お拾いのために
「秀次、あの阿呆が」
「殿下…秀次様はなんと」
「関白は降りる。お拾いに天下の五分の一も譲る。それはいい。たが、残りを家康に譲ると言うのだ」
「家康殿に?ですが殿下も、天下に新しい秩序を作って治められるのは徳川殿だとおっしゃっていたではありませんか」
「お拾いが生まれる前のことじゃ。淀、そなたはお拾いが可愛くないのか」
「お腹を痛めて生んだ子です。可愛くないはずがありません。ですがお拾いはまだ幼い。どのような男に育つかわかりません」
秀吉は信じられないものを見るように茶々を見ました。
「その方、本当に浅井長政殿の子か?」
「?…何故…ここで父の名が出てくるのです?」
「わしが、信長様に逆らってまで、何故、万福丸、そなたの異母兄の命を助けたと思う?」
「それは…殿下のお情けでなかったのですか?異母兄上も殿下には感謝しておりました」
「違う。浅井長政殿がわしに頭を下げたからじゃ。生まれもよく血筋も確かで誇り高かったあの男が。わしは嬉しかったよ。わしの様な足軽上がりに頭をさげたのじゃ。あの男は言っておった。大勢の者を巻き込んで命を奪いながら身勝手にも我が子の命だけは助けたいとな」
「父上が…本当に?」
「ああ…おことたち姫たちはお市の方様の子だ。信長公の姪だ。命までも奪われまい。だが、万福丸は違う。助けて欲しいとな。今になって、わしは浅井長政殿の心がわかる。あの男はただの父親だったのだ」
「秀次にはかなり譲歩した。それもこれも秀次にお拾いを守ってもらおうと思ったからじゃ」
「どういうことでしょうか?」
「おことような、賢い女でもわからんか?家康は必要とあれば妻やわが子まで切り捨てる男だ。天下のため、お拾いが危険だと感じたなら…どうなると思うのだ」
「だから、わしは秀次に五分の四を与え、五分の一をお拾いを与え、秀次に守ってもらおうと思った」
「確かに天下のためには徳川殿に任せるべきだ。だが、父としてはお拾いを守りたい」
「殿下…まさか…」
「わしは秀次を切り捨てる。お拾いのために」




