第七話
飛鳥と鬼ごっこをしてから一週間。この一週間は騒がしかった。飛鳥に追いかけられた次の日、さらにまた追いかけられてそれから逃げるの無限ループ。この一週間で何回繰り返したことか……まあ、この間「次はちゃんと約束守るから!」って飛鳥に言ったら「ホントに!?約束だからね!!絶対だからね!!!」って満面の笑顔で許してもらえたから特に気にすることでもないだろう。今気にするべきことは……
「………」
「………」
ここで睨み合っている暦さんと霧島先生。この二人についてだ!!
とりあえず、なんでこうなったか説明しよう。現在は放課後。俺が帰る準備をしているとき先生に「大山くん、ちょっと手伝ってほしいことがあるんですけど、いいですかー?」と連れ出されそうになったとこを暦さんが発見。一緒に帰ると言い出し、俺を引き止める。睨み合い勃発。
……ナンデコウナッタ?
やばいぞ、なんかしらんがやばい気がする。特に現状をイマイチ理解できてない俺がやばい気がする……とりあえず、話を先に進めなければ始まらない!!ということで二人に話しかけてみよう。
「あの~」
「……なんですか大山くん?」
「……どうかしたの凛くん?」
よかった。とりあえず無視はされないみたいだ。
「その、とりあえず、先生。用事はなんですか?」
「あー、大山くんを資料室にかんきゲフンゲフン!!……ちょっと資料の整理を頼もうかと思って♪」
「ああ、なるほど。別にいいですよ」
なんだ、特にたいした用事ってわけでもないのか。言い直したことが気になるが……とりあえず、暦さんには少し待っててもらえばいいか。
「それじゃ、暦さんは少し待っててよ。ちゃちゃっと終わらせてくるから!」
「ダメよ凛くん。先生が危ないわ」
「え?先生になにか危険が起こるのか?」
「そうじゃない。先生自体が危ないわ」
「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ!!ちょっと大山くんを資料室に監禁しようとしただけじゃ……えっと、なんでもないのですよー?大山くんは気にしちゃダメですよー?」
「………」
「ね?先生が危険だから行ってはダメよ」
「そんなことないですよ?一緒に行きましょう大山くん♪」
……うん、なんか俺の周りにはこういう人が集まるみたいだ。暦さんに飛鳥ときて次は先生か……前に暦さんと喧嘩してたときも言ってたから、冗談ってわけでもないのだろう。なんでこういう人たちばっかなのかなぁ……もっと普通の人いないのかなぁ……
「暦さん、一人じゃ危なそうだからついてきて」
「わかったわ」
「ああ!大丈夫ですって!!なにもしないですって!!」
「その必死さが逆に怖いんですよ先生!!」
「むぅ、しょうがないですね……今回は本当に資料整理してもらいます……はぁ」
何かため息をついてらっしゃるが、気にしないで置こう。ここで気を使うとまた面倒くさそうだしな。
「おーい!凛太郎―!」
……面倒くさいやつが一人増えるみたいだ。
「今度こそ私の約束を守りなさい!凛太郎!」
「約束?なんのこと凛くん?」
「いや、なんでもない。飛鳥、俺は今から資料整理しなきゃなんだけど、一緒に来るか?」
約束のことは説明するとまた話しがややこしくなるだろう。ついでに飛鳥も巻き込んでさっさと資料整理を終わらせちまおう。
「資料整理?凛太郎と二人きりなの!?」
「いや暦さんと先生もくるが……」
「チッ……まあ、その二人と一緒なのは危ないわね。私も手伝ってあげる」
「舌打ちが気になるが……ありがとうな」
「今度アイスおごりなさい!」
「アイスでいいのか?了解」
「……ハッ!!やっぱ監禁されなさい!!」
「ダメ~アイスです~」
「ぐぬぬぬ……」
とりあえず飛鳥にも説明はすんだし、さっさと行くか。
「そんじゃ、さっさと行きましょうか」
「そうね」
「資料室はこっちですよー」
「あたしとしたことが、ここでミスするなんて……」
……一人まだ現実に戻ってきていないが、待ってたら時間かかるし、さっさといく。
「……ハッ!ちょっと待ちなさいよ!!あたしも行くってば!!」
資料室にて
「うわぁ……」
「これはひどいわね……」
「本当にここ資料室?倉庫にしか見えないんだけど……」
三人の感想がそろってしまうくらい資料室の状況はひどかった。資料がそこかしこに散乱しているので足の踏み場もないくらいだ。ここの整理とか何時間かかるんだ……
「あははーちょっと散らかってますねー。先生のせいではないですよ?」
たぶん原因は霧島先生だろう。職員室の机の上も酷い状態だし……なによりこの資料室は先生以外使ってなかったはずだ。
「先生、嘘ついてもしかたないから。さっさと片付けましょう。それと先生は部屋の外で待機で」
「うぅ……すいません大山くん……」
先生がいると散らかすだけなので部屋から出てもらう。とりあえず三人で手分けしてやるか……
テキパキと三人で作業をする。三人もいるからか、案外早く片付きそうである。
「ふぅー、まったくどんな才能があればこんだけ散らかせるのよ……」
「文句言ってないで手を動かしたら?いつまでたっても終わらないでしょう」
「わかってるわよ!!」
飛鳥と暦さんがたまに口論してるが、手を休めることなく作業している。二人とも器用だな……
「それにしても……すごいわ……」
「小さいころから思ってたけど……本当になんでもできるわね……」
二人がこちらを見て感心している。なんだ?なんかあるのか?
「どうした二人とも?」
「凛くんってなんでもできるのね」
「整理整頓ができない人なんていないだろう?」
「あんたさっき自分で追い出したじゃない」
「……あれは例外で、普通の人なら誰だってできるだろ?飛鳥や暦さんもできるじゃないか」
「いや、私たちは凛くんの用にはできないのだけど……」
「そうね。やれって言われても無理だわ」
「まあ別に普通にできればいいと思うけど」
「……今、凛くんに馬鹿にされたように感じたのは気のせいかしら……?」
「気のせいじゃないわ……あたしも思った」
「二人とも手が止まってるよ?ちゃちゃっと終わらせよう。後もう少しなんだし」
「「は~い」」
そんなこんなで三人で整理する。あれほど酷い状況だった資料室も、今じゃ綺麗に整えられている。うむ、綺麗なのはいいことだな!
「ありがとうございましたー!これでどこに何があるかわかりやすくなりましたよー!」
「どういたしまして。これからはあまり散らかさないでくださいよ?」
「……たぶん大丈夫ですよー」
「目が泳いでるんですが……」
そんな感じの会話をしながら先生と別れ、家に帰ることにする。先生が最後に「また散らかったらお願いしますねー!」って言ってたので、一週間もしないうちにまた散らかされてしまうだろう。
特に異常なことも無く三人で家に帰る。今日は良い日なのか、なにも起こらなかったな……今日だけじゃなくて毎日こうだといいのにな~淡い期待なのだが……
珍しく波乱も起こらなかったので、安らかに過ごす事ができた凛太郎だった。