表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/20

第十四話

「逃げるね……俺一人なら余裕なんだけど、先輩、成績はそれなりでも運動神経はないだろ」

「な、無いわけじゃないですよ」


 伐は逃げると考えた時に、優夢は足手まといだと言い切ると冷ややかな視線を向けた。

 優夢は慌てた様子に首を横に振るがその様子は明らかに図星のようであり、伐は小さくため息を吐いた。


「とりあえずは時間稼ぎか? うさんくさい男が手を打ってくれるだろ。ただ……遅刻になっても俺のせいじゃねえからな」

「そ、それはわかります」


 武器を持った男達のとの距離は縮まってきており、伐は真からの援軍が来ると言うと隣りで身体を震わせている優夢へと視線を移し、冗談なんか遅刻について言う。

 優夢は現状では遅刻程度で文句を言えない状況だと言う事は理解できているようであり、大きく頷く。


「そ、それで、どうするつもりなんですか?」

「どうするも何も、向かってくる奴を殴り飛ばす。取りあえず、後ろにでも隠れておけよ。悪趣味な奴が、こっちを見てるからな。俺を地面に這いつくばらせてから、俺と多くの観衆の目の前で先輩を朝っぱらからまわしたいみたいだぞ」


 優夢はいくら伐が強くても一人で男性十人以上を相手にはできないと思っているようで不安そうな表情で聞き返す。

 しかし、伐自身はその程度の人数など何とも思っていないようであり、男性達よりもっと奥でこちらを見てほくそ笑んでいるであろう人物へと鋭い視線を向ける。


「ど、どう言う事ですか?」

「決まってる。黒幕の目的は先輩の心を折る事、生きていたいとなんて思わないくらいにな」

「く、黒須くん!? ……どう言う事ですか?」


 伐の視線をなぞるように優夢は伐が見ている場所を見るが、そこには誰もおらず、伐は鋭い視線のまま言う。

 その時、二人に最も近づいてきた男性が伐へと金属バットを振り下ろす。

 優夢は目の前に命の危機が迫っている事に目をつぶってしまうが、金属バットが伐を殴りつけたような鈍い音がする事はない。

 優夢は恐る恐る目を開くと金属バットは何かにつかまれたように空中で止まっており、あり得ない光景に優夢は驚きの声を上げた。


「……制限されるとは言ったが、力が使えねえとは言ってねぇよ」

「そ、そう言う事は先に言ってください!?」


 伐の言葉と同時に金属バットは風化し、風に吹かれて行く。

 それは現実的にはあり得ない光景ではあるが、歪みと言う非現実的なものに触れた優夢はすんなりと受け入れてしまったようで安心したのか胸をなで下ろした。


「こんなものを吹っ掛けてくるなんて、この街の猫の名前も落ちたもんだな……あっちに行ったら大和に何を言われるかわかったもんじゃねえよ」

「大和さん?」


 金属バットが消えた事に驚く事無く、拳を振り上げようとする男性を伐は表情を変えずに殴り飛ばす。

 襲撃犯の黒幕に自分が舐められている事は理解できているようで忌々しそうに舌打ちをすると優夢は聞こえた名前に首をひねる。


「……気にする必要はねえよ。それより、動くなよ」

「は、はい」


 男性が殴り飛ばされると流石に周囲の人間達も騒ぎ始めるが、状況がわからない人間から見れば、武器を持った男性達が男子高生と女子高生を襲いかかっている姿であり、伐が優夢を身を呈して守っているようにも見え、金属バットが風化している様子から、映画の撮影か何かだろうと言う声も聞こえている。

 周囲の声に優夢は映画撮影などと言う話ではないと思うが、否定をするわけにもいかず、少しだけ肩身が狭そうにする。

 そんな事など気にする事無く伐は男性達を殴り飛ばしており、殴り飛ばされた男性が積み重ねられて行く。


「……本当に倒しちゃいました」

「何がすぐ人を寄こすだ。一人も来ねえじゃねえかよ」

「あ、あの、黒須くん、この人達って、操られてたんですよね? 本当に黒須くんに恨みがある人達じゃないですよね?」


 襲いかかってきた男性達を沈め終え、舌打ちをする伐の様子に優夢は顔を引きつらせ、積み重なった男性達へと視線を向けた。

 優夢は自分が狙われている事は理解しているものの、どこかで認めたくないようで伐自身が狙われたのではないかと聞く。


「あ? 俺は他人に恨まれるような生き方はしてねえよ」

「……それは絶対に嘘です」

「あれ? もう終わったの? せっかく、急いできたのに」


 伐は男性達に見覚えなどないと言い切るが、彼の言葉は優夢には信じられないものであり、彼女は大きく肩を落とした。

 その時、二人を見つけた真が駆け寄ってくるが、積み重なった男性達の様子につまらないと言いたげに言う。


「あぁ……さっさと、引っ張って行けよ」

「はいはい。それじゃあ、よろしくね。それで、ノラ猫くん、どう言う状況?」


 伐は真の顔に遅いと舌打ちをすると真は引きつれてきた警官達に指示を出し、男性達を運んで行く。

 真は指示を出す立場にいるため、伐に事の詳細を聞こうと思ったようでメモ帳を取り出して聞く。

 その姿はわざとらしく、形式的にやって終わらせてしまおう感が前面に出ている。


「能力を使って、男を動かして襲ってきただけだ。それなりに配慮してやれよ」

「まぁ、自分の意志ではないだろうけど、色香に惑わされて犯罪を起こすのは歪みが原因とは言い切れないからね。自業自得だよ……だけど、一晩で十人を超える数の相手をするなんて、お盛んだね」

「あ、あの、どう言う事ですか?」


 伐は男性達は操られていたため、配慮をするように言うが、真にとっては配慮する必要はないと言い切った。

 優夢は操られていた事はわかっているようではあるが、伐と真の話で男性達がどうやって操られていたかわからないようで伐の制服を引っ張る。


「あ? あの男どもを操るのに力を浸透させる必要があったからな。あの女は一晩お楽しみだったんだよ」

「一晩中?」

「はずかしくなるなら聞くなよ。会話から察しろ。おい。そろそろ、行くぞ。学園への連絡はそっちでしておいてくれ」

「はいはい。まったく、ノラ猫くんは人使いが荒いね」


 伐は男性達を捜査する過程で起こったであろう事を簡単に説明すると、説明の途中で優夢は何があったか理解したようで顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。

 その様子に伐は呆れたように言うと両手を制服のポケットに入れてある気だし、優夢は慌てて彼の後を追いかけて行く。

 そんな二人の様子に真は苦笑いを浮かべると二人とは反対側に向かって歩き始める。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ