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第十九話

「……茶番だな」

「は、蓮沼先輩!?」

「やっぱり、出てきやがったな」


 一瞬、緩んだ空気を壊すように由貴の口からは彼女の声とは思えない男性の声が聞こえる。

 その声と同時に先ほどまで由貴の首筋に食い込んでいた大鎌は弾き飛ばされ、大鎌の柄は伐の腕に納まる。

 突然の事に優夢は驚きの声をあげるが、伐は最初から由貴の中に何かいるのを知っていたようで視線を鋭くした。


「久しぶりだね。伐」

「……久しぶりね」


 由貴の中から顔をのぞかせた存在は伐を挑発するように笑う。

 その言葉に伐の警戒を引き上げるだけではなく、伐は先ほどまでとは違い鋭い視線を向けると優夢をかばうように前に立つと大鎌を由貴へと向ける。

 

「せっかくの再会なのにずいぶんと冷たいね。せっかくの再会なんだから、お茶の一杯でも用意してくれたら良いのに」

「できれば、二度と会いたくなかったけどな……違うな。消し去ってやるよ」

「怖い、怖い」


 伐の態度が不服だと言う声に伐は舌打ちをするが、直ぐに良い機会が現れたと思ったようで声に殺気を込めて言う。

 しかし、その声は伐をあざ笑うかのようにおどけるが、伐の事などまったく怖いとなど思っていないようにも見える。


「……てめえ」

「く、黒須くん、落ち着いて下さい」


 その声の様子に伐の怒りのボルテージは引き上がった。

 いつも冷静で感情的にならない伐の様子が変わった事に優夢はこのままでは不味いと思ったのか彼の服を引っ張り、落ち着くように言う。


「ほらほら、伐、そっちの娘に言われてるよ。何事に対しても冷静に、そうしないと周りが見えなくなるんだ。そんなような事を言ってた人間がいたような気がしたね。あー、そうだ。もう死んじゃったんだよね。誰のせいだったかな?」

「……黙れ」


 伐と優夢の様子にその声は楽しそうに笑った。

 それはさらに伐から冷静さを奪う言葉であり、拳を握りしめ、その手のひらには爪が喰い込むが伐の手からは血がにじむような事はない。


「良いや。今日はただの顔見せだよ。再会を祝して、プレゼントをあげるよ。まぁ、実際は手ゴマに置いておくほど役に立たなかっただけだけどね」

「蓮沼先輩!?」


 伐を挑発はして見たものの、自分に襲い掛かってくるほど感情的にならない事につまらないと言いたげにその声は言うと伐と優夢に向かってプレゼントを贈ると笑う。

 その瞬間に由貴は糸が切れたように膝から崩れ落ち、彼女の背後からは黒い靄が抜けて行く。

崩れ落ちて行く由貴の様子に優夢は身体が自然に動いたようで慌てて彼女を支える。


「……ずいぶんと器用な真似をするようになったな」

「こっちも長い間、歪みをやってるといろいろと考える事があってね。伐、君が俺のものになるなら教えてあげるよ」

「……お断りだ」

「それは残念だね」


 由貴から抜けた黒い靄は人型へと姿を変えが顔には目や鼻、口と言った本来あるべきものは何もない。

その様子に優夢は息を飲むが優夢になど目を向ける事なく、黒い靄は伐に自分の元に来るように言う。

 その瞬間、伐は大鎌を振り下ろし、黒い靄を真っ二つに切り裂いた。

 しかし、黒い靄にはダメージなどないようで二つになりながらもわざとらしく肩を落としている。


「……まぁ、良いや。今度は伐の気が変わるように極上のエサでも用意しておくよ。伐が完全に歪み(こっち)側に堕ちてくれるような絶望をね。あいつの死では足りなかったみたいだしね」

「な、何ですか?」


 黒い靄は伐を挑発するように二つになった身体を両手でくっつけると伐の顔を覗き込んだ後、目のない顔を優夢に向けて言う。

 その言葉は伐にとって優夢が何か重要な位置を占めているとも聞こえ、優夢は何を言われているのかわからないのか声を裏返した。


「気にしなくて良いよ。どうせ、近いうちに知る事になるから、それじゃあね。伐、また今度」

「……」


 黒い靄は伐へと再会を告げるように言うと霧散して行き、伐は険しい表情で靄が消えてなくなった空間を見つめている。


「く、黒須くん、あの」

「……取りあえず、そいつの歪みはあいつが寝こそぎ持って行ったみたいだ。ベッドにでも寝かせてやるか?」

「ま、待ってください。私も行きます」


 伐の様子に何かを感じたようで優夢は心配そうに声をかけるが、伐は何かを言う事はなく由貴を抱きかかえると客室に向かって歩き出す。

 優夢は気を失っている由貴に伐が何かおかしな事をしても困ると思ったようで慌てて伐を追いかける。


「……心配しなくても気を失った女を抱くような趣味はねえよ」

「そんな事を言うから、信用できないんです!!」


 すぐ後ろを付いてくる優夢の様子に伐はため息を吐くが、先ほど、伐に襲われていた優夢には彼を信用する理由はなく、由貴を守ろうとしているのか威嚇するように伐を怒鳴りつける。


「……信用させといて薬だなんだを使う男だっているんだ。それよりはやらせろとか素直に言った方が警戒しやすいだろ」

「そう言う問題じゃありません!!」

「……静かにしろよ。せっかくの金づるが起きるだろ。せっかく、報酬が高くなるような展開になったんだ。丁重に扱わないといけねえんだからな。それより、付いてくる前にあの速水って奴にでも連絡入れろよ。俺に食われないか心配なら、先にやるべき事をしろ」


 伐はうるさいと言いたいのかわざとらしく指で耳の穴を押さえると、伐の行動はさらに優夢の怒りに火を点けた。

 しかし、伐にとっては今は由貴は依頼料を受け取るためのエサであるため、おかしな事はしないと言い切ると懐から携帯電話を取り出して優夢の前に差し出す。


「確かにそうかも知れないですけど……わかりました。もう一度、言いますよ。絶対におかしな事はしないでください」

「わかってる……流石に今はそんな気分でもねえしな」

「ま、待ってください」


 優夢は納得はいかないようだが悠馬に連絡を入れないといけないのは確かであり、伐の携帯電話を手に取ると一度、伐に釘を刺した後に悠馬の電話番号を探す。

 伐は先ほど現れた歪みとの会話に何か考える事があるようであり、由貴を襲う気分ではないと舌打ちをすると優夢を置いて歩き出す。

 優夢はそれでも伐と由貴を二人にはできないと思ったようで慌てて二人の後を追いかける。


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