表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

歩き出す道の先。何を示すか道化師達よ。

そして物語は終結へ。いやいや、もそっと待たれいよ。青年は達どこへいった?この物語は、道化師達のためにあるんじゃないだろう?少女を救わんと立ち上がる、青年はいつだって泣いていた。だから誰も救われない。青年よ、笑え。君はもう、答えを掴める。少女を救える。だから……少女のために、泣け(笑え)。


---------



「…………っ!?はぁ……また、あの夢か………」


毛布を蹴飛ばし起き上がった青年は、多量に汗をかいていた。

青年は流れ出ていた汗を、近くにあったハンドタオルで拭き取ると、置時計を確認して立ち上がる。首を回して視線を部屋に回すと、和式の簡素な部屋が視界におさまる。いつも綺麗にしてくれている、彼女に感謝しながら立ち上がる。

無言のまま部屋を出ていく青年。部屋を出ると、廊下と縁側が組合わさった場所へ出る。縁側でお茶を飲んでいる少女を撫で、お互いに微笑む。しかし、すぐに無表情に戻り、歩いていく。その後ろを、微笑みながら少女がついていく。廊下を歩いていくと、突き当たりに扉があった。その扉を開けて、青年と少女はそのまま入っていく。入ると洗濯機と洗面所があった。青年は着ていた服を脱ぎ、洗濯機へと放る。それを確認した少女は、洗濯機を起動する。そのまま、青年は洗面所にある鏡を見る。


「まずいな……髭が……」


呟くと、少女が洗面台の棚にあった、カミソリとクリームを手に取り手渡す。それに感謝し、青年は顎や頬、髭のある場所にクリームを塗り、カミソリで剃っていく。ゴウンゴウンと洗濯機が洗濯する音が聞こえてくる。青年は髭を剃り終わったのだろう、蛇口を捻って水をバシャバシャと顔にかける。少しスッキリとした表情の、シュッとした精悍な顔つきが鏡に写る。それを見ていた少女が微笑み、青年にタオルを当てて水をぬぐっていく。

少女に感謝するように青年は頷き、洗面所から来た道を戻り、箪笥から黒いTシャツとトランクスを取りだし、部屋に掛けてあった制服と共に着替える。部屋にある姿見に映る青年は、スポーティーなモブキャラといった、平凡な容姿をしていた。

共にいた少女は、青年と違う方へ歩いていく。青年と来た道を途中で逸れて、台所と居間が繋がっている場所へと来る。


「ん~……今日は焼き鮭。お味噌汁は……ほうれん草と……」


少女が一人言を呟きながら、朝食を用意していく。出来上がる少し前に、すでに青年は席についてぼーっとしていた。ふふ、と少女は微笑む。愛しい青年が、そこにいることに……ただ。幸せを感じる。配膳を済ませて、青年と、いただきますと合掌する。ゆったりと食べながら、少女と青年は談笑する。朝のちょっとしたヒトコマ。


青年は、少女を見て……悲しそうに笑った。

少女は青年を見て、楽しそうに泣いた。


朝食も登校準備も済ませた二人は、家の鍵を閉め、手を繋いで歩き出す。ゆったりと通学路を歩きながら、ご近所様に挨拶していく。にこやかに少女は挨拶し、爽やかに青年が挨拶していく。それに温かく返してくれる。途中で何度か冷やかされてしまうが、まんざらでもない気持ちだ。ありがたく思いながら、青年と少女はゆったりと歩いていく。右手側に桜並木が現れ、青年は一度立ち止まる。少女が繋いでいる手を引っ張って、先を促す。


そして、猫が通りすぎる。


ブロンドとダークホワイトのコントラスト。狐のような猫。桜並木の先へ、青年達より先へ。途中で振り向き、青年達を見据える。ここまでこれるか?君は彼女を護れるか?その、集めた言葉で、闇を……心に広がる闇を、振り払えるのか?青年よ。護られてきた道化師達よ。今一度、彼女を蝕む深い闇と……対峙しよう。猫は黙って青年を見据えている。繋いでいた手は、いつの間にかほどけていた。彼女が、その傍から、いなくなっていた。代わりに、青年を闇が包む。愛しそうに、護るように。


「ああ。行こう。俺が、俺だけが彼女を救える」


仮面を脱いだとき、決めたはずなのに。二十年も無駄にした。何度も何度も繰り返し、ようやく悪夢--現実--は動き出した。なら、行かなければいけない。ずっと、現実(悪夢)に入り浸ってきたんだ。悪夢(現実)を受け入れよう。そう。彼女(暗闇)がいつだって、護ってくれたのだから。


-----------


青年は一歩を踏み出した。闇を纏う青年に、怖れるものは何もない。いつの間にか、肩に乗っかっていた愛猫を優しく撫でて、桜並木の先へと進む。何度も何度も繰り返してきた日々が、桜の木々の隙間から、スライドしていく。今にして思えば、何とも思わなかったのが不思議なくらい、幸せすぎた(不自然だ)。彼女が笑い、青年が笑い、愛猫が鳴く。彼に冷やかされ、少女は顔を赤くし、青年が肯定する。愛猫がハムスターと喧嘩しては、彼女が宥め、彼が謝罪し、青年が締めくくる。


不自然なくらい、自然に溶け込んでいた。そう。何故、ハムスターが存在する?青年が猫モブと称される由縁は、珍しい猫を乗っけているから?猫にしか愛情を示さないから?違う。本来であれば、学園に入れないから(そこいないから)。


「あたかも、俺が不自然でないように」


びきっ。音が聞こえ、視界が歪む。違う。桜並木の風景が、砕けている。そしてまた、記憶がスライドしていく。少女と共に、町を巡っているとき。大津波が襲ってきてもと、二人で決めた、高い丘の上に建つ、安い平屋建て。学園に通うには、階段を下り続けなければ行けない。そもそも、桜並木は学園に続いていない。桜並木の先には……そうだ。彼女がいる、病院がある。そう。現実(悪夢)には無い。彼女が笑えるように、嘘をついていた。


「俺は……誰も救えない。だけど……笑わすことは、できた」


パリンッ。砕ける。硝子のように、砕けた先。桜並木の先へ続く道が、表れる。まだだ。まだ、受け入れていないモノがある。それは……。彼女(愛猫)だ。俺は、愛猫(彼女)をゆっくり撫で、持ち上げ……地面へと、叩きつける。かつて、彼女が俺を殺したように。俺は彼女を殺す。叩きつけられた猫は、硝子のように砕け、飛び散った。そして、取り巻いていた闇が、いっそう強く、青年を包む。ゆっくりと、彼女が歩いてくる。


「ねぇ。何で、逃げるの?」


「逃げる?違うよ。立ち向かってるんだ」


微笑みながら言う、彼女(何か)に青年もまた、微笑みながら言う。


「嘘よ。貴方はいつも嘘つき。私のために、嘘をつく」


「それも違う。俺は俺のために嘘をついた」


「どうして?私はずっと、貴方の嘘に救われてた」


「ほらまた。違う。救われてたのは俺の方」


悲しそうに、少女は目を伏せる。逆に青年は、晴々しく歩みを進める。


「俺は俺のために。君は君のために。虚実(真実)を明かそう」


「いや、いや。嫌よ……お願い……」


「迷う道はもうない。まっすぐ進むさ。悪夢(現実)に向かって」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ