2話/日常生活に楽しさが
ただいま3話を思案中…。
図書館の仕事は月一回の集会と担当曜日に図書館を管理することだった。
私たちの担当は金曜日で放課後、
図書館へ向かおうと教室を出るために立った時には彼の姿はもうなかった。
廊下を出ると秋の終わりとあって空気が冷たく、
体中の感覚が研ぎ澄まされて肌に当たる空気は肌に染みた。
図書館の扉を開けようと取っ手の部分を触ると金属で
できていたため、冷たかったけど、構わず、扉を開けると
中には十数人の生徒と貸し出しカウンターの中には彼がいた。
私もカウンターの席に座ろうとしたけど、一つの問題が発生した。
貸し出しカウンターの出入り口を彼が塞いでいたのだ。
魔法を使えない限り、物理的に問題を解決しなければならなかったけど、
私にはその手段を持ち合わせてはいなかった。
それに彼は男子だったのでなおさら難易度は上がった。
私が困った顔をしていると彼はこっちに気付いて状況を察してくれたのか、
「悪りぃ」
と席を立って道を譲ってくれた。お辞儀をして道を通してもらい、
ようやく、奥の席に座ることができた。
これが彼と初めてのやりとりだった。
しばらく席に座って本を読んでいると前方から男子生徒が
向かってくるのが目に入った。
私はてっきり彼の方へ向かうものばかりだと思っていたけど、
男子生徒は私が『加藤咲の妹』だが、周囲からは不愛想だという
イメージを知らなかったのだろう、真っすぐに私の方へと向かってきた。
私は男性恐怖症の影響で大きく動揺してしまい、
しどろもどろになってしまっていた。
隣にいた彼はそんな私を見かねて男子生徒の対応をしてくれた。
私はお礼を言おうとしたけど、彼も男子であることには
変わりなく、一言言うのにも勇気がいり、実際には
「あ、ありがとう…。」
とかすれた声しか出なかった。
その後は男子生徒が来る度に彼はすべて対応してくれた。
彼の行動は一部の男子生徒には嫌われる行動であったものの
彼は何の文句も言わずに対応してくれた。
そういえば彼は一年の頃から一緒で『加藤咲の妹』ということは
知っているのにその件についても一切触れてこなかった。
私はそんな彼に安心感をうっすらと抱いていた。
そうだ、今度お礼に何かプレゼントしよう。
休日になるとデパートへ出かけ、彼に何をプレゼントしようか
迷っていた。今まで男子に贈り物なんてしたことがなかった私に
とって大きな壁だった。
LUSHの石鹸は男子には論外だし、
彼は本を読んでいたものの好きそうな本のジャンルなんて知らない。
本屋で何がいいか模索していると本が並ぶ空間の中に
ブックカバーが並んだコーナーがあった。
そのとき、直感的に彼へのプレゼントが決まり、後は柄を選ぶだけだった。
紅色の紅葉柄に水色に蓮の葉が描かれた柄もあった。
その中でも私は深い深緑色の背景に様々な体勢をした
パンダに魅力をひかれた。彼はいつも教室で居眠りして
目の下にはパンダの様な顔をしていたのでパンダと彼とが被って見えたからだ。
私は迷わず、購入したものの彼にプレゼントを渡す
タイミングが分からず、気が付けば図書委員になって三ヶ月が
経っていた。今日こそはと私は仕事帰り、彼に思い切って声を掛けた。
「この後、予定ない?」
彼は最初、驚いていたがいつもの口調で
「特にない。」
と言って真っすぐに私を見つめていた。
時刻はもうすぐで下校時間を差していた。
学校で渡すチャンスはなかったので近くのカフェと
場所を移した。カフェの店内はマスターとお客さん
一人しかいない寂しい場所だったけど、顔見知りがいないのは助かった。
席に着くと私はコーヒー、彼は紅茶を頼んだ。
コーヒーを飲めない彼に可愛らしさを感じながら
テーブルに置かれたコーヒーを飲んだ。
私はふいに彼と二人きりになっている状況に気付き、
急に恥ずかしくなって黙り込んでしまった。
五分くらいたっただろうか、私には長く感じた時間だったけど、
彼は何も言わずに待っていてくれた。
そして私はこのままではいけないと口を開けた。
「あ、あのねぇ、松下君…。今日はお礼が言いたくて…。
い、委員の仕事じゃ、男子全員の受付を任せちゃって御免なさい。」
私は自分でも何を言っているのか分からないくらい興奮しながら
鞄の中からプレゼントを取り出した。
続いて私は両手に持ったプレゼントを突きつけながら言った。
「た、たいした物じゃないけど、う、受け取って下さい。」
彼はなんだか恥ずかしがっていたけど、
「たいした物じゃない物を受け取らせていただきます。
別に礼なんてよかったのに、ありがとな。」
と悪戯交じりに答えてくれた。
そのまま、彼はプレゼントを鞄の中に閉まって中身を確認しようとはしなかった。
私にとって今の状態でも緊張して鼓動がたかなっているのに
彼にプレゼントを開けられてしまったら心拍数が
OVERして死んでいたと思う。
彼の気遣いもあって私は無事にカフェから生還することができた。
別れ際になると私は自然とある言葉を口にした。
「これからも宜しくね。」
彼は「あぁ。」と一口だけ言って帰っていったが
私は悪い印象は受けなかったし、彼らしさをその言葉から感じた。
プレゼントを渡した事実は私に男性恐怖症克服の第一歩となった。
それまで男子に対して抱いていた恐怖心を彼からあまり感じられなくなっていた。
それからは二人でよくあのカフェに通うようになっていた。
私にとって彼は初めてできた友人でもあったので
一緒に過ごす日々は楽しかった。次第にほかの男子に対しても
恐怖心は消えていき、今では普通に受付もできるようになった。
ふとカウンター席の後ろにあるカレンダーを見ると
日付は二月の終わりを差していた。




