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最終話/日常生活にけじめを

『栞-She side story-』最終話です。

今まで見てくださってありがとうございます。

重複投稿有

季節は三月に入り、学校は卒業シーズンに入った。

私の家ではお姉ちゃんとの引っ越しについての話し合いが

行われていたけど、自体は思わぬ方向へと向かっていた。

引っ越し先の地域はお父さんの実家があり、

今は体の不自由なおばあちゃんが一人で暮らしている。

両親はお姉ちゃんの引っ越しを機に家族まるごと引っ越すことを決定した。

無論、私の意思など関係なく、この計画は着実に

進んでいき、四月には今の学校から転校することが決まった。

私はいつもなら家族会議の決定に対して毎度のことだと納得していたけど、

今回の件は彼と別れることになるので酷く絶望してしまった。


卒業式当日、学校内はお姉ちゃん色一色になっていた。

先生も生徒も誰一人として私に目もくれようともしなかったけど、

私は慣れていたし、心のどこかで『皆、バカだなぁ』と思っていた。

卒業式が終わると各部活動で感動のお別れが盛大に行われていた。

私にはその場は分不相応だったので誰もいない図書館へと赴いた。


扉を開けると人影はなく、静寂な空間だけが存在していた。

私はカウンター内の指定席に腰を落ち着けると

彼の影響で最近、読み始めた文庫本を鞄から取り出し、読書を始めた。

静寂の中で流れる一秒は私にとって長く感じていた。

どのくらい経っただろうか。

突然、扉が開き、私は咄嗟に目を音の鳴る方へと移動させた。

次の瞬間、彼の姿が私の世界へ映り込んできた。

そして彼は

「悪りぃ、邪魔した。」

と言っていつも座っている隣の席に腰を下ろして読書を始めた。


それは私と彼とが話すことができる最後のチャンスだった。


私は焦りを抑えながらきっかけはないかと考えていると

一つの言葉が浮かび上がってきた。

「今日は卒業式だね。」

酷く社交辞令の様な発言をしたけど、彼はちゃんと答えてくれた。

「あぁ、そうだな。」

その言葉は私の心に染み渡った。

今まで私にちゃんと答えてくれたのは彼だけだったし、

その彼とも今日で別れてしまうからだろうと思った。

そんなことを考えていると自然と溜め込んできた思いが

溢れだしてきた。

「私ね、小さい頃から学校の中でも家の中でも

お姉ちゃんと比べられていたの。」


彼は予想外の答えをした。


「そりゃたまったもんじゃねえな。あんな

ターミネーターみたいな人なんて誰も勝てるわけねぇよ。」


私は嬉しかった。今までそんな目で見ていた人はいなかったし、

ターミネーター呼ばわりしていて思わず、笑ってしまった。


「ハハァ、ターミネーターって今まで誰もそんなこと、

言ったことないよ。」

「だってそうだろう。あんな才色兼備の完璧人間なのに人を見る目は

とてつもなく冷たい人をターミネーターと言わず、なんて

言うんだ。」


笑いと共にどんどんと思いが出てきた。


「松下君は凄いね、お姉ちゃんの本性を見抜けるんだ。

家族でも私しか見抜いたことないのに。」

「まあ、普段ぼっちでいると他人のことを客観的に見ることが

できるようになるんだよ。」


「私と一緒だね。私もぼっちだから。」


私と彼とじゃ全然違う。


「でもね、松下君みたいにお姉ちゃんを見ている人はいなくて皆、

『お姉ちゃんは凄い』としか言わないの。

そしたら段々、私の存在に嫌悪感を抱く人が出てきたの。」


もう思いを止めることはできなくなっていた。


「今では両親もお姉ちゃんしか見てないし、欠陥品なのかなって…。」

私は十数年分の思いの丈を全て吐き出してしまった。

「そうだな、お前は欠陥品だよ。」

その言葉は骨が砕けるほどの強い衝動を与え、

崩れかけていた体がさらに崩れた。次の彼の言葉が

怖くなった私は自然と涙をこぼしていた。

「だって世の中に完璧な人間なんていやしねぇよ。

皆、欠陥品だ。俺だって英語は喋れないし、ましてや

料理なんてできない。お前のお姉ちゃんも中国語とか

全世界の言語を喋れるわけじゃない。だからお前は

欠陥品で俺も欠陥品だ。」

その言葉に驚いていたけど、すぐに彼なりの優しさと

いうことに気付いてしまった。私はしばらくの間、

ずっとこぼれ落ちていく涙と感情を精一杯こらえていた。

次第に落ち着きを取り戻した私は

「ありがとう…。」

その言葉を残してその場を去っていった。



四月に入って私は新たな学校へと転校した。

ここでも『加藤咲』の存在は知られていて私の周りにも

人が集まってきた。何度も見てきた光景だ。

いつもなら大人しく地味な私を演じていたけれど、

彼の言葉を聞いて以来、昔の自分がバカらしくなって

だから私ははっきりと宣言した。


「私とお姉ちゃんは全然違うよ。」


今度、彼と会った時にちゃんとはっきりとお礼を言おう。

「ありがとう。」


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