第四話
「で?」
「で、じゃないよ。と言うか、一応、僕も刑事なんだから、当然のようにビールを開けないでくれるかな?」
伐は缶ビール片手にソファーに腰を下ろすと、真は呆れたようにため息を吐いた。
「刑事? 近江さんって、警察の方だったんですか!? く、黒須くん、刑事さんと知り合いになるなんて、何をしたんですか? わ、私は何もおかしな事はしてないです。黒須くんと知り合ったのも先日ですし、私は悪い事はしていません!!」
「あれ? 言わなかったかな?」
「……言ってねえな」
優夢は真が刑事だと聞き、驚きの声をあげると全力で自分は無実だと主張する。
優夢の慌てる様に真は苦笑いを浮かべると伐に確認をするが、伐は興味なさそうに欠伸をしている。
「まぁ、ノラ猫くんがいろいろとおかしな事をやってるのは知ってるけど、今のところ、ノラ猫くんに手錠をかけるつもりはないよ。優夢ちゃんはノラ猫くんに首輪をつけたいみたいだけどね」
「あ? 縛られるのは趣味じゃねえよ。俺の肢体は商品なんだからな。後が付くと価値が下がるんだよ。と言うか、処女だって、推してるわりには拘束好きの変態かよ。先輩」
「わ、私はそんな事、一言も言っていません!! 黒須くんも近江さんもどうして、私を変態にしたがるんですか!!」
「ノラ猫くん、これ、話の本題ね」
真と伐はある種の協力関係にあるため、伐を逮捕する気などなくわざとらしく両手を広げる。
その言葉の中にはまたも優夢をからかう言葉が混じっており、伐はビールに口を付けながら真の言葉に乗っかり、彼女を変態だと言う。
優夢は自分は変態ではないと声を張り上げるが、真は気にする事無く、伐の前にUSBを置く。
「……で、今度はどこのお偉いさんの娘が何やらかしたんだ?」
「いやいや、そっちじゃなくて、この間の被害者の詳細、ノラ猫くんが気にしていたみたいだからね」
「別に気にした覚えはねえよ……」
真は口元を緩ませていると伐は机の上に置いてあったノートパソコンを運んできて電源を入れる。
伐はUSBをパソコンにつけ、中に入っていた情報へと目を移す。
情報を精査しているようで、伐の表情は目つきが鋭く真剣そのものであり、真は彼の変化に楽しそうに笑っている。
「あ、あの。この間の被害者って?」
「優夢ちゃんのストーカーが起こした事件の被害者かな? まったく、優夢ちゃんのおかげで大変なことに巻き込まれちゃったよ」
「私のせいじゃないです」
話について行けない優夢は真に何の話をしているかと聞く。
真は伐と優夢が知りあうきっかけになった事件の事を言っており、優夢はその言葉で自分が責められている気しかしないようで身体を縮める。
「そうだね。全然、優夢ちゃんは悪くないよ。ただ、優夢ちゃんが間が悪かっただけだよ」
「ぜ、絶対に責めてますよね」
「だろうな。何度も口説かれてたんだから、その時にお持ち帰りされていれば、少なくともここまでの騒ぎにはならなかっただろうな」
笑顔で優夢を責めていないと言う真だがその笑顔には迫力があり、優夢は真の言葉が嘘だと感じた優夢は涙目で訴える。
伐はパソコンのディスプレイに視線を向けたまま、優夢に原因があると言い切った。
「そ、それは私があの人に食べられてしまえば良かったって言うんですか?」
「そこまでは言ってないけどね。今回は被害者も無事に生きてるし、問題はないよ。それでノラ猫くんは気になる事を見つけたかな?」
優夢は自分も被害者だと主張し、彼女の言い分ももっともであるため、真は笑うと伐に情報から何かわかったかと聞く。
「……おい。先輩の身柄はそっちで守る気はあるか?」
「優夢ちゃんの身柄? 何を言ってるんだい。警察は犯人さえ捕まってくれれば誰がどうなろうと関係ないんだよ。優夢ちゃんが心配なら、ノラ猫くんが守ってあげたら良いんじゃないかな?」
「ど、どう言う事ですか? 私、また、おかしな事に巻き込まれてるんですか!?」
真が持ってきた情報の中には伐が気になる事もあったようであり、警察に優夢の警護を任せられないかと聞くが、真は優夢の安全など興味はないようであり、ため息を吐きながら人任せにしないで自分で守れば良いと言う。
伐と真の言葉は優夢にとっては聞き捨てならない言葉であり、優夢は詳しい話をして欲しいと伐に詰め寄る。
「……この中に先輩の顔見知りはどれだけいる?」
「ノラ猫くん、見せちゃって良いの? 後々、面倒な事になるのは僕はイヤだよ」
伐はディスプレイを指差し、優夢に被害者の顔写真を見るように言う。
真は捜査資料でもあるためか、伐だけならまだしも一般人の優夢に見せるべきではないと首をひねった。
「見ても良いんですか?」
「見ねえと始まらねえんだよ」
「優夢ちゃんに見て貰っても、僕達も調べたけど、被害者達に共通する物はなかったんだけどね。まぁ、見るだけなら見ても良いよ」
真の様子から見てはいけないと思ったようで、困ったように笑う優夢だが、伐は早くしろと舌打ちをする。
真は優夢が見たところで何もわかる事はないと言いたげにため息を吐くと伐が何か言うには意味があるとも思っているようでしぶしぶ許可を出す。
「大丈夫だ。先輩には口止め料も渡してあるからな」
「口止め料? そう言えば、そんな事を言ってましたね」
「被害者の中に大金を払ってバカな娘を探して欲しいって言ったバカ親がいるんだよ。体裁とか何とか言ってな。それより、さっさとしろ」
伐は優夢に口止め料を支払っているため、心配ないと言うと優夢は伐の言葉を思い出したようで首を傾げた。
興味無さそうに伐は依頼主の話をすると優夢にもう一度、被害者の顔を見るように言う。
「えーと、失礼します……」
「知り合いはいるのかい?」
「何人か、顔を知ってる人はいますけど、話した事もないです」
優夢はディスプレイを覗き込むと知っている顔がいくつかあったようで、彼女は首を傾げる。
真は彼女の様子に何か感じたようで直ぐに声をかけるが、優夢には顔を知っては居ても知り合いではないと首を横に振った。