プロローグ/第一話 さぁ、はじめようか物語のプロローグを
さて、いよいよ?始まりました。はじめまして、雨月といいます………もっとも、知っている人もいるとは思いますけど……いや、知らない人のほうが多いかもしれませんね。まだ、第一話ですので話が見えてこない………ということもあるかもしれませんが、そんなときは教えてくれると非常に助かります。雨月の小説の半分は読者のメッセージや感想で出来ています。
プロローグ、
比較的大きめの日本家屋。
年季の入っているその家の門の前に一つの軽自動車が動きを止める。年季が入っているのかところどころから黒い煙を吐き出しているのだが、元気翼噴出すところを見るとまだ走れることを自己主張しているようだった。それに、ところどころに修理や改造されたような後が多々見受けられる。そして、そんな車が完璧に動きを止めてがちゃりという音が聞こえてくる。
「…………」
後ろの扉を開けて出てきたのはボストンバックを肩にかけた十七歳ほどの少年だった。
あたりをきょろきょろと眺めた後に車のほうを振り返って手を振った。
それを合図にしたのか、車の運転席に乗っている人物はクラクションを一回だけ押してから再び黒い煙を上げている車のエンジンを入れて田んぼの道を去っていく。
制限速度を見事に振り切った走行でこれまで毎回毎回それを見てきた少年はあの車がここに来る前のように警察に見つからないかひやひやしたが少なくとも彼が見ている間は警察が張り込んでいるという様子はなかった。山道のカーチェイスほど恐いものはなかった。あれは心臓がギブアップをしても情状酌量の余地があると彼だっておもっている。
「…………」
砂埃と今にも壊れそうな……ねじが足元に落ちていることに気がついたがどうしようもないので黙ったままだった………音を響かせて去っていった車に不安そうな顔をした少年は何度かためらうようなそぶりを見せて遂に後ろ髪をひかれることなく潔く呼び鈴を押した。無論、先ほどのことではなくこれからのことである。呼び鈴は最近つけたのかまだまだ真新しくて汚れなどは確認されない。しみじみとそれを眺めているとすぐに玄関をガラガラと開けるような音が聞こえてきて少年の目の前にある門が開けられる。
現れたのは着物を着た女性だった。
見た目はとても若く感じられ、物腰も上品そうである。
しかし、彼の母親と顔がそっくりなのできっと怒ると非常に恐いのだろうと彼はおもって頭を下げた。彼としては毎朝毎朝叩かれて起こされているので双子である目の前の人物に会うのは久しぶりではない気がしないでもないのだがそれでも、久しぶりに会う。それこそ五年ぶりぐらいにはなるだろう………彼の母親は怠惰で料理も作らないのだがこっちは料理の本にも何回か載っていた気がする。
少しの間思い出話をする………といっても、先ほどの車のことぐらいだったが………と、二人はそのまま門の内側へとはいっていった。そして、その後に残ったものは静かな田舎の春の風だけだったとおもわれたが…………彼にまっているものは確実に彼の人生をおかしな方向へと直線的に進めてくれるというこの町のおかしな話だった。
第一話、
「ふぅ、疲れた…………」
新しく僕の部屋となった部屋をちらりと一瞥する。まだまだ封を切られていないダンボールが今か今かと開けられるのをまっていることだろう。
しかし、僕はダンボールを開けることなく既に運ばれてきていた机の椅子に座って今日あったことを思い出していた。
―――――
「あ〜………お前らももう知っているとは思うが、今日この教室に新たな仲間がくることになった。天道時、挨拶してやれ」
そういって先生は僕のほうへと視線を向ける。
廊下にいたころから考えていた台詞を口の中で反芻すると頷いて口を開いた。こういうときは後ろの掲示物に集中してしゃべるのがコツであると転校が多かった以前いた学校の先輩が僕に教えてくれた。その後、その先輩はすぐに引っ越してしまったが………噂ではなにやら黒いことをしていて警察に目をつけられたらしい。
「…………葉野間高校から転校してきた天道時時雨です。これから、よろしくお願いします」
僕がそう言うのと同時に朝のHRを終了するチャイムが鳴り響く。一気に教室中は騒がしくなり、それを制して先生は言った。
「じゃあ、各自一時間目の大掃除に備えておくように!」
今日から二年生で、本日のこの高校の行事は校長先生の長い話があるということなのだろう。僕の以前いた高校では校長先生だけの話で軽く一時間は越えてしまったという恐ろしい話が語り継がれている。今では十分ぐらいで他の先生方が止めるというちょっとおかしな光景を見ることになるのだが、はたして、この学校ではどうなのだろうか?
「天道時、あそこがお前の席だ」
このクラスは北側に廊下があって北側に一番近い席が女子で次が男子、それ以降が男女が隣同士になるようになっているという席順のようだ。僕の席となるのは一番南側の一番後ろ。ちょうど女子が一人で座っているような場所だった。
―――――
休み時間になり、時間に束縛されている高校生たちが自由の羽を広げて僕のところへとやってきた。
速効で話しかけてきたのは前の席に座っていた男子でどうやらこのクラスの席順は出席番号で決められていないようで自由に決められたのか五十音順では並んでいない。珍しいといえば珍しいのだが………何か裏がありそうだ。
「やぁ、どうも、僕の名前は霜崎剣治だ。呼び方は君が自由に決めてかまわないよ。なれなれしいかい?いいや、なれなれしくなんてないのさ、剣治と呼んでくれるとフレンドリーでいいと思うね」
「あ、うんじゃあそう呼ばせてもらうよ」
眼鏡をかけていてインテリそうな男子(剣治)もいれば、それを脇からどかすようにして似たような顔をした女子が顔を覗かせてくる。なんとなく、先ほどの剣治という男子生徒に似ている様な気がしないでもない。くせっけが頭のとっぺんにあってニコニコしているような印象を受ける。
「私、霜崎亜美!これからよろしくね?呼び方は何でもいいよ、そこの剣治みたいに名前で呼んでくれたってかまわないから」
「え、うん………よろしく」
その後も段々と人が増えてきてなんともまぁ、このクラス三十九名の九割が僕に話しかけてきてくれたのだった。ここより都会の高校に通っていたのだが、そこでは色々とあってあわただしく過ごしていたのを思い出す。そのときは見事に村人Aみたいな感じで日々を生活していたような気がする。
この学校では式の前には毎回毎回掃除があるようで、大掃除となった。大掃除では霜崎亜美、霜崎剣治たちの班に入って校庭の掃除をすることとなり、若干の不安と多量の楽しみがプラスされてまぁ、プラスの要素のほうが大きい。掃除もあっさりと終わってしまい、することも特にないので壁にもたれて話をすることとなったのだが………
「へぇ、天道時君って部活には入ってなかったんだ?」
「うん、入ってもなんだか活躍できる気がしなかったからね」
「ふむ、そんなことなら今日から生徒会に入ってみないかい?君のような従順そうでおとなしそうな雑用が………こほん、お手伝い君が一人ばかり欲しいなって会議でも出ていた頃なんだ」
霜崎剣治はどうやら生徒会長のようだ。僕は肩をすくめてそれを遠慮させてもらった。きっと、この人物は嘘をいわないような素直な性格をしているに違いない。
「だけどまぁ、何か部活には入っていたほうがいいかもしんないよ?」
霜崎さんはそんなことを言っている。表情が険しいのは気のせいだろうか?何故か勉強せずに受けることとなった中間、期末テストを思い出させる。そういえばろくな点数はとれなかったな………
「そうだね、確かにそれはいい提案かもしれない」
剣治もそんなことを言っている。その表情は軽い気持ちで不良をからかって停学沙汰にまで発生してしまったときのような顔をしている。
「へ?何で?」
当然のように僕はそれに対してきょとんとしてしまった。僕の疑問を解決しようと剣治が首をすくめて答えた。
「この高校、文武両道を目指しているらしくってね…………部活に入っていない連中はそれなら勉強まっしぐらだ!って使っていない特別教室とかに押し込まれて午後六時半ぐらいまでずっと勉強しないといけないのさ。ま、今のところ帰宅部に所属している連中は一人もいないんだけどね」
霜崎さんも頷いて続ける。
「全員が適当な部活に入ってんの。今じゃ、公認されていない同好会………『世界探求同好会』とか『日がなごろごろ同好会』に『召喚同好会』って意味ふめ〜な同好会まで出来上がっちゃってそこに皆入っちゃってるんだよ。あとは適当な部活の幽霊部員」
「へぇ、大変なんだね…………」
霜崎さんが言い終えると再び剣治がどこからか生徒会入部!とか書かれた紙を取り出した。
「で、そこで生徒会!生徒会メンバーは今のところ五十七名いるんだけど………」
「そんなにいるの!?」
「ま、ここも相当ゆるゆるなところだからね。仕事をしていない人も多い………ま、まぁ、私はそうじゃないんだけどね〜」
そう語るのは霜崎さんである。目を泳がせているところを見ると彼女もそのお仕事をしてくれていない人のひとりに違いない。
「今じゃ第二生徒会を作ろう!とか分裂の危機にあるのさ。ま、考えておいてくれよ」
「ふ〜ん」
渡された紙をポケットになおして再び談笑をしていると先生に見つかって怒られてしまった。しかも、気がついてみれば怒られているのは僕と霜崎さんだけだった。先生はそのことに気がついていない………というより、もとよりそこに剣治がいたことを知らなかったような感じがする。
「あ〜ったく、また剣治の奴どこ行きやがったんだぁ!」
先生のお叱りが終わり、腕をグーにして空へと叫んでいる霜崎さんに僕はため息をついていた。
「剣治っていつもこうなの?」
「ん?そうだよ。うちの従兄はいっつもこんな感じ………巻き込まれるときはいつもいないって所だね。責任転嫁は得意だし、口はめちゃくちゃ強いよ。あいつが怒られていることはみたことがないなぁ…………」
ここで気がついたのだがどうやら霜崎さんと剣治は従兄妹だったようだ。
「ま、とりあえず急いで体育館に向かおう!」
「そうだったね!」
僕と霜崎さんは二人で体育館へと向かい走り始めたのだった。
「あのさ、天道時君の家ってどこ?」
「ん〜家って言うよりも居候って感じなんだけどね………木曽さんってところの家。近くに公園とか田んぼとかがあったような………」
「!?」
そういうとめちゃくちゃ驚いた顔をする霜崎さん。どうかしたのだろうか?
「あ、あ〜………なるほど。ところでさ、天道時君は…………」
「ほぉら!君たち早く行かないと式、始まってしまうぞ」
先生の口調を真似したらしい剣治がいきなり姿を現した。まるで忍者か影の刺客だ。きっと江戸時代ごろに生きていたら伊賀の忍者か甲賀の忍者の頭目ぐらいにはなれたかもしれない。
「!?」
「剣治!?どっから湧いたの!?」
「心外だな………ずっと君たちの後ろにいたじゃないか」
そういってさも『心が傷つきました!悪いのはこの二人です!』といった表情をしてみせる剣治に霜崎さんが走りながら鉄拳を食らわせようとしたが、それをさらりとかわす剣治。むぅ、無駄な動きを霜崎さんはしていないところを見ると何か習っているのだろうか?それに、剣治もその一撃を軽く避けたところを見るとただものではないかもしれない。
「避けなぃ!きちんとあたりなさい!そんで、鼻血を撒き散らしなさい!」
「HAHAHA、避ける?避けてないよ、君のパンチが的確な場所を捉えなかったからあたらなかっただけさ………時雨君だったらパンチよりもパンチラで鼻血出しそうだけどね」
「ちょ、ちょっとどういう意味だよ!」
確実に相手を馬鹿にしているような表情をする剣治。彼は去っていってしまった。そして、その言葉でスイッチが入ったのか目つきを変えた霜崎さんがそれを追いかけて廊下を曲がって…………
ガターン!
「やばっ!!」
そんな音が聞こえてきた。そして、霜崎さんのものであろう足音があっという間にしなくなった。ダダダダ………という擬音が聞こえてきそうでなんとなくアニメ風だな〜とおもってしまった。
「?」
霜崎さんを追って廊下を曲がってみると頭から何故かバケツを被って震えている僕の担任の先生が立っていた。心なしか、ここにいるとやばい気がする。
「…………」
戦う、仲間、魔法、逃げる…………逃げる!
「ちょっと待て!」
しかし、回り込まれてしまった。く………体育教師という肩書きは伊達ではなかったようだ。すばらしいフットワークである。
「天道時、お前が犯人か!………しかし、転校してきたばかりのお前とは考えられないな………ああ、そういえばあの二人組みと早速釣るんで………違うなら犯人を言え!」
そんな………友達を売ることなんて僕には出来ない!
友達のことを思っている僕のことをどう思ったのか先生は続ける。
「さもないと、反省文を二十枚書かせるからな!もう一度言うぞ、お前が犯人か?」
「いいえ、霜崎亜美さんが犯人です」
友達?残念ながらこの高校に来てまだ出来てないんだ♪
こうして僕は体育館へと入り、その代わりとして連れ出される霜崎さんを見送ることなく校長先生の話を聞いていたのだった。無論、彼女の目から発せられる非難の視線を僕が見るわけがなかった。
――――――
「まったくもう!酷いよ、天道時君!」
「いや、酷いのは剣治だと思うんだけど………」
放課後、家が近いとのことだったので僕とともに二人は帰ってくれることとなった。
このままいくと霜崎さんが見せた悪鬼のような顔が僕に向けられるかもしれないので慌てて話題をそらした。いや、既に向けられている気がしないでもない。
「あ、それよりさ………霜崎さん何か言おうとしてなかった?」
「へ?何を?な、何のことだっけ?」
彼女が何かをはぐらかそうとしているようには見えないので本気で忘れているだけなのだろう。
「ほら、木曽さんちって言おうとしていたときだけど………」
「あ、あ〜………あれね」
どうしたものだろうかという表情を僕に見せたのだが、剣治がそれをさえぎった。
「それはまた今度教えてあげるよ、この僕がじきじきにね………亜美さぁ、言葉にも力はあるんだよ、時雨君が該当しちゃったらどうするんだい?これ以上警察の仕事を増やしちゃ駄目だよ?わかった?」
「…………その点はまぁ、反省してます」
「ん〜?ちみぃ〜本当かい?」
無駄に偉そうだ。
「偉いんだよ、僕は…………生徒会長、それはすべての生徒の上に君臨する帝王なのさ」
つくづく恐ろしい男と友達になってしまったかも知れないと思い後悔したのは既に遅い。後から悔やむから後悔なのだろう、感じのいいお勉強となった。
「ま、それはともかく………とりあえず、ここで話すにはちょっと危ないからね」
「危ない?そんなにやばげな話なの?」
不思議に思ってそれも聞きなおそうとしたんだけど………
「じゃ、ばいばい」
霜崎剣治家に到着したようで、剣治は一方的に別れを告げると家の中へと入っていってしまった。
「…………行っちゃった」
「うん、行っちゃったね」
残されたのは僕と霜崎さん。霜崎さんなら少しぐらい知っているだろうと思って聞こうとしたのだが………
「あら、亜美じゃないの」
「あ!母さん!?」
車が近くに止まって窓から顔を覗かせてくる一人のおばさんがいた。成る程、霜崎さんが成長したらこんな感じになるかもしれないといった雰囲気をにおわせるものだった。
じろじろと僕のことを眺めた後におばさんは言った。
「あ〜………悪いわね、デートのところを邪魔したみたいで」
「ち、違うわよ!彼は今日から同じクラスになった天道時時雨君よ!」
慌てて母親に告げる霜崎さんに僕はその母親に頭を下げる。
「どうも、天道時時雨です」
「あらら、単なる同級生だったか……………どう?うちの息子にならない?」
「は?」
いきなりの展開で読めなかったが慣れっこなのか霜崎さんは亜美母をせかす。
「もぅ、そんなことより………ところで、お母さん今日何か用事でもあるの?」
よくよく見てみれば他にも数名、人がこの霜崎家にやってきているようであった。
「ああ、ちょっとね…………狐面関係………おっと、口が滑っちゃった」
「狐面?」
首をかしげた僕を見て苦笑している亜美母。
「亜美もついでにちょっと来なさい」
「え?私も?………じゃ、天道時君また明日ね?」
「え?うん」
剣治の家の中に入って僕は木曽家へと帰路についたのだった。その途中、僕は電柱の近くで一つのお面を拾った。
「ん?」
それは狐のお面だった。汚れていて額の部分に穴が二つ開いているものだ。しかし、どことなく拾うと呪われるような代物だと感じた僕はそれを放り投げておいた。う〜ん、どっちかというとこっちのほうが呪われそうかもしれないなぁと後になって気がついた。
木曽家に帰り着くと、誰もいないようだ。まだ比較的はやめの時間帯なのでまだ誰も家に帰ってきていないだけのようだが…………
「ふぅ…………」
僕の自室となった部屋に入り、少しばかり息をついた。