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ある薬師の一生  作者: 杉勝啓


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江戸のじい

「腹が減ったな。そろそろ飯にするか」

「はい」

「………」

「どうした?」

「あの、このおむすびは、なぜ、こんな色なんですか?」


ああ…この子は麦飯など見たことがないのか。


「これは麦飯を握ってるんだよ」

「麦飯?」

「いつも、秀頼が食べてるのは白米だ。飯には麦の他にも稗や粟もある」

「そうなのですか?」

「はは…白米は高いからな。食べてみろ。麦も上手いぞ」

「はい」


先に食べ終わった万吉は矢立てを取り出してなにやら書き始めました。

「伯父上、何を書いているのですか」

「これは薬草の名前や、効能、煎じ方などを書き留めているんだよ。昔、徳川様に書におこすように勧められたのだが、いろいろあってな。徳川様ももう忘れてるだろう」

「徳川様って江戸のじいですか?」

「江戸のじい?」

「うん。江戸のじいはとても優しいんだ」

「そうかい。秀頼は徳川様が好きかい?」

「うん、とても大好き。私は母上もまんかか様も江戸のじいも三成も大好き」


「そうだ。それ、私から江戸のじいに頼んであげるよ。きっと人々の役にたつよ」

「そうだね。ありがとう。秀頼は城に帰りたいかい?」

「うーん、わからない。城は堅苦しいけど、ここはすごく楽だよ。でも、私が城に戻らないと困る人がいるなら帰らなくちゃと思うんだ」


これで、本当に6歳か。私や茶々がこの年のときはもっと、気楽に生きていたというのに


思わず、万吉は秀頼を抱きしめました。

「どうしたのですか?伯父上?」

「ああ…秀頼があまりにもいい子だから」


いつか、この子も私が父のことを知ったように秀吉のやってきたことを知るだろう。その時、私は竹阿弥さんが私に言ってくれたようにこの子に言えるだろうか。


「秀頼が誇りに思っている父も、また、お前の父だと」


そして、いつか雄山和尚が言った言葉が響きました。


「よけいな才などない方が長生きできますな」





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