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ロストナンバー  作者: 宇野 宙人
第二章 転校生編
36/70

第三十二話 決定、レギュラーメンバー

 前回からかなり間の空いた投稿になってしまいました。

 

 言い訳させてもらえるならば、12月に仕事が変わり、新しい小説(応募用)も書き始めたため、これだけ遅れた結果となりました。


 え~、それでは第三十二話です。

「つまり、お前は今まで、この鬼ごっこが始まってからずっとここに隠れてたのか」

「は、はぃぃ……」

 

 教室の隅っこで縮こまる久坂に、景は半眼でため息をつく。


「よく、そんなんで参加しようと思ったな」

「え、えっと、実は私、希初ちゃ……星笠さんから何も知らずに誘われて」

「ああ、なるほど」


 被害者は自分だけではなかった、ということか。


「じゃ、何でさっさと捕まらなかったんだ? やる気が無いなら、わざわざ隠れることないだろ」

「あ、えっと……」


 景が訊くと、久坂はあからさまに視線を逸らし、指先を弄りだす。


「ま、別にいいけどさ」


 景はそれっきりそっぽを向いて、黙りこんだ。


「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……あの、早房君はどうしてここに?」

「参加した理由はお前と同じ。続けてる理由は特に無いが、強いて言うなら賞金目当てかな」

「そう、ですか」


 気まずい沈黙に耐えられなくなったのか、久坂は勇気を振り絞って話しかけてきたが、景はすげなく終わらせる。

 ちなみに賞金というのは、校内対抗戦の優勝チームに贈られる「特例奨学金」のことで、希初の情報によると大体お年玉くらいの金額がもらえるらしい。


「…………」

「…………」


 再び、二人の間に沈黙が訪れる。元よりコミュ力が皆無に等しい景と引っ込み思案な久坂との間で会話が続くはずも無く、双方無言のまま、ただただ時間だけが過ぎていった。


 そうして、残り時間が十分を切ったことを生徒手帳で確認した時、それは起きた。


 突如、静寂を破るかの如く生徒手帳が鳴り出し、画面上には校内の地図と所々に赤い点が現れている。その内、二つの点がここ1年2組の教室にあった。


(これって……あ~、そういやルール説明ン時に何か言ってたような……)


 半ば聞き流していたため、少しあやふやだったが、景はこれが自分たち逃組の居場所を示すものだということに気付く。


「さて、逃げるか」


 居場所がバレている以上、ここに長居する理由はない。

 景は周りに人の気配が無いことを確認すると、扉に手をかける。


「あ、あのっ!」


 その時、久坂から声をかけられ、景は手を止めた。


「お、お願いがあるんですけど……」

「ことわっ……」

(ダメ―――――――――――っ!)


 即行で断ろうとする景だったが、その途中、誰かの絶叫が脳内で響き渡る。


(……一体、何の真似だ? 希初)

(景君、お願い! 倫ちゃんを助けてあげて)


 いきなり頭の中で大声を出された景は、ものすごく不機嫌そうに訊ねると、希初は何やら必死な口ぶりで頼みこんできた。


「あ、あの、どうしたんですか? 急に、黙り込んで……」

「……ああ、いや何でもない」


 不思議そうに見てくる久坂をあしらいつつ、景は再び希初に思念で話しかける。


(おい、希初。どういうことだ? 説明しろ。……おい、お~い)


 しかし、何度呼び掛けても返事がない。


「……アイツ」

「え、えっと」


 沈黙の後、忌々し気に呟く景に、久坂は訳が分からず、オロオロしていた。


「は~~~、それで、お前の頼みって、何?」

「えっ!? き、聞いてくれるんですか!?」

「一応な」

 

 盛大にため息をついた後で、急に態度を変えた景に、久坂は目をしばたかせる。

 色々と疑問に思うところはあるが、この好機を逃してはいけないと思った久坂は、すぐさま自分の要求を伝えた。


 そして、その数十秒後。


――――――――――――突如として現れた闇が、校舎を覆い尽くした。




 ◇◇◇◇◇◇




「よし。まあ、こんくらいでいいだろ」


 教室にて、一寸先すら見えない闇と化した周りを見渡しながら、景は頷く。


「つっても、保つのは二分間だけだから、手早くいくぞ」

「は、はい」


 久坂からのお願い。

 それは、自分のレギュラー入りを手伝って欲しいとのことだった。


「じゃ、まずはそこの机を……」


 故に、景は久坂とあと九分逃げ切るため、色々と準備を開始する。


――――そして三分後。


「よし、これくらいやりゃ、いいか」


 残り時間、あと六分で即席の妨害用トラップを作り、逃走経路を確保した景が一息つくと、ちょうどいいタイミングで敵がやって来た。


「とうとう追い詰めたぞ。これでガッ!?」

「……少しは学習しろよ。お前ら」


 教室の戸を開けて入って来た―――偶然にもさっき追いかけてきたのと同じ―――鬼役のクラスメート二人がまたもや何もない所で何かにぶつかり、廊下に弾き返された。


「くそっ、また糸川の無色透明(アクロマティック)かよ」


 鬼の一人が鼻を押さえながら、悔しそうに言う。

 確かにその通りなのだが、それが分かってて、何故警戒しなかったのだろうか。


(……ああ、そういやこいつらはオレの能力知らなかったっけ)


 とてつもなくどうでもいいことを考えていると、効果時間が切れたのか、ロッカーと机を組み合わせたバリケードが露わになった。


「突き崩すぞ! 島崎」

「おう!」


 そう叫ぶやいなや、二人は同時に体当たりし、バリケードを壊そうとする。結構な数の机を使って作り上げたバリケードだが、所詮は即席。

 二、三回の体当たりで、簡単にぐらつき、崩れ出していく。


(……あと、五分)


 バリケードを突破し、教室内に侵入した二人は窓際に立つ景を狙って走る。


「これで終わ……何!」

「……だから学習しろっての」


 教室中に張り巡らされた極細の糸に阻まれる二人に向かって、景は呆れたように言った。


「くっ、寺井」

「分かってる」


 寺井と呼ばれた鬼役の一人が糸を掴むと、まるで見えない刃物でも振り回したかのように、糸がバラバラに断ち切られた。


「見たか。これが俺の能力“四分五裂(リッパー)”だ」


 得意げに胸を逸らす寺井。その間、もう一人の鬼役はキョロキョロと教室内を見回した。


「おい、そんなことより、もう一人が見当たらないぞ」

「えっ?」

(……あと四分)


 二人が生徒手帳の画面で位置を確認している隙に、景は制服のブレザーを脱いで床に落とす。


「多分、どっかに糸川が無色透明(アクロマティック)で隠れてるんだろ」

「正解」


 本当は違うが、わざわざ事実を教えてやる必要はない。


「じゃあ、どうすんだ? 見つけ出す時間なんてもう無いぞ」

「……ここは一つ。早い者勝ちってことでっ!」


 そういうと、島崎は飛び出し、景に手を伸ばした。


「なっ!」


 だが、その手は空を切る。

 景は後ろの開けられた窓から倒れ込むようにして、自分の体を外に放り出した。

 2組の教室は四階にあり、高さは軽く七、八メートルは超える。

 自殺行為でしかない景の行動に、二人は思考が停止したが、それも一瞬のこと。

 景の後ろにある、防災訓練に使われる布の筒で出来た滑り台のようなものを見つけると二人は再び動き出す。


「ちっ、逃がすか」

「待て。二度も抜け駆けさせるか」


 景を追いかけるため、二人は我先に布の筒へと入り込み、下へ下へと滑り下りていった。


 誰も人がいなくなったため、再び静寂を取り戻した教室内。

 その片隅で、景が脱ぎ捨てたブレザー微かに動く。


「うんしょ、っと」


 ブレザーのポケットから片腕がニョキっと生え、床に手をつくと、次に景の全身がポケットの中から空間の概念を無視して這い出てくる。


「よっと」


 教室に戻って来た景は、今しがた出てきたポケットに手を突っ込むと、今度は久坂を引っ張り上げる。


「まあ、少しずるいかも知れんが、これでもう大丈夫だろ」

「う、うん」


 久坂は何とも言えない微妙そうな表情を浮かべると、床にへたりこんだ。


 景のしたことは何も特別なことではない。

 あらかじめ、久坂を“自家薬籠”の異空間に収めおき、景自身もまた布の筒の中に入った瞬間、異空間に入ってやり過ごしただけのこと。

 ちなみに、異空間にいたはずなのに久坂の反応が消えなかったのは、実はあの反応は生徒自身ではなく生徒手帳に反応したものであり、久坂が異空間にいる間、景が生徒手帳を預かっていたからだった。


 二人がしばらく教室内で待機していると、生徒手帳からピーという電子音が鳴り出す。


「終わったか」


 そう呟いた瞬間。ぐにゃりと空間が歪み、いつの間にか景と久坂の体は体育館へと移動させられていた。


「ここは“裏”……いや、“表”の方か」


 感覚的に元の世界に戻ってきたことを理解する景。

 そんな彼に、一人の女子が駆け寄った。


「やあ、景君。そして倫ちゃん。おめでとう」

「つーことは、どうやらオレたちは生き残れたようだな」

「その通り。1年2組の校内対抗戦レギュラーメンバーは、ここにいる十二人だよ」


 希初が右手で指し示した先には、紫苑にナイト、ライラや機動力コンビの石川と七瀬を含む九人のクラスメートがそこにいた。


「ん? てことは、お前もレギュラーなのか?」

「そうだよー」


 希初が屈託のない笑顔で答える。まあ、希初は意外と強かなので、生き残れても何ら不思議はないのだが。


「じゃあ、レギュラーも決まったことだし、メンバー表を運営委員に出さないといけないから、みんなこの紙に名前を書いてね」


 希初が一枚の紙とボールペンを取り出すと、クラスメートは次々に名前を書いていく。


 星笠希初

 不破ライラ

 中林敬介

 石川孝太

 七瀬ルイ

 宮代錬磨

 速水遠子

 北条昌樹

 闇夜の黒騎士(後に内藤次郎と訂正)

 糸川紫苑

 久坂倫


 そして、最後に景が自分の名前を書き加えたところで、メンバー表は完成し、意外と長く感じられたレギュラー選抜戦はこうして幕を閉じたのだった。




 ◇◇◇◇◇◇




「なあ、希初よ」

「何? 景君」


 希初がメンバー表を提出して体育館に戻ってきた時、珍しくも体育館で一人待っていた景がおもむろに話しかけた。


「結局、お前の言う通り、久坂のレギュラー入りを手助けしたわけだけど、何でアイツにそこまでするんだ?」 

「そんなの、倫ちゃんが私の友達だからに決まってるじゃん」


 当たり前のように言い切る希初だが、景はなおも疑わしそうに続ける。


「お前が友達思いなのは知ってるけど、それを他人に任せるのはお前らしくないぜ」

「他人任せは、景君の専売特許だもんね」

「茶化すなよ。そういや、お前が言ってたいじめの件は解決したのか?」

「…………」

 

 以前、ふとしたことから聞かされた久坂のいじめについて問いかけると、希初は急に口を閉ざす。


「ま、その辺はオレが口出すことじゃないだろうけど、せめて少しはあのオドオドしたところを直すよう言っとけよ。対抗戦の時に足引っ張られるのは、流石に困るからな」

「えっ!?」

「……何、その反応」


 驚愕の表情を見せる希初に、景は不本意そうな声を出す。


「いや、やる気のある景君がレアだから……つい」

「失礼な。オレは金と命がかかれば、どんなことにも真剣に取り組む男だぜ」


 ひどく俗っぽいことを言いながら、景は鞄を持つと出口に向かう。


「オレの役目は果たした。だから、こっから先はお前の役目だ」


 任せたぞ、と帰る景の背中を、希初はジッと見つめていた。





 

 光輪高校には、風紀委員、図書委員、保健委員、運営委員の四つの委員会が存在します。

 詳しい説明は、これからの話で。

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