第六話
暦さんと霧島先生が喧嘩しそうになってから一週間。この一週間は生きてる気がしなかった……原因は暦さんと先生だ。二人が顔を合わせるとどす黒い空気に包まれてしまうので、とっても息がしづらい……しかもいつ殺しあいになるかわからないので、こっちとしてはハラハラしっぱなしで気が休まらない……まあ今日はそんな二人とも離れて俺は一人で帰宅しているところだ。いやー一人って素晴らしい!!一人がこんなにいいものなんて、俺は知らなかったよ!!
「凛太郎!!」
……一人の時間は終わったらしい。さらば愛しき一人の時間……
「あ~飛鳥か、どうしたんだ?」
「どうしたじゃないわよ!!なんで一人で帰っちゃうわけ!?待っててくれてもいいのに!!」
「いや、一緒に帰る約束とかなかったし……」
「恋人と一緒に帰るのは当たり前でしょ!!」
「恋人じゃねぇし!!」
「そろそろあきらめなさいよ!!あんたはあたしの物よ!!」
「俺はあきらめないし、物じゃない!!」
「チッ」
「舌打ちすんな!!」
まったく、なんでこいつはこんなに横暴なんだ……もうちょっと落ち着きをもてばこいつだってモテるだろう。顔はいいのにもったいないやつだ。
「まあいいわ。あたしは心が広いからそんな凛太郎を許してあげましょう!感謝しなさいよ?」
「へいへい、ありがとうございました」
こいつと真面目に話していたら疲れるだけだ。適当に流しておくくらいが丁度いいのだ。
「うむうむ。そうやって凛太郎はいつも素直にあたしの言うことを聞いていればいのよ!」
「はいはい、わかりましたわかりました」
「言ったわね!男に二言はなしだからね!!」
「わかってるわかってる」
「あたしの言うことはしっかりききなさいよ!?」
「了解了解」
「……あんたバカ?」
「わかってるわかってる」
「人の話をちゃんと聞きなさいよ!!」
ドゲシッ!!
「ぐお!!なんだ!?敵襲か!?飛鳥気をつけろ!!敵はまだ近くにいるぞ!!」
「……凛太郎」
「なんだ!?敵がいたか!?どこだ!?」
「あたしの話きいてた……?」
「ん?話?そんなん後だ!!今は敵の危険が迫ってるからな!!」
「……死にさらせ!!!」
ドゴッ
「ゴフッ……敵、は……飛鳥だったのか……俺としたことが……盲点だったぜ……」
「まったく!!人の話はちゃんと聞きなさいよ!!」
「ゴホッゴホッ悪かったって……それで?何の話してたんだ?」
「凛太郎はこれから私の命令は絶対遵守だからね!!って話しよ」
「……お前は俺が聞いてない間にそんな恐ろしいことを言ってたのか……」
「ふん、聞いてない凛太郎が悪いのよ。もうこれは約束されたんだからちゃんと守りなさい。」
「え~」
「え~じゃない!わかった!?」
「……了解っす」
「うんうん、わかればいいのよ♪」
……相変わらず横暴だ。……まあ今回は俺が悪かった気もするし、一回くらいは従うとするか。
「それで、俺は何をすればいいんだ?」
「ん?特に今は決めてないわよ?まあすっごい考えとくから期待しときなさい!」
「……あんまり無茶なことはしないからな」
「大丈夫だって!凛太郎はなんでもできるんだから!!」
「俺は何でもできるわけじゃないぞ」
「まあ簡単なことにはしとくから♪」
「ならいいんだが……」
まあ、飛鳥も死ぬようなことは言ってこないだろう。暦さんだったら真っ先に心中って言い出しそうだが……そんな暦さんは今日は委員会でいないし、とくになにも起こらないだろう。
「そういえば、最近暦が不機嫌だけど……なんかあったのかしら?」
「ん?ああ、先生とちょっとな」
霧島先生といつもなにかしらあるから、最近の暦さんは不機嫌なのだ。暦さんの機嫌が悪いと、ちょっとした事で事件になるからこちらとしても大変だ。
「……それって、霧島先生?」
「よくわかったな。最近暦さんは霧島先生とよく喧嘩するんだよ」
「なるほど……だからか……」
「飛鳥はなんか知ってるのか?」
「そりゃ知ってるわよ。要注意人物のなかでも特に注意しなきゃいけない人だからね」
「要注意人物?霧島先生は普通にいい人だぞ?よく話すけど、特に変なところもないからな」
「まあ凛太郎から見たらそうかもね。だから私たちには要注意人物なんだけど……」
「飛鳥たちには要注意人物で俺には違う?……よくわかんねぇな」
「凛太郎は知らなくていいことよ……」
「そうか?それならいいんだけどなー」
なんだか女の子たちには色々なことがあるらしい。男の俺にはわからなくてもいいことなんだろう。先生が暦さんと喧嘩してるときに、不穏な言葉を発していたからそのことかもしれない。もしかしたら先生も暦さんたちと同類なのか……?これ以上あんなの増えたら洒落にならんぞ。……こういうことは考えないようにしよう。
「まあ今は二人ともいないからいいんだけどなー」
「そうね……」
(……もしかして、二人がいない今あたしはチャンスかしら?……二人に出し抜かれる前に凛太郎を監禁しちゃえば、あたしの一人勝ち!?やば!!あたし天才!!)
「……凛太郎!!命令を決めたわ!!」
「うお!?いきなりでかい声だすなよ……」
「いいから聞きなさい!!あんたこのままあたしの家にきなさい!!」
「え……?なんで?」
飛鳥のやついきなり変なことを言いだしたな。それになんだ?なんか目が若干濁ってるような……これは、なんだろう。理由がわからないのだが、飛鳥の家に行ったら俺の人生が終わる気がする……ダメだ……この命令は聞いちゃいけない!!
「なんでじゃないわよ。命令!!いいから凛太郎はあたしの言うことを聞きなさい!!」
「……イヤダ」
「……今なんて?」
「イヤダ」
「そう、ソんなにアタシを怒らセたいノネ……」
そういって飛鳥はスタンガンを取り出した……って!!やっぱりか!!やばいと思ったんだ!!幸い俺の家までもうすぐだ。全力で走れば飛鳥は追いつけないだろう。なんとか隙を突いて逃げ出さねば……
「お、落ち着け飛鳥。話せばわかる。お前の家にいけない理由があるんだ」
「そウ、でもアタシには関係ナイワ……」
だんだん飛鳥がやばくなってきたな……これは早いうちに仕掛けたほうがいいな。
……よし、いまだ!!!俺は全速力で駆け出す。
「じゃあな!飛鳥!!お前ん家にはまた今度行くわ!!」
「アッ!!待ちなさい!!」
待てと言われて待つのは馬鹿だけだ!!俺は一瞬も力を緩めずに走る。
「ちょ!コラ!!待ちなさいってば!!」
だんだん飛鳥が離されていく……よし、家に着けば飛鳥もあきらめるだろう。あともう少しだ!そう思い俺はさらにスピードをあげる。
「―――!―――――!!」
飛鳥の声が聞こえなくなってきたくらいに家が見えた。すかさず鍵を開けて家に入る。そして鍵を閉めチェーンをかける。……よし、今回もなんとかなったか。これで今日は大丈夫だろう……
チャーラーチャラー♪
うお!!なんだ!?って携帯か……うわ、飛鳥からだ……出るのは怖いから辞めとこう。ふう……なんか最近ギリギリなこと多くないか?……疲れたし今日は早めに休もう……明日は飛鳥に会いたくねぇな……
明日、飛鳥に会わないようにと願いながら凛太郎の今日は過ぎていくのだった。