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ロストナンバー  作者: 宇野 宙人
第一章 退学組編
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第八話  組織

「ふぃ~、疲れた疲れた」

「早房」


 ドサッとあぐらをかいて地面に座り込む景に、中林が話しかける。


「お前は、こうなること全部分かってたのか?」

「ああ、前も似たような状況があって、今みたいな方法で切り抜けたから」


 こんな修羅場は経験済みだとあっさりと言う景に、中林は引きつったような顔で「そうか」とだけ口にする。

 その時、あっ、という女子の声が耳に届く。


「どうした? 三原」

「いや、私の糸であいつを拘束しようと思ったんだけど……」


 視線を向けると、地面に倒れていた四人のうち三人が武器を残して消えていた。


「……ああ、そうか。あいつらは四つ子なんかじゃなくて、分身系の能力者だったのか」

「その通り!」


 中林の呟きに、過剰なほどの反応を見せる希初はいつものように説明を始める。


「この人の能力“四面楚歌(カルテットフォース)”は、最大三人まで自分の分身を生み出すことが出来るんだよ」

「何で知って……ああ、そうか。以心伝心(テレパシー)

「うん」


 希初が頷くことで、中林は一人納得する。


(人質になってる時に、記憶を『覗き』見たんだな)


 人質になっている時は、ただただ怯えているようにしか見えなかったが、その裏で情報収集に励む強かさに、中林は舌を巻く。 


「それはそうと、久坂や他のみんなは様子はどうだ?」

「大丈夫、みんな見た目ほど大した怪我じゃなさそうだったし」

「よし。なら、下山して先生にここのことを伝えに行こう」

「あー、そのことなんだけど……景君」


 希初は中林から景の方に視線を移すと、ためらいがちに口を開いた





 ◇◇◇◇◇◇


 

「……結局、オレは一人になる運命なのかね」


 下山する三人を見送り、一人この場に残された景は空を見上げながら呟く。

 あの後、希初は男の記憶から得た情報ーーーー男には仲間がいて、この山にあと二人潜んでいるということを皆に伝えた。

 故に、誰か一人はここに残っておかなければ、帽子の男を逃がされる恐れがあると。


(……まあ、確かにこいつの能力じゃ、この大惨事を引き起こせないだろうし、仲間がいるのは分かってたけど……でも、何でオレなんだよ)


 そんな風に内心ぼやきながら、景は三原の天衣無縫(クリアーステッチ)によって木の幹に縫い付けられている帽子の男に近づく。

 ここに残る際のせめてもの条件として、景は安全のために希初の以心伝心(テレパシー)と三原の天衣無縫(クリアーステッチ)と中林の付和雷同ボルトチェイサーをコピーさせてもらっていた。


「さてと……一応、あいつの仲間についての情報は探っとくか」


 景が帽子男の肩に触れようとした瞬間、


「おっと、そうはさせませんよ」


 どこからともなく現れた腕に手首を掴まれた。


「―――っ!?」


 いきなりのことに驚いた景は、慌てて掴まれた手を振りほどくと後ろに飛び退き、無理やり気を落ち着かせて前方に目を向ける。

 すると、帽子の男の隣に茶色がかった黒髪を腰の辺りまで伸ばした見た目中学生くらいの女子が立っていた。彼女の服装はノースリーブにハーフパンツで、どちらも黒一色で統一されており、むき出しになっている肩や太ももの白さを余計に際立たせていた。


(こいつ、いつの間に!?)


 足音どころか、気配すら一切感じさせずに登場した彼女は、景の視線を感じると唄うような声で話し始める。


「こんにちは、早房先輩」


 自分のことを「先輩」と呼ぶこの女子を、景は当然の如く知らなかった。もしかしたら、中学の時の下級生だったのかもしれないが、少なくとも会った覚えはない。


「……お前、何者だ」

「私ですか? そうですね。本名は明かせませんが、周りからは“シャドー”って呼ばれてるので、先輩も“シャドー”って呼んでください」


 明るい口調は年相応のものだったが、景は警戒態勢を緩めない。このタイミングでここに来た彼女は十中八九、帽子の男の「仲間」であるに違いないと考えた。


 一つ気がかりなのは、敵であるはずの彼女が、どうして自分に対してこうも親しげに接しているのか、という点なのだが。

 

「アハハ、そんなに睨まないでくださいよ。別にシャドーは先輩とバトる気なんて、これっぽっちもないんですから」

「じゃあ、何しに来たんだ? お前は」

「決まってるじゃないですか。先輩たちにやられちゃった梅宮さんを回収しに来たんですよ」


 鈴を転がすような声で、どこか愉しそうにシャドーは言った。


「やはり、仲間か」

「う~ん、それはちょっと違いますね。私たちの組織は、彼らとは一時的な協力関係を結んでいるだけで、別に仲間ってわけじゃないんですよ~」

「……組織、ねえ」


 面倒なことが増えたな、と景は萎える。


「で、何でその組織はこいつらとつるむようになったわけ? つーか、そもそもお前らの目的って何なの?」

「おーっと、それは流石に言えませんよ。遠峰先輩に怒られちゃいますからね~」


 人差し指を交差させ、シャドーは口の前で×を作る。だが、景はそんなあざとい仕草よりも、彼女の口から出てきたその名前に反応した。


「遠峰って、遠峰望(とおみねのぞむ)か?」

「あ、いっけな~い。うっかり、うっかり」


 てへっ、とシャドーは可愛らしく舌を出すが、景は気にせず問い続ける。


「遠峰は、()()()はこの事件となんか関係があるのか?」

「だから、そこまでは話せませんってば。もう、これ以上しつこくするなら、速攻で梅宮さん回収して、帰りますよ」


 そう言って背を向けるシャドーに、景は両手から電撃を発生させる。


「趣味じゃないけど、一応力づくで、という手段もとれるんだぜ。それに、オレがこのままお前を見逃すとでも」


 付和雷同ボルトチェイサーで巨大な電撃の球を作り、照準を彼女に定める。


「……止めた方がいいですよ。先輩」


 シャドーは振り返り、ニッと口角を上げる。その余裕ある態度を見て、景は眉間にしわを寄せるとーーーー


「そうか。じゃ、止めるわ」

「へっ?」


 ーーーー手の中にあった電撃の塊を消し去った。


「…………いやいやいや。えっ? 一体、何してるんですか? 先輩!!」

「いや、お前が止めた方がいいって、言ったんだろうが」

「言いましたけど、言いましたけどっ! 普通、言う通りにします!? 素直すぎでしょ!?」


 さっきまでと違い、明らかに動揺しているシャドーに、景は何となく優越感を感じる。


「大体、遠峰先輩のことはいいんですか?」

「別に。まあ、気になると言えば、気になるけど。どうしてもという程でもないし」


 既に興味を失いかけている景に、シャドーは呆れ顔になった。


「も~、何だったんですか。さっきまでの、あの緊迫した雰囲気は」 

「あの時はあの時なりに本気だったからな。まあ、お前が戦る気なら、受けてやってもいいけど」

「まさか。最初に言ったじゃないですか。シャドーは先輩とバトる気なんてない、って」


 確かにシャドーは敵にもかかわらず、最初から何故か友好的だった。

 あの時、景は彼女の存在に全く気づけていなかったのだから、不意打ちでもすればたやすく倒せたはずなのに、わざわざ話しかけ、悠長に会話を続けている。


「……変な奴だな。お前」

「先輩に言われたくありません、っと、お喋りはこれくらいにしておきましょう。これ以上、先輩の思惑に乗せられたらたまりませんから」

「思惑?」

「ふっふっふ、先輩。騙されませんよ。こうして、私とお喋りして時間を稼ぎ、仲間が来るまで引き留める作戦だったんでしょう」

「いや、別に」


 残念でしたね、としたり顔でこちらを見てくるシャドーに、そんな意図は全くなかったと素で答える景。

 

「…………」

「…………」

「……じゃ、じゃあ、梅宮さんを回収しますね」


 しばしの沈黙の後、気まずい空気を振り払うように、シャドーは無理に明るい声で帽子男の傍に駆け寄った。

 彼女は懐からハサミを取り出すと、男を木に縫い付けていた糸を次々に切っていく。


「……あの~先輩」

「何だ」

「私が言うのも変な話なんですけど、いいんですか? 私だけじゃなくて折角、捕まえた梅宮さんまで、逃がしちゃうんですよ」


 全ての糸を切り終え、帽子男こと梅宮を解放したシャドー。だが、何故か彼女はすぐにこの場を去ろうとせずに、まるで別れを惜しむかのように言葉を紡いだ。


「まあ、まずいとは思うけど……なんか面倒いし」

「いや、面倒いって」


 予想の斜め上を行く理由に、シャドーは敵ながら戸惑いを隠せない。


「まあ、真面目な話をするなら、お前はオレが付和雷同ボルトチェイサーで脅しても動じなかった。だから、お前はそれ以上に強いか、もしくは強い仲間が近くに潜んでいる、と思った」


 違うか、と反応をうかがってみるも、シャドーはしれっとした態度で返す。


「さあ、どうでしょう? ハッタリかもしれませんよ」

「だとしても、それに賭けるのはリスクが高い。だったら、このまま大人しくしてた方が身のためだと判断したまでだ」

「へぇ~。先輩って、意外と考えてるんですね…………ではでは、名残惜しいですが、そろそろ私はこの辺で」


 シャドーが片手で拝むようなポーズをとった途端、彼女の足元から波紋が広がると同時に、二人の体が沈んでいく。

 

(……影に潜る能力。足音も気配も感じさせずに現れたのは、これのせいか)


 人一人抱えて、どうやって逃げ切るつもりなのかと思っていたが、確かにこの能力なら誰の目にも触れることなく、ここから逃げ出すことが出来る。

 厄介な能力だと思いつつ、シャドーと梅宮が影の中に消えていく様を眺めていた景は、どうせなら、と気になっていたことを訊ねてみた。


「なあ、最後に一つ聞いてもいいか?」

「何ですか?」

「いや、どうでもいいことなんだけどさ、何でお前はオレを先輩と呼ぶんだ?」

「ああ、そのことですか。シャドーが早房先輩のこと先輩と呼ぶのは、私の先輩と同じ肩書きを持(・・・・・・・)っているからですよ(・・・・・・・・・)

「オレと同じって……まさか」

「はい、遠峰先輩は早房先輩と同じ“ロストナンバー”です」


 その言葉を最後に、シャドーは梅宮と共に影の中へと消えていった。





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