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第五話 おや、日々はうつろいかわりゆくものなんだよ

第五話

 あれから一ヶ月、さらに何事もなく…………というわけにもいかず、残念なことに日々シュールな光景が僕を襲っていた。

家に帰れば部屋の中に意味不明な生命体がまるで迷子みたいにあたりをきょろきょろしていたり、電柱の陰からなんか出てきて連れ去られそうになったり、持っていた赤色のとあるプラモの自慢の角が消えていたりと………それはもう、戦々恐々といった日々を送っていたのである。日に日に目は落ち窪んでいき、それはもうまるで死人のような顔となってしまっていた………ということもなく若干顔色が悪くなるぐらいだった。あれ?とても繊細な性格だっておもっていたんだけど意外と僕って図太いかもしれない。

 そして、今は夕食が終わった後のまったりとした時間。僕と焔華ちゃん以外は家族の人たち全部が公民館に集まっていたりする。

「ねぇ、時雨君顔色が悪いようだけど?」

「ん〜最近まともに寝れないからね……眠りが浅いって言うかさ……」

 焔華ちゃんが心配そうにそんなことを言ってきているが漸増さんとの約束で彼女には『鬼渡し』についてのことを一切喋っていないのだ。

 焔華ちゃんが入れてくれた紅茶をすすりながらあんまり働かない頭で必死になって言い訳を考える。

「ちょっと考え事があってそれでちょっと疲れてるって言うか………」

「そうなの?」

「うん、そうなの」

「それなら………いいものがあるよ♪」

 にこりと笑った焔華ちゃんの笑顔に嘘をついた僕……いやいや、嘘はついてないよ、うん。今、僕は切に命が削られていっています………といいかけたがそんなこといっちゃったら元も子もないので黙っていると焔華ちゃんはポケットをがさごそと音を立てて何かを取り出した。

「てってれて〜ってて〜……睡眠薬ぅ〜」

「何故そんなものを!?」

「な・い・しょ♪これ飲めばぐっすり眠れるよ♪」

「………いや、遠慮しとくよ」

 紅茶をさっさと飲み干すと、彼女がにやりと笑う。その笑顔に何か薄ら寒いものを感じ、僕は急いで寝たほうがよさそうだとおもいあたった。

「勿論、時雨君が拒否するってわかってたから既にその紅茶の中に入れておきました♪時雨君、私が殺人者だったらとっくに死んでるよ」

 既に手遅れ判明………強行するところは僕んちの家系なのね………。

「な、何だって!?」

 思えば段々と眠くなってきたような………慌てて立ち上がるが足元はふらふらでどうやら焔華ちゃんによっかかっているような状態だった。

「ほら、あとは私に任せて………おやすみ……」

「そ、ん………な……」

 ばたり………という僕が倒れた音が聞こえてきて、目の前に映るのは焔華ちゃんの二本のあんよだった………す、すべすべしてそう……がくり……。

―――――

 剣豪が一人、僕の目の前を歩いていく。顔には鬼面をつけており、腰には禍々しい何かを発する日本刀がつけられていた。

「?」

 首をかしげていると今度は狐のお面を被った一人の少女が歩いていく………しかも、どこかで見たことがあるような場所だった。こちらは手に能で使われるような

「!」

 声を出すことが出来ないことに気がついて僕は驚いたのだが、目の前を通っていった二人組みは僕に気がついていないようだった。

 彼らがやってきた場所………それは学校の屋上だった。二人して向かい合い、手にする獲物で相手の隙を狙い続ける………。

「?」

 しかし、そうおもっていたのは僕と狐面をつけた人のみだった。鬼面をつけた侍は日本刀から手を離してただ、立ち尽くしただけだった。ほかに何かするというわけでもなく、空を眺めるようなそんな感じだった。

 狐面の人も動かない。きっと、相手が何かしようとしているとおもっているのだろう………もしかして………手品とか?刀を抜いたらお花がポン………いや、お鼻がポンのほうが観客が踊るかもしれないな………。

 僕が馬鹿な予想をしているととうとうその侍は刀も抜かずに再び僕の目の前を通っていき………手品などをすることもなく僕の目の前を通過。

「………今度で最後だ、君が最後をつとめて欲しい……」

「!?」

 そのように僕に言い残して去っていったのだった。狐面をつけた人はただ、その消えてしまった鬼面侍をぼーっと見ていただけだった。そして、僕もその後姿が扉で見えなくなるまでずっと見続けていたのだった。

――――――

「………」

「結局のところ、これまで鬼面をつけた人たちは実のところ真相までたどり着いたんだよ、時雨君」

 今、自分の部屋で眠っているということに僕はようやく気がついた。

「…………剣治?」

「やぁ、君が寝ているって聞いてお見舞いにやってきたのさ。亜美も一緒にいるよ」

「ども〜」

 僕の所持している漫画本をじーっと見ながらあへへ……と珍しい笑い方をしている。霜崎さんがニヤニヤしているところを見ると非常に普段とのギャップがすごすぎてなんだか恐いな。

「これから先の話は僕と亜美だけの二人の話さ………焔華ちゃんに一服盛られた哀れというか、おばかな天道時時雨君はまだまだ夢の中………そうだろ、亜美?」

「もっちろん………けどまさかあの子が天道時君に対して薬を盛るなんて考えられないって………わけでもないかぁ。それほど顔色が悪かったんだろうね………それに、もとはといえば、焔華ちゃんが悪かったりするんだけど………」

 霜崎さんは首をすくめながらも視線は漫画のほうだったりする。あれ?この二人はお見舞いに来てくれたんじゃないのだろうか?

「ま、あの状況じゃまやかしでも見ていずれ狐面の鬼女に殺されていただろうね」

「………」

「そうだね、狐面の鬼女って呼ばれている存在は見えない鬼を一生懸命追ってるからね」

 にやりと笑う霜崎さんの微笑というか………そんな笑みがこれほど恐く感じたことはなかった。

 剣治は別になんとも無いように独り言のように口を開き、静かな部屋にこだまするような声音でしゃべる。

「………ま、これまで鬼面が引っ付いた人の中には確かに間違って人を切っちゃった人もいるけど結局は最後のほうまで………亜美がしゃべっちゃったところまでやったんだけどねぇ」

 剣治がちらりと霜崎さんのほうを見てしゃべる。見られたほうの霜崎さんは苦々しそうな笑顔を作って冷や汗だらだらにしながらしゃべった。

「だ、大丈夫だって!まだ山の神様も起きてないし、これからどうにかすればいいんだからさ!今年こそ最後にしないと!」

 決意を新たにしたという表情を剣治に向け、僕に親指を立ててくる。大丈夫だ、心配はないといわんばかりだが若干不安でしょうがない。大体、何をしようというのだろうか、この二人は………

「さ、そろそろ僕らは帰るとしよう」

 結局、何をしに来たのかさっぱりわからなかったな。

「そうだね、天道時君は眠っているようだし………」

 いや、はっきりとした意識はあるのだが未だに僕に対してはしゃべらせてくれないようだ。

 剣治は立ち上がり、それにつられるかのようにして霜崎さんも立ち上がった。

「最後に……伝言。身の回りに何か変わったことが起こったらこの家の南側にある丘に来て欲しいんだ。勿論、時間なんて関係ないよ、何か変わったことが起こったらすぐに言ってほしい……おっと、眠っているからいっても無駄かな?」

 無駄以前に既に身の回りには変わったことが起こっている。従妹は薬を盛るわ、なにやら意味深な夢を見るわ、意味不明な二人組みが僕の部屋にやってくるわ………充分変わった出来事に違いないだろう。これ以外に何か起こるのだろうか?今すぐその丘に行ったほうがいいかもしれない。もっとも、行ったところでいいことはあまりなさそうだが………。

「じゃ、失礼しました」

「ばいばい、時雨君」

 二人とも扉から出ずに窓を開けて……あれ?それ以前に僕の部屋に窓は無い。

「………何者なんだ、あの二人?」

 気がつけば窓など僕の部屋には無く、普通にそこにあったのは壁だった。しかしまぁ、いまさら鬼に取り付かれている僕から見てもこれは非常におかしな出来事だった。


 しかし、剣治がいっていたであろう『何か変わったこと』というものはその夜、早速起きたのだった。


「ん?」

 あれからそのまま眠りに入り、気がつけば深夜十二時を過ぎていた。この家の人たちは基本的に十一時には眠っており、静かだったのである。聞こえてくるのは無、しいて言うなら闇の風の音だろうか?

 目の前に広がる闇に目を凝らしてみると………僕の机の下に何かがいる。それは僕に気がついていないのか体操座りをして虚空を見つめており、僕の布団の隣には………

「……ひっ!?」

 角を生やした俗に言う鬼という存在が金棒を脇に置いてこれまた虚空を見つめていたりもする。僕の部屋へと通じるふすまが開き、これまた別の鬼が姿を現して足を引きずるようにして歩いてくると他の鬼が座っていないところに座り、虚空を見やる。

「!?」

 気がつけばいたるところに鬼はおり、動かない。だが、逃げようと考えようにもこんなに鬼がいてどこに逃げることが出来るのだろうか………僕がほとほと困っていると声が聞こえてくる。

『………陰の中に我が愛用していた“土蜘蛛”が眠っておる』

 この暗闇よりも昏い部分……それが僕の陰だった。そこに手を触れてみるとなんと、陰を通り越して僕の腕が消え……陰の中で何かを掴んだ。

「…………これは………」

『………これは“土蜘蛛”。その昔我とともに日々を過ごしてきた我のすべて』

 僕が握っていたのはぼろぼろの鞘に入れられた日本刀。何かとても禍々しいオーラのようなものが見えているような気がしないでもないが、今はそんなことをいっている場合ではないだろう。

「うっ………」

 しかも気がつけば鬼たちは皆僕のことを見ていた。露骨に涎なんかをたらしている奴は確実に僕を食うつもりだろう。

「く、喰われてたまるかよ!」

 僕は刀を抜くとそのギラリと光る冷たい刃を無我夢中で振り回し、相手の一瞬の隙をついてこの期に及んでふすまを蹴り飛ばすことなく、普通に開けて廊下に出て一目散に玄関へと向かっていったのであった。

 廊下の途中、人の気配が感じられたので刀をなおし、隠れるが、誰もやってこない。気配だけは一応目の前を通り過ぎていき………僕は背筋がぞくぞくとなるものを感じた。

「やっぱ、急いで行ったほうがいいよね?」

 誰に言うでもなく、僕は霜崎剣治&亜美がいっていた場所に今すぐにでも行きたいと切に願わざる終えなかったのだった。


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