のようなするどい目をした東洋人風の男が出てきた。

研究者用の白衣を着用しているものの、堂々と慣れた構えでアサルトライフルを持つその姿はただの民間人ではない。

「楽園の裏切り者、それが兵士とは……最低です」

 吐き捨てるようにライクは言った。

「愉快な女だ、俺を一目で兵士の出だと察したか、でもな、裏切り者じゃあない、進歩主義者と言ってもらおうか、おっと、まだ動くなよ、ガキの前でやりあうのは、俺の好みじゃないんでね」

 フウロは、顔をこわばらせ、ライクの胸に顔をうずめた。

「こいつを動かすために来たのか?ここまで来ることができたってことは、ヴォーカンソンの関係者だな、待っていたのは、このデカ物じゃない、俺自身だよ……おいおい、そのきつい目はやめろって」

 薄ら笑いを浮かべた男は自らのアサルトライフルを床に投げ落とした。その突然の行為はライクの予想を裏切った。

「無抵抗の俺をガキの前で殺すのか?それはやめておけ、かわいいそのガキが一生トラウマを引きずっちまうぞ」

 そう言いながら、男は身に付けている手榴弾付のベルトをライクの目の前で外していく。

「あなたの要求は何?」

「デカ物を操縦できるのなら、この場から俺をこいつで連れ出せ、何も一緒にずっと連れて行けと言っている訳じゃない、首都を抜けた所にでも置いていってくれ」

「あなた……南の内通者じゃないの」

「言っただろ、俺は進歩主義者だって、俺には南も北もない、金になる情報は十分とれたしな、ここで俺の勤務記録がラボごと抹消されりゃ、こっちもこれから色々と都合がいい」

 フウロは少しだけ顔を上げ、片目でその男の顔を見た。

「ガキ……いや……お嬢さんのお名前は?」

「フウロ……フウロ・サク・アサマ」

「アサマ?エルネストの関係者か」

「エルネストは私のお爺ちゃんだよ」

 今までふてぶてしい態度だった男がこの時ばかりは驚いた表情を見せた。その隙を見て、ライクは男を蹴り倒そうとしたが、男は横に身体をかわし素早く後ろへ飛び退いた。

「女、やめておけ、暴発したら危険だろ?それにフウロお嬢さんが怖がる」

男はライクの腰のホルダーに差していたはずの拳銃を右手に持っていた。

「こいつは返すぞ、ダミーの回転式弾倉……良い趣味だな、一見古めかしいが、最新式だ」

拳銃の安全装置を確かめながらかけた男は、冷たい瞳で睨み続けるライクへ表情を和らげながら、何事もなかったかのように投げ返した。

「俺の名はペイバック・オーガスト、よろしく、お嬢さん、女!早く動かせ、ここも南に焼かれるぞ、奴らの目的はこのデカ物の強奪だが、不可能な場合は破壊だ、恋人を他の女に寝とられるくらいだったら、殺してしまえってね、最低のストーカーだ」

 早々と機材運搬用エレベーターに飛び乗ったザップは、親指を上げ右手を上下に揺らし、驚きの表情をしたフウロと睨み佇んだままのライクを急かしたてた。



(十二)


 風切り音がする度にハンターは身体をくねらせて反応する。

 突撃型戦闘車両の放った砲弾は、レイブンらを乗せた車のすぐ横に着弾した。途端に猛烈な爆風が生じ、軍用車両は紙でできた小箱のように飛ばされ、砲撃でえぐれた穴の中に転がり落ちた。

 一瞬、気を失いかけたレイブンだが、迫る突撃型戦闘車両の音に気付き、打撲した痛みをこらえながら扉を押し開けた。ようやく這い出すことはできたが、車に残された兵士が気になり、すぐに声を上げて無事を確かめようとした。

 頭から流れる温かい血は、レイブンの端正な顔を塗りつぶしていく。

 前の座席に乗っていた二人の兵士は押しつぶされたフレームやエンジンがみぞおちに深く食い込み、息絶えていた。後部座席に隣に座っていた兵士はシートの間に挟まった姿勢でうめき声をかすかに上げている。

「大丈夫だ!今、救出する」

 車両の片側は穴の側面に接しているため、扉を開くことはできなかった。レイブンは自分の脱出した扉から上半身を潜り込ませた。

「大丈夫……大丈夫だぞ、死ぬな!」

 車両のボンネットから黒い煙が上がると同時に赤い炎が立ち上がるのをレイブンは見た。露出している肌に耐えられないほどの熱風が吹きかけられたが、それでも彼は必死になって、瀕死の状態の兵士を救い出そうとした。しかし、それも虚しく、一人の男の力だけでどうにかできるような状態ではなかった。

「曹長……曹長……逃げて下さい」

 自分をかすかに取り戻した兵士は、自分を救おうと懸命なレイブンを見て無意識のうちに遠慮した。

「大丈夫だ!大丈夫なんだ!」

「曹長……みんなを助けられなく……申し訳……早く我が軍の兵器を……ビーストは……私たちの……『希望』ですから……」

「今、もう少しで」

「私も曹長みたいになり……たかった……」

 兵士は自由になる右手で敬礼しようとしたが、途中で力がなくなり、形状をとどめていないシートの上にだらしなく垂らした。

 灼熱を伴った風がレイブンの右側からさらに押し寄せた。髪の焼ける臭いの中、レイブンは反射的に車内から上半身を引き離した。

 炎と黒煙は一気に車両全体を飲み込んでいった。

「なぜ、私は逃げた……なぜ、私は部下をおいて逃げてしまったんだ……」

 右半身にやけどを負ったレイブンは、兵士の身体を巻き添えに燃える車を見つめながらガチガチと歯を鳴らした。

一機の突撃型戦闘車両は、レイブンのかすかな生体反応を感知し、高速度で迫ってきた。

「何もできない私は……惨めすぎる」

 穴の縁を機関砲の銃弾のつくる土の柱が幾重にも流れていくのを見つめ、焼けただれた右顔をそのままにレイブンは地面へひざまずき、一言うめいた。


 その他の突撃型戦闘車両も、オートメタビーストと戦闘している何機かを除き、ヴォーカンソン重工業社までほんのわずかな距離となっている。

「突撃型戦闘車両、五機、攻撃を継続しながら工業社内に突入しました」

「工業社を破壊したからって、俺たちの機体が壊れる訳じゃないのにな、奴らは一時間後にはこのビーストの餌になる運命だ、今のうちに遊ばせてやれ」

 オートメタビーストのパイロットらは、進路に位置する戦闘車両を次々と撃破していく。それでも侵入した敵機は、すぐに手におえる数ではなかった。



(十三)


「おい、本当に大丈夫なのか?」

「黙っていて……気が散る」

 せり出した胸部のコンソール(操縦席)の前のシートにはライクとフウロ、後ろの座席にはペイバックが座っている。正面や真横に設置された計器やパネルからキラキラと光があふれ出すのを、フウロは声を出すことも忘れ不思議そうに眺めている。一つ一つの様々な光が、まるで魔法のつまった宝石箱から飛び出してきたかのように感じていた。

 コクピットのガラスを前方から防護用のシャッターが音もなくおおっていく。ライクはエルネストから聞いていた固定具の解除キーを打ち込んだが、サブモニターにはエラーメッセージが点滅するだけであった。

「あなた……キーを変更したのね……固定具をはずす解除キーをすぐに教えなさい」

「感が良いことで……俺にだって、脱出の取引材料は必要だろ?当初の予定は、南の犬共をおどして乗ろうと思っていたけどな」

「警備員に模した兵士……あなたの仲間ではなかったの?」

「あんな間抜け共と一緒にするな、お前が始末しなくても、結果、俺が殺処分していた犬さ、解除キーを言うぞ」

 ライクに問われたペイバックはスラスラと二十桁以上に及ぶキーを告げた。

「あれ、教えてやったんだ、感謝の言葉はないのか?」

「あなたを後ろに乗せているのは何でだと思いますか」

「はいはい、俺は解除キーのメモ用紙がわりということか、何ならついでに上部ハッチの番号も言うかい?」

「全員、この場所で南の砲火に焼かれるのを望むのなら言わなくて結構です」

「顔の割には言うことは厳しいね、過去に男と手痛い失敗でもしたのか?」

 ライクは男の言葉に耳を貸さず、慣れた手つきで彼が一回だけ答えた解除キーをタッチパネルに打ち込んだ。

「たいした記憶力だな」

シルバーを固定していた器具が、首から足首まで順に外れ、実験用格納庫の壁に収納されていった。地上までの運搬用大型エレベーターに青い電飾が灯った。

(動いた!)

 フウロは、ほとんど振動を感じず周囲の景色が動くのに驚いた。まるで、居間のソファーで大型テレビを見ているような感覚であった。

 エレベーターに移動する途上、ライクは正面の白い壁にかけられていた小型ライフルをそれぞれの左右の腰に装着させ、残りの一丁をシルバーの右腕に持たせた。

「女、これだけの操縦情報をどこで手に入れた、やはりエルネストから直にか……」

「あなたに答えることなど何もありません、今、あなたにしてあげることはこの場から連れ出すことだけ」

「あの犬共だって、ここまで動かせたかどうかってとこだ」

「なぜ、あなたは操縦をしないの、本当はできるのでしょう?」

「お前のスキルの方がこの修羅場から脱出できる可能性の割合が上がる、理由はそれだけだ、お日様にあたったところに出てみろ、南北問わず皆目の色を変えて俺たちを殺しに来るのは目に見えているからな」

 シルバーの通信システムに外部から複雑な信号が流れ込み続けている。

「ほら、南からのお迎え信号だ、奴らこいつの強奪に成功したと思っているんだぜ、馬鹿の周囲には馬鹿ばかりだ」

 ライクはペイバックの戯れ言を聞きながら、通信を遮断した。

 地上へ向かう大型エレベーターはシルバーを載せ、ゆっくりと上昇をはじめた。

「ライク!これ、前に本で読んだゴーレムか青銅のタロスみたい!ゴーレムは土色だったけど、この巨人は新しいスプーンの色だぁ、すごい!すごい綺麗!」

「へぇ、女、お前さんの名前はライクって言うのか……ベッドの中で聞こうと楽しみにしていたのだがな」

「そうだよ、おじさん、ライクはベッドの中で夢のようなお話をいっぱいしてくれるの、今も本当に夢見たい」

「ベッドはそういう意味じゃないんだがな、それにおじさんか……」

 男は明るく答えるフウロの言葉に思わず笑った。

「おい、ライク、お前もこのお嬢さんのような陽気さが必要だ」

「うるさい男……」

「お嬢さん、この巨人がみんなから何て呼ばれていたか知りたいか」

「うん、知りたい!教えて!」

「シルバー、『シルバー・エルネスト・アサマ』、まさしくお嬢さんの分身だよ」

「シルバー……エルネスト……お爺ちゃん……」

「ああ、あの爺さんはみんなから尊敬されていた、この俺自身も爺さんの周囲にある情報から随分と稼がせてもらったしな、史上まれに見る天才爺さんだったことは俺も認める、肝心なところまで教えてはくれなかったがな、さぁ、ライクさんよ、お嬢さんだけじゃなく俺にもほんの少しだけ味わわせてくれないか、こいつの底知れない能力をよぉ」

 天井のハッチが大きな音を立てて開き、差し込むくすんだ太陽の光がシルバーに反射し、誕生してからずっと閉じ込められていた実験用格納庫全体をようと照らし出した。

「行くよ、シルバー……」

 ライクが自分の手のひらを正面パネルに押し当てると、様々なシステムが解放されたメッセージが流れていく。

「生体認証……こいつのシステムブラックボックスを開く鍵は、お前自身なのか……」

驚くペイバックを無視し、ライクはスロットルをゆっくり押し上げていく。

周囲のあらゆる物が背部バーニアからの風圧ではるか空高く舞い上がっていった。それはまるでシルバーの誕生を祝う紙吹雪のようであった。



(十四)


 各突撃型戦闘車両のシステムは、最終目標物が予定よりも早く動き始めたことをとらえた。すぐに誘導を指示する通信を操縦しているであろう南の仲間に送ったが、同調通信が戻って来ることはなかった。

異変に気付いた南の統合指令システムは、従来の攻撃プログラムパターンを奪取誘導から破壊行動へと一斉に切り替えた。

 地の底からの振動と龍のように吹き上がる風、それと共に銀色に輝く巨大な物体がレイブンの目前にせせり出してくる。

「銀……色……」

 美しく高貴な機影は、血で汚れた地面から仰ぎ見るしかない無力感と恥辱という鋭い釘をレイブンの心に深く打ち込んだ。

「ライク!あそこに怪我している人がいるよ」

 フウロはメインモニターに映る軍人がレイブンだということに気付いていない。だが、ライクは病人のようにふらふらと立ち上がる男が誰であるかをすぐに見抜いた。

(レイブン曹長……私たちを捕らえに来たの……)

 それでもこのままにしておくことはできないと判断したライクは、砲撃跡の穴の中に立つレイブンにシルバーの左手を差しのばした。

「乗りなさい、レイブン曹長!」

「えっ、お兄ちゃんなの?」

「放っておけよ、あんな腐れ軍人、奴の制服の色は同じ人民を狩る特務の連中だ」

 外部スピーカーから発せられた声を聞き、レイブンの全身に悪寒が走った。信じたくなかったライク・ロイドとフウロがその銀色のオートメタビーストに乗っているということ、それに聞いたことのない男性の声。

 レイブンは叫ぶ

「ライク、何をしているんだ、君は何ということをしているんだ」

「シルバーを迎えに来ました」

「それでは楽園に対する反逆罪になってしまうじゃないか」

「あなたが連絡した家族、そして私たち,このように皆を追い込んだのは、あなたたちです、お爺さまは言いました、このシルバーは明日に必要な存在だと」

「そんな理由だけで……」

 ペイバックが二人の会話に割り込んできた。

「そういう訳だ、こっちもここから逃げなくちゃなんないんでね、このお姉ちゃん、借りるぜ、裸の将校さんはそこで黙って指でもくわえてな、お前らがいきがったところで、これだけ人が死んじゃったんだよ、どうすんの」

 レイブンは悔しさと恥ずかしさで自分の耳を押さえ、再びその場にうずくまり狂ったように悲鳴を上げた。

「ペイバック、黙りなさい、帝国軍とハンターが来ました」

シルバーのコンソールの全方位レーダーモニターが赤い警告色で埋まっていく。

 レイブンの救助を一時あきらめたライクは、握る左右のスロットルを手前に思い切り引いた。

機体は背に備わった二枚の翼を跳ね上げ、猫科の猛獣のようにしなやかな動きで、後方へ勢いよく跳び下がった。

 メインモニターには水平方向に複数の突撃型戦闘車両、垂直方向に浮遊生物の群れが映し出されている。

「正気か!これ、全部相手にすんのかよ!」

「被害を少なくするためには仕方がありません」

「ライク、お兄ちゃんを助けて」

「シルバーはフウロの気持ちを裏切りません、レイブンに被害が及ばないようにします」

 突撃型戦闘車両は、シルバーを狙って砲撃するが、建造物の残骸を機敏に避けて移動する機体をとらえることは不可能であった。対してシルバーの持つライフルの照準は戦闘車両の中心部をとらえている。

「沈め」

 シルバーのライフルから超高温プラズマ弾が放たれた。急なまぶしい光に数秒目を閉じていたフウロであったが、もう一度モニターを覗いた時には戦闘車両がただの焦げた残骸と化していた。

 身の危険を本能で感じとったハンターの群れは乾いた鳴き声を上げ、地上の近くまで降りていた身体を空遙か高く上昇させた。

 ライクは機関砲と砲撃の弾幕を張り巡らせた突撃型戦闘車両に照準を合わせた。ターゲットマーカーは重なっては離れ、重なっては離れる動きを繰り返している。

 続けて放った弾道はわずかに移動する目標を逸れ、近くのビルに直撃した。

「ライクさんよぅ、連続射撃は不得意のようだな」

 後部座席のペイバックは愉快げに声を上げた。

ライクは何も言わず、左のコントロールパネルモニターから射撃システムを呼び出し、表示されている値を素早く修正した。その間にも砲撃は続いている。

『修正完了』の文字が画面上から瞬時に消え、緑のターゲットマーカーが戦闘車両の上に三つきれいに重なった。

 スロットルに装備されたトリガーをライクは再び押し込んだ。カメラのフラッシュをたいたかのような発光は、機敏な動きを見せていた戦闘型車両の時間を煙の中に永遠に止めた。

(あの短時間で修正したのか……この女は……)

 ペイバックは目の前で、シルバーを自分の手足同様、自在に操るライク・ロイドに、自分がまだ調べ上げていないこの機体を取り囲む深い闇を感じた。




(十五)


 突撃型車両をシルバーが全て撃破し終えた時、ようやく黒い四機のオートメタビーストがシルバーの機影を捕捉した。

「エリック、見えるか?なぜあんな奴がいる!」

 黒いオートメタビーストのパイロット、オルミガ伍長は銀色の装甲と翼を持ったシルバーを見て唖然とした。先に進入した帝国の突撃型戦闘車両がレーダーから全て消えた原因がそこにあった。

「シルバー・エルネスト、南に強奪されたにしては解せない動きだ」

 エリック伍長もヘッドアップディスプレイに流れる映像と情報に思わず愕然とした。

「シルバー・エルネストのパイロット、通信回線を開け、繰り返す、シルバー・エルネストのパイロット、通信回線を開け、二分以内に返答、もしくはこちらに投降しない場合は攻撃を加える」

「エリック、かまわねぇ、時間過ぎたら、ぶち壊すぞ」

「まだ待て、統合本部の指示が優先だ」

 黒いオートメタビーストは機体をシルバーよりも五百メートル離れた所で静止させ、ライフルの銃口をシルバーに向けている。


 シルバーのコクピットに、黒いオートメタビーストパイロットによる威圧的な通信音声が流れる。

「お前のかわいい声を聞かせてやったらどうだ?北のパイロットの連中、興味深そうにしているぜ」

「必要ありません」

「かわいくないな……んで、お前たちはこれからどこに逃げようとしてんだ」

「逃げるんじゃないよ、旅行に行くんだもんね」

 目の前で繰り広げられた戦闘に、フウロは楽しい映画を見終えたような子どもの表情でペイバックに答えた。街中でライクに見せていた怯えはもう彼女の表情から消えていた。

「ほほぅ、アサマお嬢さん、どこへ旅行に行くのか聞かせてもらえないかな」

「ライクが教えてくれなくても、私知ってるもん、黄金の泉……お爺ちゃんがそこに行きたいって何度も言っていたから……何でも願いがかなえられる場所なんだって。私ね、お爺ちゃんと写真のママとパパと……逃げちゃったピーコちゃんと……まだまだいっぱいの人に会えるようにお祈りするんだ」

 二人の会話を聞きながら、眉一つ動かさないライク・ロイドはスロットルレバーを操作し、シルバーの向かうべき方向に反転させた。

 その動きを見て、黒いオートメタビーストはライフルを持った腕をすぐに反応させた。

 ペイバックはフウロの言葉を聞くなり、腹を抱えて笑い出した。

「えっ、そんなにおかしいことなの」

「いいや、嬉しかったのさ、まだ、そんな夢物語を真剣に語り、信じている人間が俺の側にいたってことをさ……さすが、エルネストの孫だ……ライク、東だ、このままとりあえず東へ向かえ、一番逃げやすいルートだ、途中にいくつか忘れ去られた街がある、そこで、また、何か情報を得られるだろうよ、今、教えられるのはこれだけだ、それと……」

 ペイバックは猫の目を模した小さなエンブレムが付いた銀のネックレスを外し、フウロの楓のような手のひらに持たせた。

「安心しろ発信器なんか、ついちゃいない。お嬢さんのお祈りが成功するためのただのお守りだ……エルネストに会うことができたら、ペイバックが感謝していたと、そう伝えてくれ」

「うん」

 シルバーは翼を広げ、地上から機体をわずかに浮かせた。

 進行方位は東。

「平原地帯から、お前さんらにとっては未知の領域だろう、そこではじめに面白いものを見ることができる……この未来のない楽園の真実の姿をな……そこで、俺を下ろせ」

ものの数分で追跡する四機のオートメタビーストとの距離は、互いに肉眼で確認できないほど開いた。

黒いオートメタビーストに対し、統合本部より攻撃命令が下ることは最後までなかった。



(十六)


「おっと、ここでいいぜ」

 辺りはガスがかかり、午後の太陽の輪郭だけが空に円く描かれていた。ライクがシルバーを停止させコクピットカバーを開けると、物の焼かれる煙の混じった異臭が飛び込んできた。

 フウロは途端に咳き込み始めた。ライクよりも早くペイバックは、後部座席のフウロのリュックに入っていた携帯ボンベを彼女の口に押し当てた。

後部座席から身を乗り出しながら、フウロを見るペイバックの表情は不思議なほど爽やかであった。

「このガスの濃さと風向きだったら、あと数分後に一時的にだが晴れる、ここからは、足下に見える地帯をハンターに追われても飛びこせ、間もなく山岳地帯に入る、そうなりゃ、隠れる場所は山ほどある、そいつを越えたら森林地帯……それと愚者山脈だったか……まぁ、お嬢さんを飽きさせないだけの場所が続く、お嬢さんと、このむっつり姉ちゃんが、黄金の泉にたどり着けることを祈っている」

ペイバックは笑いながらそう言って、わずかに生える灌木の中へ機体の側面を滑るようにつたって降りていった。

すぐにライクはコクピットシールドを作動させた。住んだ空気がコクピット内で循環を始めた。

「面白いおじさんだったね、また会えるといいなぁ」

「あの人から会いに来るでしょう……このシルバーを奪いに……」

 ライクは後部座席の横に取り付けられた小さな黒いチップを剥がし指で潰した。


 一方、灌木の中から既に移動を始めていたペイバックは、イヤリングから発せられた強烈なノイズに一瞬顔をゆがめた。

「もうばれちまったか……ふっ、身持ちの堅い女だ」

 ペイバックは薄くなるガスの中にわずかなバーニアの発する光を感じ取った。

 薄くなったガスの向こうには、都市の廃墟の間に隙間無く建つバラックと焼却煙を立ちのぼらせる廃棄物の小山が途切れること無く延々と続いている。時折動くのはゴミ虫のような人らしき物だけであった。

 コクピットコンソールのライクは、シルバーをスラム街の建物の陰から見上げている人のような動物を確認していた。後部座席に移動していたフウロにはそれは見えていない。

(人間……まるで虫のよう……)

 楽園の都市に住むほんの一部の人間とそうではない大多数の人間との格差が如実に形となったのが、この広大なスラムであった。


「ふふふ……どうだ、この楽園に未来のない理由がわかっただろう?」

 真昼の光は空中の濃く漂う塵や化学物質に反射し、辺りを夕焼けと見まごうほどの赤一色に染めている。靄から漏れる光の線を縫って空高く飛翔するシルバー、それを追う黒々としたハンターの群れ、地上には果てしなく続く亡者のような人間の住むスラム。

「地獄の上を迷い飛ぶ哀れな天使か……ほうぅら、はやく逃げないと悪魔にその羽を喰われちまうぞぉ」

ペイバックは、その雄大な景色を眺めつつ、一人ほくそ笑んだ。





(十七)


 一つの赤いランプしか点灯していない薄暗い部屋に、汗と体液の臭いがむせ返るほど充満していた。

 部屋には『ストレイホーン』というノイズだらけの古いジャズバラードが静かに流れている。時折、その曲にかぶって青年の短い嗚咽が混じった。

 レースのかかったベッドの上では、何一つまとわぬ青年の身体に、猿のような小さな老人が絡み、自分の舌でピチャピチャと淫猥な音をわざとたてながら舐め這わせている。

 張りのある腕の筋肉から、ほどよく柔らかい脇の下まで老人の舌は執拗に青年の身体を責め立てた。特に火傷の傷からにじみでるリンパ液には、痕が残るほど長く吸い付いていた。

「私の手元から離れるから、こういう痛い目に遭うのだよ……でも、これからはまた私のかわいい犬におなり……そうすればお前の望むものは何でも手に入れてあげよう」

 そう言いながら針のように細い小指を、老人は青年の薊花にねじりながら食い込ませていく。

(ライク……あの男に誘拐されたのだろう……今頃はひどいめに遭わされているかもしれない……ああ、かわいそうなライク……私が……もうすぐ私が君を助けてあげよう、もう私は逃げない)

 顔の半分に痛々しい火傷を負ったレイブンは、闇の中にライク・ロイドの幻を見ている。そして、幻の彼女が微笑んだ瞬間、直立した彼の分身を夢中になって頬張る老人の口の中に、熱い体液を全て放出させた。

 レイブンの耳に、彼の情熱をおいしそうに飲み込む老人の喉の音が届く。

(ライク……君を助けられるのは……私しかいない……そうだろ……そのために私も究極の兵器を手に入れよう……そして楽園の裏切り者にふさわしく、苦しまないように殺してあげよう……それが私にできる君への愛だ……)

 同じ曲が再び繰り返される中、力なく笑うレイブンの前からライクの幻影は闇と同化しながら消えていった。




つづく


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ