第十六話
「黒須くん、流石にこの数は不味くないですか?」
「……営業妨害で訴えても良いか?」
優夢のバイトが休みだった事もあり、下校時間になり二人は伐の家に帰っていた。
日が沈み、夕飯を食べ終えてゆっくりとしていた時、優夢は違和感を覚えて窓から外を覗いた。
窓の外には今朝と同じように武器を持った十人を超える男性達が家を囲んでおり、伐は面倒そうにため息を吐く。
「ど、どうして、そんなに余裕なんですか!?」
「日も沈んできたしな。俺もそれなりに力が使えるからな。それに男は操れても、人の能力を底上げできるような能力はねえだろ。それにこの間のバカ男は蓮沼家の血を引いていたから適正があったから、力を使えるようになっただけだろ」
伐の家はテナントビルの2階にあり、玄関までたどり着くには屋外にある階段を上ってこなければいけない。
伐は自分の家を囲んでいる男性達は操られているだけで歪みのような異質の力は持っていないと言う。
「そうなんですか?」
「朝、バカからこいつを拝借したからな。能力の分析くらいしている」
「黒須くん、そう言う事は速く行ってくださいね……でも、余裕を持ってられる状況じゃないですよね!?」
伐が左手を開くと彼の手のひらの上には黒い塊が乗っかっている。
その黒い塊は今朝、男性の中から取り出したものであり、伐はその塊の中から由貴の歪みの能力を分析していたようで相手ではないと欠伸をして答えた。
優夢は伐が余裕そうな理由を理解できたようで胸をなで下ろすが、場が好転したわけではない事に気が付き、直ぐに顔を青くする。
「で、どうする? ここで身体を震わせててもいいけど、せっかくだ。力に溺れたバカをここまで招待してやっても良いんだけど」
「じょ、冗談を言っていないで速くどうにかしてください」
伐はこの後どうするかと優夢に聞くと、優夢は伐ならすでにやる事を決めていると思っているようで速く場を治めてくれと叫ぶ。
「場を治める簡単な方法は先輩の腸を引きずり出して、あの女に奉げる事だぞ。それで良いか?」
「な、何を言ってるんですか?」
「学園であの女が俺に接触してきてな。先輩を殺せば、ここで場を治めてくれるって言ってたんだ。俺も死が近い老いぼれの依頼を受けて面倒になるより、そっちの方が楽で良い」
「じょ、冗談はやめてください!?」
伐はその気はないが優夢を怖がらせようと思ったのか、口元を緩ませながら優夢を殺すと言う。
その言葉に優夢は顔を真っ青にしながら首を横に振るが、伐は一歩一歩、彼女との距離を縮めて行く。
伐の様子はいつもの彼とは違ったように見えたようで優夢が声を上げるが、伐は表情を変える事なく、左手を彼女の顔に向かって振り下ろす。
優夢は伐の拳に身を縮ませるが、彼の拳は優夢の顔に当たる事はなく、彼女の顔の横を抜け、優夢の背後の空間に突き刺さった。
「……つまらない演技ですね」
「不法侵入者に見せるのはチンケで良いだろ。それで、人として生きようと決めたのか?」
優夢は何が起きたかわからずに言葉を発しようとするが、恐怖のせいか言葉は出てこず、口をパクパクとしている。
伐は右手で優夢を引き寄せると彼女を背後に回すと、伐の左腕が突き刺さっていた空間は靄がかかったように歪み始め、その場所からは由貴が現れた。
彼女は自分の気配を察しながらも、優夢をからかう事に力を伐に呆れたのかため息を吐きながら言う。
しかし、伐は観客が悪いせいだと言うと由貴にこの場所を訪れた理由を聞く。
「先ほども言いましたけど、せっかく手に入れた力を捨てるようなバカなことをするわけがないでしょう。ここに来たのは、上質なエサを食べにきたんですよ。後はこの街をエサ場にすると決めたので邪魔なものを消しに」
「エサ場ね。男くわえこんでれば食事には事足りるんだ。わざわざ、エサを食い散らす必要もねえだろ。欲求不満で歪みに堕ちたあばずれが。それとも、先輩を性的な意味で食いにきたのか? それなら、一緒にどうだ?」
「く、黒須くん、何をするんですか!?」
由貴は伐の言葉を鼻で笑うと、伐と優夢を殺しにきたと言う。
その声に優夢の身体は完全に威圧されているようで身体を震わせながら、伐の背中に抱きついている。
そんな彼女とは対照的に伐は由貴の歪みの能力としては人間を殺す必要性を感じていないようでため息を吐くと背中で震えていた優夢を由貴の前に引っ張り出し、彼女の前で優夢の胸を揉みしだき、彼女の首筋に口づけをする。
優夢の顔は羞恥に染まり、真っ赤になっており、伐を跳ねのけようとはするが力で伐を跳ねのける事はできず、何とか抑えようとはするものの、ところどころで甘い声が漏れている。
「残念ながら、私は女性相手では興奮しないんです。ただ、あなたは殺すには惜しい男だと思っています。どうです。その女を堕落させて、私に奉げなさい。そうすれば、この娘の命くらいは助けてあげます。まぁ、私の下僕どもの玩具としてですけど」
「そうか? 悪いな。あんたみたいな。尻軽女と比べるには反応も良いからな。あんなバカどもに食わせてやるには勿体ないんでな」
伐の手の中で遊ばれている優夢の姿に由貴は興味などないとため息を吐くと、伐にはまだ未練があるようで優夢の命を助けてやる代わりに自分の下に着くように言う。
伐は元々、由貴の下になどつく気などさらさらなく、彼女の提案を鼻で笑うも彼の手が優夢から離れる事はない。
「そうですか? それなら、その女ごと消えてなくなりなさい」
「悪いな。何度も言ってるが、男を操るだけしかできない下等な歪みが俺に敵うわけねえだろ」
「く、黒須くん、ふざけてないでどうにかしてください!!」
由貴は何度も自分の誘いを断る伐にすでに興味を失ったと言いたいのか冷たい笑みを浮かべると彼女の背後からは黒い靄が溢れ出し始める。
由貴の身体に変化があろうと伐は気にする事なく、優夢の肢体を堪能しており、伐には緊張感など何もない。
優夢は由貴の変化に我に返ると何とか伐の身体を引き離し、羞恥と怒りで顔を真っ赤にして伐を怒鳴りつける。
「仕方ねえな。邪魔ものを追い返して、さっさと続きをするか?」
「続きなんてさせません!!」
伐は由貴の相手より、優夢の肢体の方が楽しいと言いたげにため息を吐いており、緊張感など何もない。




