戦がないと困る
その日、万吉は蜆を買いにきていました。
蜆を取っていた女たちと話してます。
「どうだい?景気の方は?」
「ああ…だめだめ…こう平和が続いていちゃね。あたしらはおまんまの食上げだよ。全く太閤様も余計なことをしておくれだよ」
「だが、お前たちの中には戦で親、兄弟を失った者も多いだろう。それなのにかい」
「まあ、そうだけどさ。あたしたちはお大名に頼まれて戰場で春を売ってるんだ。それなのに戦がこうもなくちゃ、にっちもさっちもいかないよ」
「いっそ、この稼業から足を洗うわけにはいかないのかい」
「まあ、亭主を持って、幸せにやってる子もいるにはいるけどさ。そんなのは稀だよ。一度、この稼業に足を踏み入れちゃうとさ、抜け出すのは容易じゃないんだ」
「…………」
「やだ、そんな辛気臭い顔、しないでよ。あたしたちはこれで、けっこう気楽にやってるんだからさ。まあ、なんか、おあしになるようなことがあれば教えておくれよ」
「そうだね。気に止めておくよ」
万吉が蜆を抱えて歩いていると秀頼が近所の子どもたちと遊んでいるのが見えました。
「予は天下万民のために、為になるまつりごとを行うぞよ」
「あはは…秀吉ちゃん、うまい、うまい」
はは…なんだ…あれ…
なんとなく秀頼や子どもたちを見ていました。そこへある店風の者がやってきました。どうやら金持ちの子どもの家に仕えている者のようです。
「なんです?坊ちゃま、あんな、薬師の家の居候の子に頭をさげたりなんかして、お前も身分を弁えなさい」
「身分?」
「そうです。坊ちゃまはれっきとした私どもの主の子ども。お前は、たかが、そこの薬師の家の居候の子ではありませんか。なんで、お前が殿様なんです?」
「そうか…そうだな…」
「秀吉ちゃん、ごめん…」
「いや…いいんだ…次は惣吉が殿様になればいいよ。そうだ、私ばかり殿様の役をしちゃ、みんなも面白くないよね。順番に殿様になろう」
「私がいいたいのは、そういうことでは…」
その男の言うのを聞かずに子どもたちは、みな、仲良く遊び始めました。
「不思議な子だよ。きたばかりなのに、もう、みんなの中心にいる」
いつの間にか側にいていた千吉が声をかけました。
「千吉…」
「もう暗くなってきたから、家に入るように言いにきたんだが…あの子は6歳にしては聡いし、それに思いやりもある子だ。お館様の血筋なのかもな」
「父上のか…」
「蜆を買ってきたのか」
「ああ…あの女たちは戦で、親、兄弟を失った者も多いのに戦がないと困るというんだ」
「なんとかしてやりたいとは思ってもな…」
「何か…他に仕事があればいいのだがな」
「あ…伯父上」
万吉に気づいた秀頼がかけよってきました。
「秀吉ちゃん、またね。私たちも家に帰るよ」
「うん、またね」
三人は連れだって家に入りました。
「おかえり。ああ…蜆をかってきてくれたのかい。じゃあ、今晩、砂をはかして、明日の朝は蜆汁を作ろうかねえ」
「………」
「どうかしたのかい?」
「伯父上、私は自分が恥ずかしいんだ。白米が贅沢だなんて知らなかったんだ」




