第二話 さぁ、続けようかこのお話を
第二話ですね。ええと、これより先、雨月始まって以来のスピード完結を目指したいと思います!
第二話
ここで、回想と今とがつながった。
「…………お茶でも飲もうかな」
お茶を飲むために自室を出ると、カサリという音がした。どうやら何かを踏んでしまったようだった。何か大事なものだったらそれこそ一大事だ。僕は慌てて下を見やる。
「?」
拾ってみるとそれはこの家の間取図のものらしい…………面白そうだったので詳しく見ることにした。どこかに宝とかがあるとかはざっと見てかかれていないようだったので今度はじっくりと見ることにした。意外とこういう間取図とか好きなのでその昔あっていた土曜の朝のとある番組などは欠かさず見ていた。
「ん?」
僕に与えられた部屋の近くには『鬼面の間』というものがある。さて、まだこの家の内部を歩いたことなんて殆ど無い。誰もいないうちに勝手に歩くのもどうかと思うのだが………『鬼面の間』という部屋が気になったので行くことにした。この間取図には『用無き者立ち入るべからず』と書かれているのが気になるのだが…………
「………鬼のたたりだぞぉ!」
「うをっ!?」
いきなり右肩をつかまれて慌てて振り返る。
「うわっ!?」
そこには赤鬼がいた!っと思ったのだが………それは単なるお面だった。
そう、鬼面をつけた木曽家の一人娘…………木曽焔華がいたのだった。
身長が僕より頭一つ分小さく、若干つり目で恐そうな印象を受けるのだがその中身は人懐っこい。そんな彼女の年齢は僕より一歳年下で高校一年生。昨日、この家に来た時点で僕をものめずらしそうに触っていた。まだ会ってまもないというのに昔からの兄妹みたいな接し方をされるので困っている………いや、思えば五年前にもあったことあるなぁ、初めてじゃないじゃん、僕?
「あはは、びっくりした?」
「そりゃまぁ…………それにしても、その鬼面恐いね?」
「おっと、そういうことをこの鬼面の前でしゃべっちゃ駄目なんだよ?」
片目を瞑ってそう告げる。ニヤニヤしているところを見ると嘘を言っている可能性がある。
「え?何で?」
「顔が恐いってだけで中身を知らないような人物はこの紅鬼に呪われちゃうんだよ」
うらめしや〜とか言いながら僕を脅かそうとしているのだがそれは幽霊ではないのだろうか?鬼と幽霊は違うだろう。
「ま、とりあえず時雨君が握っている地図のその部屋、行ってみる?」
間取図のことを地図と言っているところを見ると彼女は建築関係の仕事は出来なさそうだ。
「え?いいの?」
間取図を指差すと彼女はそれを僕からかっさらってみる。
「うっわぁ………よっく見てみるとなくなってたって思われてたオリジナルの地図じゃん。時雨君、これどうしたの?」
「ここで拾ったんだよ?てっきり焔華ちゃんが僕を脅かすために置いた物だって思ったんだけど………」
「ま、いっか………さ、『鬼面の間』はこっちで〜す!ちゃんとついてきてくださいね」
バスガイドさんみたいに間取図と鬼面を片手に持って歩き始める。僕もその後を追って『鬼面の間』へと向かったのだった。
―――――
『鬼面の間』があるのは僕の部屋から三部屋ほど隣の部屋だった。
「ここが『鬼面の間』でぇ〜す」
即席バスガイドさん(笑顔だけは一級品)はそういうと何もない壁の前に僕を案内してくれたのだった。
「…………あの、部屋の扉なんてどこにもないけど?」
「ん〜そうだよ。『鬼面の間』って確かに存在するんだけどさ………入れないんだよ」
「入れない?」
そりゃまた不思議な部屋だな………そこで殺人事件があれば無条件で密室殺人だ。
「五年ぐらい前まではきちんと入れたんだけどね…………鬼が暴れるとか言って死んだばーちゃんが壁にしちゃったんだ」
首をすくめて焔華ちゃんはそういうと『鬼面の間』の壁に刺さっている釘に鬼面をかけたのだった。もとはそこにあったのだろう。
「とりあえず、今じゃこんな風に鬼の面をかけているだけになってるんだ」
「へぇ、けどその鬼面で遊んでいいの?」
「いいのいいの。どうせ、レプリカだろうからね〜本物だって今どこにあるかどうかわかんないし………贋作多いよ、この世の中」
そういってあっちで遊ぼうよと僕の腕を掴むと廊下を引っ張っていったのだった。
「……………」
なんとなく、鬼面の視線が僕を捉えたような気がしたような気がするが、気のせいかもしれない。それか、疲れているのだろう。今日は色々あったからなぁ。
―――――
明日の準備も終わり、僕は自室でうとうとしていた。
カターン!!
「うを!?」
何か物凄い音が聞こえてきた気がして慌てて目を覚ます。
「…………?」
しかし、部屋の中に何か配置が変わっているようなものはないようだった。
「………気のせい?」
だろうか………そう思ってそろそろ寝たほうがいいかもしれないとおもってトイレに行くことにした。トイレの途中には夕方焔華ちゃんに案内された『鬼面の間』がある。まぁ、別に部屋の中に入れるわけでもないので別にどうといったわけではないのだが…………。
廊下に出て静かに歩く。もう他の人は寝てしまっているようで静かだった。
「………」
『鬼面の間』の廊下にあの鬼面が落ちていた。どうやら、この鬼面が落ちた音が先ほどの正体のようだ。
「………しっかしまぁ………夜中見ると本当に恐いな………」
僕がこれまで見たことのある鬼面はどれも頬が膨らみ口が裂けていて金色の目が膨らんでいて角が生えているものなのだが………今僕が手に持っている鬼面は目が落ち窪み、下の歯茎から二本の牙が伸びていて角が短かった。さっさと鬼面を釘にかけようとしたのだが………
「………お?」
ふすまが開く音がした。しかも方向的にいって焔華ちゃんだろう。そこで夕方のお返しを考えてみた。作戦は単純である。この鬼面をつけて驚かす。シンプルイズザベストプライスってやつだろう。くくく………仕返しにはもってこいの道具がこの場所にはそろっているのだぁぁ!!
「にししし………」
鬼面を顔につけると…………
「お?」
ちょうど『鬼面の間』の壁が視界に入ってきていたのだが………そこに壁などなかった。『鬼面の間』の内部が見えるのだ!そこにはなんと、“何か”がいた。あちらはまだこちらのことに気がついていないようなのだが………気が付かれれば何か僕は大事に巻き込まれる………そういった漠然とした言葉が頭に響き渡った。
『鬼面の間』にいる謎の影に気が付かれないように静かに静かに………まるで泥棒さんのように僕は廊下を歩いていたのだが…………
ギシ………
「あ………」
年季の入った日本家屋だ………音がするのは当然だろう。しかも、間抜けであんぽんたんみたいな声を出してしまった………僕は鬼面が顔についたままだということを忘れたまま、後ろを振り返ってしまい………
『鬼面の間』にいる誰かと目を合わせてしまった。
――――――
「時雨君!時雨君!!」
「ん?あ……」
誰かにゆすられているような感じがして目を開けてみると、心配そうな焔華ちゃんの顔が目の前にあった。何かぬるぬるとしたものが口元まで来ていてそれを拭って暗いながらも目をそれに向けてみると………鼻血が出ていることに気がついた。
「ん?あれ?何で鼻血が………??」
立ち上がり、触ってみると鼻血だけではなく…………からだのいたるところから血が流れていることに気がついた。不思議と、痛みはないのが不幸中の幸いだった。
「血が!血が流れてる!」
「ん?ああ………そうだね…………」
段々と意識が遠のいていっている気がするのは血が抜けていっているからなのだろう。僕の周りの景色が歪み始めた。いや、逆に痛みが無いのもおかしいな………
「時雨君!時雨君!!!」
焔華ちゃんの声が徐々に遠のいていき…………代わりに聞こえてきたのは恐ろしげな声だった。
『………我は鬼と呼ばれし人なり…………我を最後に殺し、狐面の女………あれは鬼に憑かれし鬼病の鬼女なり………この血、そのときに我が流した血のすべて………このときより、我ら一心同体となり、狐面の鬼女、討たんとす!』
そして、目の前にはあの鬼面が向き合っていた。
「!?」
『………さぁ、我と誓え!』
「え?」
徐々に、その鬼面は近づいてくる。
『さぁ、ともに!主の体はもう長くは持たない!鬼女を打ち倒してこそ主の体は解き放たれるのだ………』
「え…………わ、わかったよ!!」
『…………』
鬼面は姿を消し、僕の目の前に光が戻ってきた。
「…………ふぅ、もう大丈夫じゃな」
いつの間にかなにやら暗そうな部屋(窓がなく、扉が一つだけある場所)に自分が寝かされているのに気がついた。ろうそくがそろそろ命をつきかけているような短さになっていた。そして、僕の四肢には鎖がつけられていて拘束されているのだった。
「おぬしは鬼に食われるところじゃった」
「鬼に?」
そして、僕を中央にして四人のおばあさんたちが僕を覗き込んでおり、焔華ちゃんのおじいちゃんが微笑んでいた…………が、その表情が急に険しくなった。
「………鬼に魅入られたか」
「え?」
「時雨じゃよ、時雨………鬼と何らかの契約をしたんじゃろう?」
僕は夢の中の出来事かもしれないが、すべてのことをそこにいた全員に話した。鬼面が現れたこと、僕に狐面の鬼女のことなど………所詮は夢のことなのだけれども、焔華ちゃんのおじいちゃんとおばあさんたちは真剣に聞き入っていた。
しゃべり終えると、僕の鎖を取っていった。
「…………その影の中に、鬼はおるのだな?」
「え?」
いきなりそんなことを言われてもさっぱりわからないのだが、確かに僕の陰の中から何かの息遣いが聞こえてくる。
「…………『鬼渡し』が始まるのじゃな」
「え?『鬼渡し』って?」
焔華ちゃんのおじいさんは答えようとせずにこの部屋を出て行ってしまった。それにならうように殆どのおばあさんがおじいさんの後に続く。
「簡単に言うなら鬼ごっこじゃよ………鬼はおぬし」
「鬼ごっこ?」
一人だけ残ったおばあさんが答えくれたのだがそれでもよくわからなかった。
「鬼ごっこって……………一人が鬼になって、他の人が逃げるっていう………あの遊びですか?」
静かに頷くその顔がろうそくの光に当てられて不気味だった。ナチュラルにお化け屋敷で涼みたいという人にはうってつけであろう、この状況。
「この土地の鬼ごっこはちょっと違う…………鬼に魅入られたのなら、調べるがよい。お主が生き残るにはそれしかあるまい…………この町は皆がお前を混乱させるだろうが真実はここでは一つじゃ」
疑問を抱いた僕をそのままにして残っていたおばあさんもどこかに去っていった。残された僕は、陰の中の物言わぬ共同人の気配だけを感じていたのだった。
―同時刻―
「………とうとう『鬼渡し』始まったようだね………」
誰に言うでもなく、霜崎剣治は話し合いが行われている部屋を抜け出してそう呟いた。外にかすかに見える電柱の上に狐のお面をつけた巫女のような姿を彼は見たような気がした。
「………鬼は誰かな?ふふっ、楽しみだ」
誰に言うでもなく、彼は呟いて口をほころばせた。