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第十話

「そ、それでは、ごゆっくり」

「悪いね。水瀬さん、君にも聞いて欲しい事なんだ」


 男性を事務所らしき場所に通すと優夢は二人分のお茶を出すと事務所を出て行こうとするが、男性が優夢を引き止める。

 優夢は引きとめられるなど思っていなかったようであり、不思議そうに伐へと視線を向けると伐は首でソファーに腰掛けるように促すと優夢が自分の前に置いたお茶を彼女の座る場所の前に置き、タバコに火を点けた。


「わ、わかりました。失礼します」

「……それで」

「遅くなったけど、まずは名乗らせて貰おうか……『速水悠馬ハヤミユウマ』だ」


 優夢は伐の隣に遠慮がちに座ると伐は男性に依頼内容を話すように言う。

 男性は頷くと速水悠馬と名乗り、名刺を取り出して伐と優夢に渡す。

 伐は手慣れた様子で名刺を受取るが、優夢は警戒をしながら名刺を受け取り、悠馬と名刺を交互に見ている。


「……蓮沼グループが俺に何かようか? バカ娘なら一応は家に帰っただろ」

「帰ってきたね。表向きは無事に」


 悠馬の名刺の肩書には先日の失踪事件の被害者の一人でもある蓮沼由貴の父親の会社の秘書課と書かれている。

 伐は失踪事件については何も言われる事はないと言いたげにため息を吐くと、悠馬は頷くが由貴に何かあったのか真剣な表情をして頷いた。


「あ、そう言えば、黒須くんって、蓮沼先輩と知り合いなんですか?」

「何だ?」

「い、いえ、今日、蓮沼先輩に黒須くんとの事を少し言われて、私と黒須くんが従姉弟だって周りはほとんど知らないのに、関わり合いない蓮沼先輩に言われたので、黒須くんが知り合いなんじゃないかな? って」

「……話は知っているが、直接の接点はねえな」


 優夢は悠馬が由貴の関係者である事で、今日、由貴に会った時の事を思い出したようで、伐に由貴との関係を聞く。

 しかし、伐は由貴との関係はまったくないようで首を横に振ると悠馬が訪れた意味を何となく察したようで舌打ちをする。


「俺がここに来た意味を理解してくれたみたいだな」

「あぁ」

「どう言う事ですか?」


 伐の舌打ちに悠馬は、伐の察しの良さに感心したように頷くが優夢は一人だけ、状況がつかめていないせいか、伐の服を引っ張りながら聞く。


「……この間の失踪事件の主犯格が残っている可能性があるって事は話しただろ?」

「はい。ですけど、何か関係があるんですか?」


 察しが悪いと言いたげに伐は眉間にしわを寄せると、優夢が伐の家に身を寄せている理由を思い出すように言う。

 優夢は頷くものの、それでも意味がわからないようで首を傾げている。


「お嬢様が失踪したと言われた時に、社長は直ぐに警察機関へと対応を求めた。だけど、先代は他の物を疑っていた。俺は社長ではなく、先代の静音シズネ様より、命を受けてここにきたんだ」

「先代がね? ……毒も皿まで食って生きてきた人間は察しが良いね」

「恨み辛みや負の感情は受けなれているだろうからな」


 悠馬は優夢の様子に苦笑いを浮かべると自分は社長ではなく、もっと上の人間の指示で伐のところを訪れたと言う。

 伐はこちら側にも詳しい人間が蓮沼家にいる事にため息を吐くと、面倒な事に巻き込まれたと言いたげに頭をかく。


「……速水って言ったか? あんたは今のお飾り社長より、食えない先代の駒だと思って良いのか?」

「そうだな。ただ、社長はお飾りではない。金勘定に関して言えば有能だ」

「まぁ、最初からその先代ってのが依頼主なら、もっとシンプルにいけたんだろうな」


 伐は悠馬に向かい、今回の依頼主を確認すると悠馬は隠す必要などないと思っているようで素直に頷く。

 先日の失踪事件で由貴の保護を求めてきた相手は社長であったようで伐は乱暴に頭をかいた。


「そうだな。だけど、先代はお嬢様が失踪したとはわかっていても、社長の処理能力を確認しようとしたみたいですべてを社長に任せたんだ」

「それが遅れて動いてきたって事は、社長は不合格ってところか?」

「そのようだ。社長は少なくともオカルトだなんだってのは信じてないからな。お嬢様が失踪したのはただの火遊びが原因だと思ってる。自由にし過ぎたと言ってな」


 悠馬の口から出た言葉は静音が社長を見限った事と同意であり、伐は仕方ないと思っているのか社長の無能さを鼻で笑う。

 悠馬は由貴の失踪前の行動にも問題があったと思っているのか、困ったように頭をかく。


「……先代は失踪者全員の事を調べ上げてるのか?」

「まあな。仕事を受けて貰う上で隠して面倒なことになってもイヤだからな……今回の失踪事件の被害者、そして犯人である『池田章久イケダアキヒサ』はかなり薄くはなっているが全員、蓮沼家の血を引く者達だ。ノラ猫さんはその後、調べてはいなかったみたいだけど、君の調査能力を考えれば少し調べればわかっただろうけどな」


 伐は静音がどれだけの情報を持っているのか確認するかのように聞くと、悠馬は頷き、被害者と加害者である男の関係性を述べた。

 彼の口から出た言葉に伐は眉間にしわを寄せ、優夢は自分が由貴と親戚関係にある事など知らなかったようでどう反応して良いのかわからないようで呆然としている。


「ま、待ってください。私、そんな事、まったく知りませんよ。蓮沼家って言ったら、この近隣じゃ名家ですよ。お父さんからもお母さんからもそんな話を聞いた事はありません」

「らしいぞ」

「まずはご両親も知っているかが謎だからな」


 優夢は首を大きく横に振ると、声を上げて自分の中に蓮沼家の血が流れている事など知らないと言う。

 その反応に伐は気だるそうに欠伸をすると、悠馬に説明してやるように視線を向け、悠馬は優夢の反応については予想の範疇だったようでポリポリと首筋をかいた。


「どう言う事ですか?」

「蓮沼家は名家だからな。外に作った子供とかは財産分与だなんだとか面倒な事になる前に手は打ってあるさ」

「……だろうな。そう考えると先輩が見えるのは蓮沼家の血か?」


 追及をする優夢の様子に悠馬は蓮沼家の事情もあると言い、伐は隣にいる優夢の顔へと視線を向けると彼女が歪みを見る事が出来る事の答えが出たようで小さく頷く。


「蓮沼家の血?」

「蓮沼家は昔はその手の方向でも名前が知れているんだよ。大部前にすたれているけどな」


 伐の言葉の意味がわからずに首をひねる優夢。

 伐は簡単に優夢に蓮沼家が歪みに対抗する術を持っていた事を簡単に話すと吸っていたタバコが短くなってきたようで灰皿に押し付ける。


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