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ロストナンバー  作者: 宇野 宙人
第一章 退学組編
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第九話  二つの頼み事

いろいろあって更新がだいぶ遅れてしまい、すいません。


次回からは、もっと早く更新できるよう努力します。


それでは、第九話です。


「え~、つまり、今から三十五年前。爆発的に増えた”能力者”に対し、政府はその存在を正式に認めることで、能力の研究・利用と能力者の育成が始まったわけだが、その世代の能力者はやたら攻撃性の高い、戦闘に特化した者が多かった。これは、当時の不安定な社会情勢に影響されたと考えられており、このことからも能力は、能力者の精神や環境によって決まると……」


 六時間目。本日最後であるこの授業も終わりが近づき、淀んだ空気が広がりつつある2組の教室は、学級閉鎖になってもおかしくない程、閑散としていた。

 昨日の事件で傷ついた生徒は全員は、三原、希初、中林の三人が呼んだ先生と事情を知って駆けつけた天川先輩によって、保健室に運ばれ、手当を受けた。

 幸いなことに、病院のお世話になるほど重傷を負った生徒はいなかったのだが、それでも大事をとって休む生徒が続出したので、今日登校している生徒はクラスの半分にも満たなかった。


「……そのため、能力を上昇させるためには強いイメージ、すなわち想像力が必要となる。自らの能力への理解を深め、より強い想いが力へと変わると……」


 そこまで話したところでチャイムが鳴り、先生は「異能力概論」と書かれた教科書を閉じる。起立、礼をしたあとで、景はハァ~と息を吐きながら、机の上でうつ伏せになった


「景君」

「……何だ?」

「昨日の実習の事なんだけど……」

「ああ。で、何か分かったのか?」

 

 いつの間にか隣にやって来た希初に、景はゆっくりと体を起こしながら、眠そうな声で訊ねる。


 昨日の実習で起きた事件について、当事者である景、三原、希初、中林の四人は相模先生を含む複数の教師にそれぞれ個別に襲撃者についての話を詳しく聞かれ、そのすぐ後に、緊急の職員会議が開かれることになった。

 それによって、部活は全て中止。生徒は生徒会と風紀委員を含む一部を除いて全員、速やかに帰宅するようにとそれぞれのクラスの担任から伝えられたので、景は言われた通りまっすぐ帰宅したのだが、希初はこの事件を調べようと野次馬根性丸出しで情報収集に出かけていったのだ。



「ううん。でも、これから分かると思うよ」

「……どういう意味だ?」


 不吉な予感しかしない、と話を聞こうとしたことを後悔し始める景に、希初は顔の前で掌を合わせる。


「今から、隣の1組にいる風紀委員に聞き込みをするから、景君も一緒に来て」

「断る」


 予感が的中した、と思った景は、希初をバッサリと切り捨て、腕を枕にして再びうつ伏せになる。


「ねえ、お願いだから、一緒に来てよ~」

「ええい、やめろ。お前の趣味に、俺を巻き込むんじゃねえ」


 ふて寝する景を、希初は両手で激しく揺さぶる。徐々に揺さぶりは激しさを増していくが、景の意思は固く、この程度のことでは屈しなかった。


「……しょうがない。こうなったら、奥の手を使うしかないね」


 うんうんと一人頷くと希初は景の正面に移動し、両手でガシッと頭を掴むと、無理やり顔を上げさせた。


「おい、何を……」


 不機嫌の極みといった表情をする景に、希初はニヤニヤしながら、自分の顔を近づけていく。


(こいつ、まさか……)


 そして、その差がわずか三センチを切ったところで、


「一緒に来てくれないと“あのこと”バラしちゃうよ」

「……だと思った」


 弱みをネタに脅された。


「さぁさぁ、どうする? 景君」

「……ちっ」


 勝ち誇ったように見下ろす希初を、恨めしげに睨む景は、盛大に舌打ちすると椅子から立ち上がる。


「手短にな」

「うん。じゃあ、行こっか」


 意気揚々と教室を出る希初の後ろで、人生は諦めが肝心だということを肌で学んだ景だった。




 ◇◇◇◇◇◇




「……何しに来たのよ? 変態」

「人の顔見て、最初にいう台詞じゃねえな」


 開口一番に罵声を浴びせられた景は、目の前いる仏頂面な風紀委員、彗の態度にため息をつく。


 いくら一年の風紀委員が珍しくとも、彗以外にもあと2、3人はいたはず。それなのに、よりにもよってこいつに話を聞きに行くことになろうとは、と景は内心頭を抱える。


「で、何の用? 私も暇じゃないんだけど」

「用があるのは、オレじゃなくてこっちな」


 そう言って、景は希初を彗の前に押しやる。


「貴女は」

「初めまして、江ノ本さん。それで、早速訊きたいことがあるんだけど……景君が変態ってどういうこと?」

「そっちじゃねえだろ」


 挨拶もそこそこにいきなり質問をぶつける希初に、景はツッコむ。


「いや、だって景君が変態行為を働いたなんて面白いネタを、親友として見逃せるわけないじゃん!」

「親友を自称するなら、まずはオレの無実を信じろよ」


 このマスゴミが、と景は呆れた顔で、深いため息をつく。


「ねえ。私、暇じゃないって言ったよね」

 

 目の前でガヤガヤと騒がしくする景と希初に、かなり苛立っていた彗は強い口調と鋭い視線で二人を射貫く。


「ん、そうだね。ゴメンゴメン。じゃあ、江ノ本さん。話をする前に、ちょっと場所変えない?」

「何でよ。今、ここでーーー」

昨日・・のこと、なんだけど」

「っ!!」


 希初の言葉を聞き、さっきまでの表情から一変した彗は、動かしていた口を急に止める。


「だから、ね」

「……分かった」


 希初に懇願された彗は渋る顔をしながらも、席を立つ。

 そして、教室から出ていく二人の背中を景は黙って見送った。


(景君、景君。何してんの? 早く来てよ。あと、江ノ本さんと何があったのかは、これが終わった後でじっくりと聞かせてもらうからねっ!)


 ……なんて真似を希初が許すはずもなく、こっそり帰ろうとした景の頭の中に以心伝心(テレパシー)の声が響き渡った。

 



 ◇◇◇◇◇◇




 教室から出て行った三人が向かったのは、学校の屋上だった。

 心地良いそよ風が頬を撫で、数枚の葉っぱが端っこの方でクルクルと舞う中、二人の少女はちょうど真ん中辺りで対峙し、景は出口付近で壁にもたれかかりながら、その様子を見守っている。


「それで、何の話?」


 彗は希初を見ながら、やや苛立った風に聞いてきた。


「うん、実は……」


 希初は、昨日自分の仲間を襲った人物についての情報を求めていることを話し、何か知っているのなら教えて欲しいと頼む。


「無理ね」


 彗は短く、清々しいほどバッサリと断った。


「どうしても、ダメなの?」

「当然でしょ。仲間思いなところは認めるけど、部外者に情報を話せるわけないじゃない」

「そこをなんとか……」

「無理なものは無理よ。どうしても知りたいなら、風紀委員に入るしかないけど、貴女にそれだけの実力があるの?」

「うっ、それは……」

「無いみたいね」


 そう言うと、彗はくるりと背を向けて、屋上の扉からさっさと出て行こうとする。

 それを、希初はただ見ているだけで、その場から一歩も動こうとしない。

 普段の彼女ならこの程度で諦めるはずもなく、しつこく粘るところだが、彗の取り付く島もない態度のせいか、はたまた一桁順位(ファースト)の迫力に気圧されたのか、唇を噛み締め、一言も喋ろうとしなかった。


「っ、景君!」

「往生際が悪いな。お前は」


 景は壁から背中を離すと、立ち塞がるように彗の前へ移動する。


「何? 邪魔なんだけど」


 不機嫌そうな表情を隠そうともせず、ぶっきらぼうに彗は景へ視線を投げつける。

 だが、そんな視線を意に介さず、景は淡々と言葉を発した。


「昨日の神海先輩とのゲームで得た報酬の内容、まだ決めてなかったよな」




 ◇◇◇◇◇◇




「……というわけで、こいつをこの事件が終わるまでの間だけ風紀委員に入れてやってください」


 景は目の前にいる神海に、昨日の“真実と嘘”に勝利した報酬である、「頼みを一つ聞く」を行使していた。

 屋上でのやり取りの後、景は風紀委員本部として使われている第3準備室に足を踏み入れ、何らかの書類に目を通していた神海に近づき、昨日の報酬を使いたいと申し出たのだ。

 昨日とは違って大勢の風紀委員がそこにいたが、景は物怖じすることなく、神海と向かい合う。


「なるほど。どうやら、僕は君のことを誤解していたようだね」


 景の話を聞き終えた神海は、唐突にそんなことを言いだした。


「別に、誤解してようがしまいが、それはどうでもいいんで。希初の風紀委員入りを認めてくれるのかどうかだけ教えてください」


 再度問う景に、神海は少しの間、顎に手を当てて考える仕草をしていたが、後ろにいる二人の女子、希初と彗の顔をチラッと見ると、かすかな笑みを浮かべた顔で言った。


「いいだろう。但し、条件がある」

「条件? これは報酬のはずですけど」

「ああ、確かにそうだ。でもね、悪いけど、今はこちらも少し余裕がないんだ。なんなら、また新たな貸しということにしてもらってもいいからさ」

「はぁ。で、その条件とは?」


 景が訊ねると、神海は右手に持ったペンをこちらにに向けてきた。


「一つは、君も風紀委員に入ること」


 彗が眉をしかめたが、神海は気にせずに続ける。


「そして、もう一つは」


 神海は今度はペンを彗の方に向けた。


「君たち二人の活動を、彼女と一緒に行うことだ」


 その言葉を聞いた瞬間、景、希初、彗の顔がそれぞれ同時に驚愕の表情へと染まった。





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