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ロストナンバー  作者: 宇野 宙人
第三章 終業式編
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第五十二話 開戦の狼煙


 月島祐が早房景と出会ったのは、小学四年の夏休みに入る少し前。祐のクラスに、景が転校生としてやって来た時だった。

 

 当時から景は、周りに興味を持たず、自己主張に乏しい子供だったが、”転校生”という存在が珍しかった祐に興味を持たれ、何だかんだで色々と連れまわされる内に、いつの間にか二人は親友と呼べる間柄となり、結果、その付き合いは高校生となった今でも続いている。

 

 故に、幼馴染として、親友として七年間接し続けた月島祐は、誰よりも早房景という人間の性質をよく知っていた。


 だからこそ、


「この男は、オレが倒す」


 彼の口から出た言葉に、祐は驚きを隠せなかった。


「おい、どうしたんだよ、景。お前はそういうキャラじゃないだろ」

「俺を倒す? ハッ、お前みたいなチビのモヤシ野郎が“最強”の俺に勝てるとでも」


 景の発言に驚く祐と笑い飛ばすルーク。だが、当の本人はどちらにも答えることはなく、ただいつも通りの無関心な目を前に向けていた。


「後輩。奴は発言こそ小者だが、その強さは恐らく一桁に匹敵する。正直、私たちが束になっても勝てるかどうか怪しいところだ」

「…………」

「私の言いたいことが分かるだろ、後輩」


 真剣に問いかける九条に、景は盛大なため息をつく。


「……分かりました。じゃあ、一緒に逃げましょう」

「えっ? ああ、そうだ……な」


 急に態度を翻し、後方に戻る景に、九条は戸惑いつつも頷く。


「おい、何勝手なこと言ってやがる。敵を前にして逃げるだと? そんなザコみたいな真似、出来るわけねえだろ!」

「今はそんなこと言ってる場合か! 意地を張るにも、時と状況を考えろ。このバカッ!」

「んだと、この(アマ)ァ!」

「喧嘩するな、二人とも」


 言い争う二人を、賀茂は強めな口調で取り成す。


「取りあえず、ここから離れるというのは悪くない手だ。俺の結界が破られた以上、いつ妖怪が押し寄せてくるか分からないしな」

「だが、それからどうする?」

「学校の敷地外に出て、助けを求めよう。こんな非常事態に先生方が誰も来ないということは、恐らくそっちは完全に抑えられていると考えていい」

「なるほど。“外”の大人に頼るということか」

「ちっ。仕方ねえか」


 九条は納得し、鷹岩も不服そうではあったが、反対はしなかった。


「だけど、賀茂先輩。逃げるたって、どうすれば……」

「それなら、オレに策がある。みんな、耳を貸して」


 不安げな鏡原に、景は敵に聞こえぬよう声量を落として、皆に作戦を伝える。それを見ていたルークは、フンと鼻を鳴らした。


(策だと? バカバカしい。たった一つしかない出入り口の前に、俺がこうして立っている時点で誰も通すわけねえだろ)


 槍を構え、臨戦態勢をとるルーク。九条に後れを取ったさっきと違って、今の彼には油断は無い。


「おい、コソコソしてるとこ悪ィけど、俺は一人も逃しゃしねえぞ」


 好戦的な笑みを浮かべ、ルークは目の前にいる八人と一匹を睨みつける。

 本気のテロリストが放つ殺気に、ほとんどが怯みかけたが、その中でナイトが急に嗤いだす。


「くくく……残念だが、それは無理だ!」


 直後、彼が突き出した右腕から闇が溢れ出し、保健室を黒一色に塗りつぶした。


「目くらまし!? だが、その程度で……」


 突然、辺りが暗闇に覆われるも、ルークは大して動じなかった。

 視覚を潰されようと、出入り口は自分の背後にある以上、彼が標的を逃すことはない。

 壁を壊して外に出ようにも、それだけ破壊力のある能力を使えば、他の仲間に被害が及ぶ。

 

 どうあがこうと、彼らがここから脱出することなど出来はしない―――


「なっ!?」


 ――――はずだった。


「どうなって……やがる?」


 暗闇が晴れ、光を取り戻したルークの目が見た物。それは、大きく穴があけられた真向かいの壁と自分以外誰一人として残ってない保健室だった。


「……狡兎三窟(シークレットパス)。抜け道を作る能力だとさ」


 ――――――否、一人だけ残っていた。


「非戦闘員だからって、舐めきってるから、足をすくわれんだよ」

「……ハハッ、そいつはお互い様だろ」


 乾いた笑い声を上げるルークは、次の瞬間、歯を剥き出して激昂する。


「俺の相手を一人でしようだなんて、お前の方こそ舐め過ぎだろうがっ!! クソモヤシィィ!!」


 怒鳴るルークに、景は何も感じてないような顔で、ただそこに立ち尽くしていた。







 水樹の能力で保健室から脱出した九条、賀茂、鷹岩、祐、鏡原、ナイトは校庭を真っすぐ突っ切っていた。

 未だ気を失っている理央と枝切は鍵本と水樹が抱え、琥珀の背に乗って移動している。


「……ねえ、澪。あのちっさい男の子の姿が見えないんだけど」

「何っ! まさか、逃げ遅れ……いや、残ったのか」


 水樹に言われ、景がいないことに気付いた九条は足を止め、保健室の方へ振り向く。


「やはり、最初から後輩はこうする気で、あの作戦を……」

「おい、待て。九条」


 逆走しようとする九条の腕を、賀茂は掴んで引き留めた。


「放せ! 賀茂。あそこには後輩がいるんだぞ!」

「今更、引き返せるか。ぐずぐずしてると、敵に足止めされるぞ」

「だからと言って、彼を見捨てるのか!」

「気持ちは分かるが、今の俺達に彼を助けに行く余裕は……」


 食ってかかる九条に、賀茂は説得を試みるが、その最中に突如、地面が大きく揺れ出した。


「な、何?」

「これは……」


 校門から十m程離れた位置で、地面に蜘蛛の巣状にひびが入り、盛り上がっていく。

 そして、異様な叫び声と共に大地が割れ、途轍もなく巨大な骸骨の上半身が地中よりその姿を現した。


「何、何なの!? あれ」


 あまりの巨大さに恐怖を隠し切れない鍵本の近くで、賀茂が呟く。


「“がしゃどくろ”か。厄介だな」


 巨大な骸骨、がしゃどくろはガチガチと不気味な音を立てながら、校門を背に一行を見下ろす。

 まるで勇者を待ち受ける魔王の如き威圧感に、皆は足を止め、様子をうかがう。


「……九条。どうやら今の俺たちには、彼を心配する余裕すらなさそうだ」

「みたいだな」

「大丈夫ですよ、先輩方。ああ見えて、景は結構やる奴ですから」

「くくく、然り。故に、我らはこの異形の対処に専念すべきだ」


 巨大な敵を前に、各々が改めて覚悟を決める。

 景vsルーク。がしゃどくろvs賀茂、九条、祐、ナイト、鷹岩、水樹、鍵本、鏡原。


 それぞれの場で、それぞれの戦いが今、始まろうとしていた。




◇◇◇◇◇◇




 一方、講堂においてもとある異変が起きていた。

 それは景たちが光に呑み込まれ、消えていった直後のこと。


「どどど、どうしよう!? 景君が、景君がぁ」


 目の前でクラスメートが跡形もなく消えてしまったことに、希初は激しく動揺していた。


「お、落ち着いて。希初」

「……どうどうどう」


 三原とライラが宥めようとするも、希初は聞く耳を持たずおろおろと狼狽えるばかり。

 もっとも、これは彼女だけに限ったことではなく、生徒全体に動揺は広がっている。


「な、何だ!? 人が……消えた!」

「賀茂と水樹がいねえぞ」

「くそっ、何がどうなってる?」

「つーか、先生はどうした?」

「もう、ヤダ! 家に帰りたいよぉ!」


 妖怪に襲撃され、ようやく安全な場所を確保できたと思った矢先に、今度は謎の光による人の消失。

 次から次へと起こる厄介事(ハプニング)に、多くの生徒たちは不安に駆られ、平常心を失いかけていた。

 しかし、そんな状況でも、壇上から冷静に声を張り上げる者が一人。


「落ち着いてください。皆さんはその場から動かず、風紀委員情報部は私の近くに、各委員長副委員長は障壁内にいる生徒の保護をお願いします」


 不測の事態にも一切動じず、虎江は堂々とした態度で打開策を講じていく。事務や裏方を好む故に、他のメンバーと違ってあまり目立つような存在ではないが、彼女もまた生徒会役員。

“鉄血”の二つ名で知られる生徒会書記、虎江文子はどんな状況下でも冷静に働く頭脳と、何が起ころうとも動じない鋼の精神を持つ、次期会長候補筆頭と目される才女である。


「……すごい」

「うん。そうだね」


 テキパキと周りに指示を出す虎江の姿に、目を奪われる二人。やはり、生徒会に選ばれる人間は頼りになる者ばかり……


「わわわ、どうしよう!? 人が、人が消えちゃったよぉ」


 ……ではなかった。

 壇上の端っこで負傷者の治療に当たっていた生徒会会計の星笠はあたふたと取り乱し、随分と情けない姿を衆目に晒していた。


「……やっぱり姉妹」

「だね」


 冷めた目で二人が希初の姉を眺めていると、一人の少年がこっちに近づいてきた。


「おっ、不破に三原、それに星笠も。良かった、お前たちは無事だったか」

「どうしたの? 漆原」


 駆け寄ってきたのは、2組で級長を務める男子、漆原。


「いや、風紀委員の人たちが消えた生徒を把握したいからって、あっちでクラス別に分かれて固まるように指示されたんだよ。そんで、俺は皆にこうして声かけて回ってるってわけ」

「へぇ、そうなんだ。ところで“お前たちは”ってことは、もしかして他に……」

「ああ、鏡原が消えちまった」


 気落ちした声で告げる漆原に、ライラは補足する。


「……なら、あと二人追加。景とナイトも消えたから」

「マジか。あいつらも」

「……うん」


 しばらく皆無言だったが、突然バチン、という音が聞こえてきた。


「希初?」

「ゴメン、トモちゃん、不破さん。心配かけちゃったね」


 自らの頬を両手の平で叩き、気合を入れ直した希初は、もう狼狽えてはいなかった。


「……ようやく、落ち着いた?」

「うん、もう大丈夫……って、そう言えば、不破さん! 宥める時、さりげなく私を馬扱いしたでしょ」

「……さて、私たちもそろそろ移動しないと」

「誤魔化すな!」


 いつも通りの調子を取り戻した希初の追求から逃げるように、ライラはそそくさと2組が集まる場所へ向かう。


「やれやれ、元に戻ったのはいいけど、うるさいのは変わらずか~」

「お前も、大変だな」

「まあね。ところで、もう他のクラスメートを集めに行かなくていいの?」

「ああ、お前らで最後だからな。ったく、この混乱状態じゃなきゃ、一声かけて即終了なのに、余計な手間かかっちまったぜ」


 ぼやく漆原と三原も後を追い、壇上の左端に鏡原、景、ナイトを除く2組全員が集まると、上級生の風紀委員らしき男が点呼を取る。

 その間、希初とライラは寄り合い、囁くような声で話をしていた。


「一体、これからどうなるんだろ、私たち」

「……さあ。でも、ただ待ってるだけなんて、私には無理」

「だよね」

「……だから、ここで何か出来るか考えよう」

「うん」


 決意を固め、二人は作戦を立て始める。


「まずは、景君の無事を確認したいところだけど……あの男が言ってた通り、スマホは使えなくなってるね」


 画面の右端に小さく圏外の二文字が映っているスマホを見ながら、希初はため息をつく。

 

「……以心伝心(テレパシー)は?」

「それも無理。というか、そもそも能力自体が使いづらくなってる」

 

 希初は能力を発動させようとするたび、頭の中で遮られるノイズのような何かに顔をしかめた。


「多分、これはただの電波妨害(ジャミング)じゃなくて、能力によるものだね。使えないことは無いけど、パスを繋ぐには相当近い距離じゃないと無理っぽい」

「……なるほど。だとすると、結構まずいかも」

「ん、どうして? 私の能力が使えなくても、不破さんの能力があれば……」

「……私も今描くもの持ってないから、画竜点睛(ソリッドスケッチ)は使えない」

「えっ」


 しばし、無言になる二人。クラスメイトを助ける覚悟を決めた矢先に、どちらも能力使用不可というイレギュラーに直面する。


「不破さん。私たちが最初にするべきことが決まったよ。まずは、描くものを確保しよう」

「……そうだね」


 最初の意気込みに比べて、随分と地味な目標に落ち着いてしまったが、とりあえずやることを決めた二人は、後はどうやってここから出るかを考え始める。

 その時、講堂全体に社の声が響いてきた。


『えー、それでは諸事情につき遅れたけど、第二ステージのルールを説明するよ』

『諸事情って……ただゲームの止め時が見つからなかっただけじゃない』

『黙っててよ、夜鳥。ではでは、第二ステージのルールだけど……』


 社が第二ステージのルール説明をしている間、前の時と同様にいくつかの怒号や質問が飛び交ったが、今回の彼はそれに応えるような発言をすることなく、ただ説明に徹していた。


『……じゃ、僕はこれで。誰が一番先に辿り着くか、楽しみに待ってるよ』


 アナウンスが止むと、折角鎮まりかけた空気が壊れ、再び皆がざわめき出す。


「皆さん、落ち着いて。ここにいる限り、何があろうと皆さんの安全は保障します。だから……」

「そんな悠長なこと言ってていいのか?」


 もう一度宥めようとする虎江の台詞を遮るように、堅城鉄壁(ランパート)の外から声をかける者がいた。


「雷王、先輩」

「あいつの話が確かなら、その幹部を倒さなきゃ、この第二ステージとやらは終わらないんだろ。だったら、お望み通りこっちから出向いてやろうじゃねえか。なあ!」


 雷王が仲間の風紀委員に発破をかけると、周りからおおー!! とやる気に満ちた声が上がる。

 正義感が強く、実力もかなり高い彼らは雷王と同様、守るだけのこの状況に歯痒い気持ちを抱いていた。


「つーわけだ。悪いが、俺たちはここを出て、反撃に向かわせてもらう」

「……認められません」


 戦う意思を示す雷王に対し、虎江はいつも通りの毅然とした態度でそれを突っぱねる。


「相手の実力は未知数です。そんなところに、この場で最高戦力の先輩を向かわせるのはリスクが高すぎます。せめて、もう少し情報を集めてから……」

「だから、それじゃ遅いって言ってんだろ」

「しかし、会長も先生もいない今、この場での決定権は私にあります。勝手な行動を許可するわけにはいきません」

「へえ。じゃあ、俺がそれでも行くと言ったらどうする? 力ずくでも止めてみせるか」


 雷王はそう言うと、凄まじいプレッシャーを放ちながら、壇上にいる虎江を睨みつける。

 その気迫は講堂内の空気が一段階重くなったようにすら感じる程だったが、虎江は全く動じることなく、それを受けとめていた。

 静かに火花を散らす二人を、堅城鉄壁(ランパート)の内側にいる生徒はハラハラしながら見守り、外側にいる風紀委員は彼を止めるべきか戸惑っている。


 そんな張り詰めた状態だったからか、緊張感の無い()の声は講堂内にそれはそれは良く響いた。


「あ~、悪いけど、僕もそれは認められないな~」

「「「「っ!!?」」」」


 全員が一斉に声のした方へ視線を向けると、そこには自分たちとそんなに年の変わらない私服姿の男が立っていた。

 音も気配もなく、突然現れたその男に皆が呆気にとられる中、いち早く動いた雷王は全身から雷を迸らせると、青白い閃光の槍を放つ。

 その槍は真っすぐ突き進み、男の体を貫いた。


「容赦ないね」

「なっ!?」


 しかし、男は何事もなかったかのように、平然と佇んでいた。


「残念だけど、これはただの立体映像だよ。この雲外鏡の力の一つさ」


 男が手の平を上に向けると、そこには短い二本足を生やした円い鏡の妖怪がふわふわと浮いていた。


「そもそも、僕を見つけ出すゲームを仕掛けた矢先に僕が出てくるなんて、興覚めもいいとこだろう」

「……じゃあ、やっぱりお前がイリーガル・ムーブの社柊真なのか」

「まあね。ってか、分かってたから、君も攻撃したんだろ」


 スピーカーから流れていたのと全く同じ声で語る社に、雷王は顔を険しくする。その時、壇上から鋭い声が飛んできた。


「……それで、貴方は一体ここに何の用ですか?」


 警戒心むき出しで問いかけてくる虎江に、社は彼女の方に向き直ると苦笑気味に答える。


「いや、そんな怖い顔しなくても大丈夫だよ。むしろ、今回に限って言えば、僕は君の味方とも言えるし」

「どういう意味ですか?」

「いや~、実はさっきの放送で説明しそびれたんだけど、第二ステージに参加出来るのは、我らが誇るイリーガル・ムーブのポーンⅧの能力“南船北馬(なんせんほくば)”で移動させられた生徒だけなんだ。だから、彼らを含めてここにいる生徒たちが参戦することは出来ないんだよね」


 さらりと仲間の能力をバラした社は、そのへらへらした態度のまま続ける。


「まあ、そういうわけだから、君たちはここで待機していてもらえないかな」

「ふざけるなよ。それを聞いて、俺たちが大人しくしてると本気で思っているのか」


 怒りを滲ませた声で食ってかかる雷王に、社は肩をすくめる。


「まあ、そうなるよね。でも、忘れてないかい? 僕はこれでもイリーガル・ムーブのキング、つまり敵の親玉だよ」

「だが、今のお前は立体映像なんだろ。それでどうやって俺たちを止める気だ」

「こうやってさ」


 社がパチンと指を鳴らすと、上から白い糸でグルグル巻きにされた五人の生徒が吊るされた状態で降ってきた。気絶しているのか、彼らは一切抵抗する素振りもなく、ただぶらぶらと空中で揺れている。


「おい、あれ粟地じゃねえ?」

「嘘……氷川先輩まで」


 堅城鉄壁(ランパート)の中にいる生徒が、次々に口を開く。その五人は光に呑み込まれ、消えてしまった十六人の中にいた生徒だった。


「ベタだけど、人質を取らせてもらったよ。これで君たちは、僕の言うことを聞かざるを得ないだろ」


 かなりむかつくドヤ顔を披露しながら、社は講堂にいる生徒全員を見渡す。


「くっ、テメェ……」

「大人しくしといた方が身のためだよ。もちろん、君じゃなく彼らの身だけど」


 もう一度パチンと指を鳴らすと、五人は上に引っ張られていく。

 つられるように視線を上に向けると、そこにはいつの間にか巨大な蜘蛛の巣が天井近くに張られ、巣の中心には女の上半身と蜘蛛の下半身をもつ妖怪が糸を手繰り寄せて、人質を手の届く範囲に置いた。


「妙な真似をしたら、すぐに“絡新婦(じょろうぐも)”が彼らを殺す。理解したかい? 風紀委員の諸君」


 すっかり悪役になり切っている社は、悔しそうに唇をかみしめる雷王と風紀委員を満足げに眺めると、陽気な声で皆に告げる。


「さてさて、じゃあ、僕のせいで退屈な時間を過ごす羽目になった君たちに、せめてものお詫びとしてこれを見せてあげよう」


 社がそう言うと、雲外鏡は投影機(プロジェクター)のように光を放ち、空中にとある映像を映し出した。


「それでは、彼らの戦いっぷりを楽しんでくれたまえ」


 そこには、校庭で巨大な骸骨と戦う八人の男女の姿が映っていた。




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