フラッシュ・バックと決意
━━━━━━━どうして?私がいけないの?
お母様が泣いている。私の大好きな優しいお母様が。
お母様、泣かないで。何も悪くないんだから。
━━━━うるさい!おまえらさえ、おまえらさえ居なければ!
お父様が叫んだ。私の大好きな優しいお父様が。
お父様、お願い落ち着いて?お母様、大丈夫よ。全部嘘っぱちよ。
━━━━あなた、ごめんなさい、ごめんなさい…
お母様、謝らないで。私が居るから。大丈夫よ。
━━━━━━うるっせえんだよ!
お父様、やめて!お母さんは無いも悪くないわ!
お父様?どうして、どうして私を叩くの。
怖いよ。怒らないでお父様。ごめんなさい。
痛いよ、お母様助けて。やめてやめてやめていたい痛い痛いわ!
「━━━━やめて!」
叫んだ自分の声に驚いて、目を覚ました。
「はぁっ、はぁっ」
今のは、夢?怖い夢を見た気がする。
お母様が叩かれて、お父様を怒ったらお父様が叩いてきて━━━━変にリアルな夢だった。
「はぁっ、はぁっ」
変だな、私そんな事覚えていた分けないのに。
「はぁ、はぁ」
今も、叩かれたところがずきずきするみたいに痛む。
今でも、胸がドキドキする、息が詰まりそう。
手足が、震える。
「はぁっ、はぁっ、はぁ、はぁ」
頬から汗が伝う。服が汗でぐっしょりとして、肌に張り付く。気持ち悪い。
「はぁっ、はぁっ」
あ、あれ?息が、しづらい。
苦しい、苦しい。怖いよぅ。怖いよ。
「はぁっ、はぁっ。はぁはぁ、はぁっ……」
ローブを握り絞め、一人うずくまる。
息が出来ない。どうしたの私。何が起こってるの?
どれくらいそうしていただろう。動機が収まる頃には、握りしめたローブにきつく手のしわが出来ていた。
汗びっしょりの額をこすり、改めて立ち上がる。
「私はエルフ。神秘の種族。何も怖くない」
歌うようにつぶやいた。小さな頃、お母様が歌ってくれたわらべ歌。
勇ましくて気の強いエルフの女の子が、あちこちを冒険するストーリー。
女の子がとにかく勇ましくて、聞けば聞くほど勇気が出たっけ。
どうして今まで忘れていたんだろう。あんなに好きだったのに。
「大蛇に飲まれようと、決して負けはしない。己の生きる意味を知るまで、決して死にはしない」
海の見えるバルコニーで、お母様と二人。いつまでも寄り添って歌っていた。
「幾度罪を重ねようと、決して逃げはしない。そう私はエルフの娘。決して負けはしない」
私の生きる意味って何?と聞いたら、分からないと答えられたのだった。
そうだ、分かった教えてね。って言われたのよ。
━━━━━━━━━━━そうよ。
私はこのまま死ぬわけにはいかないの。小さい頃約束したのよ。
分かるまで死なないこと。分かったら教えること。分かるまで忘れないこと。この三つ。
なんで今まで忘れていたのかしら?
死なないでと、あんなに言われたじゃない。
「決めた、私は。決して逃げない。決して忘れない、自分の罪を」
一人残ってくれたあの貴族の少女に、生きてるうちに恩返ししてやる。
絶対に死ぬものか。死と言う方法で逃げはしない。私は幸せなどいらない。
そうだ、墓を作ろう!あの女の子の。
「━━━━よし」
決めた。
「私はどんな手段を使ってでも生き延びてやる」
幸せになんて成るもんか。
死ぬなんて逃げるもんか。
ただ約束を
ただ恩を
「果たすその日まで」
歌の最後の歌詞を歌い上げ、ナイフをそっと撫でた。
照りつける眩しい太陽がビルとビルの間から覗き、ナイフをてらす。
ナイフに映る太陽と、私。
死んだ瞳に太陽よりも狂おしい熱を宿して。固く結んだ唇はもう震える事はなかった。