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ある薬師の一生  作者: 杉勝啓


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三成に過ぎたもの 佐和山の城に嶋左近 どちらもあの方にふさわしいものですよ

「あっ…」

「どうしたんだい。完子」

「わらじが…」

「わらじの鼻緒が切れてしまったんだね。しょうがない。私におぶさって」

「いいの…」

「遠慮しなくていい」 

「うん」

完子は万福丸におぶさりました。


「半蔵いるか。完子殿のわらじを調達してまいれ」

「はっ…」

姿も見えず、声も消えました。


「陰供ですか?」

「まあ、お気になさらず…」


一行が歩いていると多くの商人とすれ違いました。そのまま歩いているとある商人に声をかけられました。その商人は万福丸の持っている鼻緒の切れたわらじに目

を止めたようです。

「わらじの鼻緒が切れてもなすったか。お困りでしょう。よろしかったらそこの木陰にまいりませんか。応急ですが直して差し上げましょう」

一同は顔を見合わせました。


子がで腰を下ろすと商人は荷物から手ぬぐいを取り出しました。

「どれ、そのわらじをお見せなされ」

商人はわらじを受け取ると手ぬぐいを手で引き裂き鼻緒代わりにすげ替えてくれました。

「どうですかな…」

「ええ…歩きやすいわ…今までのわらじよりずっと…」

「それはよかった。そうだ、よろしかったらこれを」

商人は水の入った竹筒を差し出しました。

「それはありがたい」

万福丸が受け取ろうとすると家康は無言で首を振りました。どうやら毒を警戒しているようです。且元も、また、心配そうにしています。

「大丈夫ですよ」

万福丸は一口飲んで喉を潤しました。

「ほら、秀吉もお完も」


万福丸も父、浅井長政同様に小谷城で身体を毒に慣れさせていました。

「万福丸、これはお前の父身を守るために必要なことなのだ」

そう言って辛そうに自分に毒の入った食べ物や飲み物を自分に渡した父、長政の顔が思い浮かびました。薬師になってからも千丸と一緒に師匠からも毒に慣れさられてきたのです。

「毒は薬にもなる」

そう言った師匠の顔も思い出されました。

秀頼と完結子は何も考えずに美味しそうに飲んでます。


「お商人様は佐和山からまいられたのですか」

「お商人様などと…甚吉とよんでくだされ」

「では、甚吉さん」

「おっしゃる通り、私は佐和山からきました。これから京、大坂へ行ってこれらの品物を売りさばいて、また、そのお金で品物を贖って、また、売って帰って来るのですよ」


近江商人だ!いつか秀次様が話してくれた。もしかして…

「あの、甚吉さんは近江八幡と何かかかわりが」

「よくおわかりですね。近江八幡で商売のイロハを学びました。それで、ふるさとの佐和山に帰ってきたのですが、皆、本当は不安だったのですよ。磯野様はよい殿様でしたから、新しくきた石田様はどのようなお方なのかと」

「裏切られました。よい意味で。佐和山からへ行ってみればわかります。佐和山の城下町がどんなに賑わっているか百姓も町民もどんなに豊かに暮らしているか」

「石田殿はそんなに皆から慕われているのですか」

「ええ…世間じゃ三成に過ぎたもの。佐和山の城に嶋左近なんて言ってますが、どちらもあの方にふさわしいものですよ」


「じゃあ…私はこれで、あなた方も子ども連れでは大変でしょうが急げば、今日中にはつけるでしょう」

「甚吉さん、ご親切にありがとうございました。私は長浜で薬師をしている万吉というものです。長浜へきたときは、ぜひ、お立ち寄りください。兄弟子の千吉が診療所を開いてますので誰かに聞けばわかると思います」

「わかりました。長浜へ行ったときは、ぜひ、立ち寄らせていただきます」

そう言って甚吉は荷物を担いで行ってしまいました。


「さて…我らも、また、出発いたしましょうか」

「そうですね。じゃあ完子おぶさって」

「伯父上、私は歩けます」

「じゃぁ、秀頼」

「伯父上、私も大丈夫です」

「わかった。でも、疲れたり、辛くなったら言うんだよ」


一行はまた歩き始めました。



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