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ある薬師の一生  作者: 杉勝啓


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姉川の戦い・・・その後・・・

「秀頼様、じいの願いをきいてくれますかな」

「徳川様・・・秀頼に何を・・・」

「秀頼様、じいは治部とは戦いたくないのです。治部の大義名分は秀頼様をお守りすることです。秀頼様が治部に戦うなと言ってくだされば・・・」

「治部とは三成のことか?なぜ、じいと三成が戦うのじゃ。私はじいも三成も大好きなのに」


「秀頼、こっちにおいで。この墓に手を合わせてくれるかい」

「この墓は?」

「お前のおじい様の墓だよ。ひいおじい様・・そのまた、おじい様の墓もある。お前のおじい様は私の父でもある」

「お前のおじい様は織田信長と戦って自刃したんだ。そのおじい様が、私を城から落とすとき、こう仰ってくださったんだ。浅井の再興など考えずとも良い。優しい女を娶り、子を生み育て幸せに生きて天寿をまっとうせよと。今、おじい様が生きていたら同じことを言う筈だよ」

「・・・・・・」

「私はお前に自由に生きてほしいんだ。太閤も最後にはそう願われた。お前の母上もだよ」

「・・・伯父上・・・おじい様は自刃なされたと言いましたね。おじい様は逃げなかったのではないですか?私がおじい様の孫ならおじい様に恥じない生き方をせねばなりません。じい、三成に会いにいこう。私を佐和山に連れて行ってくれ」

「なぜ・・・そうなる・・」

「秀頼様、よくおっしゃってくれました。参りましょう。佐和山へ」

「わかった。私も行く・・・」

「はい・・・三成はきっとわかってくれます」


「秀頼・・・お前は一体、誰に似たんだ?太閤か茶々かそれとも父上か・・・」

「万吉・・いや、万福丸様・・秀頼様はあなたに似ておられます」

「!?助作・・・まさか?私が秀頼の年にはもっと気楽に生きていた。父上や義母上・・周りのものに守られながら幸せに生きていた」

「あれは姉川のあとのことでございます」

「姉川?」

「龍ヶ鼻の戦のことです」

「お館様は敗残の兵をまとめられ、どうにか清水館に帰られましたが、夥しいほどの怪我人が次から次へと運び込まれて参りました。薬師や医師が・・それに浅井家に仕えているものすべてが頑張っておりましたが・・・追いつきません。みかねたお館様はつかれた身体に鞭打って、怪我人の手当に当たられてました」

「父上が・・・」

「そのとき、万福丸様は仰ったのです。自分も手伝わせてくれと・・・」

「そのようなこと・・私は知らぬ。それにそのような幼い子が、その場所にいたとて皆には迷惑だけであろう」

「そうです・・でも・・私は嬉しゅうございました。生涯お仕えするのに値する方だと」

「・・・・・・」

「拙僧も覚えております。その後、長政公は姉川に向かわれ、打ち捨てられ、亡くなられた兵たちを連れ帰り、荼毘にふし、拙僧に経をあげさせました。拙僧が経をあげる傍らで長政公はつぶやかれたのです」

「私が殺した・・・私が殺したと・・・」


いつしか万吉の頬を涙が伝っていました。

「父上はすべてを一人で抱えて逝ってしまわれたのか・・・」

「我らが勝ち鬨をあげていた頃、浅井長政殿はそのようなことをしておられたのか・・・」

「徳川様・・・」


「さあ、じい、三成に会いに佐和山に行こう。伯父上も来てくださいますよね。私と一緒に三成を説得をしてくださいますよね」

秀頼の目にも涙が浮かんでました。

「秀頼!?」


父上・・・お師匠様・・・どうか秀頼を見守ってください。そして・・お袖・・頼む・・・

万吉は父の墓に手を合わせるとともに、少し離れた場所にあるお袖と師匠の墓に手を合わせました。そこにいる人々も、また、手を合わせました。


徳勝寺を去る人々に雄山和尚は黙って頭を下げました。





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