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ロストナンバー  作者: 宇野 宙人
第三章 終業式編
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第四十八話 第二ステージ


「……ここは」


 目を開けると、そこは廊下の真ん中だった。

 ついさっき講堂内で、目も眩むほどの光に包まれたと思ったら、いつの間にか景色が変わっている。


「あの光……転移系の能力だったのか」


 景が一人納得していると、隣から同調する声がかかる。


「くくく、そのようだな」

「ナイト、お前も」

「我だけではないぞ」


 そう言って、後ろを指し示すと、そこには他にも四人の男女がたむろしていた。

 どうやら、あの光は近くにいた人間を無差別に転移させるらしい。


「あの光で転移させられたのは、ここにいる六人で全員か?」

「……いや、違う」


 景の疑問に口をはさんだのは、クラスで見たことがある大人しそうな外見の少年。

 確か名前は……


「……鏡、原?」

「何で、疑問形なんだよ」

「いや、まだちょっとあやふやでさ」


 未だにクラスメートの名前を完全には覚えきれてない景に、鏡原はジトーとした目を向ける。


「ま、それはそれとして、鏡原。違うとは、どういう意味だ?」

「俺たちを転移させたのとは別に、もう二つ。あの光る球体があった」

「マジか」


 それが事実なら、他にもあと二グループがどこかに飛ばされていることになる。


「ってことは、アタシたちの他にもどっかに移動させられちゃってる人がいるの?」


 景と全く同じ考えを口にしたのは、ちょっとギャルっぽい印象を受ける少女。


「そうなるな。えっと、君は……」


 鏡原が名前を聞こうとした矢先、突然横から荒っぽい声が飛び込んできた。


「おい、いつまでグダグダと喋ってんだ! 状況分かってんのか、テメェら」


 かなり苛立っている様子のその男は、横柄な態度で二人に割り込んでくる。


(そういや、こいつの顔どっかで見たような気が……)


「あぁ、何じろじろ見てんだよ」


 どこか記憶に引っかかるその柄の悪い男を観察していると、視線に気付いた彼が今度は景に突っかかってきた。


「っ! テメェは……」

「あっ、噛ませ犬」

「んだとコルァッ!!」


 景の発言に、噛ませ犬こと鷹岩は激昂し、胸倉を掴みあげる。


「いや~、何か先輩とはつくづく縁がありますね」

「うるっせえよ。テメェ、舐めんのもいい加減に……」

「やめろっ!」


 スラっとした長身の女が鷹岩の腕を掴むと、強引に景を引き離した。


「お前たちの間に何があったのか知らないが、今は仲間割れをしてる場合じゃないだろ」

「九条! テメっ」

「“状況”を分かっているのか?」

「ぐっ」


 さっき自分が言った台詞でやり込められた鷹岩は、悔しそうな顔で黙る。

 それを確認した九条と呼ばれてた彼女は、今度は景に顔を向ける。


「君もこんな時に彼を煽るな。確かに彼は、能力を鼻にかけたクズで下種な最低の、それこそゴミのような存在だが……」

「いや、先輩も十分煽ってますよ」


 いきなり罵倒の限りを尽くし始めた九条に、ギャルっぽい少女がこの場にいる全員の気持ちを代弁した。


「……ゴホン。まあ、とにかくだ。取りあえず、まずは自己紹介から始めよう。何人かは互いに知っている者もいるようだが、これからのことに備えて、色々と情報は共有しておきたいからな」


 誤魔化すように咳払いをすると、九条は皆の前で自分の胸に手をやる。


「では、まず私から。二年一組、九条澪(くじょうみお)だ。魔女派の幹部をしている」

「アタシは、鍵本虹(かぎもとあや)って言います」

「一年二組、鏡原承(かがみはらしょう)

「同じく、早房景。んで、こいつは内藤次郎」

「現世における仮初の名だがな」


 五人がそれぞれ自分の名前を上げていく中、鷹岩は一人不機嫌そうに皆から離れていく。


「おい、鷹岩。どこに行く気だ?」

「……あァ、何でお前にそんなこと言わなきゃなんねえんだよ」


 呼び止める九条に、鷹岩は睨み返す。


「俺は足手まといと行動する気なんかねえ。呑気に自己紹介なんか、やってられるか」

「何?」


 二人の先輩の間で、火花が散る。


「それはどういう意味だ、鷹岩」

「どうも何も、そのままの意味だ。俺は一人で勝手に動く」

「待て。そんなのが許されるとでも」

「許さなかったら、どうなんだ? あァ!」


 鷹岩はポケットに手を突っ込むと、パチンコ玉よりやや大きめの鉄球を複数取り出した。


「邪魔をするなら、テメェから消すぞ。九条」

「やめろ、鷹岩。さっきも言ったが、今は仲間割れしてる場合じゃ……」

「うるせぇ! そもそも、テメェに指図される筋合いはねえ。俺を従えたけりゃ、実力でねじ伏せてみせろ」


 そう言うなり鷹岩は、手の中にある鉄球を九条に向かって投げつける。能力によって凄まじいスピードで放出された複数の鉄球はヒュン、と風を切りながら九条の体を貫いた。


「「「!!?」」」


 その光景をみていた後輩たちに動揺が広がるが、それも一瞬のこと。

 鉄球に貫かれた九条の姿はわずかにブレると、ぐにゃりと歪んでその場から消えてしまう。

 

「なっ!? アイツ、どこに……」

「ここだ」


 鷹岩のすぐ傍に再び現れた九条は、彼の襟と袖を掴み、そのまま体を半回転させて引っ張ると、伸ばした足にひっかけ、飛び越えさせるようにして投げ落とす。

 柔道の手技の一つ、体落(たいおとし)

 それを決められ、廊下に打ち付けられた鷹岩は肺の中の空気を強制的に吐き出させられた。


「がっ」

「私の異名を忘れたのか。鷹岩」


 自分を見下ろしてくる九条に、鷹岩は忌々しそうに呟いた。


「……“幻影の魔女”」

「そうだ。さて、これで私は君を実力でねじ伏せてみせたが」

「……チッ」


 鷹岩は舌打ちすると、立ち上がり、その場に留まった。途轍もなく不本意そうだが、あれだけの啖呵を切った手前、一応は協力する気らしい。


「“幻影の魔女”? じゃあ、さっき消えたのは……」

「ああ。あれは私の能力“鏡花水月(ミラージュ)”で作った幻だ。私は光を捻じ曲げて、自在に幻を作り出すことが出来る」

「へ~、いい能力ですね。コピらせてください」

「えっ?」


 キョトンとする九条に、景は説明する。


「オレの“他力本願(フルディペンデンス)”は、許可をもらった相手の能力を二分間だけコピーする能力なんです。これからに備えて、出来るだけストックしときたいので」

「ああ、そういうことか。分かった、許可しよう」


 許可を受け、鏡花水月(ミラージュ)が自分の中にストックされるの確認した景は、今度は同級生三人と向かい合う。


「ついでにお前らの能力もコピーさせてくれ」

「くくく、よかろう。我の力、存分に享受するがいい」


 快く承諾するナイトとは対照的に、鏡原と鍵本はどこかためらいがちに口を開く。


「あ~、早房。コピーすんのは、別にいいんだけどさ、俺の能力はあんま役に立たないと思うぞ」

「私のも、正直言って戦闘向きじゃないけど、いいの?」

「構わねえよ。別に戦うわけじゃないし」

「でも、確かお前のストックには限りがあるはずじゃ……」

「大丈夫。お前らのを入れてもまだ空きはあるから」


 こうして三つの能力も手に入れた景は、最後に鷹岩へ目を向ける。


「……何だ。俺は許可なんか出さねえぞ」

「ああ。なら、いいです」

「なっ」


 あっさりと引き下がる景に、それはそれで何となく悔しい鷹岩は歯噛みした。


「さて、それでは自己紹介も済んだことだし、そろそろ私たちがこれからどうするか考えようか」


 九条がパンパンと手を叩き、皆の注目をこちらに向けた上で話し始める。


「まず、私たちの目的だが“体育館にいる皆と合流する”ことで相違ないな」

「はぁ? “敵をぶっ潰す”に決まってんだろ」


 九条と鷹岩の二人がそれぞれ違う意見を述べ、その後顔を見合わせる。


「ちょっと待て! 今の私たちに正体不明の敵と渡り合える戦力があるわけないだろ」

「うるせぇ! んなもん、俺が全部ぶっ倒せばいいだけの話だろ」

「今しがた私に敗れた負け犬が何を言う!」

「んだと!」


 激しく言い争い出した先輩二人を、鍵本は止めようと割って入る。


「ちょ、ちょっと、先輩。落ち着いて下さいよ」

「あぁ! ザコは黙ってろ!」


 だが、全く聞き入れてもらえず、鍵本は鷹岩にドン、と突き飛ばされた。


「きゃあ」


 乱暴に押し出され、大きくよろめく彼女の体を近くにいた鏡原が片手で支える。


「……ったく」


 収まりがつかないこの状況を見かねた鏡原は片足を上げ、タン、と軽く廊下を踏み鳴らす。

 その音一つで、あれ程激しく言い争っていた二人の口から声が消えた。


「「…………!!?」」


 突然の声の消失に戸惑う二人は、懸命に口を動かしてみるが何も聞こえない。自分の声だけでなく、周りの音も何もかも聞こえなくなっている。


「……これで少しは落ち着きましたか。先輩方」


 と思ったら、再び音が聞こえるようになった。


「これが俺の能力“幽寂閑雅(サイレントゾーン)”です」


 淡々と説明する鏡原は、能力を解除してもなお声を出さない先輩二人と対峙する。


「音を消す能力か。何と言うか、地味だな」

「わざわざ言う必要ありますか、それ」


 鏡原からもの言いたげな目を向けられ、九条は避けるように明後日の方向を向く。鷹岩は興をそがれたのか、舌打ちを一つすると壁に寄り掛かった。

 

(やたらと失言の多い先輩に、やたらと血の気の多い先輩…………こんなんで、この先本当に大丈夫なのか)


 上級生である二人に対して、景が不安を抱いてたその時、廊下の突き当りから息を切らせて、黒髪の少女が走ってきた。


「ハァ、ハァ……い、いた。ようやく、会えた」


 少女はこちらを見て安堵の表情を浮かべていたが、肩は切り裂かれ、血で制服が真っ赤に染まっていた。


「り、理央っち! 何があったの!?」

「知り合いか?」

「うん、クラスメート」


 鏡原の問いに答えるや否や、鍵本は彼女の傍に駆け寄る。


「どうしたの? 何かすごい怪我だけど……」

「そんなことより、お願い! 今すぐ、食堂に――――」


 怪我の心配をする鍵本を払いのけ、理央と呼ばれた少女は何かを懸命に訴えようとした。

 だが、人に会えたことで緊張の糸が切れたのか、途中でガクッ、と膝をつく。


「ちょ、理央っち!」

「早く、早くしないと、先輩たちが……」

「分かった。分かったから、取りあえず、落ち着いて」


 叫ぶ少女を宥め、鍵本は話を聞こうとしたが、それは唐突に聞こえてきた奇怪な鳴き声に遮られる。


「キシャァァァァ!!」


 ガスガスと音を立てて現れたのは牛の顔をもつ、巨大な土気色の蜘蛛。


「……ナイト、あれは?」

牛鬼ぎゅうきだな。西日本に伝わる妖怪で、非常に残忍かつ獰猛な性格をしており、人を食い殺すことを好むと言われている」

「そっか…………逃げっぞ!」


 ナイトの説明を聞き、真っ先に逃げ出す景。それを切っ掛けに他の皆も同じように背を向けるが、一人だけ立ち向かう者がいた。


「来いよ。化物」


 鷹岩は片手で複数の鉄球を弄びながら、目の前の牛鬼に狙いを定める。


「何をしている、鷹岩!」

「うるせぇ! 逃げたきゃ逃げろ。俺はこいつを殺る」


 九条に怒鳴り返す鷹岩は、この化物を倒して先輩の威厳を取り戻そうと躍起になっていた。


「食らいやがれっ!」


 鷹岩の手から放たれた鉄球は全て瞬く間に牛鬼の顔を貫き、黒色の煙が幾筋も上がる。


「ギシャァ!」

「何っ!?」


 だが、それだけだった。

 牛鬼は全く速度を落とすことなく鷹岩に迫ると口を開き、彼の上半身を豪快に噛み千切る。


「ギッ!?」 


 しかし、その瞬間鷹岩の体は煙のように掻き消えてしまった。

 手応え、もとい歯応えの無い獲物に目を丸くしたその時、猛スピードで飛んできた消火器が顔面にめり込み、牛鬼は倒れる。


「やったか」

「バカ。変にフラグを立てるな」


 動けないまでも未だ実体化を維持し続ける牛鬼。

 その様子を、後輩たちと合流した九条と彼女に無理やり引っ張ってこられた鷹岩が廊下の突き当りの角から窺っていた。


「動く気配は無いが、霧散しないとこを見ると、ギリギリで倒せてはいなかったようだな」

「よし、じゃあ、この俺が止めを……」

「やめんか。返り討ちにあう未来しか見えんぞ。この負け犬」

「んだとっ!!」


 九条の言葉に鷹岩は激昂するが、二人が言い争いを始める前に、鍵本の悲痛な声が響いた。


「理央っち! しっかりして、理央っち!」


 鍵本は廊下に倒れた理央の肩を揺すり、懸命に声をかける。だが、彼女からは何の反応もない。


「理央っち……どうしよう。もしかして、死―――」

「落ち着け、息はある。ただ、意識を失っているだけだ」


 彼女たちの傍に駆け寄った九条は、あたふたする鍵本を落ち着かせると、気を失った理央を背負う。


「先輩……」

「行先を変更する。保健室に向かうぞ。悪いが異論は一切認めん」


 有無を言わせない勢いで九条は階段を駆け下りると、残りのメンバーも全員、その後に続いた。








「…………ギィ」


 彼らがいなくなった後。

 

 ようやく動けるようになった牛鬼は、彼らを追いかけようと八本の蜘蛛足に力を入れる。

 社の能力”百鬼夜行”によって作り出された妖怪はとある一体・・・・・を除いて、自我を持たず彼に命令されたことしかできない。

 故に、彼らは自分の体を顧みることなく何を置いても命令を遂行しようとする。

 

 ならば―――――――もし仮に同じ命令を受けた妖怪が複数存在し、その内の一体が明らかにその命令の足枷になると判断された場合、他の妖怪はどうするだろうか。


「ギッ!?」


 のそのそと動いていた牛鬼の前に、突如として現れた白い着物を着た若い女性。

 それを目にしたのほぼ同時に、牛鬼の全身は凍てつき、巨大な氷の中に閉じ込められる。

 着物を着た女性はゆっくりと氷漬けになった牛鬼の脇を通り過ぎると、次の瞬間、樹形図のような亀裂が生じ、凍った牛鬼の体は粉々に砕け散った。


「…………」


 主の命令を果たすためだけに生まれた彼ら妖怪は、たとえ味方であれその命令を妨げる存在に容赦はしない。

 足手まといを始末した雪女は、氷のように冷たい無表情のまま、どこかへと消え去っていった。






没ネタ



九条「一体いつから―――――――鏡花水月(ミラージュ)を使っていないと錯覚していた」


どっかで入れてみたかったんですけどね。

ちなみに、彼女の能力は某死神漫画の人ほどチートではありません。



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