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第九話 ふふ、無力だね

次回、所用で飛ばしていた話を載せます。

第九話

 僕は霜崎さんを気がつけば突き飛ばしていた。

「きゃっ!!」

「はぁ………はぁ………ぐばっ!」

 そして、さらに僕は右のほう……祠がおいてあるほうからの強い衝撃によってそのまま吹き飛ばされ、壁に思い切り衝突。物理的なダメージよりも何か精神的につらい一撃を食らったような気がした。

「うう……」

 ふらふらになりながらも立ち上がろうとして………壁に寄りかかったはずの僕の手がそのまま壁を貫通。気がつけば僕は廊下に立っていた。

「あ、あれ?」

 慌てて部屋に扉から戻ると……そこにはもう一人、僕がいた。まばゆいばかりのオーラのようなものを纏っている。存在するだけで僕ら二人はたつことさえ許してもらえない……そんな威圧感も彼には存在していた。

「て、天道時君が………二人!?」

 膝をつきながらも目の前の相手を確認する霜崎さん………僕にいたっては地面に顔面をのめりこませているような状況だった。

「………」

「………」

 いや、よくよく見てみれば目の前のぼくは目つきが鋭い上に………自分で言うのもなんだが、かっこよかった。

「ふぅ、久々の復活………これはよい体を手に入れた………おい、狐よ………これにていく数十年間縛り続けていたおぬしの呪縛を解き放ってやろう………」

 目の前の僕は指をぱちんと鳴らし、それに呼応するかのように霜崎さんが持っていた狐面は狐となって空へと昇っていった。

 それを確認すると今度はこちらを見て………

「さぁ、狐を追って消えるが良い」

「え?」

 僕の顔から何かが昇天し………僕はなんとか膝をついた。圧倒的な存在感、いるだけで周りのものを押さえつけ、絶対的な力を誇示する存在………直感的に感じたが、これが人と神の超えることは出来ない壁だとでもいうのだろうか?

「ふむ、これまでの茶番をようやく終えたか………これから先、二人とも我につかえるが良い………と言っても、そこの娘だけで充分だ。お前にはもう、半分ほどとはいえ、このすばらしい体を貰ったからな………さらばだ」

 目の前の僕が行ったことといえば霜崎さんの手を掴むと彼女が何かを言う前に僕の前から姿を消したのだった………後に残されたのは普通の教室と、なんだかゆれ始めているという事実だけだった。既に体に力は入り、自由に体を動かすことが出来ていた。

「と、とりあえず逃げないと………」

 僕は慌ててその場から逃げた。後ろのほうではあの教室から崩壊が始まっているのか、祠が崩れるような音が聞こえてきたのだった………消えてしまった霜崎さんのことを思いながら………

―――――

 無限回廊が完全に壊れると同時に僕は校門の前に立っていた。昨日と同じようにこの場所にワープしてきたのだろう。

「…………いないか、やっぱり」

 てっきり校門前にもしかしたら霜崎さんがいるのだろうと思っていたのだが………それは間違いだったようだ。

「やぁ、時雨君じゃないか……奇遇だね?」

 声のしたほうを振り返るとそこには………

「剣治……何してるの?」

 何故か剣治が頭からアスファルトの道にめり込んでいたのだった。頭の部分が完璧にめり込んでいるというのに何故か、声だけは聞こえてくる。

「見ての通り山の神様に挑戦したんだけど………まさか、時雨君の顔で来るとは思いもしなかったなぁ………見事にやられてしまった、うんうん」

 めり込んだままで胡坐をかき、体を上下にさせることでどうやら頷いているようだった。見ているとなんだか気持ちが悪くなってくる気がしてくる。

 何とか気持ち悪さをこらえて目の前の剣治に僕は尋ねる。無論、たずねることはあのことだけだ………

「………じゃ、じゃあ霜崎さんとも会ったの?」

「それは……………」

 黙りこむ剣治に僕は続ける。

「どうなの!?あったの?霜崎さんに会ったの?」

 両足を掴み前後に揺さぶる。ぎりぎりという音が聞こえてきたような気がしたのだがそんなことはかまわなかった。

「いいかい、時雨君……彼女はとっくに狐面の使い手になる前から神様に使えるって決めていたんだ。君が亜美を助けようとする気持ちはすばらしい友人愛だといっていいだろう………だが、それは亜美が決めたことを君が潰そうとしているということでもあるんだ」

「…………」

「それに、今はその体をどうにかするのが先決だと僕は思うね」

「………そういえば………」

 改めて体を見ると若干透けていた。剣治は自力でアスファルトから頭を引っこ抜くと僕に触ろうとした……が、剣治の体は僕を突き抜けていった。

「ほら、これじゃ色々と不便だろう?亜美のことは忘れるんだ………といいたいけど、君の心の中だけでも絶対に亜美のことだけは忘れないで欲しい」

 その瞳は強く、まっすぐしたものだった。何か意見することなど出来ない。

「………霜崎家の家系には既に亜美という女の子の存在はなくなっている……戸籍にも存在していないからね。だからさ、君が覚えてくれていない限り、彼女がこの世にいたっていう証明はないからさ………よろしく頼むよ」

 剣治は僕に頭を下げた。

「………勿論だよ」

「それはよかった………あのさ、また明日………僕の家に来てくれないか?」

 剣治は僕にそう告げる。

「え?まぁ………いいけどさ」

「そうかい、それは良かった………木曽家では君を探しているそうだよ。すぐに帰ったほうがいい」

 剣治の周りにいきなり風が吹き始める………

「ああ、そうだ………また何か僕の力が必要になったときは名前でも呼んでくれよ。そうしたらまたいつか会えるだろうから…………」

「え?」

 気がつけば剣治は消えており、残されたのは僕ひとりだけとなった。胸に去来すものは静かな虚空の塊だった。

「………霜崎さん………」

 僕がするべきことなど、何一つ無かったのかもしれない。助けに行ったのに、助けることが出来なかった………そう、例え神に仕えること………それが彼女が望んでいたことだったとしても………前に霜崎さんから聞いたことにはとても名誉なことらしい。そりゃそうだ、神様に仕えるのだから……だけど、納得がいかない僕は………

「とりあえず………戻ったほうがいいかな」

 今学校に行っても勉強なんて頭にはいることはないだろう。そんなことを考える余裕などなかった僕はいわれたとおり木曽家に向かって歩き出していた。

―――――――

「こ、これはどういうことですか!?」

 気がつけば僕は僕をいつか抑えていたおばあさんたちに捕まっていた。僕の周りには四角い壁が出来ており、何故かそれを貫くことは出来ない。

「………神の始末じゃ」

「か、神って………」

 僕の呟きに反応したのかなにやら呪文を口にしていた一人の老婆が………この老婆は僕が質問をしたときに答えてくれた人だった。

「神を見たものをこの木曽家に入れることは出来ん決まりでなぁ……お主が向かうのはほれ、そこじゃ」

 先にあるのは禍々しい池だった。

「………」

「さらばじゃ………なぁに、おぬしはこの木曽家に巣食う鬼を退治してくれたという実績があるからのう………手荒な真似はせんから………だが、同じようにしてこの木曽家に破滅をもたらすかもしれん………」

 手荒な真似はせんといいながら………池に落とそうとしているじゃないか!?という言葉はのどまででかかったのだが相手はどうせ聞く耳を持っていないのだろう………そのまま僕を池の中に落とそうとする。

「ちょ、ちょっと何してるの!?」

「ほ、焔華ちゃん………」

 驚愕のまなざしでこっちを見ているのは焔華ちゃんだった。早退してきたのだろうか?その肩には学生鞄がかけられている。

「ふむ………焔華か………何しに来た?邪魔をするなら一緒にいれてしまうぞ」

「そこって悪い人を閉じ込めるって場所じゃない!時雨君が何をしたっていうの!?」

 しかし、焔華ちゃんの言葉に耳を傾けようとはしなかった。かすかに見えた希望は絶望へと変わっていく。

「ほれ、進まんか………」

 四角い箱は僕を包んだまま………そのまま池に入れようとしていた。

「駄目だったら!」

「こ、こら焔華!?」

 焔華ちゃんは僕を包んでいる四角い箱に飛び移った………こんなときにも思うのだがめちゃくちゃ行動派なんだね………そんなことをやはり言っている場合ではなかった。あせったのは何もあのばあさんたちだけではない。

「焔華ちゃん!いけない、離れるんだ!」

 このままではまずい…………霜崎さんに続いて焔華ちゃんまでよくわからんことになってしまう………

「って、うわぁぁぁぁぁぁ」

「きゃぁぁぁぁぁぁ」

 だけど………だけど気持ちだけでは何もすることが出来ず……僕は透けた白い体のまま、そして焔華ちゃんはダイレクトに禍々しい池の中へと堕ちていったのだった。


 堕ちていく黒い池の中………


 無力を知った僕は力を望んだ……


 たとえ、そう、僕が何も出来ず、このまま落ちようとも………


 霜崎さんのときみたいに何もせずに誰かが僕の目の前から去られるなんて………


 それだけは絶対に許せなかった………


 だから、力が欲しかった………


 対抗できる力………


 望んだ僕に今できることは…………


 けど、何一つしかなかった………


 ただ、僕はこうして堕ちていくだけの存在だった………


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