第八話
「凛くん、ちょっとお話しがあります」
「えっと……なんでしょう?」
「とりあえず、床に正座してくれるかしら?」
「床に正座!?唐突すぎて理解できないんだけど!?」
「凛くんに拒否権はありません。というか早く座れ」
「えぇ!?なんで怒ってんの!?」
「座れ」
「……はい」
安すらかな日常をすごしてから一週間。なぜかこのような状況になってます……。とりあえず現在の状況を説明しようと思う。俺は今、放課後の教室で床に正座をさせられている。目の前の暦さんは椅子に座っていて俺を見下ろしていらっしゃる。……なぜかとてっも睨んでいらっしゃる。なぜだ……?理由はよくわからんが、とてもご立腹らしい。とりあえず、話しを進めたいのだが……この雰囲気で話しを進められるほど、俺の勇気はないようだ……決してヘタレなわけじゃないからな?
「………」
「………」
気まずい……なんでこうなってんだ?暦さん、さっきまで普通だったんだが……俺がなんか悪いことでもしたんだろうか?原因がわからなきゃ言い訳もできないぞ……
「凛くん。なぜ正座させられてるかわかるかしら?」
「いえ、まったくわかりません」
「……そこまで素直に開き直られると、逆に清々しいわね……」
「あ、ごめん。でも実際なんで俺は正座させられてるんだ?」
とりあえず理由を聞かなきゃ話にならないからな。俺に落ち度があるなら、しっかり謝らなければいけない。
「私は別に怒ってるわけじゃないのよ?ただちょっと鈍すぎるんじゃないかと思ってるだけで、怒ってるわけじゃないの。そうよ、私は怒ってない」
「あの……できれば、目力抑えてくれると嬉しいな~なんて……」
怒っていらっしゃる。絶対に怒っていらっしゃる!!目がやばいんだって!!いつもみたいにどす黒い感じじゃないのが逆に怖いよ!!息が詰まるどころか心臓が止まりそうな勢いですよ!!!やばいやばいやばい、なんとかしなきゃ……
「すいませんでしたぁぁぁ!!!」
……とりあえず土下座した。よくわからんが土下座しなければいけない気がしたんだ!!ああ、そうさ!!俺は女の子一人宥めるのに土下座を使わなければいけない男さ!!笑いたきゃ笑え!!
「あらあら、どうして土下座してるの凛くん?」
「いや、あの、なんか謝んなきゃいけない気がして……」
「頭じゃわかってないのに本能で察したのかしら?」
「あの、俺なんか悪いことしたんですよね……?」
ここまで暦さんが怒ってるんだし、やってはいけないことを俺はしてしまったんだろう。なにをやったかは知らないが、過去にもどって俺をぶん殴ってやりたい……なんてことしてくれたんだ過去の俺……
「特になにもしてないわ」
「……え?」
「だから、私が怒るようなこと、凛くんはしてないのよ」
「……俺、なんで必死に謝ってたの?」
「さあ?」
……なんだろう、俺はなにか大事なものを失った気がするんだ……恥ずかしいを通り過ぎて、悲しい気分になってしまう。なにしてんだ俺……
「とりあえず、私の話をしてもいいかしら?」
「……あ、はい。どうぞ……」
このことは無かったことにして、暦さんの話に集中しよう……うん、そうしよう。あんな惨めな俺は、いなかったんだ……
「私は凛くんが好きです」
「……は?」
「聞こえなかったかしら?私は凛くんが好きです」
「えっと……」
ごめん、ちょっと整理させて。頭の中が真っ白になっちまって、上手く考えられない。というかあの雰囲気からなぜこの話に?
「凛くん。私が告白してからどれだけ時間がたったかわかる?」
「えっと……告白って二ヶ月くらい前の剃刀事件のことですか?」
「そうよ。そろそろ答えを聞いてもいいかしら?」
「答え?付き合うとか付き合わないとか?」
「違うわ。私と死んでくれるのか死んでくれないのか」
「死なないよ!?そん時答えたと思うけど心中とかしないから!!」
なんでその話をぶり返してきたのかまったくわからない!今日の暦さんは本当にわからない!!いったいなにがしたいんだ!?
「まあ、その答えは大体予想してたわ」
「でしょうね……」
「まあ、私が言いたいのはそのことじゃないのよ」
「えっと、じゃあなにが言いたいわけ?」
「凛くんは、みんなの気持ちをちゃんと知ってる?」
「みんなって飛鳥とか霧島先生?」
「そうよ。みんな凛くんのことが好きなの、理解してる?」
「それは……なんとなくそうかなってくらいは……」
鈍いと言われていたとしても、さすがに気がつく。まあ暦さんがきっかけでわかりはじめたことだけども……暦さんがどす黒くなってから、みんなどす黒くなり始めたし……あれ?そう思うと全部暦さんのせいか?まあみんな本性現しただけか。
「みんなが俺のことをどう思ってるかは、知ってるよ」
「そう、よかったわ。知らなかったら問答無用でスパッとやるつもりだったから」
「ええ!?そうだったの!?」
あぶねぇ!!選択肢間違えてたらデッドエンドまっしぐらかよ……危うく知らないふりをするとこだったぜ……でも暦さんはいい人だな。他の二人のことも気にしてたなんて思わなかった……
「凛くんは、監禁と心中、どっちが好みかしら?」
「なにその究極の選択!?どっちも嫌だって!!」
「あら?じゃあ薬漬けにされるとか?」
「それも嫌だっつの!!」
「凛くん、意外とわがままね……」
「えぇ!?俺が悪いの!?」
「そうよ。凛くんがどれか選べばすぐなんだから」
「………」
なんだかよくわからないが、俺のせいらしい……なんでなんだ……全然悪いこと言ってないのに……
「まあいいわ。ちゃんと考えてしっかり答えだしてね」
「……答えを出さないつもりはないから安心してよ」
「そう、よかったわ。まあ、私以外を選んだら殺すんだけどね」
「それじゃあ選択肢の意味ないよ!?」
「ふふ……頑張ってね」
「……一応頑張るよ」
「それじゃあ私は帰るわね」
「ん?じゃあ俺も帰る。送ってくよ」
「大丈夫よ。凛くんは少しみんなのことを考えてから帰りなさい」
「え?すぐ答え出そうにないけど……」
「ほどほどでいいわ。それじゃあね」
そう言って暦さんは先に帰ってしまった。考えてからって……どれ選んでもバッドエンドなんですけど……一応希望としては最初のとおり暦さんの性格の矯正をしたいんだが、最近飛鳥や先生と人数が増えて、なんだかできそうにもない……というか人数増えるたびに悪化してる気が……どうすればいいんだろう……
悩みに悩むが、どれを選んでも正解がなく困惑する凛太郎だった。