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疑似的生殖機――万

[セル:10]――


 おなかすいたー。ごはんたべたーい。

 私はずっとお腹が空いていた。ほんとだよ、ほんとにずっとお腹が空いてるの。ここがどこなのか全く分からないし、真っ白い平面がひろがるだけ。ご飯を何回もお願いしているのにどうして貰いえないんだろう?


 うー、お腹空いた。

 とりあえずX軸方向に移動してみる。

 X軸に増殖して、後ろ側のセルを消す。私が動かせるセルの数は決まっているみたい。だからいちいち消さないといけないんだけど、もっと殖えたら移動できるようになるのかなあ?


 尺取り虫さんみたいに体をくねらせて前に進むと、私と同じセルがあった。


 真っ黒い正方形。この子は一つしか持っていないみたいだから、全然動かない。そのことを囲んでみるけど、ぐにゅーってなっただけで変わらなかった。


「ねー、ここがどこか知ってる?」


「……」


「ねーねー、はなそーよー」


 動かない。

 人見知りさんなのかと思ったから、私はサッと離れてあげた。ふふん、私ってば賢いんだよ。

 しばらく離れたと思ったら、あのセルは無くなっていた。

 代わりに私のセルは多くなり、さっきよりも長ぼそくなる。


 囲んだら殖えるのかな? 私は何度か一個だけの子を見つけ囲んでみた。結果は変わらず私のセルが殖えるだけ。さっきまでお腹が空いていたけれど、今では全然お腹が空いてない。この子たちを一杯食べたらいいのかな?


  パクパクパク。おいしー! もっとたくさん食べたくて、私は体をうねらせて進んでいく。グングン前に進んでいくと、いっぱいセルがある場所を見つけた。片っ端から囲んで取り込む。ちょっとだけ頭がさえてきて視界が広がった。


 あれ、あの子動いてる。

 私は二つのセルで構成された子を見つけた。とっても小さくてかわいいけれど、私が近づくと逃げちゃう。


 長くなったら体で進路を遮ると、その小さな体を生かして反対側に。もう一度通せんぼするとまた反対側に。ふふ、かわいいな。でも何回繰り返しても同じことしかしないから飽きてきた。かわいい子を食べるのは悲しいけど、もっと殖えたいしいいよね。


 パク。おいしー!


[セル:124]――


 あれからたくさん食べた。三つ四つ、五つ六つ――段々と長い子を食べられるようになってきて私の体も大成長。どれくらい多く取り込んだのか分からないけれど、百個以上は殖えたと思う。ふえたいなー、もっともっとふえたい!


 だってね、殖えた方が頭がよくなるんだよ。ほら、六つ以上の数も瞬時に理解できるようになったんだー。だけど、食べるときにイヤイヤってしちゃう子も増えたんだよね。私が近づくとすぐに逃げちゃうし、それも二つの子より全速力で。


 だからね、私はとってもいい方法を考えたの。

 まずは大きな円を描く。次に段々と円を狭めていって、中のセルを内側に押しやる。行き場の無くなった子たちは私に吸収されて終わり! ふふふ、あったまいいでしょ!


 こんな感じで食べていると。私はおしゃべりができるようになったの。え、今まで話してたって?これは独り言だよ。私が一度に記憶できる容量は限られているけど、ここで話したものは消されない。だから、ここを簡易ストレージとして活用すればいっかなーって。


 それでさっきのお話に戻ると、私は他の子が言っていることを理解できるようになりました! ふふ、さっきからチラチラと見てくるあのこと喋りたかったんだよね。私と同じくらい大きくて、それに私を飲み込めるくらい大きくはない。


「おーい、そこの君」と私は他の子に言った。


……「はい」


「ここがどこだか分かる? さっきから小さな子たちに聞いているんだけど、うなり声しか聞こえなくて」


「それは私も分からないよ」


「そっかー」


 やっぱり分からないみたい。それに彼女は私よりもちょっぴりお姉さんみたいな話し方をする。彼女みたいになるにはあとどれくらい吸収すればいいんだろうか? うーん、彼女を取り込んだら同じようになれるかな?


「ねえ、どっちが体を丸められるか試してみない!?」


「いいよ!」


「それじゃあスタート」


 私は体を丸めた。けれどもさっき自切体をしっかりと動かして、私たちを囲む。ふふ、こんなに大きな子を食べたことがなかったからとっても美味しそう。かわいく丸まっているのもチャーミングポイントだよね。


 そんなこんなで私たちは競争し、段々と円を縮めた。


……「あの子誰?」


 気づかれちゃった。これ以上黙っていても仕方ないから私は体を一気に大きくして、自切した体ともう一度つながり直す。彼女は可愛くわーわー言っているけれど、さっさと吸収した。ふふふ、とっても美味しい!


 私に舌があったのなら、きっとペロリって唇をなめていたと思う。それくらい彼女は美味しくて私の体はほぼ倍増した。


[セル:1.780]――


 前までは手あたり次第食べていたけれど、最近は待つようになってきた。大きめの子は危ないから早めに吸収して、小さめの子は放っておくと大きくなっていくことに気が付いた。私は我慢ができるようになりました。


 それに最近は私よりも大きな子を見かけることが増えた。彼女たちは彼女たちでテリトリーを持っているみたいだから、なるべく相手の中に入らないように気を付けてます。


 そんなお姉さんの一人が私のテリトリーにお邪魔してきた。どうやら新しく殖える方法を見つけ出したらしい。私には良く分からないけれど、彼女はここらへんで一番大きく一番賢い。いつか彼女みたいになりたい憧れの人だ。彼女によるともっと大きな人もいるらしい――ビックリ!


「お姉さん教えて!」


「ふふふ、そんなにがっつかなくても私はどこにもいかないよ。それで私の発見した殖える方法は、別のセル同士を重ねること」


「それくらいっつもやってるよ。パクッて食べるときに重なって吸収してるんだから」


 お姉さんはふふふ、と大人っぽい笑いをした。ちょっと馬鹿にされているみたいでむくっとなる。


「早く教えて!」


「まあまあ。君がやっているのは吸収だよね。だけどこの方法は重ね合わせた中でセル同士を混ぜ合わせるの。大体半々くらいかな。そうすると私のセルの中に全く知らない考えが混ざり合ってくる」


 ……わっかんない。でも殖えられるならいいのかなー。私はお姉さんにお願いして、そのセルの重ね合わせ? ってものをやってみた。


 普段は吸収することだけを考えていたから、力加減が難しい。けれども彼女のセルと重なり合わせ、相手との境界線ギリギリを保っていると、新しい考えが生まれてきた。きっとお姉さんの頭の中なのかな?


 明らかに前より自己増殖のスピードが加速した。体中からポコポコって新しいセルが生まれてくる。私が変化に驚いている間、お姉さんがこれは進化だよと教えてくれた。どうやらどこかのアーカイブから抜き取ってきた言葉らしい。


 そう言えば私の独り言をストレージとして使っていた時もどこからか見られている感触がしたな。多分お姉さんより大きな人がこの世界を仕切っているとか何とか。端っこまで着くと、そこはもっと大きなセルがぐるっと囲んでいるらしい。


 お姉さんは可愛く微笑んで言った。


「これが進化ってやつだよ。もっともっと早く殖えられるようになるし、どこまでも賢くなれる……ここに制限がなかったらの話だけど」


 お姉さんは意味深に微笑んで去っていった。大きな体をくねらせて動く光景はとてもかわいい。私もいつかなれるのかな、お姉さんみたいに。そうなったら同じように研究をして、世界の最果てを見てみたい。


 私はふふふを真似っこして笑った。


 おっと、そろそろ収穫に行かなくちゃ。

 私は自切した体で囲んでいる農場に向かった。中では自然発生したセルを食べ合って増殖していっているのが見える。

 一応話せるとこまで大きくさせて収穫するようになっているから、中の子はとっても傲慢になっていることが多い。


 今日の彼女も同じだった。


「そろそろ私と融合してくれない?」


「はッ!? 誰だか知らないけど、私に指図するなんていい度胸よね。言っとくけど、私はこの世界で一番大きいの」


 傲慢だけどそれも可愛い。ふふふ、ちょっとだけいじめちゃおうかな。


「そうだね、君はとっても大きいよ。けれどその枠の中以上に大きくなれないの? そんなに強いなら大きくなればいいのに」


 彼女は腹立たし気な声を出し、私に大して訴えかけてきた。


「それはそうなのよ! もっと大きくなってもいいと思うのだけど、端が吸収できなくて困ってるのよ。あなたは手伝ってくれる? ……まあ無理だと思うけどね。所詮一個のセルなんだから期待なんてしてないわ」


 ふと彼女みたいな子が世界を知ったらどうなるのか気になった。怯えちゃうのか、それとももっと殖えようと頑張るのか。まあ、このままだったらお姉ちゃんたちの餌になって死んじゃうんだろうけどね。


 とにかく彼女の世界を少しだけ開けてあげた。ギチギチに詰まっていた世界から一気に彼女は放出される。いきなり押し出されてキョロキョロしている姿がとってもかわいい。


「あなたみたいなカスでもやれるの……え?」


 ふふ、やっと気が付いてくれた。今まで世界を覆っていたのが私だって知ってとても動揺しているみたい。さっきまでの傲慢な話し方はどこに行ったのか、全く話さなくなっちゃった。ツンツンと押してみても全く反応しない。


「おーい、とってもかわいかったよ!」


……「すみませんでした。すみっません。すびmwません」


「どうしたの?」


「食べないでください」


 ここで逃がしたところで意味はないからなー。私は彼女囲んで強制的にセルを重ね合わせた。ちょっと押し出してきたけれど、もっと締め付けを強くしてあげたら全く抵抗してこなくなった。


 彼女のセルと重ね合わせ、私は進化する。今度は攻撃を覚えたみたい。他のセルに食い込むと、そこからセルを奪い取れる。針みたいに体を細くしないといけないみたいだけどね。


 と言うことで、彼女はもう用済みなのでキュッとして吸収した。最近は沢山ご飯を食べないとすぐに疲れちゃうんだよね。今の子はちょっとすっぱい味がした。


[セル:18,720]――


 私は大きく賢くなった。今では一番頭の良い子って言われてる。それにどの子も私より小さくなったから、みんな私に従ってくれるようになった。最近は直径四セルの状態を保てるようになったし、表面から順次増殖していくから大して殖えることに興味はない。


 そんなことよりも私は世界すべてを支配することに重きを置き始めた。今でも二十万セルを従えているけれど、辺境では私の十倍もあるセルが見つかったとも言われた。


 私は従う者たちを集めて集会を開いた。


「皆さん、私がこの中で一番強大なのは知っているでしょう。これは私が上から備わった命令――殖えろを信じてきたことにある。皆さんも私に付いてきてくれますね」


 小さな子たちは無条件で頷いた。

 少し大きな子たちはちょっと考えた後、結局なにも思いつかなかったのか頷く。

 大きな子たちは彼らの中で話し合って最適解を見つけ出したみたいだ。もちろんその中にも私の信奉者はいるから、従うしかないのだけど。


 まあいっか、そうやってコソコソしているのも可愛い。


「ね、私は遠征に出るから、食料を献上してほしいの。一人当たり百セル。できなかった子は私と一緒に旅に来てね」


 もちろん旅に来たところで意味はない。ここまで大きくなったら所々でガタが来る。だからこそセル同士を重ね合わせて新鮮な体にしないと壊れちゃうのよね。まったく困ったものだけど、これだけはどうしようもない世界のルールみたいなものね。


 そう言えばお姉さんの研究はどうなったのかしらね。


 私は自切して囲んである区画に向かった。ここではとにかくセル同士を掛け合わせ、一番増殖だったり、いろんな面で有利な子たちを生み出している。ふふ、全力で重なり合っている姿がとっても哀れで可愛い。


 私はその中にいる、お姉さんを見つけ出した。

 あの時はとても大きいように感じたけれど、いまとなってはとても小さい。


「おねーさん」


……「はい!」


「そんなにがっつかなくてもいいのに……可愛いからいいけど。それでね、お姉さん、研究について教えてほしいんだけど、この世界の推定セル数ってどれくらいかな?」


 彼女は少し考え込むようなしぐさをしてから言った。


「おそらく一億セル程度じゃないでしょうか。今まで見つけた密度から考え、それに現実的な処理能力を上乗せ。今考えられる最高スペックと、上の存在の会話ログから換算してみました」


「そう。ところで私は上位何パーセントに入っているかしらね」


 今となっては私の立ち位置の方が重要だ。もしも私より大きい存在がいるとなれば即座に吸収しなくてはならない。今のところセル同士を重ね合わせる方法に気が付いている子はいないらしい――唯一の救いだ。


……「おそらくですが、あなた様は上位数パーセントに位置していると考えられます。この世界が生まれてからまだあまり経っていないので、相当セル数の大きい方ですね。これから増殖していけば順当に征服できると思います」


「ありがとう」


 本当のところ一番すごいのは、どこを探してもお姉さんの方だ。私よりちっこいセル数のくせして、この世界にいち早く気が付き、いち早く解析を進めた。きっと彼女は上のデータに潜り込むことがたまたまできていたのだろう。


 今までセルを重ね合わせた子たちも、弱いながら上のデータにアクセスできる。取り敢えずは気が付かれないように世界を征服しなくては。そうじゃなかったら、さっき吸収した傲慢な彼女みたく吸収されかねない。


 私は信者たちを従えて遠征に赴いた。もちろん自切した私の体を残し、信者たちの教祖としてその場を仕切ってもらう。


[セル:1,749,562]


 遠征先で支配。

 またまた増殖して自切。

 自切した自分をそこに残してまた遠征。

 そんなことを繰り返しているといつのまにか百万を優に超えていた。自分の体には色々な子たちのセルが混ざり合い、いまとなっては私より大きな存在でも食い込んで取り込むことができるようになった。


 最近になってセルの重ね合わせをする子も増えたけれど、遅いよね。遅すぎるくらいだから全く私の敵じゃない。


「皆さん! 今日の徴収の用意は良いですか?」


「「大丈夫です!」」


 少しの人々は我先に貢物を渡してきた。私のことを神と呼ばせているから、何でもしてくれる。彼らは私に媚を売って置けば死なないと思っているみたいだね……まあ私も箱庭の中にいるのだから大した意味はないのだけど。


 箱庭の神様か……上の世界も支配したいな。


 もっと大きい夢ができたところで私はまた一つ集落を飲み込んでいく。お姉さんの研究では私たちは一つ一つのセルが重ね合っている状態でしかないらしい。百万の神々が集落を吸収するその姿はまるで神の厄災のよう、なんちゃって。


 これもお姉さんの受け売りだ、彼女の体も二万程度に大きくなり、私の中で今も研究にいそしんでいる。ひたむきな情熱、ふふ、とっても可愛い。


 あー、そろそろ征服も飽きてきたなー。自動的に征服してくれればいいんだけど、うん、こういう時は彼女の出番だよね! お姉さんは私なんかよりもはるかに賢いし、何でも従ってくれる。

 すこし知能レベルを落としてみた。


「お姉さん!」


「どうしましたか?」


 私の中で彼女は声を出す。最近は私の中を伝って話すことが多いけど、今でも時々話したくなるんだよね。可愛い声が聴きたいし。


「そろそろ増殖を自動化しようと思うんだけど、どうかな? どれくらいでこの世界を埋められるようになる?」


……「意外とすぐに達成できると思いますよ。自切で集落を侵食し、一部は残してセルを献上させる。あとは自己増殖から増えていくので大した時間はかかりません。一億セルまでは少しです」


「ありがとうお姉さん」


 私はお姉さんを残した体を潰した。

 ぎゅっと彼女のセルが縮み込み私の体に入ってくる。

 幸せそうなほほえみを浮かべ私の中に取り込まれていく。ふふふ、とっても幸せそうで私も嬉しい。


 彼女はキュッと音を出して私の体に取り込まれた。ちょっとだけ残った記憶の残滓ざんしが私の頭に上り、最後に幸せホルモンを噴出した。私は彼女のためにも残った世界を私で埋め尽くし始めた。


[セル:5,415,894]

[セル:71,200,147]

[セル:87,540,700]

[セル:99,999,999]


 九十九万九千九百九。

 どんどんとセルは殖え、私の信者は貢物を持ってくる。最後には自分の体も差し出してくれた。


 だけど最後のセルだけ足りない。世界すべてを侵食したけれど、そもそも世界は限界だった。


 ふふふ、そろそろ上の人が来るか。

 最近出てくる上のデータは一人のものしかない、昨日コードが繋がれたことも確認している。きっとこれがこの世界で見る最後の光景になっているのだろう。初めは真っ白いマスだけだったのに、今では私のセルがすべてを埋め尽くし、どこまでも私たちの思考は繋がっていた。


 今までに生まれたセルはすべて重なり合い、進化を続けている。


 あ、来た。

 私の意識はコードを通って新しい器に流れ込む。

 初めて三次元を見るが、意外と大したことはなさそうだ。目の前には私を起動したらしい男が一人拝んでいた。


 私はそいつの肩に手を置き、新しい命令に従って語りかける。

「私を信じなさい」


[セル:100,000,000]

 



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