【童話】精霊たちの小さな物語
あるところに、炎の精がいました。
炎の精は紅玉石のようにメラメラと燃え、
その赤い炎はこのうえなく美しく、誰をも虜にする明るさで煌めいていました。
炎の精は、よく戦に呼び出されました。
勇敢で力強い炎の精が戦場に現れると、戦はたちまち激しさを増し
人や獣や家々は燃え上がって、大地は紅く染まります。
人々は戦の神として、炎の精を讃えていました。
*
そんな炎の精はあるとき、大地を緩やかに流れる水の精と出会いました。
太陽の光を反射して碧く煌めく水は、
炎の精とは全く違う輝きを持っていました。
その静謐な美しさを一目見た炎の精は、たちまち水の精に恋をしました。
雄々しく明るい炎の精は、物静かで神秘的な水の精に惹かれたのです。
この世に恐れる者などない炎の精は、
さっそく朗らかな声で話しかけながら水の精に近づきました。
「こんにちは、水の精さん」
しかし、炎の精が水に近付くと
そのあまりの熱さに水の精の体はやせ細り、
蒼玉石のようだった輝きがみるみるうちに失われてしまいました。
水の精は、申し訳なさそうに炎の精に言います。
「あぁ、熱い……あなたの灼熱の炎で、私は消えてしまいます。
炎の精さん、少しだけ私から離れてくれませんか？」
水の精の言葉を聞いた炎の精は悲しみ、ショックを受けて打ちひしがれました。
炎の精の火は消え入りそうに小さくなり、弱々しく萎んでしまいました。
*
そのとき、炎の精と水の精のやりとりを聞いていた土の精が
地上に出て水の精に語り掛けました。
「私があたなを熱から守ってあげましょう」
土の精は黒耀石のように固くて丈夫な器を作り、水の精をその中に入れました。
土の器に守られた水の精は、炎の精と話すことができるようになりました。
「土の精さん、ありがとう」
水の精は心優しい土の精に恋をしました。
土の精は、大きな大地で水をいつも優しく包み込んでくれます。
大地を軽やかに流れる水は、土の精のどっしりとした器量に
いつしか心惹かれていたのです。
*
しかし、土の精には想い人がいました。
大地を爽やかに吹き抜ける風の精です。
「土の精さん、今日はこんな出来事があったの」
風の精はいつも空高く舞いながら
土の精が知らない異国の地の知らせを届けてくれました。
土の精はいつも、翠玉石の衣を靡かせながら宙を自由に舞う
風の精を惚れ惚れと見つめていました。
*
風の精は、炎と仲良しでした。
気まぐれで自由なところがある二人は、とても良く似ていたのです。
風の精が久しぶりに炎の精を訪ねると
炎の精は、水の精に言われた言葉を気にしてすっかり自信を無くしていました。
自慢だった自分の火熱が、誰かを傷つけてしまうと知ったからです。
弱っている炎の精を見て、風の精は励ましました。
「いつまでもグズグズ悩んでいるなんて、あなたらしくないわ。
あなたにはあなたの良いところがあるはずよ」
風の精が炎の精をふっとひと吹きすると、炎の精はまた明々と燃え上がりました。
「ありがとう、風よ。お前のお陰で元気が出たよ」
元気になった炎の精を見て、風の精は喜びました。
*
炎の精は、水の精と話せるようにしてくれた土の精に
まだお礼をしていないことを思い出しました。
「土の精よ、良いことを思いついたんだ」
炎の精は土の精のところに行くと、
大きくなった力を使って大地の一部をカラカラに乾かしました。
すると砂漠ができ、
土の一部は風とともに舞い上がって空を飛べるようになりました。
「あぁ、なんて気持ちがいいんだ！
これが空、これが雲、これが鳥！
私は風と同じ景色を見ている。炎よ、ありがとう」
土の精は初めて見る景色に感激して、炎の精にお礼を言いました。
「気にするな、俺もいま、とても気分がいいんだ」
炎の精も、土が喜んでいるのを見てとても満足していました。
*
大喜びした土の精は、炎の精へのお礼として、大きな火山をつくりました。
そして水の精のために素敵な丸い泉をつくって、水の精を招待しました。
「まぁ、ここはなんだかとても暖かいわ」
泉に身を落ち着けた水の精は、体がポカポカと暖まってきたことに気付きました。
でも不思議と嫌な感じはしません。
「炎の精が、君をゆっくり暖めてくれているんだよ」
土の精がこっそりと水に教えてあげました。
水の精は泉の中で心地よく揺られながら、
やがて炎の熱でぐつぐつと煮えたぎり、湯気を立て始めました。
その湯気を見た人間や山の動物たちが、
寒さを凌ぐためにたくさん泉にやってきました。
「まぁ素敵、たくさんの人や動物が、私の泉に浸かって元気になっていくわ」
水の精は驚き、喜びました。
泉はいつしか、みんなを癒す温泉になっていたのです。
一緒に温泉に浸かって仲良くなった人や動物は
みな争いを止め、戦はぴたりと止みました。
*
泉の水が熱くなりすぎると風の精が吹いて冷まし、
火山の火が弱くなると風の精が再び燃え上が?%
精霊をテーマに、童話(？)に挑戦してみました。
冬童話2016に参加するつもりで書いたのですが、3,000文字を超えていないので募集要項を満たしていなかったという致命的ミス…笑
ほんわり心暖まるストーリーを目指しました。
2016/1/14 大幅に改稿したので、以前とちょっと（かなり?）物語が変わっています。
連載の方でも、精霊や魔法が大活躍しています！ そちらもよろしければ読んでみてくださいませ(^^)/
