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ロストナンバー  作者: 宇野 宙人
第三章 終業式編
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第五十一話 ルーク登場

「な、何だっ!? おい、一体何があっ……」

「うるさい!」


 爆発の衝撃で目を覚まし、状況を理解出来ていない鷹岩を一言で黙らせると、九条は盛大に煙を立ち昇らせている入り口を睨む。


「……敵か」

「いや。あれは、俺が“九字結界”に仕込んだ迎撃用の火符だ。結界を強引に破ろうとすれば、発動する仕掛けになっている」

 

 賀茂の“九字結界”は異形の存在に対しては無類の強さを誇るが、人間に対しては一切意味をなさない。そこを踏まえて、賀茂は対人間用の迎撃システムを結界に組み込んでいた。


「ま、どっちにしろ、敵が来たことに変わりはないがな」

「上等だ。相手が人間なら、私も技をかけられる」


 それぞれ飛ばされたグループでリーダー格だった二人は、すぐさま迎撃態勢をとり、周りの仲間に指示を出す。


「水樹と鍵本後輩は、負傷者の二人を頼む」

「他は戦いたい奴だけ前に出ろ」


 その言葉に、すぐさま景と鏡原は下がり、祐、ナイト、鷹岩は前に出る。


「何だかよく分かんねえけど、暴れられるなら大歓迎だ」

「数少ない戦闘系能力者である俺が出ないわけにもいかないしな」

「くっくっく、然り」

「『然り』じゃねえ」


 得意げに嗤うナイトの後頭部に、景は手刀を叩きこんだ。


「ッ!? お、おい、何をする!? 盟友」

「アホ。お前はどう考えてもこっち側だろうが」


 景はナイトの襟を掴むと、無理やり後ろに引っ張っていく。

 その間、加茂は懐から何枚もの式符を取り出し、戦闘準備を整えていた。


「行くぞ。“琥珀こはく”」

「ガウッ!」


 主に名前を呼ばれた白い子猫は、肩から降りると一気に巨大化した。同時に顔も厳つくなり、手足や体には黒い縞が入る。


「……その式神、猫じゃなく虎だったのか」

「正確には“白虎”だがな。俺が陰陽師になった時からの相棒だ」


 琥珀はグルゥと低い唸り声を上げると、主と同様に煙で覆われた入り口を警戒する。



……………………。



「……来ないな」

「少しやり過ぎたか」


 中々現れない敵に、もしかしてあれで倒せたのか、と思い始める二人。

 だが、そんな楽観論オプティミズムは瞬時に掻き消されることとなった。


「ハッハッハ、随分と手荒い歓迎だな」


 哄笑と共に煙の向こう側から姿を現したのは、右腕に派手なタトゥーをいれた体格のいい強面の男。その体には、火傷どころか服に焦げ目一つついておらず、賀茂は目に見えて動揺していた。


「バカな……無傷、だと」

「おいおい、こんなんで驚いてもらっちゃ困るぜ。仮にも、“ルーク”の称号を持つ俺にあの程度の炎が効くわけねえだろ」


 ルーク。男がそう名乗った瞬間、皆の警戒レベルが上がる。


「くくく、やはりかの組織はチェスを元にしていたか」

「ナイト。オレ、チェスはあんま詳しくねえんだけど、ルークって確か、キングとクイーンの次に重要な駒だよな」

「然り。つまり、奴は組織のナンバー3ということになる。もっとも、かの組織が同じような階級制度を敷いているのかは分からぬがな」

「それもそうだな」


 ナイトの言うことにも一理あると思った景は、視線を正面に向ける。


「……で、実際はどうなんですか?」

「それを俺に訊くか、普通」


 景に直接訊ねられたルークは、呆れたように言った。


「そんなん答えるわけねーだろ……っと、言いたいとこだが、あの女より下に思われんのもしゃくだし、教えてやるよ」


 意外にも景の疑問に応じる姿勢を見せたルークは、滔々と語り出す。


「イリーガル・ムーブは確かにキングがボスで、ポーンが下っ端なのはチェスの通りだが、幹部であるその他の駒は全て同格扱い。上下の差はねえのさ」


 同格と言い切る彼。しかし、その声音と表情は明らかに他人を見下したモノだった。


「くくく“同格”か。そう言う割には、汝からは強者特有の驕りが垣間見えるが」

「ハッ、当然だろ。実力で言えば、俺が“最強”なことに疑いはねえからな」

「くくく、なるほど…………最強か」


”最強”を強調するルークに、中二病全開で会話するナイトは体全体から禍々しい黒色のオーラを噴き出させる。


「ならば、汝の相手はこの我、闇を操りし、死の宣告者、闇夜の黒騎士ナイト・ザ・ナイトがお相手し……痛ァ! こ、この、何をするか! 盟友」

「だーから、お前じゃ無理だっての。あ~、もう面倒くせぇ」


 自ら死地に赴こうとする悪友に対し、景はどうしたもんかと頭を抱える。 


「……おい、この俺を前にして漫才を始めるたァ、随分と余裕じゃねえか」


 何とも緩い空気に、苛立ちを募らせるルークは標的の顔を睨む。


「決めた。テメェらは、一人残らず潰してやる」

「潰すだァ? お前、最強かなんか知らねえが、あんま調子に……」 

「御託はいいから、とっととかかって来いよ、雑魚」

「あ゛あっ、誰が雑魚だっ!」

「待て、鷹岩」


 その挑発に乗ってしまった鷹岩は、賀茂の制止も聞かず、ポケットから取り出した複数の鉄球を投げつけた。

 鷹岩の緩急自在カウントスピードによって超高速の弾丸と化した鉄球はまっすぐ、まっすぐルークに向かい――――――突如、彼の左手に現れた一メートル程の五角盾に防がれた。


「そんなパチンコもどきが俺に効くかよ」

「なっ! て、てめぇ……」

「落ち着け、鷹岩。そもそも相手の能力も分からないのに、真正面から仕掛ける奴があるか」

「じゃあ、どうすんだ!」


 怒鳴り返す鷹岩に、賀茂は冷静に答える。


「こうするのさ。“三連火符・鳳仙火”」


 賀茂は三枚の式符を重ねて投げると、それは一瞬にして巨大な火の玉に変わった。


「ハッ、お前バカだろ。ついさっき、俺があれだけの炎を浴びて無傷だったのを忘れたのか?」


 火の玉を放つ賀茂に、当然、ルークは盾を前に構える。


「忘れてないさ。だが、お前が無傷だった理由がその盾にあるなら――――」


 盾にぶつかる直前、火の玉の内部から無数の小さな火の玉が弾け飛ぶ。


「―――これを防ぐことは出来ないだろ」


 拡散した火の玉は一分の隙も無く、四方八方から彼に襲い掛かっていった。正面しか防げない盾に、この全方位からくる攻撃を防ぐ術は無い。


 だが、


「甘えよ」


 火の玉は一発たりとも、ルークに当たることは無かった。火の玉は途中から不自然な軌道を描き、何故か全て盾の正面に着弾した。


「残念だったな。俺の盾は、あらゆる攻撃を引き寄せ、防ぎきる“最強”の盾だ!」


 得意げな笑みを見せるルークだが、次の瞬間、ふわりと奇妙な浮遊感が彼の体を包み、視界がぐるりと反転する。


「なっ、がっ!?」


 いつの間にか懐に入り込んでいた少女に、背負い投げを食らわされていたルークは背中を思いっきり床に叩きつけられる。

 不意を突かれ、しかも片手に盾を持っていたせいで満足に受け身が取れなかったルークを、想像以上の痛みが襲う。


「テ……メェ、ぶっ殺す!」


 しかし、ルークは痛みに怯むことなく即座に立ち上がると、今度は右手に刃の部分が長めの槍を生み出した。


「“盾”だけじゃないのか!?」

「当前だろ。言っとくが、この槍も“最強”の槍だぜ」


 槍を勢いよく突き出すルークに、九条は迫る刃先を避ける。

 しかし、ルークは瞬時に槍を横薙ぎに振るうと、彼女の胴体を後ろにあった身長を計る器具ごと切り裂いた。

 だが、切り裂かれた九条はぐにゃりと歪むと、霞のように消えてしまう。


 鏡花水月ミラージュ。幻を囮に敵から離れた九条は、仲間の元に戻ると姿を現す。


「……なるほど。俺に気付かれず近づけたのは、そういうことか」


 ルークが一人納得している中、九条と賀茂はこっそりと話し合う。


「悪い、仕留めきれなかった」

「いや、惜しかったよ、九条。にしても……」


 賀茂はついさっき九条の幻と一緒に切り裂かれた器具を見る。

 軽めに作られているとはいえ、金属製。当然それなりの強度はあるはずなのだが、ルークの槍はそれをバターのようにスパッと切り裂いた。


「恐ろしい切れ味だな」

「そうだな。あれでは、もう迂闊に近づくことが出来ない」


 彼の言うことが本当なら、あの槍も盾と同じく”最強”の槍。

 ”最強”の盾が全ての攻撃を防ぐなら、恐らく”最強”の槍は全ての防御を切り裂き、貫くことが出来るのだろう。


(あくまで予想だが……あの切れ味を見る限り、それが当たっている可能性はかなり高い)

 

 これで先程のように安易に近づくわけにもいかなくなったが、遠距離攻撃を仕掛けようとすれば、今度はあの盾が全て防いでしまう。


(どうする、どうすれば……)


 賀茂が打開策を考えていた時、スピーカーから本日二度目となる社のアナウンスが聞こえてきた。


『えー、それでは諸事情につき遅れたけど、第二ステージのルールを説明するよ』

『諸事情って……ただゲームの止め時が見つからなかっただけじゃない』


 そのすぐ後に、初めて聞く女性の呆れた声も聞こえてくる。


『黙っててよ、夜鳥。ではでは、第二ステージのルールだけど、これは至ってシンプル。この学校のどこかにいるキングの僕を見つけ出して倒すことだ。ああ、一応言っとくけど、この放送は僕の通信機をマイクに通しているだけだから、放送室にはいないからね。ここ、重要!』


 緊張感のない、それどころか楽しんでさえいるような社の口調に、景はふざけた奴だ、と内心で吐き捨てる。


『じゃあ、どうやって僕の居場所を見つけるか。それは、イリーガル・ムーブの幹部であるナイト、ビショップ、ルーク、クイーンが握っている』


 それを聞き、今現在、目の前にいるルークに皆の視線が集まる。


『今、この学校にいるイリーガル・ムーブの幹部四人はそれぞれ僕の居場所を指し示すものの一部を持っている。その幹部を倒し、四つ集めれば、僕の居場所が分かるという寸法だね』


 まるで子供の宝探しのようなルールを、社はウキウキと説明する。


『じゃ、僕はこれで。誰が一番先に辿り着くか、楽しみに待ってるよ』


 その言葉を最後に、アナウンスは切れた。相変わらず、意図が一切読めない敵のボスに、景は面倒くさいのが現れたな、と呟く。


「……潮時か」


 景はポケットに手を突っ込みながら、おもむろに歩き始める。


「? おい、景。お前、一体何を……」


 不審に思った祐が声をかけるも、景はそれに反応することなく、彼のいる位置より、九条や賀茂たちのいる位置より前に出る。


「先輩方。今すぐ、みんなを連れて外に逃げてください」


 いつも通りの平然とした態度で、景は淡々と言った。


「この男は、オレが倒す」



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