プロローグ|北極星のはじまり
「第50回 MJA(Music Japan Award)、栄光の男性アイドル部門・新人賞 受賞者はー」
12月の末。
今年を輝かせたアーティストたちが集う授賞式は、数千人の観客が放つ緊張感に包まれていた。
一度きりのトロフィーを目の前にして、女性MCは意図的に間を置き、キューカードをめくる。
「おめでとうございます、PENTARISです!」
会場を切り裂くような歓声とともに、ステージ中央の巨大なLEDスクリーンに5人の少年の姿が映し出された。
「うわあああ!」
真っ先に反応したのは須賀理月だった。
狼を思わせる鋭い顔立ち、ワインブラウンの荒々しい髪が画面いっぱいに揺れる。
理月は喜びを抑えきれず、隣にいた小柄な二人を力一杯抱きしめた。
突然のハグに、音成いろははビクッと肩を震わせた。
シルバーアッシュの髪の隙間から覗く小動物のような顔で、とっさに身をすくめ、笑顔を作ろうとして失敗した。
一方、落ち着いたトーンの緑髪の知念遼は急なカメラワークに一瞬戸惑いながらも、すぐに練習通り『アイドルスマイル』を浮かべた。
その歓声のただ中で、雨夜凛だけは静寂を保っていた。
深く濃いネイビーブラックの瞳が、一瞬だけカメラのレンズの奥をじっと見定める。
だがすぐに視線を逸らし、凛は黙々と歩き出した。
都会的で品のある猫のような横顔には、揺るぎない決意だけが刻まれている。
その後を追うのはリーダーの愛川寛人だった。
ミルクティーブラウンの柔らかな髪、知的な眼鏡越しの穏やかな表情が印象的だった。
まだ興奮の冷めない理月と、その腕の中にいるいろは、そして遼を促しながら——寛人は凛の後を追って、階段を駆け上がった。
ステージの中央。
降り注ぐライトの下で、5人の少年が一列に並ぶ。
凛はMCから渡されたトロフィーを両手で丁寧に受け取ると、定規で測ったかのように正確な90度のお辞儀をする。
他の4人もそれにならい、緊張した面持ちで深く頭を下げる。
凛は寛人にトロフィーを託す。
「このような賞をいただき、誠にありがとうございます」
マイクの前に立った寛人の声は、わずかに震えている。
用意していたはずの言葉は、頭の中でバラバラに散らばり、形にならない。
その沈黙を破り、凛はそっと寛人の肩に手を置く。
その無言の励ましに、寛人は小さく頷き、マイクを凛に渡す。
凛は先ほどカメラから視線を逸らしていた人物とは思えないほど、真正面のレンズをまっすぐに見つめる。
「一度きりのこの賞を、PENTARISとして受け取れて——光栄です」
ライトを浴びて、凛の瞳がキラリと輝く。
「俺たちを信じて応援してくれたIrisの皆さんのおかげです」
客席からの歓声が、再び波のようにステージへと押し寄せる。
5人はその声に応えるように、手を振る。
「俺たちをPENTARISにしてくださったプロデューサーさん、社長さんにも、感謝いたします」
凛の視線が、一瞬、ステージの下へと向く。
そこには、ダークアッシュの髪にスーツをまとった若い女性、諸星メイがいた。
誰よりも近くで彼らを見守ってきたプロデューサー。
その顔には、誇らしさと喜びが満ちていた。
凛は小さく微笑み、再び客席へと向き直った。
「この賞で終わらないことを、俺たちが証明します。皆さんにとっての北極星になります。ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
4人の声が重なり合った。
寛人が凛の手を取り、凛は今度は遼の手を握った。
5人の手が、強く結ばれた。
会場を埋め尽くす拍手は、いつまでも鳴りやまなかった。
PENTARIS——
彼らの物語は、これから始まる。




