MIOちゃんとオミくんと深夜の牛丼屋さん
オミくんと喧嘩をした。
原因は些細なことで、幼馴染みでありながらイトコと近い関係で、それでもやはり、お互い言い出したら引くに引けなくなってしまったのだ。
気が付けば私は、財布と携帯だけを持って、家の外へと飛び出していた。
怒るとお腹が減るらしく、どこかでなにか食べようと思い立つ。
こんな時間じゃ、開いているところも少ないけれど、と携帯を見下ろせば、指し示された時間は日付変更線を越えていた。
駅前の牛丼屋に足を踏み入れはいいものの、キムチの入った牛丼を注文してから気付く。
私、所持金いくらだったっけ、と。
財布をこっそり覗けば、銀色のコインが一枚と茶色が数枚。
どう見積もっても足りない。
もちろん、お札はなかった。
こんな深夜に呼び出せる間柄の友人知人なんて、近所にはいないのに、と思う。
他に幼馴染みが二人いるが、一人は深夜に出歩くような子ではなく――私としても出歩かせたくない子だ――もう一人は何をしているんだ、と言いながら私には関係ないと首を振る子だった。
それどころか、早く仲直りでもなんでもすればいい、と言われそうだ。
そう考え、結局は泣く泣くオミくんに「迎えに来てください」と電話をすれば、ノイズ混じりに「はぁ」と溜息が聞こえ、通話が切れた。
数分後、息も切らさず平然と店内に入ってきたオミくんは、座るでもなく私に向かって「阿呆か」と暴言を飛ばす。
ごもっともだと思う。
ようやく私の目の前の席に腰を下ろしたオミくんは、長い前髪を払い「お前は阿呆か。もっと考えて行動出来ないのか?俺が来なかったら、どうするつもりだったんだ」と、やはり流れるような罵倒を飛ばす。
それでも、少し、オミくんの額に滲んだ汗に、少しだけ、嬉しくなった。
喧嘩中だったはずなのに、だ。
そうしてオミくんは、しれっと店員を呼んで、追加で自分の分の注文をする。
しかも大盛りで。
「これ食べたら帰るからな」と言われ、私は素直に頷いた。