第三話 さて、これからどうなるのだろうね
第三部分です。さて、本当にこれから時雨君の運命はどのようになるのでしょうか………評価、感想ともに期待してますのでよろしくお願いします。
第三話
その昔………争乱の日々が続いていた時期があった。
ある村では代々鬼を退治してきた家系の一人の娘が鬼に体をのっとられ、狐の面をつけて村を荒らしてた………しかしある日、そこにうつろな目をした侍が通りかかり、その鬼を殺したのだった。
村人たちは男に感謝し、男はそのままその村に住み着いたのだが鬼はまだ完璧に死んでなかった。夜中、男に襲いかかった鬼は男の右腕を喰らったのだが何とか男は今度こそ完璧に鬼をしとめ、二度と復活しないように自身の体に封じ込めて自ら命を絶った。鬼にのっとられていた娘は幸いにも助かり、柄が立てられた男の隣で次の日自殺しているのを発見された。
これが、この村に伝えられている一般的な昔話である。今ではもう、忘れられているといって間違いないだろうが………
―――――
目が覚めるといまいちな感覚だった………まぁ、無理もないだろうな、昨日は学校を休んでずっと寝ていたのだから。
『さぁ、我とともに鬼女を斬るのだ』
「う、うん………」
起きているとずっと、そう、ずっと………朝食、トイレ、昼食、トイレ、夕食、お風呂、トイレ………ずっと陰は僕に話しかけていた。他人の影よりも僕の影はいつの間にか濃くなっており、存在感があった。
「あ〜、そのさぁ………」
『何だ?』
「どうやって斬るの?」
『…………』
そういうと陰は黙り、この間だけ僕は束の間の休息を与えられたような気がした。なんにせよ、今のうちに学校に行く準備をするべきだろうと僕は考えて制服に着替え、焔華ちゃんと一緒に朝食を食べるのだった。
「………あ、おはよう時雨君……大丈夫?」
「うん、大丈夫………よくあることだから。それより、おはよう焔華ちゃん」
僕が倒れたときに彼女が僕を見つけたのはそうなのだが、鬼の話などは何一つとして話されていなかった。
知っているのは焔華ちゃんのおじいさんとそのとき周りにいたあの四人のおばあさんたちだけだろう。おじいさんは僕に絶対に焔華には言ってはいけないといっていたし、色々と忠告もされて体中から血が噴出してしまったあれは僕の持病ということになってしまった…………大出血病という名目となっている。
「前もあんなことがあったの?」
全身血液ポンプ男だと僕のことを思っているのだろう、焔華ちゃんはそんなことを言い出してきた。僕は危うく味噌汁を噴出すところだったが飲み込んで答える。
「うん、そうだよ。五年に一回ぐらいあったって聞いてるけど………まぁ、僕が勝手にそう呼んでるだけでたまたまだったって思うかもしれないけどね」
「ふ〜ん……」
おじいさんは他にも言っていた………
――――
焔華ちゃんのおじいさん、漸増さんの部屋へとやってきた僕。
「………あれ?入れない………」
扉を開けて中に入ろうとすると体が止まり、背筋が寒くなる。すぐにここから逃げ出したくなったのだが、そのときに漸増さんが部屋の中から出てきた。
「これはもう、『鬼渡し』を終えないとやばいじゃろうて………」
「…………」
漸増さんは黙ってお札を取ると、僕は部屋に入ることが出来た。
座るように促されて正座すると漸増さんはため息をついていった。
「………まさか、うちの焔華が時雨君に鬼面を見せるとはまったく思わなかった………」
「え?どういう意味ですか?見たらいけなかったんですか?」
あれ以降、どこを探しても鬼面が見つからないような気がするのはなぜだろう?最後に触ったのは間違いなく僕だからあの倒れた場所にあるのだろうと思ったのだがそこにもなかった。再び焔華ちゃんが持ち出した可能性が無いでもないが………
「ああ、そうじゃな……正確に言うならば鬼面をつけてあの『鬼面の間』をのぞいてはいけなかったのじゃ………あそこを鬼面をつけたままで見ると鬼が見え、魅入られてしまうのじゃ………焔華の父もそれで死んだ。狐面の鬼女に殺されたんじゃよ。勿論、焔華にはそんなことをいってはいないし、表向きじゃいまだ行方不明扱いじゃ………これまで鬼面をつけてあの部屋を覗き込んだものが生きていることは一度もない…………部屋を覗き込む権利があるのは鬼面を所有している我々の一族の男だけじゃからな……」
「………」
黙りこむ僕に漸増さんは言った。行方不明になるとは聞いているが、死人扱いになるようだ、その鬼面をつけて部屋を見たものは。
「今、鬼面をつけているのは君じゃ」
「鬼面をつけているって………」
自分の顔を触ってみた………が、どこにも着いていない。
「………硝子を見てみるといいじゃろう」
「?」
あっちの光景が見えるが、一応、反射して僕の顔も………
「!?」
僕の顔は見えず、鬼面がついていた。あの鬼面である。キモイ………とかいっていたら余計何かに取り付かれたりするかもしれないから黙っておくこととしよう。
「わかったじゃろう?そして、耳を澄ましてみると良い………陰がおぬしにささやきかけてくる」
「…………」
急にしーんとなったかと思うと頭に響き渡るような声が聞こえてきた。
『鬼女を斬れ………狐面の鬼女を………』
「…………どうじゃ?聞こえるだろう?」
「………ええ」
陰を見ると、色が濃くなっていて頭上に角が生えていた…………。絶句する僕の顔をのぞくことなく漸増さんは続ける。緊張して尿意を感じたのだがそこはぐっと丹田に力をこめてふんばる。
「………この村には一つ昔話がある」
「昔……話?」
「そうじゃ、一つ昔話をしてやろう………」
漸増さんはしゃべりだした…………
「まだこの村に鬼がおった頃の話じゃ………その鬼を退治していた家系のある娘が鬼に取り付かれてしまってのう、今度は人の姿をして暴れまくった。それから村人は外を出歩かんようになってな、神出鬼没の鬼に代々鬼を退治してきた家系も困っておったそうなんじゃ。じゃが、そんなある日……にごった目をした一人の男がこの村を訪れた。この家に伝わっておる話では人を殺しすぎて人としての心を失ってしまったような男だったらしいのじゃ。そして、鬼はその男に襲い掛かったのだが見事に返り討ちにあって動かなくなってしまった………それを陰から見ていた村人は喜び、とりあえずその晩だけでも男を泊めることにしたのじゃ。じゃが、鬼は完全に死んだわけではなかった………男が寝たのを確認すると鬼は襲い掛かり、男の右腕を引きちぎった。男は右腕を引きちぎられたにもかかわらず、痛みという感覚がないのか今度は鬼を完璧に討ち果たした………そして、何を思ったのか女がつけていた狐の面を被ったのじゃ。そして、自分の腹に刀を深々と刺してやってきた村人全員に言ったそうじゃ………『我はこの娘の家系のもの………鬼は我の体に封じ込めた!我が死んだ後は我の四肢に鎖を繋ぎ、祠にしてこの村の長老が見張るがよい!決して、決して後に出てくる鬼面で祠に納められた我を見るでないぞ!この娘にも重々言っておけ!』といったのじゃよ。長老は男が言ったとおりにことを運ぶことにした。長老は祠を作り、その祠を囲むようにして自宅を作り直したのじゃ………そして、今この家がそうなのじゃよ。それから、様々なものが鬼面を被り、祠を見た………全員が行方不明らしいが、その妻となったものの夢に行方不明になる前日に必ず出てきていたそうじゃな。様々なものといったが………女が鬼面をつけて部屋を見ても何もなかった。理由はわからんがどうやらあの男と関係しておるのじゃろう…………」
「………」
黙るしかなかった。
「……わしはもう追い先短い………時雨君がこの家に来るとき、反対していたと話はきいたじゃろう?」
「ええ、まぁ………」
母さんは確かに何人かが反対していたと聞いたのだが結局押し切ったと誇らしげに語っていたがまさかこんなことが起こるとは思わなかった。
「………このままでは時雨君が死んでしまうのは目に見えてわかっておるが………わしの先祖たちも馬鹿ではなかった………書物などにして残してくれているのじゃよ」
「本当ですか!」
つまり、もしかしたら助かる方法があるかもしれないということである。
「………これじゃ、もっていくが良い」
「ありがとうございます!!!」
――――――
その書物に載っていたことは色々とあった。
それはなんとなく“ルール”といった感じのようなものだった。
一、鬼が鬼女を切る権利は一度だけである。二、『鬼渡し』が始まる時間帯は午前零時から三時間である。三、鬼の身に危険が起こるときは段階が踏まれる………一段階目、自分の陰の中の鬼の色が紅くなり、二段階目は他人に角が生えているように見え始める、最後の段階、狐面の鬼女が近づいてくるのがわかる……というものだ。
「ねぇ、時雨君、大丈夫?」
「え?う、うん………」
「何か無理してない?」
「してないよ………大丈夫」
簡単な話、昼は狐面の鬼女が襲ってこない。というのも、行方不明となった人たちは全員が全員、朝いなくなっているのだ。ルールには鬼が……つまり、僕が鬼女を斬るのは一度だけしか権利がないとかかれていた。これは僕が誰かに刃物を向け、斬りつけるまで狐面の鬼女は僕に襲い掛からない………ということらしい。
今のところ大まかにわかったことといえばこのくらいなのだが、希望は持つべきだろう。おじいさんも寝る前に言ってくれた。
「………これまで、行方不明になったものたちはすべて伴侶がいたんじゃよ……まだ学生のみのおぬしならば助かるかもしれんじゃろう?時雨君、君には彼女はいるかね?」
「いえ、いません……」
「………もしかしたら助かるかもしれんなぁ」
きっと、僕を落ち着けるためにあんなことを言ってくれたのだろう。もてなくて良かった、とはさすがに思えない自分が悲しい。
「さ、そろそろ行こうか?」
「うん、そだね〜」
焔華ちゃんも元気そうな僕を見て安心したのかそういって鞄を持った。僕も同じようにして鞄を持つ。
「……あ、そういえばね……」
「ん?」
急に立ち止まった焔華ちゃんに危うくぶつかりそうになりながら止まるとこちらを向かずに焔華ちゃんは言ったのだった。
「………昨日の夜さ、時雨君が私の夢に出てきたんだ〜」
「!?」
危うく鞄を落としそうになったのだがすんでのところで落とさずにすんだ。
「そしてね、さようならって…………いったんだ」
「!?」
今度は駄目だった。鞄は見事に地面に落ちた………あれ?それより……僕………既に焔華ちゃんの夢に登場してルールに載ってた最悪な………そう、行方不明になる最終段階踏んでるんじゃない?けど、実際はここにいるし………死んでないし………
「大丈夫?鞄、落ちたよ?」
「え?う、うん………大丈夫」
鞄を拾ってくれた焔華ちゃんにそういうも、心の中は恐怖でいっぱいだった。しかし、何故………という気持ちがないわけでもない。
「あのさ、焔華ちゃん………」
「?」
僕は不思議そうな顔をしている焔華ちゃんにお父さんのことを聞こうとしていたのだが………やめた。自分が助かるために他人を陥れるほどまだ僕の状況は切羽詰まっているわけではないし、あんまりあったことがない僕をまるで兄のように慕ってくれている彼女の心の傷を再び開けるようなまねはしたくなかった。
「………早く行こうか?遅れちゃいそうだし………」
「うん?勿論だよ」
一瞬、不思議そうな顔をしたのだが彼女は頷いて玄関を開けた………
「!?」
そこにいたのは額に二つ穴の開いた狐面を被った女子生徒が立っていた。
「おはよ、天道時君、焔華ちゃん」
狐面をとって出てきたのは霜崎さんだった。
「あ、ああ……おはよう、霜崎さん」
「おはよう、亜美先輩」
僕らが挨拶をすると霜崎さんの後ろから剣治が現れた。
「おはよう、お二人さん」
「うん、おはよう剣治」
「剣治先輩、相変わらずですね………」
何故か呆れたように呟いて焔華ちゃんは歩き出し、それをスタート合図として僕らも歩き出した……まだ、空は青空に輝いている。
「………鬼女は亜美さ」
「!?」
剣治の声がいきなり聞こえてきたような気がした。だが、剣治は焔華ちゃんと話している。
「どうしたの、天道時君?」
「え?いや………」
僕はさっきの言葉について考えるのをやめた。不毛だろう、今頃考えたってさ。