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第七話

「なかなか、ばれないものなんですね」

「先輩がへまをしなければばれるような事はねえよ。一応、あいつの話を信用して、学園の教師陣は先輩がここに住んでいる事に関しては目をつぶってくれるからな」


 圭吾が帰宅した後に優夢は数日間、友人達にも伐の家に住んでいる事がばれていない事に胸を撫で下ろす。

 伐は当然だと思っているようで気だるそうに言うとタバコに火を点ける。


「目をつぶってくれるってどう言う事なんですか?」

「国家権力と付き合いがあれば、色々と便宜を図って貰えるからな。協力せざる終えねえんだよ。だけど……先輩がいつ、ぼろを出すかだな」

「あう……ど、どうしたら良いでしょうか?」


 学園側には真の提案に乗るだけのメリットがあるが、伐は優夢との生活が彼女の友人達にばれるのは時間の問題だと思っているようでわざとらしくため息を吐いた。

 伐の言葉に優夢も自覚はあるようで気まずそうに視線を逸らすと、伐に何か誤魔化す方法はないかと聞く。


「先輩、それなりに成績良かったよな?」

「えーと、ま、まぁ」

「それは結構……」


 伐は優夢のその言葉を待っていたと言いたげに口元を緩ませ、彼女に成績について聞くと優夢は遠慮がちに頷く。

 優夢の返事に伐は立ち上がると机の隣にあるプリンターから、紙束を取り、優夢の前に置いた。


「今度はなんですか? えーと、従弟?」

「あぁ、従弟だ」


 優夢は資料に目を通そうとすると最初に学園では伐と優夢は従姉弟として振る舞うようにと書かれており、優夢は意味がわからないようで首を傾げる。


「む、無理に決ってるじゃないですか? 友達は黒須くんの事をなぜか彼氏だと思ってるんですよ。それを突然、従弟はあり得ないですよ。無理がありますよ」

「無理ね。俺が学校でお姉ちゃんとでも言えば信用されるか?」

「お姉ちゃん? ……何か違いますね。お姉ちゃんと呼ばれても黒須くんは何か可愛げありません」


 優夢は無茶があると主張すると、伐は冗談交じりで優夢を『お姉ちゃん』と呼ぶと言う。

 その冗談に優夢は一瞬、ぐっと来たようだが、彼女の求める弟像と伐はかけ離れており、あり得ないと言い切った。


「そう思うだろ。そんな可愛げのない従弟が学校でお姉ちゃんなんか、呼ぶかよ。嫌味ったらしく、先輩と言ったっておかしくねえだろ? そして、従姉の姉ちゃんが名前呼びでもしてみたら」

「……怖いですね」

「それでもお互いに一人暮らしだと問題があるから、両親が口うるさく言うから、面倒そうに様子を見に行ってる」

「ありそうです……黒須くん、どこかツンデレ風味だから」


 伐の態度の悪さは辺に格好をつけたがる高校生男子特有のものにも見えたようで優夢はどこか納得できたようで大きく頷くと以前から思っていた言葉を口から滑らせて言ってしまう。

 それに気が付き、優夢は慌てて口を両手で押さえるが既に遅く、伐は冷ややかな視線を彼女に送っている。


「す、すいません!?」

「別に何も言ってねえだろ」


 伐の視線に優夢は怒られると思ったようで慌てて頭を下げるが、伐は気だるそうにため息を吐く。


「そ、そうなんですけど……怒られる気がしたもので」

「それは勝手な思い込みだろ。別に今までだって、怒った記憶はねえよ」

「……言われてみれば確かに」


 伐の態度が逆に恐ろしく感じたようで身体を縮めるが、伐自身は優夢を怒鳴りつけるような事はほとんどしておらず、伐は欠伸をしている。

 伐に言われて、優夢はセクハラまがいの事やきつい事を淡々と言われた事は有っても伐に怒鳴られた事がない事に気が付いたようで小さく頷いた。


「感情任せで怒鳴りつけるなんて、無駄な労力でしかねえからな。冷静に状況をつかみ、考えろ。そうすればある程度の答えは見つかる。おかしな事を言われても冷静に対処しろ」

「は、はい。わかりました……あっ、すいません」

「珍客がきたから、夕飯がまだだったな。電気を消してこいよ」


 伐は優夢に慌てないように言い、彼女が頷いた時、優夢のお腹が可愛い悲鳴を上げてしまい、顔を真っ赤にしてうつむく。

 そんな彼女の様子に伐は小さく表情を和らげると立ち上がり、タバコをくわえたまま部屋を出て行き、優夢はしばらく使う事になるであろう自分と伐の設定資料を手に持つと慌てて伐の後を追いかける。


「あの、黒須くん、夕飯、私が作りましょうか?」

「そんな事を言うヒマがあるなら、一つでも設定を覚えておけよ」

「で、でも、ここに来てから、食事の準備って、いつも黒須くんだから……悪い気がして」


 キッチンに伐が立つ姿は、二人にとってはいつもの光景なのだが、優夢は申し訳なく思っているようだが、伐は優夢に設定を呼んでいるように言う。


「悪いな。俺は不味い物は食いたくない」

「べ、別に私が料理が下手なわけじゃありません!! だいたい、黒須くんは私の料理を食べた事がないじゃないですか!! 黒須くんが料理上手なのは認めます。と言うか、何で、黒須くんは料理が上手なんですか」


 しかし、伐は優夢を料理下手と決めつけたように言い、優夢は自分は料理上手だと主張するように居間のテーブルを手で叩く。

 その様子からは彼女自身、伐の方が料理上手の事は認めているようにも見え、不満そうに声をあげる。


「センス」

「うっ……」


 伐は表情を変える事無く、才能の問題だと言い切ると優夢は言い切られてしまった事に逆に言い返せなくなってしまい、吐きだす事のできない感情が胸に残ってるようである。


「私だって、黒須くんまで行かなくても、料理できるんです。一人暮らしだって始めて一年立ちますし、お弁当だってずっと作ってたんですから」

「一年ね」

「今、鼻で笑いましたね?」

「言いがかりだ」


 優夢は自尊心を満たすようにぶつぶつとつぶやいているが、伐は彼女の言葉を鼻で笑う。

 伐の行動に優夢は悔しそうに声をあげるが、伐は因縁をつけられる理由がわからないとため息を吐く。


「そんな事はありません」

「なら、他の人間がキッチンに入るのがキライだって事で納得しておけ。少なくともここにいる間はキッチンに立たなくて良い」


 キッチンを自分に譲らない伐の態度は優夢にとっては許せないようで声をあげると、彼女の反応は予想外だったようで伐は眉間にしわを寄せる。


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