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第六話 おや、まだ朝はきてくれないようだね

第六話

「般若って知っているかい?般若のお面………君がつけている鬼面はこれとはまた違った種類のものなんだけどね。般若のお面って実はあれ、女性の嫉妬心らしいよ」

 僕にとってはどうでもよさげだが、それ関係の人たちには間違いなく常識である知識が丘の上にいる剣治が呟いた。

「崖っぷちの時雨君ってやつだね、これは」

 ニヤニヤとした調子で剣治は僕を見る。その表情はまさしくネコがネズミをいたぶるというような感じの表情に違いは無かった。

「………剣治」

「ま、約束どおりここに来たって言うことはとうとう集め始めちゃったかい?鬼さんたちを」

「鬼さんたちって……」

 剣治はふっとため息をつくと木曽さんちの方角を指差した。

「ん………そろそろ来るようだね」

「え?」

 何か白いものが飛んできた。そして、目の前に現れたのは狐面をつけた巫女のような服を着た誰かだった。それは………僕の夢の中に出てきたあの狐面の人に背丈は似ていた………にていないところといえば……言いづらいが、胸の部分。あっちは出ていたがこっちはその………控えめ?

『まったく、どこを見てるんだか……ちょっと天道時君?』

「あ……そ、その声って霜崎さん?」

 狐面をつけているから声がくぐもっていたが声には聞き覚えがあってしかも、機嫌が悪いようだった、この狐面さんは………。

「ははぁ、時雨君以前の……正確に言うと亜美の先輩に当たる狐巫女さんを見たことがあるのかい?」

「狐巫女?」

「そうそう、まぁ、確かに世間一般的な平均レベルよりも亜美の胸は劣る」

「劣ってない!」

 狐面をはずして剣治を一睨み。しかし、剣治は黙ることなく再びしゃべる。その顔がにやりと笑っている。

「けどねぇ、胸は小さいけど心は大きいんだよ」

「へぇ………ああ、それはわかる気がするな……ごめん、前言撤回させてもらうよ」

 恐ろしい睨みを僕にきかせて彼女は剣治のほうにも再び睨みを聞かせる。

「ほら!今はそんなことをいってる場合じゃないでしょ!」

「ああ、そうだった………実はね、時雨君。君、もうそろそろ行方不明になるかもしれないんだ」

「!?」

 いきなりの行方不明予定宣言!僕は言葉を失って立ち尽くした。

「………実はさ、これまで行方不明になってきた人は全員が全員、次の鬼面を自ら作ってあの家においてきたんだよ」

「……どういう意味?」

 たずねると答えるのは霜崎さんのほう。彼女は狐面を頭に引っ付けてため息をつきながら答える。

「実はね、私たちのほうもこれまでずっとそのことについて追いかけてきたんだけど………ここの木曽家の人たち、これまで鬼面をつけた人たちのことなんだけどね……彼ら、全員が自ら行方をくらましてきたの………まぁ、例外もあるといえばあるんだけど………自ら行方不明になっているって私たちのほうじゃきいてるわ」

「え?」

 自分から行方不明になるって………なぜだろうか?そこにどんな理由があるのだろう。

「天道時君の部屋にたくさん鬼が来てたでしょ?」

「うん、確かにたくさんいたね」

 うじゃうじゃいた。きっとあの中にはレア物が混じっていた………と考えるのは少しおかしいことだろう。今はそんなことを考えている場合ではない。

「あれ、あそこにずっと鬼が増えていたならどうなるとおもう?いずれ、鬼たちはあの家自体を実質的に取り潰しちゃうからね。それを知っていたからこれまで鬼面をつけていた人たちは家族のために人知れずいなくなったんだよ。でもさ、何故か次の鬼面を作ってからいなくなるんだよ」

 僕はそれを聞いて再び首を傾げるしかなかった。

鬼面が無い限りあの家の部屋を覗き込んでも別に害は無いはずなのだ。

あの鬼面がかけてあって今は閉ざされている部屋の中には確かに何かがいる。

ただ、それを確認するには鬼面を着用してどきどきとした気持ちで………ではなく、普通に覗き込むだけで見てしまったものは鬼を探して斬るしかないのだ。つまり、この話でキーワードとなっているのは鬼面なのだ。その鬼面を再び作るなんておかしい………鬼面がなければそれ以上悲劇は繰り返されないはずなのだ。

「それってどういう意味?」

 そのようにたずねると剣治は眼鏡を少しだけ光らせて淡々と呟くように話し始めた。

「簡単に言うとあの家はあの鬼面が守っているっていってもいいね。知ってる?人間にとって酸素っていうのは毒なんだけどそれがないと人間は生きられない………あの家にとってあの鬼面は絶対にないといけないものなんだ。しかも、不思議なことにその鬼面は作られてまもないはずなのに一年も過ぎればぼろぼろになってしまうんだってさ………まるで、これまでの鬼面がそこにあるかのようにね………結局のところ、鬼面をつけて時雨君が覗き込んだという部屋を見なければ木曽家は安泰そのものなのさ」

 鬼面をつけた人が行方不明以前に造ったというのなら今僕に引っ付いている鬼面は焔華ちゃんのお父さんが作った鬼面ということになる。

「………ん?じゃ、行方不明になった人たちはもしかしたらどこかで生きているってこと?」

 鬼面を作っているのだ………いや、それは行方不明になる前のことらしいが……だが、とりあえずは逃げるだけだろうから死んでいないだろう。てっきり狐面をつけた人に殺されていたのだろうとおもっていたのだがそれもそれでどうやら外れていたようだ……しかし、漸増さんに渡された本にはそう書かれていたような………

「それは………どうかな?ずっと鬼はついて来るんだよ、永遠に………どこかでもしかしたらいき続けているかもしれないけど………元は鬼面をつけた人は人間なんだ。忌み嫌っている鬼をずっと見たくないっておもっている人たちは自ら………」

 剣治はその先を言わずに首をすくめていった。

「………とりあえず、今僕たちがするべきことはこれまで続いてきたこの悪い伝統を消すことだね。はじめのほうは確かに間違った人を切った人もいたよ。だけど、さすがに僕らの世代までにはどうやってこの試練というか、なんと言うか……しいて言うなら神様のいたずらを克服するか既にわかっているんだよ」

「ああ、確かに言ってたね………どうするの?」

 僕の質問に霜崎さんが応答をする。

「それはね、山の神様を眠りから覚ませばいいんだよ」

 霜崎さんはそういうと狐面をつけてどこかを見た。黙ってしまった霜崎さんを無視するような感じで今度は剣治がにやっと笑っていった。

「………その昔ね、神様の祠があった所は………今じゃ学校になっているんだ。僕らの高校、そこが神様が眠っている場所なんだよ」

「!?」

 何も言えずに剣治を見ると剣治の近くにいた霜崎さんはとっくに姿を消していた。そして剣治は別にどこかにいくことも無く………暗闇を眺めながらいった。暗闇に何かいるとも思えない。

「何でまた、学校なんか建てたんだろうね?噂じゃ無理やり作ったって聞いたんだけどその筋じゃあの学校でもまれに人がいなくなっちゃうことが起きてるってさ。神隠しって奴かな?だけど、これまで行方不明者が出てきたかもしれないが来年からはきっと行方不明者がいなくなるはずだよ………今年で最後だからね。だから、時雨君、君が特別ってわけじゃない。たまたま最後に鬼面をつけただけってことさ。それが幸運か不幸なのかどっちかはわからない。未来が見通せる人間なんていたらきっとその人は面白くないだろうからね。人は何のために生きているのか………実質、死ぬために生きているんだよ」

 どことなく皮肉めいた言葉を残し、最後にじゃ、がんばってねとだけ言うと剣治は闇夜にその姿を消したのだった。剣治がいった言葉を僕は完全に理解することは出来なかった。

「………結局は僕にこれから学校に行けって事なんだろうか?それに、最初のほうに言っていた僕がそろそろ行方不明になるって言う理由もまだ聞いてないんだけど………」

 一人残された僕は急いでその場から学校へと向かって走り出した。近くにある森からは鬼さんたちが隊列を組んで僕に迫ってきているのだ。きっとコンビニにたむろしている不良たちよりも見た目的にも実力的にも悪い集団が完成するに違いない。

 そんなことになっては色々と問題になるので僕は“土蜘蛛”を持って駆け出す。街角にまっている鬼に対しては問答無用で切り捨て。

「………ぜぇ………ぜぇ」

 何とか学校前には着いたものの、どこからも鬼たちは湧き出てくる。校庭、木の根っこ、近隣の民家の窓からお邪魔しました見たいな感じで………

「一体全体、何体出てくるんだ?」

 囲まれそうになって………空から助けがやってきた。霜崎さんはあたりの鬼を何かを使って一掃すると僕をお姫様抱っこする。

『………やっぱり、今回はどこかおかしいよ』

「え?おかしいって?」

 不安そうな表情の(狐面をつけてはいるが)霜崎さんにお姫様抱っこをされていることを恥ずかしくおもうが、それよりも霜崎さんが口にした言葉のほうが気になっていた。

『大体はまだ一年ぐらい大丈夫なはずなんだよ………もうそろそろ最後だからかな?う〜ん、大体、木曽っていう苗字の人以外が鬼面をつけたのも今回で初めてだし……』

「最後って………大体、何でわかったの?」

 思えばおかしな話だ。

今回で最後だって誰が言ったのだろうか?まぁ、剣治は先ほどいっていたが………この件に関係している木曽家の人たちだって未だに全体を把握していないようだったし、ルールブックはほぼ間違いだらけで焚書にしてしまってもかまわないぐらいなのだ。それに有力な候補というか、鬼を斬ろうといった言いだしっぺの僕の陰の中にいる鬼面の侍だって別に何もしゃべってはいない。いつぞやはずっとしゃべっていたのにまったくしゃべっていないのだ、最近は。

 僕の質問に霜崎さんはどうしたものかと考えたようだったが彼女は口を開いた。

『………剣治だよ、剣治が言ったの。私の従兄で霜崎家の跡取り息子ってことになっているんだけどこれがまた、おかしな話なんだよね………なんでも知っているって言うか、未来が見えている……そんな感じかな?剣治が生まれてからは事故も無いし、予想したことは全部剣治は当ててるから』

 どうなんだろうか………もしかしたら未来が見通せるのかもしれないなと思えたのだが、僕はそうでもないような気がした。

「まぁ、今のところは僕たちがすることって決まっているんだよね?」

「………どうだろ?今日中に山の神様が眠っているところまでいけなかったら明日もまた学校中を探さないといけないんだよ。明日でも駄目だったらそれこそずうっと……永遠に」

 狐面をはずして僕を下ろす。

その目は真剣そのものでこれからも先こうして深夜に学校に侵入して探さなくてはいけないのだ、神様を……今回で見つかればいいのだが、探して見つかるような神様ならばそれこそ十年ぐらい前には既に見つかっていそうなのである。そして、そんなことを考えていて気がつかなかったが、気がつけばそこは校舎の扉だった。

「さて、侵入しますかね〜………よっと」

 どこからか細長い針金のようなものを取り出すと鍵穴につっこんでかちゃかちゃと鳴り響かせ………

「開いた」

「おおっ!」

 あっさりと開いたので少々驚いたのだがこれはこれでいい。別に何かを盗みに来たわけではないのだからこのようなピッキング技術がすばらしいということは黙っておくことにしよう………僕らは中に入り、あたりをきょろきょろと見回すがどこにも鬼の姿は無い。

「この学校、仮にも神様が眠っているからね………そうやすやすとよわっちぃ鬼が入ってこれるわけじゃないよ。無論、私と天道時君のどちらかが鬼だった場合でもそれは一緒なんだ。だから天道時君が鬼面をつけてやってきた次の日でとっくにわかってたわけ。学校にはいれなかったらその場で成敗してたかもね♪」

「成る程………だから霜崎さんは僕のことを鬼だって思っていなかったんだ……ん?でもそれじゃおかしいな……」

 僕は以前、漸増さんの部屋に入ることが出来なかった。それは関係があるのではないだろうか?

「どうしたの?天道時君?」

「ん?いや………」

 僕が言いよどんでいると彼女はすっと近寄ってきて僕の右腕を掴んだ。とっさのことで放そうとしたのだが彼女はそれを許してはくれなかった。

「……これから先は私たち二人がお互いのことを信頼しないと生き残れない……先代の狐面継承者とその鬼面をつけた人……つまり、焔華ちゃんのお父さんね。ともに学校まで来たって剣治がいってたの……だけど、鬼面の人は……日を改めるっていったきり……そのままいなくなっちゃったわ」

 その後、行方不明になったというわけね………なるほど、ここじゃ人の心も一瞬の迷いのせいでどうかなるってわけねぇ………

「………あのさ、どうでもいいことなのかもしれないけど……実は僕、この前……っと、その前に漸増さんって知ってる?」

 誰もいない校舎に僕の声が響き渡った。しかし、まだまだ夜は明けない。


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